From 宍戸駿太郎@筑波大学・国際大学名誉教授
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なぜ民間設備投資がもり上がらないのか:
戦略的情報武装で設備投資を盛り上げよ
<1>惰性的な運行:減速する‘アベノ丸’
2013年初頭の意欲的な旗揚げとは裏腹に、アベノミクスの減速傾向が続いている。消費税増税が主因であるが、輸出の不振も一因である。
しかし一方で消費者物価は値上げ気味で、完全失業率も3%台に下がってきたうえ、労働力不足の兆しもでてきたから、もうデフレ脱却宣言をしてはどうかという
安定成長/財政再建優先派の意見も有力になってきた。この意見によれば、来年十月予定の消費税再増税10%は当然で、さらに将来増税継続が必要となる。
さすがにアベノミックス政権はここまでは流されてはいないが、成長戦略や法人税減税を掲げてアベノ丸の減速傾向に対しては、抵抗の姿勢を示してはいる。
しかしどこまで本気かは甚だ心もとない。そのよい例は法人税減税への姿勢である。法人税減税の本来の趣旨は減税による民間設備投資の盛り上がりと海外からの投資の呼び込み、海外投資から国内投資への切り替えである。
しかしこれまでの政府内の議論は減税のための財源探しで、課税ベースの拡大や中小企業向けの増税などで設備投資効果にはむしろマイナスの財源探しに時間を空費しているようである。
海外からの日本経済への見方は、2014年と2015年両年で、実質成長率は1%台で先進国中最低となり、もはやアベノミクスへの期待はゼロ。これでは海外からの設備投資の呼び込みはもはや望むべくもない状態である。
<2>いかにして民間設備投資を盛り上げるか?
なぜ民間設備投資はもりあがらないのか?
過去20年近いデフレの惰性から企業の投資意欲は依然冷え込んでおり、機械受注の一部では最近若干の上昇気配がなくはないが、日銀の積極的な金融緩和にもかかわらず民間企業の利益増は内部留保にためこむ消極的な企業経営態度はまだ根強く残っているおり、日本経済の大幅な拡大は当分は存在しないとあきらめのムードが支配的なのである。
しかし、基本的にはアベノミクスの原動力の中心は民間設備投資であり、これを盛り上げるには以下の3点しかないと、私は考える。
1.内需全体のマクロ的な盛り上がり:とくにGDE(国内総支出)の加速化的な拡大政策の提示、例えば国土強靭化計画
2.全企業への一律10%加速償却型の企業減税の実施
3.各産業部門に対して上記のマクロ変数目標と
整合する部門別成長目標の提示─情報武装の強化
<3>マクロの成長目標の提示
いま安倍政権はかっての小泉政権以来の中期マクロモデルを使って、
経済財政諮問会議の政策シミュレーションを実施している。このモデル自体がIMF型の供給偏重型、開発途上国向けのシミュレーションモデルで、通称‘狂った羅針盤’と酷評されている。
先進市場経済の中期経済予測は、かつての政府・経済審議会のマクロ計量モデルのように内需・外需の市場変動と財政・金融政策とを具体的に導入した‘生きた経済’を対象にしたシミュレーションモデルが主役を演じることがいまや不可欠である。
アベノミクスがこの‘狂った羅針盤’モデルを廃棄し、通常の先進国経済にふさわしいマクロモデルでシミュレーションを行えば、日本経済の構造デフレの真因は究明され、デフレ脱出に必要な財政金融政策のシミュレーションも可能となる。
結論を言えば、現在の‘アベノ丸’のマクロ経済政策は余りにも慎重、その成長目標も過少にすぎる。このままではデフレギャップは巨大のまま推移するということである。また政府債務比率の改善も僅少にとどまるものと予想定される。
(詳細は拙著:奇跡を起こせ。アベノミクス、あうん出版、2013年を参照)
そこで、以下に代替案として、デフレギャップ解消の成長目標を実質で4〜5%、名目で6〜7%とし、これを今後4〜5年間継続し、デフレ脱出と完全雇用の成長路線への復帰を確認したあと、成長速度の減速をはかる。・・・・といったマクロシナリオをいま仮定して、以下の議論を進めてみよう。(この間、国土強靭化計画の実行が主役となる。)
<4>全企業一律10%の加速償却型の企業減税に実施
通常の法人税減税が財源補てん型でその効果を制約されると、設備投資への誘発効果もかなり縮小され、ひては景気全体への誘発効果も相当に限定された結果になることは前述の通りである。
しかし以下に紹介する加速減価償却制度の導入がもたらす減税効果は強力で、そのメカニズムは次の通りである。(とくにA.とB.の2つ合成効果C.に注目されたい。)
A.全企業での一律加速償却型の企業減税 → 減価償却費の上昇 → 法人税の減少 → 設備投資の増大
B.全企業での一律の耐用年数の減少 → 補てん投資の増大
C.合成効果=A.+B.
