From 島倉原@評論家
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●月刊三橋最新号のテーマは「フランス経済」。
「ユーロという罠」に落ちた大国の選択とは?
フランスに今が分かれば、日本が見える!
https://www.youtube.com/watch?v=eQUSqYvie2s
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おはようございます。
図らずも、金利動向を題材として金融危機について論じた前回寄稿の当日、スイス国立銀行による無制限為替介入の終了が発表され、スイスフランが暴騰しました。
その後の欧州中央銀行の量的金融緩和と相まって、ユーロ安傾向がいつまで続くのかは、予断を許さない状況です。
http://tfx.jfx.jiji.com/market/fx/chart?code=EUR%2FCHF
http://tfx.jfx.jiji.com/market/fx/chart?code=EUR%2FUSD
下記の記事などを読むと、やはり気になるのは、米ドル建てやスイスフラン建ての債務負担が東欧諸国などに与えるダメージなのですが、果たしてどうなることやら。
反緊縮派が総選挙で勝利したギリシャ、そして外貨建て国債が投資不適格級に格下げされたロシアとの絡みも引き続き見逃せないところです。
(参考記事)
スイス中銀、スイスフラン高抑制の無制限介入終了(日本経済新聞、2015年1月15日)
http://www.nikkei.com/markets/features/12.aspx?g=DGXLASGM15H7E_15012015000000
こうした一連の問題は、実はユーロ圏の経済不振と同根で、ドイツを中心とするユーロ圏諸国が緊縮財政のワナから逃れられない限り、根本的な解決は難しいでしょう。
そもそも、スイスは輸出入合計がGDPの9割前後に達するほど貿易依存度が高く、リーマン・ショックおよびユーロ危機後の自国通貨高が経済不振をもたらすことを懸念して通貨介入に乗り出した。
結果、自国通貨高は止まり、実質実効レートではむしろ自国通貨安トレンドになったものの、国内のデフレは止まらず(「名目レート安定+国内デフレ⇒実質レート安圧力」なので、ここの記述はやや循環論法的なのですが)、ユーロ圏向け輸出も相変わらず低調。
もともとスイスフランは強い通貨(20世紀を通じて、唯一米ドルに「勝った」主要通貨でもあります)で、自国通貨高は今に始まったことではない。
こうした事実を踏まえると、問題の本質はスイスフラン高というよりむしろ、「主な取引先であるユーロ圏の(緊縮財政による)需要不振」であると考えられます。
そして、実はこの構図、「日銀の金融緩和不足が円高・デフレ不況をもたらした」というリフレ派の主張が、「1990年代後半以降、円の実質実効為替レートはむしろ円安傾向である」という長期的な事実と明らかに矛盾しているのと、本質的には同じものと言えるでしょう。
実際、マネタリーベースがGDPの60%を超えるまで行われたスイスの金融緩和は、黒田バズーカのはるか先を行っていたわけですが、それでも問題は解決しなかったわけですから。
(参考記事)
円の「実力」40年で最低(日本経済新聞、2014年12月7日)
http://www.nikkei.com/article/DGKKASDF06H0J_W4A201C1MM8000/
積極財政こそが成長戦略(島倉原ブログ、2014年5月27日)
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-51.html
さて、緊縮財政といえば、目先のプライマリーバランス改善にこだわって緊縮財政に走ることの弊害について、本メルマガでも藤井聡さんが繰り返し論じておられます。
そのような誤った政策判断がなされる背景には、量的金融緩和・緊縮財政・構造改革の政策パッケージの下で、戦後最長の景気拡大とプライマリーバランス改善が実現した小泉政権期に対する誤った過大評価があるのではないか。
そうした問題意識の下、先週のチャンネルAJERで行ったプレゼンテーションが、「小泉政権期の正しい評価」です。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-79.html
以前本メルマガでも述べたように、プライマリーバランスは名目GDP成長率の上昇に追随して改善します。
そして、名目成長率の上昇をもたらすのは積極財政であることも長期的な事実。
だとすればプライマリーバランスを改善し、「国の借金」問題を解決するのも積極財政であるのは論理的な結論であり、これまた本メルマガでも述べたとおりです。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-73.html
にもかかわらず、緊縮財政を推進した小泉政権期に、なぜ戦後最長の景気拡大とプライマリーバランス改善が実現したのか?
