From 適菜収@哲学者
「集合知」って、要するに「集合痴」なんだよね。
今回も、山田大介さんとバンドの話。
※※※
【楽器アレルギーの君はプロデューサーを目指そう】
適菜 楽器を弾くのが嫌だったら、プロデューサーになればいいんだよ。女友達を5人くらい呼んで来てアイドルグループをつくったり。
山田 人によってはプロデューサー体質の奴もいるからね。バンド活動をしていると、楽器が下手で脱落する奴が出てくる。そいつをプロデューサーにすればいい。
適菜 子供の頃、実家の車の中でいつも流れている曲があって。思い返してみれば、クインシー・ジョーンズの「愛のコリーダ」だった。
山田 大島渚の『愛のコリーダ』に衝撃を受けて、チャズ・ジャンケルの曲をクインシーがカバーしたんだよね。
適菜 クインシーが『愛のコリーダ』に衝撃を受けたということに衝撃を受けたな。
山田 「愛のコリーダ」は流行ったよね。
適菜 でも、ああいう曲が頭の端っこに残っている。
山田 クインシーの「ウィ・アー・ザ・ワールド」とか……。
適菜 マイケル・ジャクソンの『オフ・ザ・ウォール』『スリラー』『バッド』もクインシーだし。
山田 最近、クインシーの70年代初頭のA&Mのアルバムを、レコードで買っているんですよ。メンツがすごい。バーナード・パーディやジェイムズ・ジェマーソンが参加していたり。アトランティック系やモータウン系も絡んでいる。
適菜 クインシー人脈はすごい。
山田 彼はもともとトランペッターでしょう。プレイヤーの才能はいまいちだったけど、アレンジ能力はすごかった。
適菜 それが買われて、ライオネル・ハンプトン楽団に入る。ブラック・ミュージックの歴史を振り返ると、プロデューサーの力は大きいですね。
山田 モータウンの初期の曲は、スモーキー・ロビンソンが書いてプロデュースしていた。
適菜 スタックスにはアイザック・ヘイズがいたし。
山田 サム&デイヴの「ソウルマン」もアイザック・ヘイズの曲だよね。
適菜 80年代に入っても、ギャンブル&ハフが次々と新しいことをやっていく。
山田 フィリーソウルだね。ケニー・ギャンブルとレオン・ハフには、われわれも知らない間にお世話になっている。ソウルの場合は、レーベルごとに偉大なプロデューサーを抱えていた。当時は、ソウルの戦国時代だったんだね。作曲家とスタープレイヤーであるボーカリストの間で、完全に分業がなされていたからクオリティーが高かった。
適菜 うん。
山田 当時は流行った曲があればすぐにカバーされた。トニー・ベネットの「フォー・ワンス・イン・マイ・ライフ」なんてみんなやっていますよ。
適菜 スティーヴィー・ワンダーしかり、テンプテーションズしかり。
山田 素晴らしい人たちが同じ曲をカバーしていた。ということは、完全に新しい曲なんてそうそう作れるわけがないということですよ。
適菜 そうですね。もちろん、曲の権利を持っていたモータウンが、印税を稼ぐために唄わせていたという側面はありますが。
山田 桑田佳祐にしてもユーミンにしても、ブレーンが大勢ついている。だから、サザンオールスターズのすべての曲を桑田佳祐がつくったわけではなくて、周囲に斎藤誠みたいな人がいるわけです。
適菜 桑田佳祐の青学の後輩ですね。
山田 見た目が地味であるがゆえに表舞台に立つことができない有能な人たちが、曲をつくって、「桑田佳祐」というブランドをつくる。
適菜 作家でもそうですね。誰とは具体的に言えないけど。分業形式で量産して、看板に名前を掲げる。音楽でもそうするのは当たり前のことであって、そもそもプロデューサーがバンドの音の方向性をどんどん作っていくわけです。
山田 小室哲哉は量産しているけど、一曲のクオリティーが極端に低いからねえ。あれは全部の曲を本人が作ったというのは本当だろうな。
適菜 小室哲哉はプロデューサーとしては一流です。てんやの天丼みたいにしょうもないものをきちんと量産することができた。
山田 「ああいうものもありなんだ」ということを、小室さんはオレたちに思いしらせた。あとハイトーンが出る女性ボーカルを使うという戦略。
適菜 だから、女のコをバンドに誘って、適当に唄わせていい気にさせて、それでダメなら結婚しちゃえばいいんだよ。小室さんみたいに。
山田 婚活なんてやっている暇があったら、バンドをやったほうがいい。
