アーカイブス

2015年1月28日

【佐藤健志】愛国のパラドックス

From 佐藤健志

——————————————————-

●月刊三橋最新号のテーマは「フランス経済」。

「ユーロという罠」に落ちた大国の選択とは?
フランスに今が分かれば、日本が見える!

https://www.youtube.com/watch?v=eQUSqYvie2s

——————————————————-

先週の記事では、景気回復と「経済再生」(ないし日本再生。以下同じ)の関係について、次の等式が成り立つのではないかと書きました。

経済再生=景気回復_(社会的連帯感+ナショナリズム)

景気回復と「社会的連帯感+ナショナリズム」が、それぞれプラスかマイナスかによって、ここからは以下のシチュエーションが想定可能です。

(1)景気回復=プラス、社会的連帯感+ナショナリズム=プラス、経済再生=プラス
成長が実現されたうえ、そのメリットが広く共有される理想的な状態。

(2)景気回復=プラス、社会的連帯感+ナショナリズム=マイナス、経済再生=マイナス
成長は実現されるが、一部の層がメリットを集中的に享受するため、格差はむしろ拡大、社会的不満が高まる状態。

(3)景気回復=マイナス、社会的連帯感+ナショナリズム=プラス、経済再生=マイナス
メリットを広く共有しようとする姿勢はあるが、そもそも成長が実現できず、スタートラインでつまずく状態。

(4)景気回復=マイナス、社会的連帯感+ナショナリズム=マイナス、経済再生=プラス
成長もせず、格差も広がるせいで、絶望感から世の中を根本的に改めようとする動きが高まる状態。

ただし先週も書いたとおり、(4)で想定されるような「やけっぱちの急進主義」は、現実にはたいがい失敗に終わってしまいます。
したがって経済再生を実現するシナリオは、(1)しかないと考えるべきでしょう。

ならば安倍政権の経済政策、いわゆる「アベノミクス」は、この4つのどこに当てはまるか?
これがなかなかに複雑なのです。

目標として謳われているのは、もちろん(1)。
しかし具体的な政策には、(2)をもたらしかねないものも見られる。
そして現状は、おそらく(3)。
下手をすると今後、(4)に行き着く恐れもないとは言えません。

だとしても、何か変ではないでしょうか?

(1)と(3)の区分、あるいは(2)と(4)の区分は、「景気回復が達成されるかどうか」という基準に基づいたもの。
ゆえに経済政策の手腕次第で、同一の政権が(1)と(3)の間、あるいは(2)と(4)の間にまたがることはありえます。

けれども(1)と(2)の区分、あるいは(3)と(4)の区分は、「社会的連帯、およびナショナリズムを尊重するかどうか」という基準に基づいたもの。
政策の手腕とは関係のない話です。

裏を返せば同一の政権が、(1)と(2)の間、あるいは(3)と(4)の間にまたがることは、本来ありえないはず。
ところが安倍政権は(1)(2)(3)にまたがっており、下手をすれば(4)まで含みかねないのです!

これは同政権が、社会的連帯感やナショナリズムについて「尊重しつつ尊重しない」状態にあることを意味します。
冒頭の等式を踏まえれば、「プラスでありながらマイナス」、または「マイナスでありながらプラス」という次第。

むろん、明らかなパラドックスです。
けれども現在の日本のあり方は、このようなパラドックスの存在を前提すると、いろいろ分かりやすくなるように思うのです。

なにせわが国は、景気の好循環をつくることをめざしつつ、消費税増税によって需要をみごとに冷え込ませました。
その後も「経済最優先」と言いつつ、積極的な財政出動には乗り出さない。

のみならず現政権は、選挙に勝って権力基盤を強化するたび、掲げるスローガンを後退させています。
今では「戦後レジーム」から脱却したいのか、同レジームを強化したいのか、にわかには判断がつきかねるほど。
イスラム国による日本人拘束事件に関しても、テロには屈さないが人命を優先させるという、いささかツジツマの合わない方針が示されました。

根本がどこかで非常にねじれていると考えるのが妥当ではないでしょうか?

