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2014年2月20日

【柴山桂太】EUの揺り戻し

From 柴山桂太@滋賀大学准教授

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今年は新興国が選挙イヤーだという話を、前回紹介しました。もう一つ、今年は重要な選挙があります。5月の欧州議会選挙です。
http://www.euinjapan.jp/media/news/news2013/20130415/095457/

最近のユーロ圏の経済危機を反映して、反EU政党が票を伸ばすと予測されています。
http://jp.reuters.com/article/topNews/idJPTYE9A101220131102

世論調査では、フランスの右翼政党「国民戦線」が支持率トップとなっており、「台風の目になると見込まれている」とのこと。
http://www.jiji.com/jc/zc?k=201401/2014012600087

ただし、反EUの動きを「移民排斥の極端な右翼が台頭している」というストーリーだけで理解しようとすると、本質を見誤る可能性があります。反EUは、もっと中道寄りの人々にも支持を広げているからです。

例えばドイツでは、財界の元トップ(日本で言うと経団連の元トップ)が反EUを掲げて出馬するとか。
http://www.nikkei.com/article/DGXNASGM15014_V10C14A1EB2000/

もちろん、反EUや反ユーロを掲げる政党の得票率が伸びたからといって、いきなりEUが崩壊したり、ユーロがなくなったりすることはありません。反EU政党の支持者も、突然、そんなことを求めたりはしないでしょう。ただ、欧州の場合には、経済・政治統合が一般市民の声を十分に反映せずに進められているという市民の不満(「民主主義の赤字」と呼ばれます)が以前からあり、その不満の受け皿となっている、というところだと思います。

大きく見れば、これはグローバル化への対抗運動と理解できます。どんなにグローバル化が進んでも、国民意識は簡単には消えません。欧州の場合には、各国の主権を段階的に放棄して、欧州共通市場という経済グローバル化を推進してきました。それが行き詰まったことで、今度は国家主権を取り戻そうという揺り戻しが始まっているのです

これは重要な教訓です。日本でもこの二〇年間、国民国家はもう古いといわんばかりの議論が横行していました。しかし古いも何も、いったん成立した国民国家は、いくら経済がグローバル化しても少しも揺るぐことなく、人々の意識に定着しています。

前に紹介した『グローバリゼーション・パラドクス』には、このことが具体的な統計分析をもとに語られています。

http://amzn.to/1g1m4BL

「世界価値観調査」(五〇カ国以上で定期的に行われている意識調査)を調べてみると、人々の国民意識は、世界中のどの国でも、きわめて強力であることが確認できます。ロドリックの最近の論文にあるデータを、少し紹介しておきましょう。
http://www.sss.ias.edu/files/pdfs/Rodrik/Research/Who-needs-the-nation-state.pdf

地元(ローカル)、国家(ナショナル)、世界(グローバル)というカテゴリーのどこに愛着を感じるかという調査を見ると、どの国でも順番は、国家>地元>世界、の順になります。アメリカ、EU、中国、インドのどこでも同じ結果になります。これは2004年から08年にかけての調査ですが、今やるともっと国民意識の方が強くなっているかもしれない、とロドリックは書いています。

興味深いのは、EUに対する調査です。論文の図1(Figure1)を見ると、自分は欧州市民だと感じる人の割合は、国民や地元民だと答える人に比べて、きわめて低いというデータが示されています。EU市民という意識は、実はあまり定着していないんですね。

では、どういう人が世界市民だと答えるのでしょうか。図2(Figure2)を見ると、「大学卒業者」、そして「専門的職業の従事者」にその傾向が強いことが分かります。比較的高学歴で、専門性の高い、高収入の仕事についている人々の間で、世界市民意識が高い、というわけです。(ただし、これらの階層でも、世界市民意識より国民意識の方が強いことがデータで示されていますので、あくまで相対的に見て、の話です。)

どの国でもグローバリズムは、どちらかと言うと「エリート層の価値観」だということですね。この階層が、学者やマスコミにいて世論形成を担っていますから、世論の表面だけを追うと、グローバリズムが時代の主流に見えます。しかし、意識調査をかけてみると、必ずしもそうではない、という事実をこれらの研究が示しています。

つまり、庶民の意識的・無意識的なナショナリズムは、一般に考えられているよりもはるかに強力で、それを無視して一部のエリートが性急にグローバル化を進めても、後で必ず揺り戻しが起きることになるのです。EUで起きていること(これから起きること)は、その典型だと理解すべきでしょう。

ちなみに、図2によると、世界市民意識は、「65才以上」の層で圧倒的に低いことが分かります。老人のグローバリストは少ないわけです。考えてみれば、当たり前の話です。長くその国や地域に生活していれば、そこに深い愛着を抱くのは自然ですから。

