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2015年1月17日

【浅野久美】フランスの甘み

From 浅野久美@チャンネル桜キャスター&月刊三橋ナビゲーター

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●月刊三橋最新号のテーマは「フランス経済」。

「ユーロという罠」に落ちた大国の選択とは?
フランスに今が分かれば、日本が見える!

https://www.youtube.com/watch?v=eQUSqYvie2s

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両親以外で初めて映画館に連れて行ってくれたのは、マハル(真春)ちゃんという親戚のお姉さんでした。
たぶん私が小学校低学年あたりだったのでかなり曖昧ではありますが、アニメと動物映画の二本立てだったような記憶がうっすら・・
カタブツか遊び人のどちらかしかいない、極端な若手親戚陣の中では、マハルちゃんは、遊び人の筆頭に名を連ねる、大人の評判は悪くても、子供の私にはわくわくさせられた興味深い女性だったのです。

父のいとこにあたる彼女は、当時何歳だったかはちょっと不明ですが、たぶん二十歳前くらい。
その映画館の『もぎり』のアルバイトをしていたこともあり、子供向けの作品を選んで一緒に観てくれたのですね。
しかし、映画の内容はおぼろげでも、上映前に入れてくれた映写室や売店のブースのイメージだけは、かなり珍しい情景だったのでこれは鮮明な記憶。
裏側から見た小さな売店の、お菓子やおつまみの、完成したレゴのような隙のない美しい陳列は、子供にはちょっとしたパラダイス。
売り子のおばさんが私を膝に乗せ、「好きな物をふたつあげるから選びなさい」と言ってくれた時は、わーいと心が躍ったものでした。
眼の前に並ぶ品揃えの数々・・与えられた物を受け取るのではなく、自分で迷いに迷って何かを選ぶ、という、お買い物の基本的な喜びを知ったのはもしかしたらこの時からだったかもしれません。
(ついでに、マハルちゃんが映写室でタバコを吸ったことと、そこにいたお兄さんとはどうやら恋人同士らしい、ということは、決して厳しい大人たちには誰にも言うまい・・などと、女同士の秘密の持ち方も、初めておぼえたかもしれません。)

結局子供の私が選んだのは、存在は知りつつも、家の近所のスーパーでは見たことがなかった、不二家の『フランスキャラメル』と、もうひとつは有名なおつまみの『いかくん』・・・
「あら、この子はシャレた酒飲みになるわねぇ」と、爆笑する大人たちの言葉を後に、いい匂いとタバコの匂いの混じるマハルちゃんの手にひかれながら、暗くなる直前の座席に向かったのでした。

いえね、『いかくん』って、なんだか独特の食感じゃないですか。今でもさきいかよりはあれが好きで、アメ横の『二木の菓子』に行くとついつい大量に買ってしまうんですよ。
そういえば、『いかくん』の『くん』は、ずっと『いか君』の『君』だと思っていたけど、実は薫製の『くん』だと私が知ったのは、だいぶ先の、お酒を飲むような年頃になってからでした。
だってほら、子供の世界には『よっちゃんいか』という精鋭がすでに君臨していたのですから、
女のよっちゃんに対する男のいかくん・・などと、そりゃあ勝手に誤解もしますわねぇ。

で、何故『いかくん』だったのかと言えば、あの輪ゴムのような形を、いつかチェーンのようにつなげて妹と遊びたい、と常々願望があったからなのだな。
食べ物で遊んだりすれば母に叱られることは予想出来たので我慢していましたが、その時は内緒でゲット出来てすごく嬉しかったわけね。もちろん、すぐにバッグにしまっちゃいました。

一方の『フランスキャラメル』・・・これは、ずいぶん前に生産中止となったようで、残念ながらもう手にすることはなさそうです。
その箱に描かれていたのは、国旗のイメージ赤・白・青のトリコロールと、真ん中にはフランス人形のような女の子の顔。
オシャレ感たっぷりの、それはそれは魅力的な外観でした。
中身も、バニラ・コーヒー・チョコレートの三種で、グリコや明治のように、上蓋から指を入れて取り出す形ではなく、当時キャラメルでは珍しかった、横にスライドして、三色のグラデーションがちゃんと見えるようになっているトキメキの大人設計(子供では加減がわからず全部飛び出してしまう危険性ありですからね)だったのです。

私はもともと甘い物に興味のない子供だったのですが、その時はさっそく一粒口に入れてみました。
大きめで幅広の固い角が当たって一瞬痛いのだけど、ひとたび柔らかくなると、それまでには味わったことのない豊かな香りと甘みで、みるみる新しい世界が広がってしまったことを憶えています。
たぶんその衝撃のほうが、映画よりもインパクトがあったのでしょうね(フランス産でもなんでもなく、作っているのはおなじみ不二家だったのですが)。
マハルちゃんには『おいしい』としか伝えられなかったけど、うーん・・・
その頃、エスプリという言葉を知っていたらなぁ・・・。

若くして亡くなったそのマハルちゃんの孫になる赤ちゃんが『去年産まれました』と報告してくれるハトコからの年賀状を見て、あの時の甘い匂いやらあれこれを久々に思い出した、平成27年の年明けでした。

ということで、以前、奥歯の金属の詰め物が取れてからは、キャラメルやハイチュウなどは御法度。
何年も怖くて口にしたことがない、最近では、のど飴かレモングミ専門の、浅野グミ・・じゃなくて、浅野久美です。
みなさま今週も、お正月ボケの重いカラダでのお仕事、大変お疲れさまでした(私です)。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。