上記のフローチャートでわかることはA.の設備投資の増大効果に
対して、B.の補てん投資の増大効果が追加されることで、アメリカではレーガン政権下で実行され、かなりの成果が実証されている。とくに企業の更新投資効果が景気刺激を呼びおこし、注目すべき効果を発揮した。ただアメリカの場合
業種によって耐用年数の短縮幅がバラバラで、恣意的であるとの批判を受けて
そのご長続きはしなかった。恣意性を排するという意味では、一律カットの方が公平で、マクロ経済への影響も大きい。
我々のマクロ多部門モデルモデルDEMIOSによるシミュレーション結果は次の通りである。 この場合耐用年数は全部門で一律10%カットを前提し、
比較のために公共投資5兆円の効果と比較してみた。
■実質GDPの増分(%)
耐用年数10%の加速償却効果(年次別)
1 2 3 4. …10
0.67 1.13 1.38 1.68 …2.46
公共投資5兆円の効果
1 2 3 4. …10
1.26 1.70 2.01 2.20. …2.20
この表に見るように、加速償却10%の効果は当初は公共事業の
半分に過ぎないが、その後急増し、4年目にはその7割に増加し10年目には
公共投資を上回る効果を発揮することがわかる。
以上は実質GDPへの反応であるが、民間設備投資への反応はさらに大きく、
加速償却では当初から4.72%アップ、4年目には6.27%アップとなり、これに対応する公共投資の当初2.86%、4年目には5.97%と比べると有意に減税効果は強力であることがわかる。これは経済の全域で生産設備の若返り効果が生じた結果であり、慢性的デフレギャップの解消には極めて効果的であることが明瞭である。
(詳細は拙稿:市村、クライン第14章を参照)
<5>各産業部門に対して上記のマクロ変数目標と整合する成長目標の提示─情報武装の強化
かつての政府:経済審議会の計量委員会のように中期の成長目標を
マクロ経済変数に限らず、重要部門での需要と生産目標を提示し、
企業の設備投資の誘導指針を明確に提示することが必要である。
当時と比較すると、現在の日本経済に関する統計情報とこれを支援する
情報システムは驚くほど豊かである。詳細な国民経済計算資料や詳細な
産業連関表の蓄積など、我が国の現状は世界で一二を争う水準にまで達している。
地域や府県別の統計デ─タ・ベースの発達も目覚ましく全府県で産業連関表を定期的に推計し発表している国は世界に類を見ないもよい。一方、コンピューターの発達、利用ソフトウェアの進歩も目斬しく、科学的なシミュレーション分析のための計量経済社会モデルの構築は、人材の不足を除けば、いとも容易に達成可能である。
民間企業は先行き不透明なため設備投資を逡巡している面が大きく、産業部門別の
需要情報を政府がマクロ目標と整合する予測システムで公表することを熱望している。一方、民間のシンクタンクも政府や自治体に協力する体制は十分に整っているといってよい。
社会主義的な指令型計画経済はすでに崩壊し、市場原理主義的な暴走体験も数年前に経験した通りで、現在世界は猛省の途上にあるといってよい。これに対して、かつてのインディカティヴ・プランイング(指示的誘導計画)の精神は現在も脈々と生きており、複数の国々ですでに採用されている。いまこそ情報化時代にふさわしい中期のマクロ・部門型経済社会政策が聡明な官民学協調の下で再生することを心から念願する次第である。
PS
ドイツとEUの闇とは?
https://www.youtube.com/watch?v=DID9wg3PIVo
【宍戸駿太郎】なぜ民間設備投資がもり上がらないのかへの1件のコメント
2014年8月24日 1:46 AM
仕事柄、多種多様な方々と接していますが、(日本橋、大手町、丸の内周辺がメインなので、ビジネスマンの方の利用が多い)お客様同士の会話や直接話を聞く中で常々感じてきたことは「金を持っているのに使わないのが不況の原因=たくさんの人が自然に消費を増やすような仕組みがあれば景気が良くなるのに・・・・」難しいことは私いはよくわかりませんが、宍戸先生や三橋先生をはじめ、このメルマガの経済記事を読むにつけ「その通り!」と納得します。偏重報道に惑わされることなく幸せな社会に近づいていけるように、自分の頭で考えて生きていきたいです。
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