From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学
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●●強制徴用で騒ぐ韓国が仕掛けた罠とは?
月刊三橋の今月号のテーマは、「歴史認識問題」です。
https://www.youtube.com/watch?v=vGLmma-WA14&feature=youtu.be
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おっはようございまーす(^_^)/
暑くなりましたね〜。昨日から高校野球も始まって、夏本番という感じです。
5日付の読売新聞にマレーシアの長老政治家マハティール・モハマド氏のインタビューが掲載されていました。
(「崩れた「白人は無敵」…マハティール・元マレーシア首相」(『Yomiuri Online』、2015年8月6日配信)
http://www.yomiuri.co.jp/matome/sengo70/20150805-OYT8T50066.html
マハティール氏の次の言葉が印象的でした。
「日本が半島南部の「英領マラヤ」を急襲したのは41年12月8日。私は高校生だった。真っ先に思ったのは「日本は勝てない」ということだ。英国は強国だ。日本の真珠湾攻撃によって参戦する米国はさらに強い。英国の支配下にあった私たちの目には「白人は無敵」と映っていた。白人に対する劣等感があった。
ところが日本軍は半島を瞬く間に占領する。日本軍の侵攻を前にして英国軍は撤退した。それを私は目撃し、大いに驚いた。「白人が敗北することもある」。それを私は日本の侵攻で学んだ」。
英国の植民地下にあったマレーシアの人々は、白人に対して劣等感を抱いていた。決して非白人が、白人に勝つことはないと思っていた。それを打ち砕いたのが、非白人の日本のマレー半島への進攻だったのです。
このインタビューでは、マハティール氏は、日本統治下時代のマレーシアへのさまざまな複雑な思いを述べており、日本の統治を肯定してはいません。それでも英国人への劣等感を払拭した点は大いに認めているわけです。
植民地下にある人々が、宗主国に対して抱く文化的劣等感には強烈なものがあります。以前、本メルマガでも引用しましたが、ケニアの作家グギ・ワ・ジオンゴ氏は次のように書いていました。
グギ氏は、植民地体制下では一般に、宗主国の人間は自分たちの言語を、現地の言葉よりも価値の高い一種のステイタス・シンボルにしようとすると指摘します。その上で、次のように続けます。
「白人の言葉を学んだ者は誰もが、田舎者である大多数の者とその粗野な言葉を軽蔑しはじめる。選びとった言葉の思考方法と価値観を身につけることによって、彼は自分の母語の価値観から、すなわち大衆の言葉から疎外されるのである」
(グギ・ワ・ジオンゴ/宮本正興ほか訳『精神の非植民地化──アフリカ文学における言語の政治学(増補新版)』第三書館、2010年、188頁)。
拙著『英語化は愚民化』(集英社新書)でも触れましたが、日本社会の最近の英語偏重政策で一番危惧するのは、近い将来、多くの日本人が、「日本語や日本文化よりも、英語や英語文化のほうが高級で、偉い」と思い、日本語や日本文化に対する自信を根本から失ってしまわないだろうかという点です。
また、それに伴って、白人など英語を話す人々と比べて、日本人同士が互いに「俺たちはダメだよな〜」と軽視し合ってしまわないだろうかということです。
戦争に敗れ、戦後の日本人は長く自信を失いました。特に、戦争に負けた米国に対して劣等感を抱きました。しかし、戦後、経済大国になるにつれ、自信を徐々に回復し、最近の若者に至っては、米国に対する文化的劣等感は、ほとんど持っていないといっても良いと思います。
例えば、映画の興行収入は、2006年ごろから邦画が洋画を上回るようになり、最近はその傾向が定着しています。
http://www.eiren.org/toukei/data.html
音楽でも、以前と比べ、洋楽の人気は落ちてきています。
