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2015年3月18日

【佐藤健志】<演劇的経済論>資本主義の預言者たち

From 佐藤健志

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本紙読者のみなさんならば、ほとんどの方がご存じとは思いますが、中野剛志さんの新刊『資本主義の預言者たち ニュー・ノーマルの時代へ』が、2月に角川新書から刊行されました。

三橋貴明さんは2月19日のブログ「ニュー・ノーマルの時代へ」で、すでに同書を取り上げて絶賛。
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/day-20150219.html

拙著『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』と並んで、最近「これだ!」と思った本とのことです。
まったく異論ありません。

『資本主義の預言者たち』は、以下の5人の経済学者の理論や思想を紹介しつつ、資本主義という経済システムのあり方を根本から問い直そうとしたもの。
1)ハイマン・ミンスキー
2)ソースタイン・ヴェブレン
3)ルドルフ・ヒルファーディング
4)ジョン・メイナード・ケインズ
5)ジョセフ・シュンペーター

とはいえ同書は、決して「過去の学者の業績を要約している」だけの本ではない。
理由は次の二点。

1)これらの学者の理論や思想は、今でも古びていないどころか、今こそ学ぶべき点を多々持っている。したがって「過去の学者」と形容すること自体が適切ではない。
2)この5人の理論や思想を紹介したあと、それらを踏まえる形で、中野さん自身の経済観が提起されている。

ちなみに『資本主義の預言者たち』は、2009年に刊行された『恐慌の黙示録 資本主義は生き残ることができるのか』の新装再刊ですが、70ページを超えるプロローグが追加されています。
このプロローグだけで読み直す価値は十分。
トマ・ピケティの『21世紀の資本』なども紹介しつつ、旧版が刊行されてからの世界経済の変化が論じられています。

むろん旧版から再録された箇所も、まったく古びていません。
それどころか、いっそう切実な意味合いを持つようになっている。
中野さんの先見性が実感されます。

さて。
同書で取り上げられた5人の経済学者、および中野さんの問題意識について、私なりに要約すればこうなります。

1)経済とはもともと、人々が豊かで充実した人生を送ることに奉仕するためのもののはずである。
2)しかるに企業の所有と経営とが分離し、金融の発達した20世紀以後の資本主義は、人々が豊かで充実した人生を送ることよりも、金融資本が巨大化すること自体に奉仕するようになりやすい。
3)しかもそのような資本主義は、本質的に不安定で、恐慌を引き起こす危険をつねにはらんでいるのではないか。

これは重要な問題提起です。
ただし私が注目したいのは、「豊かで充実した人生」とはいかなるものかをめぐる中野さんの議論。
本の結論部分にあたる「『産業』の理論」という章に出てきます。
いわく。

人間の行動は、何らかの目的を実現したいという動機をともなう。(中略)人間は、本質的に、目的論的な存在であり、活動的な存在なのである。

しかし、人間にとって、目的の達成だけが重要なのではない。目的を達成しようとして、活発に行動し続けることもまた、生にとって大きな意味を持つのである。行動は、確かに、目的達成の手段ではあるけれども、行動それ自体も人生の目的となり、意義となる。

建築家にとっては、建造物の完成が目的ではある。しかし、それだけではなく、建造物の完成のための行動、例えば、建築家としての技術の会得から始まり、建築の依頼主との打ち合わせ、設計その他、目的達成に向けて行われたことのすべてが、建築家の生き甲斐なのであり、それが彼の人生の目的となる。
(247ページ)

すなわち「豊かで充実した人生」の条件とは、
1)生きがいを感じるに足る目的を持ち、
2)かつ、目的の達成に向けて活発な行動を続けられること
となるでしょう。

そのために必要な物質的・金銭的裏付けを提供するのが、経済の役目というわけです。

ところが中野さんの議論、演劇のあるべき姿をめぐる福田恆存さんの議論と瓜二つなのです!
福田さんの本『せりふと動き』(玉川大学出版会、1979年)から引用しましょう。
いわく。

芝居づくりは建築術に最も良く似ている。建造物において大事なところに手抜きがあったら、たちまち崩壊する。芝居は一晩、一月(=一ヶ月)で終わるから、地震の襲来に備える必要はないと考えたら大間違いである。(中略)

台本は設計図である。それにしたがい、一つ一つの台詞、一つ一つの場面、登場人物一人一人の役割、そういうものの積み重ねによって土台、柱が、正面入り口が、窓が造られてゆき、一晩の芝居を観終わった後、装置を排除した舞台空間に、配置よろしく堂塔がそびえ立って見えるかどうか(=「ドラマ」という建築物が、整った形で出来上がっているかどうか)、それが見えねばならぬはずだが、それを見せること(だけ)が芝居の目的ではない。
芝居は造形美術であるが、いわゆる造形美術と異なる点は造形する過程、すなわち工程そのもののリズムを楽しませることにある。
(243〜244ページ。原文旧かな。表記を一部変更。カッコは引用者)

つまり「すぐれた演劇」の条件とは、
1)観終わったあと、感動とともに心に残るようなドラマを築き上げるという目的を持ち
2)かつ、その目的に向けて活発に展開される行動(=芝居の各場面)自体を、観ていて面白いものにすること
となります。

ならば中野さんの考える「豊かで充実した人生」とは、「劇的な人生」のことであると言って構わないでしょう。
建築のタトエが使われているところまで見事に同じ。
福田さんの代表作の一つに『人間・この劇的なるもの』と題された本があるのは、関連して象徴的です。

とはいえ経済はもともと、人々が豊かで充実した人生を送ることに奉仕するためのものだったはず。
「豊かで充実した人生」と「劇的な人生」がイコールなら、望ましい経済システムのあり方を考えるうえでも、演劇は大いに参考となるのではないでしょうか。

豊かで充実した人生は、それ自体が「劇」となる。
経済はそのような人生を支えるべきもの。
しかるに演劇において、豊かで充実した舞台を支えるものは、まずもって作劇術です。
裏を返せば、すぐれた芝居をつくるためのテクニックは、望ましい経済システムのあり方についても、指針を提供するかも知れないのです!

次回はこの点について、さらに考えてゆきましょう。
ではでは♪

<お知らせ>
1)イギリス出身の名演出家、ピーター・ブルックいわく。
「真の問題はしばしば逆説の中にあり、解決することができません。(中略)純粋さは、もともと本質的に不純であるものを通じてしか表現できないのです
ならば、逆説(パラドックス)を直視することから始めよう!

三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!
発売以来、7週間連続でアマゾンのイデオロギー部門1位を記録しました!
「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
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2)現実に対処できないまま、堂々めぐりを引き起こす「ダブルお花畑」状況とは何か?
KADOKAWAのメルマガ「踊る天下国家」第12回、好評配信中!
「恐怖の<ダブルお花畑>〜曽野綾子さんのコラムをめぐって」。
1時間の音声ファイルつきです。
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar747124

最近のバックナンバーもどうぞ。
どれも音声ファイルがついています。
「さらば、愛の行為よ〜日本で男女関係は成り立つか」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar736635
「『テロに屈しない』という現実逃避〜政府と野党の欺瞞の構造」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar726619
「日本よ、自己欺瞞をやめろ!〜イスラム国の拘束事件をめぐって」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar716370
「石原慎太郎から安倍晋三まで〜2015年はどんな年になるか」
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3)「ダブルお花畑」状況の背後には、「ファンタジーの戦後史」がひそんでいる!
これについては、この本をどうぞ。
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4)フランス革命を芝居にたとえると、どうなるか?
この本の116ページに出てきます。
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5)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
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