だとすれば、このねじれを解消しないかぎり、経済再生はありえないと見なすべきでしょう。
それどころか、景気回復だって危ないもの。
プラスがマイナスで、マイナスがプラスでは、肝心なところでハズすに決まっているではありませんか。

そして問題のねじれの根源は「社会的連帯感+ナショナリズム」、つまりは愛国心をめぐる混乱にひそむように思うのです。
戦後日本は、この混乱を放置したまま、経済成長に邁進してきた感があるものの、経済の本質とは「経世済民」、すなわち世の中を治め、人民の苦しみを救うこと。

こう考えるとき経済の問題は、政治、社会、イデオロギー、あるいは文化の問題と切り離すことはできません。
2010年代後半の日本が良い方向に向かうかどうか、それは過去70年にわたって続いてきた「愛国のパラドックス」に、われわれがどう対応してゆくかにかかっているのです。

ではでは♪

<お知らせ>
1)『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』、アスペクト社より発売されました。
http://amzn.to/1A9Ezve

2)KADOKAWAちょくマガ「踊る天下国家」も更新されました。
1/28(水)の8:00配信開始。
今回のテーマは「日本よ、自己欺瞞をやめろ!〜イスラム国の拘束事件をめぐって」。
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar716370
イスラム国は安倍総理の主張を逆手に取っているのではないか?!
その背後にひそむ「戦後の欺瞞」の構造を論じます。

3)愛国心をめぐるねじれが、どのようにして生じたか、経緯を詳しく書きました。
http://amzn.to/1lXtYQM

4)1/31(土)の20:00〜23:00、日本文化チャンネル桜の「闘論! 倒論! 討論!」に出演します。
http://www.ch-sakura.jp

5)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

PS
三橋経済塾への入会を希望される方は、こちらをクリック
http://www.mitsuhashi-keizaijuku.jp/

PPS
月刊三橋会員の方には、数千円の会員限定割引が適用されます。
三橋経済塾の前に月刊三橋の会員になるには、こちらをクリック!
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

関連記事

アーカイブス

【三橋貴明】東京一極集中が人口減少を招く理由

アーカイブス

【三橋貴明】二つの危機論(後編)

アーカイブス

【三橋貴明】中国不要論 後編(日中関係が米墨関係と違う点)

アーカイブス

【三橋貴明】TPPの新たな均衡状態に移行した時点?

アーカイブス

【藤井聡】今こそ、「超インフラ論」を

メルマガ会員登録はこちら

週間ランキング

  1. 1

    1

    【藤井聡】「消費増税を凍結せよ」運動は、日本の「黄色いベスト...

  2. 2

    2

    【小浜逸郎】水道民営化に見る安倍政権の正体

  3. 3

    3

    【三橋貴明】水を売り飛ばした日本政府

  4. 4

    4

    【 小浜逸郎】みぎひだりで政治を判断する時代の終わり

  5. 5

    5

    【藤井聡】「リーマンショック級」の経済下落 ~2019年には...

  6. 6

    6

    【三橋貴明】第二国土軸の建設を

  7. 7

    7

    【三橋貴明】唯物史観

  8. 8

    8

    【三橋貴明】詐欺師に騙され、喜劇を演じる日本国民

  9. 9

    9

    【saya】70年ぶり漁業法の抜本改正 理由は“あー、まあ、...

  10. 10

    10

    【三橋貴明】水を売った日本政府

MORE

月間ランキング

  1. 1

    1

    【小浜逸郎】水道民営化に見る安倍政権の正体

  2. 2

    2

    【藤井聡】壊れかけた日本 今一番大切なのは、当たり前のことを...

  3. 3

    3

    【藤井聡】「リーマンショック級」の経済下落 ~2019年には...

  4. 4

    4

    【藤井聡】「消費増税と緊縮」で日本経済は最悪「ミャンマー級」...

  5. 5

    5

    【藤井聡】日本はもはや「完全なバカ」なのか? 〜『消費増税を...

MORE

最新記事

  1. 日本経済

    【三橋貴明】経済の問題。

  2. 政治

    【三橋貴明】唯物史観

  3. 日本経済

    【三橋貴明】詐欺師に騙され、喜劇を演じる日本国民

  4. 政治

    未分類

    【 小浜逸郎】みぎひだりで政治を判断する時代の終わり

  5. 日本経済

    【藤井聡】「消費増税を凍結せよ」運動は、日本の「黄色い...

  6. 日本経済

    【三橋貴明】水を売り飛ばした日本政府

  7. 日本経済

    【三橋貴明】第二国土軸の建設を

  8. 政治

    日本経済

    【三橋貴明】水を売った日本政府

  9. 日本経済

    【藤井聡】「リーマンショック級」の経済下落 ~2019...

  10. 未分類

    【saya】70年ぶり漁業法の抜本改正 理由は“あー、...

MORE

タグクラウド