From 藤井聡@京都大学大学院教授
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今、世間では、「外国人労働者問題」あるいはより広く言うと、広義の「移民問題」が大きく取り沙汰されています。
当方も、その関連で、公開での討論に参加する機会への依頼がしばしば参ります。
この問題に対して、当方は次の様に考えています。
(A)日本国民が必要とするもの(内需)は、日本国民で賄う(供給する)のが基本。
(B)それが「どうしても無理」ならば、外国の力(供給力)を「お借り」する。
おそらく、この基本前提は、(形式的、表面的な次元も含めれば)外国人労働者問題を語る方々の大半が共有しているものと思います。
例えば、政府は、「建設業」についての外国人の技能研修員制度の期間を拡大することを決定していますが、その基本的なロジックは、上記の(A)(B)を踏襲しています。
つまり、「必要な建設需要」を事前想定し、それを日本人の労働者だけで賄うことは「どうしても無理」だから、外国人の研修員を増やそう、というロジックで決定した事であると説明しています。
本稿では、この政府のロジックの正当性を吟味することは、回避いたしますが、例えば以下の記事でも、このロジックは共有されています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20140615-00000036-asahi-pol
橋下氏によれば、外国人を受け入れなければ、「大阪はもたない」そうです。
一方、経団連の提言では、「2006年から総人口が減少に転じる見込みになっているが、私たちは、その“埋め合わせ”のために、外国人の受け入れを進めていこうとは考えていない。」と明言しています。
http://www.keidanren.or.jp/japanese/policy/2004/029/honbun.html#s1
経団連は、橋下氏の主張とは全く違うのでは!? ….とも思える記述ですが、よく読んでみますと、提言書のその数行後には、次の様な記述が掲載されています。
「女性や高齢者の力を最大限に活用したとしても、日本人では供給が不足する分野は、今後さらに増えていくことが予想される。その対策としては、まずは労働生産性の向上や就労環境・労働条件の改善を図ることが求められる。しかし、..(中略)...第一次産業分野などにおいては、日本人だけでは労働力不足が深刻化するであろうという見方もある。現場で働く外国人の受け入れを巡る問題をいつまでも先送りにすることはできない。」
少々もってまわった言い方となっていますが、結局、橋下氏と同様、このままでは日本は
「もたない」
可能性がある、と主張しておられるわけです。そして、最終的に、だからこれからは外国人労働者で「埋め合わせる」議論をすべきだ!と主張しておられるわけですね(笑)。
いずれにしても、彼等の意見がホンネなのか、ウソをタップリと含んだ単なるタテマエなのかは別として、その公的言説は、(A)(B)の考え方、つまり「まずは日本人の労働者を考える、それで『どうしても無理』なら外国人労働者を考える」というロジックを共有している、と言う点はご理解いただけたのではないかと思います。
ということですと、ここまで話が及べば、真っ当な人間なら、
「ロジックは分かったから、
ホントに『どうしても無理』なのかどうか、
つまり外国人の力を借りなければ、日本はもう『持たない』のかどうかを、
じっくりと、『真剣』に吟味しようではないか!」
となるはずです。
では、橋下氏や経団連の報告書に、そうした『真剣さ』は見られるのでしょうか?
