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2014年8月6日

【佐藤健志】ゴジラと安倍総理

From 佐藤健志@評論家・作家

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今年の夏、話題の映画と言えば、やはりハリウッド版『ゴジラ』(ギャレス・エドワーズ監督)でしょう。

ハリウッドがゴジラを映画化したのはこれが二回目になりますが、1998年の『ゴジラ』(ローランド・エメリッヒ監督)は、正直、感心しない出来でした。
興業面でもイマイチ、パッとしなかったはず。

ひきかえ今回は作品的な評価も高く、興行的にも各国でヒットと、理想的な形になっているようです。

ちなみに私は、1992年の『ゴジラとヤマトとぼくらの民主主義』を皮切りに、2013年の『震災ゴジラ! 戦後は破局へと回帰する』まで、この怪獣をモチーフに、日本の現状を何度も分析してきました。

そんな経緯もあって、ハリウッド版『ゴジラ』の成功は、私としても嬉しいのですが・・・
ここで考えてみたい点があります。

今回のヒットは「日本生まれの大怪獣ゴジラが、ついにハリウッドを完全に制覇した」と考えるべきなのか。
それとも「日本生まれの大怪獣ゴジラが、とうとうハリウッドに完全に取り込まれた」と考えるべきなのか?

というのも、1954年の『ゴジラ』第一作は
「アメリカ映画を圧倒する東宝の超弩級編!」
と宣伝されていたのです。

「超弩級編(ちょう・どきゅうへん)」とは、いわゆる「超大作」のことですよ、念のため。

1954年と言えば、敗戦からわずか九年。
独立回復からは二年です。
「敗戦国の日本だって、戦勝国アメリカをしのぐ特撮スペクタクルができるんだぞ」という意地が、この宣伝文句にこめられているのは明らかでしょう。

ついでに『ゴジラ』の特撮を担当した円谷英二さんは、太平洋戦争中の1942年につくられた『ハワイ・マレー沖海戦』(山本嘉次郎監督)で、真珠湾攻撃の様子を精緻(せいち)に再現したことで名をあげた人。

ゴジラのモンスター・スーツ(着ぐるみ)の中に入っていた中島春雄さんにいたっては、海軍予科練の出身で、特攻隊員として出撃を待っているうちに敗戦を迎えたのです。

こうやって生まれたゴジラが、今や「アメリカ映画の超弩級編」となって、日本の映画館を制圧している。
他方、東宝が新しいゴジラ映画を製作する可能性は、少なくともあと十年ぐらい、ほとんどないと言わざるをえません。

東日本大震災からの復興がなかなか進まず、福島第一原発の事故処理も続くさなか、「放射能火炎を吐く怪獣が日本に上陸、都市を破壊する」なんて映画がつくれますか?
これでハリウッド版ゴジラがシリーズ化されたりしたら、そのうち「ゴジラが日本で生まれたことを知らないゴジラ・ファン」が出てくるかも知れませんよ。

だとしても今回のハリウッド版によって、ゴジラの人気が世界的に高まるのも間違いない。
というより、ハリウッドが映画をつくってくれなかったら、この怪獣、過去の存在と化してしまったかも知れないのです。
日本版の新作は、当分つくれないんですから。

つまりここには、ナショナリズムとグローバリズム、あるいは反米と親米をめぐるパラドックス(逆説)がうかがえるのですが、
興味深いのはゴジラ自体が、当のパラドックスと密接な関係を持つ存在だということ。
『震災ゴジラ!』から、ちょっと抜粋しましょう。

「『ゴジラ』第一作における東京破壊は、米軍による東京大空襲のイメージで描かれている。だが同作品の音楽を担当した伊福部昭は、ゴジラについて『海で死んだ英霊(=日本軍の将兵)』のような存在ではないかとコメントした。
日本軍将兵が米軍に代わって東京大空襲を再現するとは、一体どういうことであろうか?」
(96ページ)

これを理解するカギとなるのは、敗戦を境に、日本がアメリカにたいする態度をガラッと変えたこと。
「鬼畜米英」から「アメリカ万歳」になったわけです。
ついでに、やるぞ! やるぞ! と叫んでいた本土決戦も、土壇場になって取りやめにした。

