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2015年2月8日

【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第十話

From 平松禎史(アニメーター/演出家)

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●月刊三橋最新号のテーマは「フランス経済」。

中東の混乱、ISILの背景にある「大問題」がわかる

https://www.youtube.com/watch?v=eQUSqYvie2s

「ユーロという罠」に落ちた大国の選択から、
なぜ、明日の日本が見えるのか?

フルバージョンが聞けるのは、2/10まで。

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◯オープニング

1月24日、武装過激派集団「ISIL」に捉えられていた2人の内1人が、続いて2月1日にもう1人が殺害されました。
この原稿を書き進める間に「ISIL」に捕らえられていたヨルダン軍のパイロットが殺害されたことも報道されました。
ヨルダンはテロで逮捕していた死刑囚2人を報復として死刑執行したそうです。

「ISIL」という集団がどんなものなのか専門家の間でも意見の相違が見られますが、「国」とも「組織」とも呼び難い暴力集団で、身代金や手前勝手な要求を通すために外国人の命を利用する卑劣な集団だ、と今は理解しています。
この理解は今後悪い方向に行くことはあっても、その逆はないでしょう。

一方で、ネット上では人質になった方々の出自や表に出ていない「使命」や外務省の暗躍などが話題になっています。
真偽不明にすぎるのでここでは書かないことにします。

人質事件で、様々なことを考えました。
「自己責任論」がずいぶん喧しく言われたことも印象的でした。

国民が海外で(今までもあり、これからも十分にある可能性を踏まえつつ)人質になるという異常事態ではなくとも、日常的にあり得るような自己責任論も視野に入れつつ考える機会にはなりました。

今回は、もっと身近に実感できること、ボクのような一般人が負うべき責任と、国家・政府が負うべき責任について書いてみます。

第十話:「抜けない、電柱」

◯Aパート

日本経済新聞にこんな記事がありました。
「電線無いのに電柱だけ放置 「人任せ」意識が生むリスク 誰も管理しないインフラ(下)」
http://www.nikkei.com/article/DGXMZO82236610S5A120C1000000/?dg=1

『無電柱化の目的には、主に防災、景観、バリアフリー化の3点がある。』

目的は明確です。
では、民間企業と行政機関が目的を共有しているのでしょう。
どちらが事業完了の責任を負っているのでしょうか。

『中部電力は「道路管理者が残置状況を確認し、撤去に向けて検討する予定と聞いている」(広報部報道グループ)と回答。基本的には、道路管理者に任せているようだ。

では、道路管理者である国交省などの対応はどうか。「電柱自体は電力会社などの所有物で、撤去の責任も所有者にある」というのが国交省のスタンスだ。』

双方が完了責任を預け合っています。
これでは目的が達成できるとは思えません。

民間企業は収益が見込めないことを進んですることはないでしょう
デフレでコストカット思考になっていれば尚更です。

この場合、リスクを呑み込める国、行政機関が最後まで監督するのが筋なのではないでしょうか。
(事業の性格によってはそうではない、ということもあるかも知れませんが。)

民間企業である中部電力が負うことが出来る責任の範囲は、明確な責任範囲にある電線の地下化までだ、と考えたとしても(本当はその先も考えて欲しいのですが)不思議ではありません。
その範囲内で責任を持ち、しっかりとした工事をしていれば問題はないと考えるでしょう。

その先までやってしまったら「自己責任」の範囲が拡大してしまう。
…損だ。
そういう心理が働かなったとは言えないのでは?と思うのです。

つまり
民間が自己責任を負えるのは、行政機関である政府(国家)が最終責任を負ってくれるという、安心感があってこそ、だと考えます。
この場合、責任を預けて許されるのは、民間企業なのか、国なのか。

双方が自己責任を小さくしようとしたために、電柱というトゲが放置されています。

◯中CM

電柱といえば「エヴァンゲリオン」です。
いや、少なくとも「エヴァ」を観ていた方は、作中で印象的に描写されていた「普通の街」の象徴である電柱・電線、高圧鉄塔など人工物に、現代日本の風景を感じていたのでないかと思います。
その見慣れた現実に「使徒」という異様な外敵が表れて日常が壊されていく恐怖。
山や田畑より、人工物の破壊の方に、より現実的な恐怖を思える。
電柱・電線は、誰もが邪魔だなと思いつつ、意識しないうちに「原風景」に溶け込んでいたものだと思います。
「瑞穂の国」を象徴する田圃などより、電柱と電線に親近感を持つ世代…人々は確実にいて、現実の一角を形作っているのだと思います。

しかし、防災・景観・バリアフリー(生活利便性)を損なっている、特に地方都市や都下の密集地域では電柱・電線は減らした方が良い。

そのための財政出動が、経済を回すのであれば尚更です。

◯Bパート

防災・減災。国土強靭化は、リスクを呑み込める国が率先して行うべき事業です。
民間企業や一般人は、国家・政府が責任を負ってこそ、自己責任のリスクを恐れずに協力することができるようになるのだと思います。

デフレからの脱却も、借金返済や、利益確保のためのコストカットをせざるを得ない民間企業に「競争」させてはいけません。
デフレ時にそんなことをすれば、実質賃金が下がり、負け組は捨てられる社会になっていきます。
現在の日本において、国民を民間同士の競争や外国からの労働者や外国資本の利益などとの競争に晒すことは、まさしく、国民の自己責任率を高める考え方であり、政府の責任放棄になるのではないでしょうか。

民間企業や一般人が自己責任を最小に留めて国内で生活し、海外への旅行や仕事もできるのは、国家・政府が、一般人が負いきれない責任を保証してくれるから、だと思います。
安全保障です。