この点についてもまた、筆者は言明することを避けますが(笑)、『真剣』に吟味するならば、必ず考慮するであろう諸点を指摘しておきたいと思います。
(1)失業率はかつてよりは下がったとは言え、デフレ以前の状況よりは1%前後も高い水準にある。ここに、国産の労働力が潜在している。
(2)非正規雇用が今や、雇用の三分の一を占めている。彼等を「正規化」していけば、自ずと、国産労働力が増強される。この非正規雇用者の中に、国産の労働力が潜在している。
(3)出生率の低下には様々な要因があるが、景気もまた、重大な要因である。したがって、デフレ(不況)脱却が本当に叶えば、出生率は一定程度回復する。ここにもまた、(長期的な)国産の労働力が潜在している。
(4)国産の需要と、労働供給力との間にミスマッチが存在する。つまり、人手不足が深刻な分野とそうでない分野がある。このミスマッチを解消するためには、労働力不足の分野の賃金や労働環境を相対的に改善していく事が必要である。
(5)労働の需給バランスが不調で、労働力不足が生じている分野の「内需」が、本当に、欠くべからざるものであるかどうかを吟味する余地は、それぞれの分野に潜在している可能性がある。つまり、「縮減」する余地があるか否かを、真剣に考えるべき。
ちょっとややこしくなりましたが、要するに、
「今景気が悪いから、働きたくても、正社員でバリバリ働けない日本人も多い。だから、景気がよくして、正規雇用を増やしていけば、問題は『改善』するだろう(1&2)
しかも、景気がよくなれば、出生率も上がって、長期的な人手不足が『緩和』されることにもなろう(3)。
さらには、人手不足の分野があり、その不足がホントに問題なら、そこの労働環境を改善して、日本人を集めるように『工夫』すればいい。そうすれば、さらに問題は『改善』するだろう(4)。
そこまでやってもどうしても、人手不足問題が解消しないなら、後は、ホントにその需要が必要なものかどうか、見直したらどうだろう?(5)』
以上、いかがでしょうか?
外国人労働者の受け入れを主張している方々は、この(1)から(5)の「改善策」「緩和策」を真剣、かつ総合的に吟味し、その上で、断腸の思いで、万やむを得ないという趣旨で、その言説を吐いておられるのでしょうか?
もし「そうでない」、とするなら、彼等は、ホントは国内で労働力が調達できるかどうかなんてマトモに考えちゃいないのに、口先だけで考えたフリをしている、という事になりますから、結局これは、
「公衆の面前でウソをついている」
ということになりますよね。
もちろん、その判断は読者に委ねたいと思いますが、参考までに、ある発言をご紹介したいと思います。
この発言は、外国人労働者の受け入れを推進している方が、当方との非公開の議論の中で吐いたものです(筆者にとっては大変強烈な発言でしたので、ほぼ字義通り、その発言を記憶しています)。
「要するに僕たちがオムツつけなきゃならなくなった時に、誰に代えてもらうかってことですよ!代えてもらわなくたって良いって言うんだったら、外国人は要らないですよ。でも代えて欲しいんだったら、要るんですよ!!」
この方の、(多くの受け入れ推進論者のホンネを赤裸々に表現したものだとも受け取れる)このプライベートな発言に、外国の方のお力を借りる際に求められるべき「礼儀」や「慎み」や「真剣さ」は宿っているのでしょうか?
そして、筆者が指摘した(1)〜(5)の論点を十二分以上に吟味された上でなされた発言なのでしょうか?
いずれにしてももちろん、世間には色んな意見があるのは承知しておりますが、ウソはいけませんよね、ウソは。しかも公衆の面前で。
さて、皆様は、どうお感じになるでしょうか?
なかなか世知辛い世の中ですが、取り急ぎ、今週はここまで。
ではまた、来週!