それを説明するのが、これまた本メルマガでしばしば取り上げている、不動産バブルを周期的にもたらす「金融循環」という経済に内在するメカニズムです。
つまり、小泉政権期は失政であるにもかかわらず、たまたま巡り合った世界的な不動産バブルの波に乗っかって、景気拡大とプライマリーバランス改善が実現しただけ。
裏を返せば、まともな経済政策を行っていれば、もっと経済パフォーマンスは良かったはず。
そう考えれば上述した長期的な事実ともツジツマが合うし、「実感なき景気回復」とも言われ、1人当たりGDPの国際順位が大幅に低下した当時の状況とも符合します。
ところが、景気循環の内在を基本的に否定する主流派経済学に立脚し、なおかつ単年度の財政収支に固執する均衡財政主義からはこうした現実の姿は見えてこない。
そうした誤った世界観のもとではまともな経済政策など行えるはずもなく、そのなれの果てが日本の失われた20年であり、さらにはユーロ圏の直近の不振。
そうした状況を打破するには、より現実的な世界観のもとで、小泉政権期についても正しく否定的な評価をすると共に、目先の景気変動にとらわれずに長期的観点から政策を遂行する必要があるのではないか。
それが今回お伝えしたかったメッセージです。
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-79.html
(ちなみに、一見意味不明の今回のタイトル、こちらから拝借しました。センスの良し悪しは、あまり突っ込まないでいただきたく…。)
http://amzn.to/1DcZAIE
http://www.lyricsfreak.com/b/bob+dylan/world+gone+wrong_20021652.html
ところで気になるのは、小泉政権期の「量的金融緩和・緊縮財政・構造改革」という政策パッケージ。
「機動的な財政政策」の正体が、「消費増税を含む均衡財政主義」を前提としていること(下記、2012年総選挙時の自民党総合政策集26枚目、50ページ参照)からすれば、「アベノミクスの3本の矢」と何が違うというのでしょう…。
http://jimin.ncss.nifty.com/pdf/j_file2012.pdf
深読みのし過ぎかもしれませんが、そう考えると、「2017年4月には確実に消費税を10%に引き上げることが、2014年衆議院解散の理由である」という自民党の広報記事とも、恐ろしいことにツジツマが合ってしまうのです。
https://www.jimin.jp/news/activities/126550.html
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【島倉原】奇妙な世界にへの4件のコメント
2015年1月29日 9:40 PM
『2015年2月11日 産経新聞「曽野綾子の透明な歳月の光「適度な距離」保ち受け入れを」 最近の「イスラム国」の問題など見ていると、つくづく他の民族の心情や文化を理解するのはむずかしい、と思う。一方で若い世代の人口比率が減るばかりの日本では、労働力の補充のためにも、労働移民を認めなければならないとと言う———– 曽野綾子に対して、あなたは、ーーー「外国移民を受け入れるのは仕方がないが、居住区を分けるべきだ」 という主張を曽野氏はされているわけです。いまどき「ゲットー方式」を支持する日本人(あえて日本国民とは書きません)がいるとは驚きですが、それ以前に曽野氏が「外国移民の問題」について全く理解していないことが明らかになりました。 ーーーー と書かれています。私は、曽野綾子さんに賛成です。私は約30年前に、仕事の関係でスエーデンを訪れたことがあります。当時の日本は「日本人は、水と安全は唯だと思っている」と言う、やや皮肉っぽい言い方をされて居たのですが、当時のスエーデンは、この点に関し、日本より、はるかにウワテでした。ノルシェピンと言う、人口10数万で、市街電車が走っている可愛い街にあった訪問先の工場を見せてもらい、細かい改善の積み重ねで、大規模な設備投資なしに、高品質の金属箔を作っているのに感心した後で、市内にある、会社のゲストハウスに泊めてもらました。驚いたのは我々が着くと管理人の婦人が、「私は、これで帰ります。冷蔵庫にビールは冷やしてあるし、オツマミもあるから、適当にやって下さい。街に出かけても良いし、戸締まりは要りません。」と言い残して帰ってしまいました。最後の訪問先は、デンマークに渡る港町のマルメに近い、鉄道の駅に柵も改札口もなく、駅前に木造2階のホテルが一軒だけポツンとある街の得意先でした。