安倍首相は、人質事件において繰り返し「テロに屈することはない」と述べ、最新の会見では「テロリストたちを決して許さない。その罪を償わせるために、国際社会と連携していく」と厳しく語りました。

これは、国内はもちろん仕事や旅行で海外に滞在する日本国民が、自己責任を最小に留められるように国家・政府が負うべき責任を宣言したものと思います。

「自己責任」論というもの自体が、国家・政府が大部分の責任を負ってくれている環境があってこそ、言えるものではないでしょうか。

角度を変えてみれば
もし、政府や与野党にかかわらず、有権者の票を得た政治家(や、政治家に影響力を持つ者)が国民に対して「(あなた達の)自己責任ですから」と言ったすれば、それは「国民を守りません」と宣言しているに等しい無責任な態度と言えましょう。

_ _ _

経済でも同様のことが言えるはずなのです。
なぜに、経済では国家観のかけらもないような政策が進められるのか。
1997年の増税と緊縮財政の結果、翌年から自殺者が1万人近く急増しました。
国民を殺す結果になるなるのは、戦争やテロだけではないのです。

国家・政府が率先して国民を救う経済政策をしなければ、再びそのような被害が出ても前例がある以上、不思議ではない。

緊縮路線を見直す気配はなく、文化破壊に導く構造改革も見直す気配がありませんから、さらに暗澹たる気持ちになります。

なぜ、自分たちでできることすらやらないのでしょうか?
経済が衰退し、少子化が進み、外国への流出と流入で日本の文化が破壊されたとして、できることをやらなかった「自己責任」だ、と諸外国に突き放されても言い返すことができません。

今回のような事件に限らず
竹島を奪われ死者を出しても放置していることや、尖閣諸島に灯台一つ作れないことや、30年以上国民を取り返せないでいる拉致事件や、紛争地帯で殺害されて抗議しかできず、今後も日本国民が危険に晒される事件が起こっても最大の努力は間接的な交渉に留まるような日本に対して、国民を守るための法整備や具体的な努力を怠った「自己責任」だ、と諸外国に突き放されても言い返すことができません。

_ _ _

日本より上位に、日本国民を守ってくれる存在はありません。
アメリカ? 私たちが私たちを守る議論すらできないのに、守ってくれるわけがないじゃないですか…。

ならば、自分たちで守れるように考えを改めるのが当然でしょう。
国防・安全保障・経済の議論を、ただ政治に任せるだけでなく、国民が一緒に考えて議論することが(最低限)まずは必要だと思います。

なぜ、自分たちで守れないのか、悔しさに血が出るほど唇を噛みしても斬首されるのに比べればなんでもないでしょう。

たまには、アメリカが「頼むからやめてくれ!」と羽交い締めにするくらいに反発したって良いだろう!
…とすら思うのです。

◯エンディング

…というようなを気分を察知したマスメディアは、これを機に自衛隊の行動範囲を広げようとか憲法改正に傾くことを「冷静に」と諌める意見が早速出ています。

何人殺されたら本気を出すんでしょうか。

この件では、首相の中東支援を批判して、悪いのは日本・安倍首相だと言う論調があります。
日本が中東に支持され指導的な立場になるのが気に入らないんでしょうか。
まるで武装過激派集団「ISIL」の論調です。

一方で、安倍首相に責任が及ぶことを恐れてか、人質の自己責任を強調し、悪いのは人質になった人なのだと怪しげな情報まで駆使する論調もあります。
これでは被害者はもちろん「ISIL」すら居てもいなくても関係ない話ではないですか。

更に一方で、国民を守るための具体的な法整備、憲法改正などが必要だと言いつつ、実現の難しい要求ができない、安倍首相に失敗させたくない「安倍支持」の人たちは、わかりやすい「敵」を叩くことに腐心してはいないだろうか。

押し合い圧し合い論点をズラし、責任を預け合った結果放置された電柱のように、私たちが、私たちの喉元に刺さった大きなトゲを抜けないように、「敗戦後」を放置し保守してきたのではないでしょうか。

何をしたいのか、目的を明確にしましょう。

経済・国防・文化、みな根っこでつながっているはずなのです。

_ _ _

人質事件で生じた「気分」に乗じ「憲法改正」論議が進められるのには最大限警戒します。
特に、橋下大阪市長と連携しての改正には 大 反対です。

現行憲法下でも、できることはあるはずなのです。
邪魔な制度や構造、岩盤規制を打ち破ろうとか、グレートリセット的な思考より、できることを探しだして実行するための議論のほうが大事だと考えます。

限られた土地の中で苦心して文化を継承してきた日本人には。

◯後CM1

このほど文庫化された「コレキヨの恋文」
http://rensakaki.jp/release/korekiyo.html

ボクは登場人物のイメージイラスト(楽描きですが)を私的に描いていました。
文庫化に際して、さかき漣先生の加筆が多くなされているそうですから、楽しみです。
いつか映像化できたら良いな。
たぶん、この小説はまだまだ「できるはずなのにやっていない事」を示す物語として生きていくと思います。

◯後CM2

さかき先生との企画、さらに進行中!

PS

「イスラム国」を生み出したものとは?
月刊三橋最新号では、ある大問題について解説しています。

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【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第十話への1件のコメント

  1. docholiday より

    橋下と連携して、憲法改正など日本の自殺行為です。都構想に公明党が賛成に回った陰には、橋下と連携を目論む官邸が暗躍したという話があります。一体、正気なのかと政治家の資質を疑いたくなります。橋下は大阪や日本を良くしようという気はありません。ただ、自分の思うままに支配したいと思っているだけです。まさに日本の危機です。

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