ところでフランスキャラメルの箱に描かれていた女の子ですが、
ハリウッドの大女優、シャーリーテンプルさんがモデルだった、ということを、昨年85歳で亡くなった時に初めて知りました。
いま思えば、あの少女の金髪(アメリカ人だけど)とバニラの甘さと国旗の三色、というおしゃれな紙の小さなひきだしは、私なりの初めての『フランス』テイストだったわけですね。

とはいうものの、後々の私にとって、意外にもフランスという国にはあまり縁がなく、
映画とサッカー、ワイン以外に興味は広がらず、数回は訪れたものの、ワールドカップや、仕事、或は他国への中継ぎ・・という、他目的の旅ばかりだったせいか、映画のように、『語り』が多くて、理屈っぽくて、利己主義であまり笑わないキャラ・・がなんとなく今だにフランス人のイメージの基本となってしまっていることに気づいて今さら驚いたりして。
それに加え、バックパッカー経験からも、旅先で仲良くなるのは何故かいつもフランス以外の国の若者たちだったので、直接フランスの文化や国民性にディープに触れる機会ってなかったなぁ・・・と、『シャルリー・エブド』が新たに掲載した風刺画などを見てふと思いました。

テロという残虐な暴力で報復する方法など、もちろん理解の余地はなく嫌悪感しか湧きませんが、それでもやはり、目的がどこにあるか問いたくなるような不快な風刺画をこぞって描き出すフランスメディアの価値観の方もまた理解できません。
このテの皮肉や揶揄は、フランス人のセンスではフツーなのでしょうか。
今回犠牲となってしまった 『シャルリー・エブド』だけでなく、
東京オリンピック招致が決まった際に、福島の原発事故を揶揄した週刊誌の『カナル・アンシェネ』なども風刺画がお得意のようで、あの時は日本人も強く不快感を訴えました。
手足がそれぞれ三本ある、お相撲さんのまわしをつけた奇形の痩せ男二人の絵で、傍らには防護服を着た審判まで描かれていましたっけ。
また、日本代表のGK川島選手の腕が4本ある合成映像を作って流した『フランス2』はフランスの国営テレビ。「福島の影響で手が4本」などというコメントまでされています。
さらに、震災直後には、東北の被災地の様子と原爆投下後の広島の画像を並べ、
「日本は50年も復興努力をしてこなかった」などと茶化したテレビもあったそうですから、これがフランスの『お国柄』と捉えるべきなのか・・・。

平均的なフランス人のみなさんって、こういう風刺を見て一体どんな反応をするのでしょうね。
そこに求められるのは、本気の『笑い』なのか、それとも『知的なアソビがわかる』読者としての自尊確保なのか・・いずれにしても、どうみても行き過ぎたあのセンスを『言論の自由』とするならば、かつては憧れた国ではありますが、やっぱりセンスのない下品な文化のひとつ、と悪口も言いたくなりますよ。

フランス国旗の三色の意味として知られている『自由・平等・博愛』は実はただの俗説なのだそうですが、
現在のような状況だと、俗説でさえ虚しく空回りしてしまいますね。
穏健で真面目に暮らす移民までが、一転して過激派に変わってしまう危険性を孕んだ状況は、フランスやヨーロッパだけではなく、我が国の行く末にも大きく投影される世界的な社会問題だということは、ますます実感せざるを得ません。
今は、一日も早く平穏な状態に戻るよう、祈るばかりです。

今月の月刊三橋もフランスがテーマです。
収録後にテロが起きたので、その件の言及はありませんが、
現在の混乱に派生するような、根深く複雑な背景や要因は少なからず見えて来ると思います。
それから、いま、本屋さんでは専門のコーナーまで設置されてすっかり大ブームとなったトマ・ピケティさんの、分厚い『二十一世紀の資本』・・・これをわざわざ600ページも頑張って読まなくても、何が書いてあるか大体わかってしまう(?)・・・という、三橋さんの解説も聴けたりしますよ。
ちなみに私はその前につい背伸びをして買ってしまったのですが、いまやっと歯を食いしばって『はじめに』を読み終えたところ・・

ということで、今年も色々ありそうですが、明るさだけは失わず、みなさまお元気な一年となりますように。
まずはよい週末を!

PS
月刊三橋最新号のテーマは「フランス経済」。

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フランスに今が分かれば、日本が見える!

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【浅野久美】フランスの甘みへの2件のコメント

  1. 久しぶりの通りすがり より

    武士は命よりも体面の方を大事にしました。切り捨て御免というのがありましたし。イスラムもそれに通じるのでしょう。自由自由といってプラカードを持って騒いでいる姿に違和感を感じる私は欧米と異なる価値観を持っています。

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  2. kanata より

    「言論・表現の自由」原理主義者には、本当に辟易させられます。ローマ法王は「神の名において人を殺すのは愚かしい」としながらも、「あらゆる宗教に尊厳」があり、何事にも「限度というものがある」と指摘して、「他人の信仰について挑発したり、侮辱したり、嘲笑したりすることはできない」といわれたそうです。全くその通りだと思いますが、事件後の『シャルリー・エブド』の反応を見ると、「言論・表現の自由」は人間の尊厳を傷つけても、憎しみの連鎖を燃え上がらせても、なお守るべきものと考えているようで、その思慮の浅さと幼稚さには呆れさせられますね。

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