オーディオ・レコード(CDやレコード)の売上金額は、1985年では、洋盤と邦盤の比率は38対62でしたが、2014年では16対84となり、邦盤が洋盤を圧倒するようになっています(日本レコード協会のHPの統計より)。
http://www.riaj.or.jp/data/
留学に関しても、米国への留学は、ここ15年ほどで急減しています。ピーク時の1997年は47073人の日本人が米国で学んでいたのですが、2013年では、19334人にまで減っています。およそ6割減です。
http://www.fulbright.jp/study/directory/basic.html
(リンク先のサイトで「アメリカの大学における留学生の動向 – B 日本人留学生の動向」のところを開くと、「日本人留学生数の変遷 1954-2013」というグラフに飛べます。そのグラフをご覧ください)。
もちろん、米国で学ぶ日本人留学生が減ったのは、経済的要因も大きいでしょう。米国の大学の学費は、近年急騰していますし、日本の実質賃金はやはり1997年ごろを境に低下し続けています。
ただ、中国などアジア諸国への留学はこの期間、増えていますし、英国以外のヨーロッパへの留学もほぼ横ばいです。米国や英国への留学のみが大きく減少しているのです。(英国へは、2002年に6202人だったのが、2012年には3633人へとやはり大幅減少。同期間中、フランスは微増(1439人→1661人)、ドイツは微減(2182人→1995人))。
経済的要因も大きいでしょうが、「高い金を払ってまで、米国や英国で学ぶ必要は特にない」と思う日本人が増えたこともまた事実だと思います。
最近の日本の若い世代は、英語や英語文化に対する特別な憧れは抱かなくなってきたと言っていいようです。
私は、このように英語や英語文化に特別な憧れを抱かなくなり、相対的に日本語や日本文化に自信を抱くようになった状態、また英語圏以外の文化にも関心が向くようになりつつある状態からは、結構、面白いものが生まれてくるのではないかと期待できると思います。
いま、大石久和氏の新刊『国土が日本人の謎を解く』(産経新聞社)を読んでいますが、欧米と日本の文化的相違が自然環境の違いと関連付けられてわかりやすく説明されており、なかなか面白いです。
例えば、次のようなことが書かれています。
ヨーロッパでは、自然災害が少ないため、環境は人が手を加えなければほとんど変化しない。それゆえ、人を物事の出発点として捉え、人は、動物や自然環境を支配する特別な存在であるとの見方が発展してきた。
他方、日本は自然災害が非常に多い。地震や洪水では、人も、他の動植物と一緒に否応なく被害に合い、ともに死んでしまう。そのため、人間だけが特別で、万物を支配しているといったような欧米的発想は生まれようがない。
本書では、他にも、欧米と比べた場合、あるいは中国と比べた場合の日本文化の特徴が様々述べられています。
私が専門とする政治理論でもそうですが、欧米の発想が「普遍」であり、模範だとみなされてきました。他の領域でも、その傾向は強かったと思います。
最近になって戦後の自信喪失傾向がようやく改められ、日本人が自前の発想から出発し、独自の考えや思想を生み出しやすい条件が整いつつあるように思います。
しかし、英語化です。拙著『英語化は愚民化』の冒頭で示したように、昨今、日本政府は、国民の税金を使いつつ、英語偏重の教育改革、社会改革を推進しています。
昨日もこんな記事が出ていました。
「高校に新科目「公共」…小学校英語、授業3倍に」(『読売新聞』2015年8月6日付)
http://www.yomiuri.co.jp/kyoiku/news/20150806-OYT8T50048.html
米国に対するコンプレックスが弱まり、「従軍慰安婦」などの戦後マスコミの自虐史観も、戦後70年たってやっと改められつつあるのに、今度は、政府が、「英語や英語文化 > 日本語や日本文化」と思わせるような「改革」をわざわざ行おうとしている――。
迷走していますね。
「思考の戦後レジーム」からの脱却は許さんぞ!ということなのでしょうか。
暑いなか、ぐだぐだと失礼しますた<(_ _)>
**** メルマガ発行者よりおすすめ ****
強制徴用で騒ぐ韓国が仕掛けた罠とは?
