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2015年3月19日

【柴山桂太】産業政策の再評価

From 柴山桂太@滋賀大学准教授

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このVideoには一部の方にとって不愉快な内容が含まれています。
ご覧になる場合は自己責任でお願いします。

http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

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政府と民間の関係について、これまで「政府は余計な口出しをしない方がいい」という考え方が主流でした。しかし、最近の経済危機で、この考え方を修正する動きが見られます。

雑誌『フォーリン・アフェアーズ』2月号に、興味深い論考が乗っていました。本日は、その内容を要約してみます。
http://www.foreignaffairs.com/articles/142496/mariana-mazzucato/the-innovative-state

新しい市場をつくるのは民間の起業家だ、という先入観はいまも強力です。シリコンバレーの成功は、優秀な起業家と、ベンチャーキャピタリストのおかげであり、政府が余計なことをしなかったから良かったのだ、というのはその典型と言えるでしょう。

しかし、本当にそうだろうか、というのが著者のマッツカートの問いかけです。歴史を振り返っても、企業の成功の裏側には、政府による基礎研究の提供があったケースで溢れています。特に戦後の成長期には、政府の軍事投資が航空、エレクトロニクス、新素材開発に大きく貢献していました。

最近のアメリカでは「シェール革命」が話題ですが、そもそもシェール層から天然ガスが採掘できることを立証したのは政府鉱山局(USBM)のプロジェクトによってでした。フラッキング(水圧破砕法)に役立つ3D地質画像技術も、国立の研究所によって開発されています。

インターネットやGPSが、アメリカ軍の関与や投資によって生まれたという事実は、よく知られているとおりです。

アップルの「i phone」についても、例えばタッチスクリーン技術は、全米科学財団(NSF)やCIAの助成を受けた会社が開発しています。音声認識の「Siri」も、政府が投資した基礎研究にルーツがあるとか。

こういう事例を挙げていくときりがありません。最終的な商業化は民間の起業家が行うとしても、その前段階の基礎技術やアイデアは、政府投資の産物か、政府投資の派生物であることが多いのです。著者は、これからも政府は、ハイリスクで民間が手を出せない部分に、投資や資金融通を行う必要があるとしています。

しかし、こうした考え方はなかなか理解が得られません。なぜか。政府による投資が成果を生むまでに長い時間がかかる(シェール革命の基礎投資は1970年代です)ため、その恩恵が見えにくいというのがひとつ。

もう一つは、政府投資の成功よりも失敗の方にばかり注目が集まってしまうことが挙げられます。例えば2009年、米エネルギー省は太陽電池メーカーのソリンドラに5億3500万ドルの融資保証を与えました。しかし、結果は芳しくなく、2011年にソリンドラは破産してしまいます。これは、政府の見る目のなさを示す事例として、批判者の格好の餌食となりました。

ところが、この失敗事例の裏には成功事例もありました。2010年には、電気自動車のテスラモーターズが4億6500万ドルの政府融資を得ましたが、事業の成功で2013年には満額返済しています。こちらはあまり注目されていませんが、重要なケースです。

なぜ失敗事例にばかり注目が集まるかと言えば、失敗のコスト(税金の無駄遣い)は見えやすいのに対して、成功の恩恵が見えにくいからです。投資に成功しても、政府は直接の見返りは受けません。成功企業の納税はありますが、最近は企業の租税回避や、法人税率の引き下げなどで、政府投資の見返りは少なくなる傾向にあります。

著者は、政府投資の見返りを見えやすくするような仕組みを考えるべきだ、と言っています。例えば、融資先企業の株式を保有する、というアイデア。そうすれば、成功企業から政府は配当などの利益を受けることができます。これは、すでにイスラエルやフィンランドが行っているようです。他にも、官民のパートナーシップを新たに模索する動きが出てくる、と著者は言っています。

最近の緊縮財政で、研究開発の予算はアメリカでも減らされているとのこと。しかし、民間経済の活発化や事業創造に、政府が果たしうる役割は大きい、それをもっと評価すべきだというのがこの論文の結論になります。

これまで政府投資は民間投資を閉め出すとか、政府には市場のヴィヴィッドな動きは分からないと言われてきました。こうした通念を覆すという意味で、なかなか興味深い論文と言えます。

