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2015年2月20日

【施光恒】曽野綾子氏と日本の「リベラル」

From 施光恒(せ・てるひさ)@九州大学

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●世界を動かす力の正体とは?

https://www.youtube.com/watch?v=xSpcGUoATYk&feature=youtu.be

※※月刊三橋『激流グローバルマネー』より

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おっはようございま〜す(^_^)/

曽野綾子氏が産経新聞に寄稿したコラムが物議をかもしていますね

数日前に三橋さんも下記のリンク先のブログ(メルマガでも配信)で取り上げていましたが、曽野氏のコラムは、介護分野などの経済的移民を受け入れたうえで、居住区は別にしたほうがいいという趣旨のものでした。(曽野氏のコラムの大意は、三橋さんの下記のブログ内で読めます)

【三橋号外】「思想」の恐怖(『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015年13日付配信)
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/02/13/mitsuhashi-198/

多くの批判が寄せられていますが、私も、曽野氏の議論には、賛成できません。

とりわけ曽野氏の議論で問題なのは、経済的移民を肯定しつつ、居住区は分けようという点でしょう。経済的利益だけ受け取って、外国人労働者や移民の居住の自由などを制限してしまう。いいとこどりで、自己中心的な印象をやはり受けます。

ただ、今回の私の主目的は、曽野綾子氏の批判ではありません。それよりも、曽野氏のコラムに対する「リベラル派」からの批判のあり方のほうを取り上げたいと思います。

「リベラル派」の批判の多くは、「外国人労働者や経済的移民の受け入れは仕方がない。不可避的な時代の流れだ」とします。そのうえで、「日本を多文化共生社会とするために日本人は努力すべきである。曽野氏の議論は閉鎖的で排外的でよろしくない」とする趣旨のものが主だったといえます。

つまり経済的移民の受け入れ自体は、批判しないのです。
(・ω・)ナゼ?

典型的には、下記の記事です。

高橋浩祐氏(ハフィントンポスト日本版編集長)「時代に逆行する曽野綾子氏のコラム 多様な民族を受け入れる姿勢こそが日本に必要」(『ハフィントン・ポスト日本版』2015年2月17日配信)
http://www.huffingtonpost.jp/kosuke-takahashi/sono-ayako_b_6690296.html

この記事の執筆者は、次のように述べ、外国人労働者や移民の受け入れを認めています。

「今、多くの先進国では、少子高齢化に伴い、好むと好まざるにかかわらず、外国人労働者や移民を受け入れざるを得ない状況になっている」。

そのうえで、日本人の閉鎖性を指摘し、日本人こそが変わるべきだと続けます。

「…曽野氏のような知識人が本来、世に問うべきことは、多種多様な文化や習慣を受け入れ、共存共栄を目指す「ダイバーシティ」ではなかったか。日本に定住するひとり一人が暮らしやすい社会を実現するため、日本人こそがその閉鎖性を打ち破り、自ら変わる必要がある」。

私は、以前もこのメルマガで何度か書いていますが、外国人労働者や経済的移民の受け入れには、基本的に反対です。ヨーロッパの経験をみれば、社会的安定性の喪失などその失敗は明らかです。また、外国人労働者や経済的移民の推進は、別に「リベラル」でも「人道的」でもないと考えるからです。

(以前の記事は下記です。)
【施光恒】移民受け入れは人道的か?(『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2013年8月9日付配信)
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2013/08/09/se-19/

【施光恒】ヘイトスピーチ規制の本末転倒(『三橋貴明の「新」日本経済新聞』2015年1月23日付配信)
http://www.mitsuhashitakaaki.net/2015/01/23/se-51/

上記の記事でも論じましたが、豊かな先進国が、発展途上国の貧しさにつけこみ、自国民がやりたがらない低賃金労働につかせるため、海外から人を呼んでくるというのは上等な発想ではありません。

貧しい国の人々が、先進国で、先進国の人が望まないメイドや介護、肉体労働といった仕事に従事せざるをえない状況とは、人道的でもリベラルでもありません。こういう出稼ぎや、移住は、貧しい国の人が本当に望んでいることではありません。

