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2014年11月3日

【三橋貴明】「外資頼み」の危うさ

From 三橋貴明

【今週のNewsピックアップ】
●「別の需要」が必要
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11946215812.html

●寒波襲来
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11946627532.html

日本銀行が金融緩和の拡大(年70兆円規模から80兆円へ)を決定し、同時にGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)のポートフォリオ変更(株式を12%から25%に)も認可される可能性が高まり、日経平均が跳ね上がりました。

問題は、日本の株式市場における外資の売買シェアが60%超と、投資家別で最大になっていることです。外資は円高になれば株式を売り、日経平均は下がります。安倍政権のメトリクス(評価尺度)が本当に「株価」であるとすると、随分と危険な綱渡りを始めたことになります。

もっとも、より問題なのは株価上昇が国民の所得上昇に結び付く「資産効果」が、十分かどうかです。何しろ、日経平均が2007年11月以来の高値に達している反対側で、国民は実質消費を5.6%も減らした(9月)のです。

株価がどれだけ上昇しても、其れのみでは国民の所得は増えません。そして、所得を生む消費がマイナス5%超。

このペースで消費が減り続けると、我が国のGDPは3%ほど押し下げられることになります(民間最終消費支出がGDPの六割を占めているため)。

結局、現在の安倍政権は「外資頼み」の危うさに加え、国民の所得格差(株式のキャピタルゲインも所得として考えた場合)を拡大する政策を打っていることになります。「投資収益率>所得増加率」の方向に、政策的に導いているのです。

また、そもそも金融緩和とは株価上昇を目的にしたものではありません。金融を緩和することで、お金を借りやすくし、企業に設備投資をしてもらうためにこそ、利下げや買いオペという政策が存在しているのです。

現実の日本では、日銀が金融緩和でマネタリーベースを拡大しているにも関わらず、マネーストック(M2)が伸び悩む状況が続いています。貨幣乗数が史上最低に落ち込んでいる以上、マネタリーベースが「充分なマネーストック」を生み出していないのは明らかです。

加えて、マネーストックが増えたとしても、それが「本当に設備投資に向かうのか」という問題もあります。マネーストックの拡大が株式や土地など、資産購入に回ってしまうと、
「マネーストックが拡大しているにも関わらず、設備投資が増えない」
という環境になってしまいます。そして、資産価格の上昇は、直接的には所得を創出しません。

などと書くと、「資産効果で消費が増えるはず」と反論されますが、資産効果が「いつ」「幾ら」生まれるのか。事前に確定することは不可能なのです。資産効果は十分な規模であるかも知れないし、そうではないかも知れません。誰にも分かりません。

というわけで、日銀の金融緩和の効果を「確実に」「短期で」生み出すためには、政府が財政出動を拡大するしかありません。政府が財政出動で「需要」を新たに創り出せば、企業がその需要を目指して設備投資を拡大するでしょう。その時、金融緩和の効果はむしろ「最大化」されることになります。

そして、現在の日銀の金融緩和は(主に)国債の買取であるため、政府は財政出動を拡大しても、実質的な負債は増えません。

政府が採るべき道は、あまりにも明らかだと思うのですが、現実の安倍政権は金融緩和に偏重し、財政はむしろ緊縮の方向に進んでおり、国内の所得格差を拡大していっています。こうなると、「分厚い中間層の消費を中心に成長する日本経済」を取り戻す日は、遠のくばかりです。
何とかしなければなりません。

PS
三橋貴明公式YouTubeチャンネルでは最新動画を続々公開中
https://www.youtube.com/user/mitsuhashipress/videos

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【三橋貴明】「外資頼み」の危うさへの4件のコメント

  1. lemoned より

    私も本当にそこが知りたいです。すでにコメントがあるように、そういう思想に固まってしまっている、というのもあると思いますが、ここまで悪い数字しか出ていない状態で、子供でもわかる言い訳(天気のせい、曜日のせい)を言ってまで押し通す理由が分かりません。無謬性という言葉だけでは説明がつきません。他の理由があるならはっきりさせておきたいです。そうしないと、いくら正論をぶつけても無理が通れば道理が引っ込む、で押し通される気しかしません。

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  2. mxpbh より

    共感する人がまわりに居ないに等しいのと、総理自らの頭が平蔵、かつ戦後保守だからじゃないでしょうかね。

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  3. 民民蝉の脱け殻 より

     お昼のラジオが、甘利経産大臣が経済政策を…と話していました。何やら何処其処にピンポイントで放つ…とか。(記憶が薄れ抽象ですみません)経産大臣のピンポイントで放ってる場合なんでしょか。 どうしてもマストな財出には、コンプレックス(共産悪魔と思う?)を抱くネオリベの定理なんでしょか。(心理コンプレックスだらけの筆者は言えないけど)…取り戻す日は遠退くばかりですね。 そう言えば街なかの民家に、ポツンと綺麗で鮮やかな日本国旗が揚がっていました。(うちも揚げた方がいいのかなと思うけど、なかなか揚げるのにも最近は勇気がいる気がする。うちにあった昔の国旗は何処にやったのかわからない)

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  4. kanata より

    三橋さんのお話を伺っていると、日本経済を復活させるには、日銀が金融緩和を行ない、政府が国土強靱化などへ積極的に財政出動することで需要を創出し、日本経済が元気を取り戻すまで増税を先送りすれば良い、ということがわかります。では、なぜ安倍政権がそれをしないのか?あるいはできないのか?それがわかりません。新自由主義経済学や財政均衡主義などで理由を説明されますが、僕には原発再稼働の問題も含めて、日本を経済的に復活させたくないという大きな意思が働いているとしか思えません。その敵を明確にして、国民に周知しない限り、正しい経済政策を推進することは難しいのではないでしょうか。

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