前夜ホテルの2階で会食した翌朝の8時頃、一人だけ居た管理人の婦人が我々が乗るはずの汽車が来る前に、「私は、これで帰ります、冷蔵庫にビールがあるし適当にやって下さい。ただし、火の元だけは気をつけてね」と言い残して帰ってしまいました。ーーー この国では日本以上に「安全はタダ」でした。ところがスエーデンは近年、主として中東から大勢の難民を受け入れたのですが、入り口に当たるマルメの周辺は、山もなく土地はフンダンにあるせいか、大勢の難民が住み着いてしまって治安が悪くなり、スエーデン政府は頭を抱えていると聞きました。やがて中東系のイスラムだけの街が出来るのは避けられないと思います。つまり曽野綾子さんの言う、「適度な距離を保つ受け入れ」です。中世以来のヨーロッパの歴史を読むと、「歴史的に別の文化をもつ様になった集団が雑居すること」の難しさが判っていないのは、あなたの方だと思います。私は、「真平ごめん」です。 松浦 昇
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2015年1月30日 4:39 AM
じつは小泉政権とどうちがうのか。さいきん自分にもうすうす感じられる、ある種のいやな予感を整理して頂いたようなお話で、たいへんためになりありがとうございました。自分は安倍首相の発言を詳しく聞いているわけではないのですが、(経済)成長というコトバを使うときに、よく規制撤廃とか、改革断行というコトバを耳にします。やる気のある新進気鋭の企業が古臭い規制のせいで自由な競争を阻害されて経済が停滞しているといわんばかりです。でも、自由な競争とはなんだろう、そんなに期待した効果があるだろうかと思うのです。サラリーマン的な実感では。古くてすみませんが、マイクタイソンが「体重制限なんて撤廃して自由な競争しようぜ」といえば一人勝ちでしょう。強者らの言う、自由だ平等だというのは、いつも奇妙です。十数年前に仕事でおつきあいのあったとあるエリート商社マンは若い自分にこう言いました。「きみ、ビジネスってのは、勝ちすぎちゃダメなんだよ。」「7:3なんてダメ。6:4でも勝ちすぎ。」「相手とはまた勝負するから、相手を潰しちゃだめだよ。」ビジネスは殺し合いでなくスポーツ、ルールのある、価値観を共有できるもの同士の競い合いだとすれば、どんな競技にもおおよそ存在するクラス分け、等級分けがあるからこそ、それぞれのプレーヤーがおのれの良さを生かし切って、競い合いができるのではないでしょうか。自分はアマチュアスポーツをやっていましたが、チーム員が増えすぎ、力量の差がばらつくと、せっかく数十名いてもハンデなしで練習会をすれば、結局トップグループ数人だけが充実した活動になって、他はしだいに辞めていくのです。ビジネスで落伍したものは消えてなくなってもいい、という政府のスタンスならば、規制のない自由競争を信奉するのもよいでしょう。でも、能力の低い企業や従業員にも、生きて働く権利を、せめてひとしく税金をとる政府は配慮すべきではないのか。「自由な競争で経済再生」安倍首相はもしかして、経済も国内政治も、あまり興味ないのではないでしょうか。
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2015年1月31日 12:56 AM
ウォールの申し子こと、バブル魔術師こと、緑スパン某に小泉は足を向けて寝られないちう事なのでせうか?
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2015年2月1日 3:46 PM
愛国のパラドックス=奇妙な世界に=農業改革=橋下氏? 僕の(節穴の)眼には、今のままの隠し通された偏ネオリベのアベノミクスでは(4)の道へ特別攻撃態化(国内(民間企業)テロ拡大)しているとしか思えません。自滅行為です。 90年代橋本氏からの金融ビッグバン理論膨張はもう収縮させ、外国資本規制強化しないと…。ハワイ(米国占領化)みたいになります。 農業まで強欲民営化カンパニー化してしまったら自国安全保障も瑞穂(社民党ではなく)もヘッタクレもありません。多分日本人の身体も変質するでしょう。既に変わってるでしょうけど。占領下で変えられたわけではないと思います。それ以前から自由主義を見直して来ていたはずです。 橋下氏は何でもかんでも民に…と言ってるけど、もうなんかロボコップのオムニ社思考です。都市が大企業に買われるのです。 行きずりのぐちゃぐちゃのミックスコメントですみません。高卒・プロレタリアン・俗人族なんです。でももうエリート層の考えもシッチャカメッチャカで奇妙でパラドックスです。
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