つまりゴジラは、「1945年8月15日を境に、反米をいきなり親米に切り替えたことの矛盾」を突く存在だったのですよ。

そんな変節に安住するようなら、戦後の繁栄なんか破壊してやるぞ! というわけ。

ふたたび『震災ゴジラ!』から抜粋します。

「(都市を破壊し、放射能被害までもたらす)ゴジラは、戦後日本に『敗戦の状態を再現する破壊』を引き起こす存在なのだ。またゴジラはたいていの場合、わが国に上陸して暴れ回るため、これを撃退しようとする戦いは、必然的に『本土決戦』とならざるをえない」
(19ページ。読みやすさを考え、表記を一部変更)

日本人にとってゴジラ映画を観ることは、
「やるはずだったのに、やらずにすませた本土決戦を、スクリーンで擬似的に体験する」という、
一種の罪滅ぼしだったと評さねばなりません。

ゴジラ・シリーズが長くつづいたのも、戦後日本の親米的な姿勢の根底にひそむ矛盾が、まったく解決されていないことと無関係ではないでしょう。

この大怪獣が浮き彫りにする戦後日本の真実について、もっとお知りになりたい方はこちらをどうぞ。
http://www.vnc-ebook.com

しかしゴジラも、ハリウッドに行ってしまった。
安倍総理にならって「もはや国境や国籍にこだわる時代は過ぎ去りました」と言えば、なるほど聞こえは良い。

けれども、そう安易に割り切ったからこそ、現政権は「日本を取り戻す」と唱えつつ、日本をますます喪失させるような政策を実行するようになっているのではないでしょうか?

総理とゴジラが同い年(どちらも1954年生まれ)なのにいたっては、もはや出来すぎの感があります。

ゴジラの運命は、その意味で他人事ではない。
ただし厄介なのは、いわゆる「反米保守」の姿勢を取り、ナショナリズムを叫ぶだけでは、じつは解決にならないこと。

なぜか。
ほかならぬアメリカが、イギリスにたいし「反英保守」とも言うべき姿勢を取り、ナショナリズムを叫ぶところから生まれた国だからです!!

『コモン・センス完全版』のプロローグより抜粋しましょう。

「(反米保守の論者は)日本がアメリカに従属・依存していると批判、同国に尻尾を振るのをやめて、その支配を脱しなければダメだと主張する。
アメリカは自国の利益ばかり考えているのだから、いざというときには日本を守ってくれないし、さりとて日本が真に自立した国家になるのは邪魔するに決まっているというわけなのだ。東京大空襲や、広島・長崎への核攻撃など、太平洋戦争における米軍の行動にたいする反感が盛り込まれることも多い」
(48〜49ページ)

ところが、であります。

「(『コモン・センス』の著者)トマス・ペインは、アメリカがイギリスに従属していると批判、同国に尻尾を振るのをやめて、その支配を脱しなければダメだと主張した。
イギリスは自国の利益ばかり考えているのだから、いざというときにはアメリカを守ってくれないし、さりとてアメリカが真に自立した国家になるのは邪魔するに決まっているというわけなのだ。1775年に発生した『レキシントンの戦い』や、続いて起きた『バンカー・ヒルの戦い』など、新大陸におけるイギリス軍の行動にたいする反感も随所に盛り込まれている」
(49ページ)

はて、反米保守は本当に反米的なのでしょうか?

アメリカという国の本質について、さらにお知りになりたい方はこちらをどうぞ。
http://amzn.to/1lXtL07

親米一辺倒では、やがてアメリカに取り込まれる。
かといって反米にのめりこんでも、往々にして裏返しの形でアメリカに取り込まれる。
ここにアメリカという国の手強さというか、一筋縄ではゆかないところがあるのです。

これに関しては、8月10日に発売される雑誌「VOICE」でも、「日米関係のコモン・センス」と題して、中野剛志さんと話し合いました。
あわせてご覧下さい。
8月8日の「表現者塾」(於:日本記者クラブ)でも、同じテーマで講演を行います。

そして私の公式サイト「DANCING WRITER」では、いわゆる保守の方々が陥りがちな固定観念や、パターン化された発想を打開することの必要性を、ユーモアをまじえて日々、語っています。

日本を戦後体制に封じ込めようとする謎の中国系アメリカ人、黎夢諾(れい・むだく)さんも、ときどきゲストで登場しますので、ぜひご覧下さい。

http://kenjisato1966.com_までアクセスのうえ、トップページのカレンダーの日付をクリックすると、当日配信された記事の一覧が出ますので、検索はそこからどうぞ。