月刊三橋の今月号のテーマは、「歴史認識問題」です。
https://www.youtube.com/watch?v=vGLmma-WA14&feature=youtu.be
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<施 光恒からのお知らせ>
●本文で触れた拙著『英語化は愚民化――日本の国力が地に落ちる』(集英社新書)、ぜひお読みになってください(^_^)/
http://shinsho.shueisha.co.jp/se/
●8月29日(土)の夕方に、福岡で『英語化は愚民化』について講演を行います。毎月、私を講師とした勉強会を開催している「学ぶカフェ」の皆さんの主催です。講演に引き続き、「終戦70年 日本を取り戻す!」と題したパネルディスカッションも企画しています。私と、現役大学生の山本みずきさん(産経のオピニオンサイトiRONNAの特別編集長)がナビゲーターとなり、戦争体験者の方々などからお話を伺いつつ、今後の日本の針路を考えます。お近くのかたはぜひ。
【日時】平成27年8月29日(土)17時〜20時
【場所】福岡縣護国神社参集殿(福岡市中央区六本松1丁目1−1)
【参加費】1000円(学生無料)
【問い合わせ先】「学ぶカフェ」事務局(manabucafe@gmail.com)
【施 光恒】「思考の戦後レジーム」再びへの10件のコメント
2015年8月7日 10:29 AM
人間の運命は人間が切りひらくしかない(そのために自然の摂理をみきわめ、技術革新に邁進せざるを得ない)、神恃みでは、いかん、何でも、大勢としてはそういう流れになったと聞く。それなのに、自説を守るためか何だか知らないが、その辺りの事情についてご存知でいながら口をつぐむというのは、ほとほと知的誠実に欠けたふるまいとしか言いようがない。
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2015年8月9日 7:37 AM
>ヨーロッパでは、自然災害が少ないため、環境は人が手を加えなけれ>ばほとんど変化しない。それゆえ、人を物事の出発点として捉え、人>は、動物や自然環境を支配する特別な存在であるとの見方が発展して>きた。それでは質問です。リスボン地震の啓蒙思想(家)に与えた影響をどのようにお考えですか。
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2015年8月9日 8:53 PM
最近ヨーロッパで、「アメリカは以前より善良でなくなった、悪事を悪びれなくなった」と言われる向きがあるのは、中国高官の子弟がアメリカ一流大学に大勢留学してきたことと関連あるのではないでしょうか?
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2015年8月10日 2:09 PM
はじめまして!朝日新聞の俳句欄で、安倍さんのことでしょうね、「積極的従属主義」と呼ばれていて、最高!にバカウケいたしましたヽ(^。^)丿ISの日本人人質事件に無様に利用された国際演説といい、その際協力要請という名目でイギリス高官と握手している外務大臣の卑屈な笑顔といい(同じ写真に写るイギリス高官の気の毒がる?小バカにした?表情ときたら!)、安保法案をアメリカで演説で先に約束するとか!!(最っっ低↓)安倍政権、卑屈過ぎる。。積極的従属主義、まさに言い得て妙ですネ。アメリカの大学に、日本人留学生が減って中国、韓国の留学生が増えている、というのは、将来的に、非常に影響あるでしょうね。おそらく日本に嬉しくない影響だと思います。すでに、アメリカの一流大学に、「意外に、俺たちアメリカ人は中国人と気が合うやん!」という、シンパシーが芽生えている気がします。
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2015年8月12日 1:52 PM
現状維持が駄目だ。俺たちは駄目だ。そういう人ほど現状の制度も、自分たちの事も知らない。大阪の都構想騒動で強く感じた処です。
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2015年8月12日 3:17 PM
続きです。もっとも、アメリカによる民間人虐殺は、何も原爆に限ったことではなく、日本各地で行われた焼夷弾による空襲もそうです。私の親父など、当時は小学生でしたが、グラマンの機銃掃射から校庭を命からがら逃げ回ったこともあるそうです。これらは明らかに「人道に対する罪」ですよね。誰も裁かれていませんが。ついでに言うと、よく都市伝説のように言われる、京都や奈良が空襲されなかったのは、アメリカが日本の文化遺産を守ったためだ、というのも戦後のGHQによるプロパガンダです。大体、アメリカ人に日本の文化財の価値など理解できる訳ありませんし、実際に他の都市では、残っていれば確実に世界遺産級の文化財が沢山灰になっています。京都が空襲に遭わなかったのは、三発目の原爆を落とす予定地であったため、その標的として残しておいたに過ぎません。奈良は単純に人口が少ないために後回しにされました。長々と書いてきましたが、私は別に反米感情を煽りたい訳ではありません。今の日本にとって、アメリカはかけがえのないパートナーであることも理解しています。しかし、そのこととは別に、かつてこの両者が現実に戦い、事実として何が行われたのか、日本人としてしっかり認識しておく必要はあると思います。その上で、某社長もよく言われているようにアメリカでも中国でも無い、日本を基軸に世界を考えることのできる日本人がもっと増えねば、本当に日本は大国の潮流に飲み込まれてしまう、そう思ってしまう次第です。単なる杞憂であれば良いのですが。