例えば、将来、日本が経済的に貧しくなって、我々の子孫である日本人が出稼ぎ労働者、あるいは移民となって、低賃金で、豊かな国(アメリカかもしれませんし、中国かもしれません)のメイドや肉体労働の仕事に就かざるをえない。私は、そういう日本の姿を想像しただけで、胸が張り裂ける思いがします。

外国人労働者や経済的移民を現在、送り出さざるを得ない国の人々も、おそらくそういう気持ちでしょう。

彼らが真に望むのは、自分の国で、自分たちの言語や文化のなかで、自分たちの家族や仲間と一緒に働き、多様な人生の機会と豊かな生活を享受することです。

人道的見地、あるいは真に「リベラル」な見地からすれば、先進国がなすべきは、移民や外国人労働者を無批判に受け入れ、途上国の貧しさに乗じて彼らの労働力を利用することではなく、経済的移民など生じなくても済む、もっと平等な国際秩序作りを提唱し、その実現のために尽力することです。

上記の過去記事でも触れましたが、現在の世界には、国際的な不平等を固定化してしまう仕組みがたくさんあります。

例えば、自由貿易は絶対に正しいという前提で、発展途上国に対しても市場開放を迫り、保護主義的な政策を認めない新自由主義的な経済構造です。これでは、なかなか自国資本の産業は発展せず、途上国が、先進国に追いつくことはほぼ不可能です。

英語による文化支配も一例です。貧しい国では、少数のエリートは英語を用い、大多数の一般庶民は現地語を使って生活しているという光景が非常によく見られます。英語でなければ高等教育が受けられず、稼ぎのいい専門的職業にも就けないという社会です。こういう社会では、多くの一般的人々は、十分に自分の能力を磨いたり、発揮したりすることができず、貧しいままにとどまります。

言語が違うと国民の一体感も生まれないので、国民はバラバラで、適切な経済政策や福祉政策をとることもできません。結局、貧困から脱することが出来ず、先進国になかなか追いつけません。

ですので、本当に「人道的」あるいは「リベラル」な立場からすれば、無批判に外国人労働者や経済的移民を受け入れ、低賃金で彼らを利用することを認めるべきではなく、自由貿易を絶対視する新自由主義的経済構造や、英語による文化支配をはじめとする現在の不平等な国際秩序の不当性を暴き、これらを除去するよう努めるべきです。

その上で、途上国の国作りを積極的に支援する必要があります。途上国自身の文化や言語に基づき、近代化を図るための手伝いです。途上国の人々が、自分たちの国で、自分たちの家族や仲間とともに豊かな生活が送れるように、「国づくりの援助」を行っていくことです。

この点で、日本にできることはたくさんあります。

日本は、保護主義的政策を適宜導入しつつ、自国の資本や産業を発展させ、国民を富ませ、内需中心で豊かになることに成功した国です。(実際は、イギリスやアメリカも含め、現在の先進国は、皆、保護主義を適宜、用いつつ、自国経済を発展させてきたのですが、イギリスやアメリカなどは現在では、あまりこのことに自覚的ではないようです)

また、日本は、外国から積極的に学びつつも、母語である日本語や日本文化を守り、その基盤の上に近代化を成し遂げてきた国です。我々は普段あまり意識しませんが、外来の知を取り入れつつ、母語で近代化するためのノウハウをおそらく世界で一番持っています。

日本は、現行のアメリカ主導の新自由主義的な国際秩序や、英語による文化支配を批判するべきです。そのうえで、例えば、輸入代替化戦略をとり、自国の資本や産業を発展させてきた日本の経験を語るべきです。

あるいは、外国から学びつつも、外国の先進の知を翻訳し、自分たちの言語で高等教育まで学べる環境を作るためのノウハウを途上国に積極的に提供すべきです。

結局、何が言いたいかといえば、曽野氏のコラムもおかしいが、今回の曽野氏のコラムに対する日本の「リベラル派」の批判の多くもマトが外れてはいないか、また、あまりにも現状肯定的で体制順応的ではないかということです。