【才能がないほど、バンドに向いている】
山田 もっと気軽に「ミュージシャン」を名乗ってもいいと思うんです。日本人はみんな、自己紹介するとき職業を答えますよね。でも、ジャマイカ人は、ミュージシャンやサッカー選手などと自由に名乗っている。
適菜 たいして楽器も弾けないのに。
山田 ちなみに収ちゃんは哲学者を名乗ってますよね。
適菜 資格も許可も必要ないですからね。昔、池田晶子っていうおばさんが哲学者を名乗っていたんです。ソクラテスがどうこうとかいう話を書いている人ですが、私はすごく影響を受けたんです。バカでも哲学者を名乗っていいんだって。
山田 なるほど。
適菜 みんな、池田晶子くらい図太くならなきゃだめだよ。若干補足すれば、ヤスパースが言っているように、学者と哲学者はむしろ反対の心性の上にあるべきものなんだけどね。
山田 昔、椎名桜子っていたじゃないですか。あの人は作家を名乗っているのにプロフィールには「ただ今、処女作執筆中」と書いてあって。ふざけてんだけど、オレにとっては目から鱗だったね。
適菜 あの人は今何をやっているんですかね?
山田 知らないけど。でも、ああいうのはありですよ。
適菜 バンドマンは、椎名桜子と池田晶子に学べ!
山田 だから「オレは音楽家だ。オレは芸術家だ」と名乗っちゃってください。
適菜 山田さんは、これまでたくさんのバンドを経験してきたと思うのですが、初心者にアドバイスはありますか?
山田 多くの若者は、最初はやっぱりモテたいんでしょうね。他人との差別化をはかりたい。勉強やスポーツができなくて屈折した感情を抱え込んだ若者が、楽器を手にしたことにより人生が変わったみたいな話はよく聞きます。
適菜 なんのとりえもない人に、ぜひバンドをやってほしいですね。
山田 バンドを組んだら一発逆転の可能性がある。たとえ顔が悪くても、サンボマスターのように成功するかもしれない。
適菜 ステージに立てば、それなりにカッコよく見えますからね。
山田 ジャニーズ事務所に入るような奴は、クラスの人気者だと思うんですよ。明るくて楽しくてカッコよくて。そういう奴はバンドをやる必要がない。少々歌が下手でも、出てきただけでチヤホヤされるから。
適菜 ロック少年は、アイドルが嫌いなんだよね。ジャニーズに無闇に反発したりする。
山田 だから、イケてない奴ほど、バンドをやるべきなんだよ。ロック少年は歌が下手な奴が多いでしょう。カラオケで一等賞になるような人はソロシンガー系に行きますからね。
適菜 学校の音楽の成績が悪かったり。
山田 声が出てないボーカルも多いし。
適菜 だから、音痴でも大丈夫。
山田 くるりの岸田君だって、たいして歌はうまくないし。あいつはもともと鉄道オタクだったらしい。
適菜 車掌になれなくても、歌手にはなれる。
山田 だから、なんの能力もない奴こそバンドをやるべきだよ。でなくても、どうせロクな人生待っていないんだから。
適菜 やってもやらなくてもダメなら、やったほうがいい。
山田 友達や彼女がいない奴は、トークも冴えないんだろうから。でもバンドはそんな彼らを救済してくれると思います。
【ものまね芸人に学ぶ】
適菜 いざバンドを組もうというときに、よくありがちなのは、楽器屋さんに行って楽譜を買ってきてしまうこと。それで、一生懸命タブ譜を見ながら、正確にコピーしようとする。
山田 うん。
適菜 でも、あれはハードルが高すぎますよ。いきなり楽譜は読めないし面倒です。だから挫折してしまう。
山田 ああいう練習は、変な劣等感を生みます。だから、バンドスコアなんて買わないほうがいい。初心者の場合、一音一音、正確にマネをしようとする。それができれば、逆に「自分はうまいんじゃないか」と勘違いしてしまう。あれはよくないね。
適菜 ギターソロを完コピしてもしょうがない。たとえばリッチー・ブラックモアだったら、ペンタで適当に弾いているわけじゃないですか。だから、適当に弾いたほうが、彼のエッセンスに近づくことができる。いろいろなバンドがありますけど、音符の並び方よりも、そのバンドの脳みその部分が重要。
山田 それを想像しながら、楽器を演奏する。文体模写も同じです。夏目漱石の小説を一字一句マネするのではなくて、全体をつかんだ上で、漱石が言いそうなことを書くわけでしょう。