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2015年8月12日 7:51 PM
かつて黄色人種の白人コンプレックスを蹴散らした日本人が、今や白人コンプレックスの塊ですもんね。昨日は広島に原爆が投下された日でした(これが載る頃には一昨日になってるかな?)。毎年毎年、なぜだか落とされた方ばかりが反省して、落とした方は「原爆によって戦争を早期に終結させ、犠牲者を最小限にすることができた(キリッ)」と偉そうにふんぞり返って居ますが、つい先日驚いたことがあります。某NHKのニュースを見ていたところ、広島に原爆が投下された日を知らない日本人が50%近くいるそうです。これだけでも驚きですが、学校で現代史を碌に教えていないからだと、理解できなくも無い。しかし、もっと驚いたのは、原爆投下は必要だったと答えた日本人も半数近くいたことです。愚民化ここに極まれりと言ったところですが、広島の原爆投下については、8月6日という日にちもさることながら、8時15分という時間にも実は意味があります。ちょっと調べればすぐに分かることですが、昭和20年8月6日は月曜日でした。今は徐々に伝統が薄れつつあるのかも知れませんが、当時の日本では、月曜日の朝8時から8時30分までの間の時間帯と言えば、殆どの学校や町工場は屋外で朝礼をやっていました。アメリカは、そのような日本の習慣をしっかり調べた上で、日本人が一番沢山屋外にいる時間帯を狙って原爆を投下した訳です。何故か。一人でも多くの日本人を殺すため、です。言うまでも無いことですが、建物の中にいるより、外にいた方がまともに熱線や放射線の影響を受けます。結果、多くの女性や子供を含む15万人もの民間人(非戦闘員)が核の炎により“虐殺”されました。これがアメリカの言う、「戦争を早期に終結させる為の最良の手段」です。なぜかエラーになって投稿できないので、2回に分けます。
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2015年8月13日 7:26 PM
「戦後レジームの総仕上げ」♪TPP参加 安保締結 英語化これらによってアメリカの植民地支配を徹底させようということかしら。それにしても二年半前の自民党ポスター総理のお顔と「TPP断固反対」「工作員」にまんまと騙されてしまいました。。。諜報機関は工作員に自分が工作活動をしていると自覚されないようにして工作活動をさせるようですが、、CIAやNSAがどれだけ活躍しているんでしょうねこの国で。
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2015年8月13日 11:44 PM
とある酒場において、小生の英語コンプレクスが解消されましたのん(もともとほとんど英語できませんけど)。日本人の英語能力の低さをバカにしていた米国人が、英国人から話し言葉の一つ一つの過ちを指摘されて、イジメられておりましたのん。さらには米国人同士でも都市部と田舎では話し言葉からして違うので、相当バカにされておりましたわよ。おなじアングロサクソンでも序列があるんだな(笑)と思いました。ちなみに、英語化、グローバル化などの面においては、安倍政権はとことん自虐主義なのに、誰も批判しないんですよね(特に保守)。丁度良い時に、シナが脅威を煽ってくれたおかげで、右も左も安保法案一色に塗り替えられ、TPPに反対する保守世論も何処かに消えてしまいました(実は米中が裏で手を結んでたりして)。米国が金融面で日本に侵略を謀ろうとする時、北朝鮮とかシナとかという存在をちらつかせる事は、よくやってきた手ですもんね(日米構造協議近辺に発生した異様な特亜の教科書問題)。
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2015年8月15日 2:35 AM
施先生のお話、いつも楽しみにしております。マハティール氏の酸いも甘いもなお話、日本の世界平和を信奉する世代の方々には難しそうですね。なにせ正義と悪、平和と戦争の二元論でしょうから。教育と言えば、愚妻は小学校の教員なのですが、指導要領改訂の話にはとても敏感です。とある教育方針をやったとして、その是非は2、3年で測れるものではない。生徒のずっとあとまで追跡評価しなければ、本当にねらいが活きているのか分からない。なのに政権交代ごと、いやそれより頻繁に方針ごと変えてしまう。場当たりな政策では、現場でまともな教師を混乱させるだけではないかと。公共・・・政治家の自慰でしょうか。だから教師は政治家を蔑むのでしょうか。もっとも、官僚の「英語強化で日本の未来のボーダレスな人材を育成」とかいう話も、いかにも「官僚臭」であり、資料をやまほど作って「ボーダレス」なり「国際交流」なりステレオタイプで飾って「文句ないでしょ仕事したでしょ」な話をきかされると、タマシイのない(本人は大真面目でも)、洞察のない(本人はたくさん調べただろうけど)、そんな政策で進められてはたまらん、というのが、これは自分の感想であります。英語が喋れるからステータス、これはもしかすると、首相含む今の政治家の中心世代までのレジームで、もう十年も我々が頑張れば、今の社会の中心にいる卑屈な世代は入れ替わるのかもと、楽観的に思いたいです。ポストアベが勝負どころなのでしょうか。
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