最近のマスコミは、ナショナリズムと聞くとすぐ「世の中に不満を持つ若者ガ〜」と判で押したように言いたがりますが、意識調査によるとまったく逆で、むしろ老人の方がナショナリズム(というか反グローバリズム)が強いのです。

多くの国でこれから高齢化が進みますが、そうなると社会は自然に「反グローバリズム」に推移していくのかもしれません。

さて、ロドリックの論文には日本が出てきません。そこで、元データにあたって見ました。
http://www.worldvaluessurvey.org

すると面白いことが分かりました。日本では、世界市民意識がきわめて高いようなのです。

自分が世界市民だと「思う」人と「強く思う」人を足し合わせた割合は、なんと93.7%。アメリカ(68.6%)、イタリア(61.9%)、ドイツ(53%)などと比べて、ずいぶん多いことが分かります。あれ、日本はナショナリズムが強すぎるんじゃなかったっけ? データによると、むしろ世界市民意識が先進国でも別格に強いようですが。(先進国の平均は7割程度です。)

どうりで、TPPとか「グローバル人材」を懐疑する声が大きくならないわけです。

PS
こちらの無料動画も大好評。再生回数が15万回を超えました。
https://www.youtube.com/watch?v=Wzz3dqOIGrY

<柴山桂太からのお知らせ>
22日に大阪でセミナーをやります。
http://www.asahiculture.com/LES/detail.asp?CNO=229315&userflg=0

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【柴山桂太】EUの揺り戻しへの4件のコメント

  1. nanashi より

    茂木健一郎がグローバリズム、ナショナリズム、英語(リンガフランカ)、日本人の知性、日本の国際競争力などについておもしろいことを言っています。http://www.youtube.com/watch?v=Hw-15G3CNqE5:30あたりから。茂木はジョッブ気取りで嫌みだけど、彼の英語観には傾聴すべきものがあります。彼の英語は日本語訛が強いけど、IQが高いだけあって文法的にかなりしっかりしています。ただし、あまり英語的ではないようです。彼自身も言うバイリンガルの重要性が思われます。苫米地英人の英語は聴いたことがないけど、おそらくバイリンガルに近いでしょう。

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  2. mass より

    統計で見たわけでもないのですが、日本人て全然英語しゃべれませんよね。でも、だからこそ英語とかにあこがれちゃってますよね。これって、英語で会話することに現実味がないからじゃないかなと思います。想像だけではどうしても良い理想だけを思い描いてて、英語が広まることの弊害とか、日本語のいいところとか、実際肌で感じないと理解できないんじゃないでしょうか。それと同じで、日本て(おそらく)まだ、それほどグローバル化してないですよね。島国のせいか、世界とつながってるという意識がどうも希薄な気がします。でも、だからこそ「地球市民」とかいうフレーズになんとなく良いイメージを抱いてしまうのかなぁって気がします。まぁよくよく考えてみれば、必死にグローバル化をうたってるのも、裏を返せば全然グローバル化してないって自覚があるからで・・・。国家以外についても観念だけではなく、もう少し肌で感じられる常識に基づいて考えたいですね。

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  3. poti より

    そも、日本の保守で、本物と呼べる人が殆どいない気がするのは気のせいでしょうか貴方方は一体全体何を保守していらっしゃるんですか、と是非聞いてみたいような論調の方が特に新自由主義と結びついた方々には多いような結局、左右共に自ら考えている幻想、フィクションに取りつかれている疑いがあるという点では正にコップの中の争いをしてるように思います

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  4. ヌコ より

    エリート層と言うのは、例のあの偽改宗教徒の事なのでせうか?白い家とウォールと塩ニストってみんな彼らグループじゃないですか(笑)(表面上、塩ニズムを批判するグローバリストも居るみたいですが、ポーズなんじゃないでせうか?)郵政シチイバンク化の時の、某ルービン、某さまーず(三村じゃないよ)、某グリーンピース(すぱーんか?)みんなあの人脈(裏に石油皇帝の岩尺八)ではないでせうか?日本の保守って、驚くほど彼らの事を話題にしませんよね。むしろ、You-tube等を閲覧していると、欧米人の方が彼らを痛烈に批判してますよ。彼らの批判する大銀行と政府の癒着ぶりの中心に居るのが、かの改宗教徒なのではないでせうか?彼らの異常ぶりを勇気以て批判できる識者が保守側には居ないのでせうか?(左翼側は結構、精密に分析している人達が居ますよね)自民がイラク戦争に反対しなかったのも怪しき理由があるのでせうか?保守さまはシナ共産党を批判するのが大好きですが、シナ共産党と繋がりがあるのが彼らじゃないんでせうか?(そもそもロシア革命だって彼ら金融資本の雄の英某チャイルド閥の資金では?)

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