適菜 文章全体の中から漱石の脳みそに接近する。音楽も同じだよね。
山田 そうだね。
適菜 ものまね芸もそうです。優秀なものまね芸人は、対象を正確にコピーすること以上に、アドリブでその人間性を表現することが求められているわけでしょう。いかにも言いそうなことを言ったり。
山田 ものまね芸の楽しいところはそこだね。デフォルメの方法が問われているんだから。だから芸人によって、それぞれ切り口が違う。音楽演奏の場合でも、原曲を正確に再現する必要はないんです。テンポを変えてもいいし、ソロのパートなんて最初から無視していい。
適菜 そうすると気がラクですよ。コードだけ押さえていれば、曲のフレームはできますからね。
山田 ギターソロを完コピしている奴って、音楽のセンスがないんだよ。表層的なことより、原曲が何を表現しようとしているのかをつかんでほしい。
適菜 私はものまね芸が大好きなんですよ。
山田 お笑いの要素を前面に出しすぎると見ていられないけど。
適菜 そうそう。最近はお笑い芸人が、余技で中途半端なものまねをやったりするんですよ。あれは本職のものまね芸人に失礼。今のお笑い芸人はテレビで芸を見せる機会がないでしょう。漫才やコントは隅に追いやられていて、一発芸人ばかり。だから今は、ものまね芸人のほうが、芸人らしい芸人になっている。
山田 たしかにそうだな。
適菜 ものまねの場合、露骨にレベルがわかりますよね。
山田 スポーツに近いよ。
適菜 ほいけんたって知ってます。さんまのマネをする人なんですけど。
山田 知らないなあ。原口あきまさのさんまのマネは?
適菜 ほいけんたはいいですよ。トータルな才能では、コージー冨田はすごいですね。タモリ、伊東四朗、島田紳助を始め、鈴木雅之などの歌モノのレベルも高すぎる。
山田 ものまねにはヒントが隠されているよ。どの部分をマネようとしているのかに注目だね。
適菜 ものまねがうまい人は、対象の脳みそに入るわけです。清水ミチコは矢野顕子のマネをする前に、呪文を唱えて、矢野顕子の脳みその世界に入る。そうすると、ピアノのタッチまで似てくる。
山田 あそこまでやるとすごいよ。
適菜 あの人はネタも豊富だし完成度も高い。綾戸智恵のモノマネもいい。わざとピアノを下手に弾く。もちろん、清水ミチコのほうが、歌手としてもピアニストとしても才能ははるかに上。というか、比較するのは清水ミチコに失礼。顔だけは同レベルだと思いますが。
山田 清水ミチコは矢野顕子になりたいんだよ。「この人みたいになりたい」と思うことは大事かもしれない。だから好きなバンドに入れ込んだほうがいいですよ。
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☆適菜収オフィシャルサイトはこちら
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PS
雇用崩壊。日本人の給料が奪われる理由とは?
https://www.youtube.com/watch?v=IsJZZaD-rPQ
【適菜収】才能がないほど、バンドに向いているへの2件のコメント
2014年10月24日 10:39 PM
〉小室哲哉は量産しているけど 初期の学曲は良かったと思うんですけど。何がどのように変化してきていたんだろうかと考えてしまいます。この方もデフレの影響を受けた生け贄な、ミクロの表れなのかなぁと思ってしまいます。とか考えてしまうのは頭が変になってるのかなぁ。
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2014年10月26日 1:11 PM
確かに、清水ミチコの方が上手いどすわよね。小生、スティービー・ワンダーを神と崇めておりまんのん。マーカス・ミラーがコピーしたワンダーの名曲「visions」なんか良いどすわよね。ちなみに小生もカラオケで物まねしまんのん。高めの声が出まんのん。裏ではもののけ姫からケイトブッシュまで歌ったりするのん。地声ではイル・ディーボチャレンジしてるのん。パバロッティは流石にできまへんのん。一種の自慢なのん。千葉育ちのB総なのん。
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