ではでは♪(^_^)♪

PS
中国暴発。日本は中国有事にどう備えるべきか?
https://www.youtube.com/watch?v=ns-sXQ-Iey0

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【佐藤健志】ゴジラと安倍総理への10件のコメント

  1. メイ より

     反米にしろ親米にしろ、外(アメリカ)ばかり見て、それとの関係でばかり考えるのではなく、じっくりと自国をみつめる事が必要、という事でしょうか。

  2. 神奈川県skatou より

    >過去から切断され、空疎な未来をまったくです。空疎というか雰囲気というか。映画、自分はほとんど語れないですが、硫黄島からの手紙やヒトラー最期の12日間を観た限りでは、邦画の戦争モノはどうしても悲劇をロマンチックに、ヒロイックに描きがちであり、事実を淡々と汲み上げるようには、なってないように自分も感じています。その理由は、そもそも歴史認識が事実とズレている、あるいは、直視してない故、安易な反戦ファッショに安住してしまうのか、な、と。それを打ち破るのも、芸術であってほしいものですよね。それこそ、初代ゴジラ級の・・・

  3. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    それに、先生のお怒りを買うことを承知で申しあげれば、怪獣映画というものが、一体、広島や福島(やあるいは場合によっては、本土決戦)の問題、を収めるうえでどれほど適切な器たりうるのか、という思いもあります。それを表現するうえではもっと相応しいジャンルというものがありはしないか、と。むしろ、怪獣映画は、怪獣プロレスに徹しておれば、それでよろしい、みたいな。あるいは、人間の狡さ愚かさに対するしっぺ返しとして、一体のモンスターが襲来する、というプロット自体、余りにも手垢がつき過ぎてはいないか、とも。ヴィクター・フランケンシュタインの怪物しかり、ジャミラしかり、ギエロン星獣しかり、サタンビートルしかり、廃棄物13号しかり。そういう陳腐化したフォーマットにのせて何かを世に問うても、人々はそうした範形を実は見飽きているので、よほど斬新な見せ方をしなくては、なまじの事では成功は見込めない。当然のことながら、ゴジラとて何ら特権があるわけではなく、そうした摂理を免れることはない。エメリッヒ版が振るわなかったというのは、「罪業への応報」という紋切り型に「ゴジラらしさ」を求めてしまった事にその敗因があるのではないか、などと思ったりします。そのくせ、デザインだけは、「ゴジラらしさ」を見事にはずしている、という点も含めて。

  4. poti より

    この、アメリカがゴジラを作るようになってしかもその出来がよい、というのはどうも日本は既に自分自身を直視して、それを理解する能力を失ってしまった現れではないか、と思ってしまいます日本が虚妄に深く閉じこもり昏睡状態である一方、アメリカがそんな日本よりも的確に破局を表現するこの事は実はとても興味深い現象ではないでしょうか例えば、硫黄島からの手紙もそうですけれども、我が国は過去を振り返って現在において表現する力を無くしたか、無くしつつあるのではないでしょうか過去から切断され、空疎な未来をひたすら目指す、というのは如何にも危うい状況でございます早晩現実に引き戻され、悲惨な現状と直面する日が来る事を願ってやまないしかもそれは早ければ早いほど傷が浅いのでいいです

  5. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    こう書くと、私がこの作品をくさしているように思われますが、違います。むしろ、逆です。私がSFX、というかアメリカ映画一般をを見なれていないせいかも知れませんが、映像技術の誇示としては大成功だったのではないかと思うのです。あえて駄作扱いされがちな題材を拾いあげて、よくもここまでゴージャスに、と素直に感じいってしまった次第です。皮肉は一切抜きです。本当です。これなら、権利だけは押さえられているという『エヴァンゲリオン』の実写化、本当にやっても案外大丈夫じゃないか、みたいなことも考えてみたりもしました。

  6. プー太郎 より

    見せかけの平和と繁栄にうつつを抜かす現代日本には、ある意味ゴジラに化けた英霊によるお叱りをいただきたい、とも思ってしまいます。そういう意味では、東日本大震災もそういう風に受け取れちゃいます。問題は、それでも日本人が目覚めないことなのかもしれません。