「リベラル」を自称するのであれば、自国の経済政策の失敗を糊塗するため、あるいは自国企業の経済的利益のため、途上国の貧しさに付け込んで、彼らの労働力を安く買いたたき、自国人がやりたがらない仕事に就かせることを、「時代の流れだからしょうがない」などと軽々しく認めるべきではありません。

外国人労働者や経済的移民にならざるを得ない多数の人々を生み出す現行の不平等な国際秩序を批判すべきです。なおかつ、その不平等な国際秩序に乗じて短期的な経済的利益の追求に汲々としている現在の日本の政府や一部財界のみっともなさも指摘すべきでしょう。

そして日本の来し方を振り返り、先人の努力に感謝するとともに、日本の真の国際貢献とは何かを国民皆で考えることでしょう。

日本の「リベラル派」を自称する人々は、曽野綾子氏の今回の議論を批判するだけでなく、もう一歩先まで進んでもらいたいものです。
m9(`・ω・_)キリッ

長々とエラソーに失礼しますた<(_ _)>

<お知らせ>
(1)3月8日(日)に福岡のカフェで開催されるこじんまりとした勉強会(「学ぶカフェ」)の講師を務めます。
今回は、以前のメルマガでも触れた「皇室制度と日本人の心のかたち」などについて取り上げようと思っています。お近くの方はぜひお越しください。

「『学ぶカフェ』のご案内〜日本の文化と教育を学ぶ〜」
日時:3月8日(日)午前11時45分から1時間半程度。
場所:R-style (アールスタイル) 福岡市中央区大名1-12-56 TheShops 2F
会費:1000円(お茶代別)
問い合わせ先:学ぶカフェ事務局
manabucafe@gmail.com
(お問い合わせ、お申し込みは上記のメールにて)。

(2)3月28日には熊本で中野剛志さんの講演があります( ゚∀゚ )っ
後半部では、中野さんと対談します。
http://ninigi74.com/info/824072

(3)『表現者』最新号が出ました。
http://www.amazon.co.jp/dp/B00S5TMZN8

PS
世界を動かす力の正体とは?(月刊三橋『激流グローバルマネー』より)
https://www.youtube.com/watch?v=xSpcGUoATYk&feature=youtu.be

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【施光恒】曽野綾子氏と日本の「リベラル」への11件のコメント

  1. nanashi より

    アメリカとEUはそもそも成り立ち、由来が違うんでしょうね。推測ですが、EU、さらに移民(異民)を受け入れれば、アメリカ合衆国のように強大なものになれると妄想したんじゃないでしょうか。それをさらに日本などが真似しようとしている。グローバリズム(アメリカニズム)の威力。その(アメリカニズム/グローバリズムの)過程ではアメリカインディアンやアフリカ黒人みたいに犠牲になる人間が出てくるんでしょうが。

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  2. lemoned@F-NAK より

    アメリカは移民国家なので、むしろ移民による支配が成功した例とも言えそうです。

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  3. 日本晴れ より

    施先生の指摘どうりだと思います。曽野綾子氏のコラム批判をする左翼やリベラル派の人達の的外れな指摘にはあんぐりします。多文化共生ならずに強制ですし左翼の人達の変な正義感を日本人OOだから世界はこうだからこうすべきだと論を押し付ける左翼の観念論には辟易します。それに移民の何が人道的なのか意味不明です。普通に自分で生まれた国で生活して家族を作っていく事が一番の事でしょう移民までする移民側も移民される側の住人もどっちも人道的なんて思わないですね、左翼のこういう多文化共生という偽善さに辟易します。

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  4. みどり より

    左派の人達は移住の自由、人種のるつぼ支持=リベラルと考えているのかも。

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  6. nanashi より

    >「移民政策を導入して成功した実例がありますか?」「ありません」ちょっとカテゴリーが違うのかもしれませんが、アメリカ、カナダなんかどうなんでしょう。またアメリカ、カナダなどの場合、成功、失敗の定義にもよるでしょうが。成功しているかどうかわかりませんが、失敗しているとも言い切れないような。