もっとも民主主義社会では、税金を何に使いどんな成果が得られたのかが厳しく査定される(最近の大学改革などはその典型です)ので、長期的スパンでないと成果が見えないものに予算を付けるのは難しくなっています。また、エコノミストの世界でも「産業政策は無効」という考え方がいまだ根強くありますので、著者の議論は支持を受けにくいかもしれません。

しかし、政府はこれまでも投資を行ってきましたし、二〇世紀の技術進歩の重要な部分が、政府による投資や研究開発の成果を踏まえたものだったという歴史的事実に目を閉ざすことはできません。国家と市場の関係は、一般に考えられているよりもはるかに近しいものでした。

世界経済の低出力モードが続く中で、産業政策の意義はこれからますます注目されていくことになるでしょう。日本の産業政策にはそれなりの歴史があります。もちろん失敗事例もたくさんありました。しかし「国は失敗した投資から学び、そのやり方を改善していく必要がある」という著者の提言は、日本の今後を考える上でも重要ではないでしょうか。

PS
「産業振興のためには未来への投資が重要」
もしあなたが、こうした考え方に関心を持たれたなら、、、
以下ののページが参考になるはずです。
いますぐクリックして、三橋貴明の考えを聞いてみてください。

http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

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【柴山桂太】産業政策の再評価への5件のコメント

  1. きらきら より

    最近、柴山先生の投稿が少ないので、なんだか寂しいです。GPSですと、約30個近い衛星を使いますが、民間が利益を見込んで、宇宙に30個も衛星を打ち上げるなんて、到底考えられないでしょうね。

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  2. 言論統制時代 より

     自分は幼少の頃は親のコネで公の仕事には就きたくありませんでした。そして民の仕事をしてきたけど今では(相対的ではない)絶対的な幸福、やりがいを見つけることに右往左往、翻弄される毎日になってしまった。〉新しい市場をつくるのは民間の起業家だ、という先入観はいまも強力です。 安倍政権もこの先入観(信仰)でデフレを解決できると強力に信じているのでしょうね。それより、公(悪魔と表現した)と民(絶対的な神ではないでしょ)が協力するべきかと思いますが。世界はデフレで反転してるのに延々インフレの考え方ですね。

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  3. たかゆき より

    お金は肥料 政府は百姓♪肥料は田畠に散布してナンボのものでございましょう。肥溜めに糞溜め込んで使おうとしないこの国の「百姓」、、、これでは庶民が飢えてしまいます。お金なんか所詮は「ババ」と僕は認識しておりますので「ババ」は他人様に渡すもの、、宵越しの銭は持たないという江戸の庶民は「ババ」まみれになることを喜ぶ現代人よりも「健康的」で素敵な人生を謳歌していたのかもしれませんね。

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  4. robin より

    相手を批判し続けることもモチベーションの維持に必要な一要素だとは思いますが、何十年も批判し続けると自分が当初何故批判してたのか理由を忘れる。批判し続けた自分を否定したくなくて相手が成功しても素直に評価出来なくなる。社会秩序の維持も災害で人が亡くならない社会作りも当たり前の事では無い。自分達が耕された畑の上に種を撒いているという事実には目を瞑る。

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  5. 神奈川県skatou より

    柴山先生のお話、なんでこんな大事な話が平然とこの空間だけで?出てくるのかと、ぜひ日本の予算や計画を作る方々に読んで頂きたいと思いました。政府の研究といえば、さいきん防需で「国際共同開発」なる話が盛んのようです。「研究コスト高騰を避けるため」が理由のようですが、国内技術育成のチャンスを捨てるような、デフレ時代に信じられない話が平然と存在するようで、残念に感じます。「海外の優秀な研究者を招聘し、国をひらく」とか、シンガポールだかどこかの政治家みたいな方々が多数派なのかと。そもそも次世代の研究の萌芽は、それ自体が大きな変革を伴うものであるならば、今のコトバで語るに難しく、研究が予定する結果や成果を十分伝えられない可能性もあるので、国内育成する気があるのならば、大人(たいじん)な姿勢を期待したいと思いました。

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