  7. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    >むしろ、『三大怪獣 地球最大の決戦』以降の系譜に属する作品群>の系譜に属するものと見たほうがいい。訂正: むしろ、『三大怪獣 地球最大の決戦』以降の作品群の系譜に属するものと見たほうがいい。

  8. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    >東日本大震災からの復興がなかなか進まず、福島第一原発の事故>処理も続くさなか、「放射能火炎を吐く怪獣が日本に上陸、都市>を破壊する」なんて映画がつくれますか? アメリカ人だって(ある意味)作れてない。ご覧になった方はおわかりと思いますが、今回のコジラは人類に仇なす存在としては描かれてはいない。当然、人間どもの罪業に対する懲罰がどうたらこうたら、みたいなモチーフなど、完全にオミット。 つまり、第一作のリメイクorブラッシュアップとして見ると肩すかしを食う。 むしろ、『三大怪獣 地球最大の決戦』以降の系譜に属する作品群の系譜に属するものと見たほうがいい。 そう、あの「シェー」を決めるゴジラ、ついには、流星人間ゾーンとの共演を果すことになる、あの、お子様向け「甘口ゴジラ」の系統です。 (もっとも、まだ、ハリウッド阪では実際そこまで極端なことにはなってはおらず、「害獣を屠ってくれたから結果的に益獣」という程度の扱いにとどまってはいるのですが、シリーズ化が進むとどう転がるかわかったものではない) だから、「作品の思想性」を追求しようという佐藤先生のお立場からは到底受けいれがたい代物ではないかと拝察します。内容そのものの論評が一切見られないのも、そのためではないのかと。 (もちろん、「無思想も思想のうち」という立場は「なし」という前提です)

  9. ぬこ より

    小生の様に場末のエロい酒場(笑)にたむろしていると、アメの根底にある人種差別感情が見えてくるものなんどす。とは言っても仲良くしている人達もおりマウス。意外に軍人なんかの方が紳士的でまじめな人が多く思いマウス。好きで興味があったからこそ、汚いものが見えてきてしまって、アメが自民党を通して日本を破壊してきた事が見えてきてしまったのでございマウス。よく、アメ留学帰りの日本人が向うの雰囲気にのまれて、途端に反日になって戻ってくる事がありますが(ま、反日と言うより、欧米的価値観で日本人の遅れた所を喜び叩いて悦に到る状態)、それこそ、愛国心の裏返しなのでせうか?向うに行けば日本人とみられ、徹底的にアングロサクソンの洗礼(笑)を受けて苛め抜かれる。歴史的な事や宗教観等で言い返そうにも何も知らない。いざ、日本に帰ってみると、そんな事も考えていないであろう人達が、米国マンセーをしている(特にメディア)。留学して目覚めた日本人としての自覚が、未だ自覚に到って居ないであろう日本人に対しての歪んだ攻撃とでもなるのでせうか?p.s.小生のカラオケの十八番はNightRangerのRock in Americaですのん(笑)。

  10. 神奈川県skatou より

    自分はどこで聞いたか、先生はすでにご存知かもしれませんが、ゴジラや、初期のウルトラマンなどに出てくる怪獣が街を襲うシーン、逃げまどう、避難する住民の姿を演じているエキストラさん達は、みな戦争中の空襲の体験があるからああもリアルに見えるんだ、と、たしか戦中派の方からきいた覚えがあります。先生の御本にありましたでしょうか。また、これも戦中派の母親に聞いた話で、「ゴジラ」というのは、戦後復興で豊かな暮らしが、あまりにも出来すぎて、また戦争(空襲)みたいに恐ろしいものに、大事なものを全部ぶっこわされてしまう、そんな「今のウソっぽさ」を、みんなどこかで感じてたんだ、と言ってました。ゴジラが今アメリカなのは、正当なのかもしれません。ちなみに9.11のその日、「・・・でも、いい気味だね」とも言ってましたが!戦後のウソっぽさといえば、これは一部レフトな方はよくご存知かもしれませんが、詩人谷川俊太郎が作詞した、当時とても有名な超反戦歌のなかに、「輝く今日と また来る明日」という一節があります。彼ら詩人は恐ろしいもので、本人の意識的思想はどうであれ、「われらには過去がない」という真実を当時もちゃんと貫いていた、ということだと、自分は思っています。

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