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  7. ウミユリ より

    >「今、多くの先進国では、少子高齢化に伴い、好むと好まざるにかかわらず、外国人労働者や移民を受け入れざるを得ない状況になっている」。この人は、今や各国が政策を変更し、移民制限に乗り出している事実を知らないのでしょうか?程度の差はあっても、「鎖国」に向かっているのですよ。労働力不足だから、少子高齢化だからと移民を入れまくった結果、移民自身が高齢化したり、本国から兄弟を連れきて社会保障費の増大を招き、元の国民の反感や不満を招いているからこそ、移民反対政党が急速に支持を拡大しているわけです。実際のところ移民問題については、議論は終わっているのです。「移民政策を導入して成功した実例がありますか?」「ありません」                       完これで議論は終わっているではありませんか(笑)

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  8. ウミユリ より

    綺麗ごとや理想論を安全地帯がから言うのなら、誰でもできますね。シンガポールでは、カレーの匂いを嫌う中国系とインド系の住民が対立した事例がありましたが、笑い話ではなく食習慣一つとっても、険悪な対立へ発展する可能性があるのです。日本人は閉鎖的?どこがですか?海外でも移民が多い地域では、元の国民が離れていますし、移民に対する投石、放火、リンチ、集団虐殺など排除運動は過激さを増しています。郷に入って郷に従わない外国人は、本来の国民の生活環境を悪化させるので、排除されて当然なのですよ。排除される側は、自分たちに原因や理由があると思わす、それを差別、排外主義という言葉に集約化して現実逃避していますけど。受け入れてもらいたければ、移民側の方が受けれてもらうように努力すべきであり、受け入れ先に変化を求めることこそ本末転倒、傲慢なことなのです。多文化主義の美名の元、郷に入って郷に従わないことを容認、奨励した結果が、今の欧州の移民政策の悲惨な結果であり、疎外された移民のテロや暴動など陰惨な事件の要因になっているのではないでしょうか?

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  9. tukuyomi より

    こんばんは。全体的に同感です。曽野綾子さんはすぐれた活動をなさっていますし、尊敬もしていますが、今回のコラムについては首をかしげる部分が多かったです。移民受け入れは必然ではなく、労働力不足は生産性の向上によりわが国の内政問題として解決すべきです。また内需の拡大により世界の経済を牽引していくこと、世界の安定の為に寄与していくことこそ、経済大国としてのわが国の役割だと思います。この世界同時不況の中「海外に打って出て」他国のGDPを掠め取るなんて政策は採るべきではありません。施さんのおっしゃるように、途上国の発展の手助けをすることが結局は世界の平和的発展を促し、わが国の国益にもなると考えます。

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  10. あまき より

    ハフィントン・ポスト、笑える。高橋浩祐こそ時代遅れ。施さんの爪の垢でも煎じて飲め。少しは頭蓋の霞が晴れようぞ。井の穴背負っておととい来い。

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  11. kanata より

    「日本のどこがすばらしいか」を、日本人はよく見直すべきですね。僕自身、欧米が進んでいて、日本は遅れていて、他のアジア諸国はさらに遅れている、というような印象が染みついています。本当は進んでいるとか、遅れているとかではなく、民衆レベルが豊かな社会を、営々と築いてきたこの国を誇り、守っていくべきでしょうし、そうした国柄こそが、日本国の政策のベースになければなりません。今の日本人は自由と権利ばかりを主張し、国のために、社会のためにという意識が稀薄になってしまいました。だから、人気のない仕事は外国人に、などという考えが出てくるのでしょう。しかし人気のない仕事は給与を1.5倍くらいにすれば、応募者も増えるのではと思います。民衆が豊かな国は周辺国の羨望にもなるでしょうし、望まれればそのノウハウを教えてあげることもできるでしょう。そうした視点で振り返れば、大店法や派遣法改正は本当に正しかったのか?土建会社の談合や一見ムダに思われた公共工事も、それが意味するものを解きほぐし、みんなが理解できるレベルでもう一度考えてみるべきでしょう。とにかく安倍総理のドリルはちょっと脇に置いてもらって、わかりやすくて有益な議論が聞きたいですね。

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