PS
もういい加減、公衆にウソをつく様なことはやめてほしい、とお感じの方。そんなウソや詭弁と戦う方法は、是非、下記をご参照ください。
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【藤井聡】ウソはいけませんよねへの13件のコメント
2014年6月17日 12:52 PM
なかなか、本音が申し上げられない立場でおられながら、タイトルで、よーくわかりましたです。
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2014年6月19日 9:27 AM
「民業圧迫だw」ー「民需圧迫だw」
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2014年6月19日 11:42 AM
>(3)出生率の低下には様々な要因があるが、景気もまた、重大な要因であ何よりも、教育投資費用が高すぎ。高等教育無償化を議論の俎上に載せないうちから「産めよ増やせよ」だなんて、余りにもムシのよい話。(本当は、受験準備の費用こそが大問題、格差固定化のガンとさえ言い得る、なのですが、政策的な対処は難しかろうから、黙っておく)もっとも、学歴社会なるものが完全崩壊してくれれば、何も言うことはありませんが。
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2014年6月19日 5:26 PM
今いる国民だけで回そうと、外国人を導入しようと、従事者にカネを払うというスキーム自体にはかわりはない。「介護の商品化」、それが「介護の社会化」というものの一側面です。それよりも、親密圏のもとにありさえすれば、無償の献身を無制限に要求して差し支えない、という発想で事に臨まれるのだとしたら、そちらの方が、なんというか、非倫理的な気がします。(ついでに言うと、「家族のような国家」の語りに耳を傾けるにあたっても、その点に留意しながら、眉に唾をつけておいたほうがよいでしょう)
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2014年6月20日 3:42 AM
>「要するに僕たちがオムツつけなきゃならなくなった時に、誰に代えてもらうかってことですよ!代えてもらわなくたって良いって言うんだったら、外国人は要らないですよ。でも代えて欲しいんだったら、要るんですよ!!」政治・経済にかかわる人が老後のオムツの心配をしだしたらおしまいですね。そもそも、地位も金もある人が国民のそれも国の将来を担うべき若年層の心配をせずにオムツの心配をしているとか・・・人が足りないなら機械化を推進するなり、単価を上げて人を募集するべきところをよりによって移民で解決しようとか下策。経済界、議員、民間議員含めて老害ばかりになってきましたね。
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2014年6月21日 4:01 PM
功利主義者が発生し闊歩する事を危惧されていた、戦前のリーダー達の予想通りに日本が進んで行く様で心配。藤井参与が少しでも抵抗される姿勢が微な希望なのが輪を掛けて心配。人の価値は持ち場持ち場での評価であって、金儲けの上手な人間は金儲けだけの世界の価値であって、人格や徳や社会や国の構造を変える力や価値を兼ね具えて要るわけでは無い。評価する者が見識不足で分かり易いモノサシで学歴、資産、地位等で専門以外まで能力が有るかの様に簡単に測ろうとするから、意見を述べる程の哲学も社会的任務の自覚も責任も無い、まして優先順位の第一が功利の哲学の者を重用してしまう。大事な事は無欲で国を憂い意見を述べる識者を重用する事。少なくとも利害関係者は関与させてはなら無いし、自らも辞退するべきで有る。何をヌ__スか商売人と言わざるをえない。参与の力と哲学が発揮され反映される事を、只々願うだけです。
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2014年6月22日 3:15 PM
ツイッターと動画でネット中に嘘と誹謗を振りまいてる詭弁使い集団があるそうです。○山塾とかいうリフレ=極左集団だそうです。藤井先生が言っていないことを言ったなどとを捏造して大騒ぎしているそうです。お気を付けください。
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2014年6月22日 7:03 PM
藤井先生のファンです!もちろん「政の哲学」は読ませて頂きました!先生がおっしゃる通り、イデオロギーもしくは欲に支配されたニヒリストの詭弁にはほとほと呆れかえります。。。もうね、狙いがハッキリしてること、それを言わずに口当たりの良い違う表現をして思考停止してる人にふわ〜っと納得させる手法、そしてそれが実はバレちゃってることに気がついてないあたり、DQN としか言いようが無いわけで、真剣に言ってるのか?って心底疑問に思います。僕は20年以上、20代の若者とふれあう仕事に携わってきておりますが、ここ10年くらいは特に思考停止してる若者が多いです。仮に元気が良い外国人が大量に入って来たら、シューッとスムーズに乗っ取られますよ、日本は。危ないです。応援してます!頑張って下さい!
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2014年6月24日 8:03 AM
悪い奴はおむつかえてもらわなければいけなくなるまで生きる必要はないのですが、まっとうな人間を結果がわからないからと言って毎日2億4千万ベクレル飛んでいる放射性物質で傷つけ、人口の心配をしている国の神経構造がわかりません。大阪の橋下だって地方債を発行しすぎて借金が膨らんでるので「やっていけない」といってる。うそもそうだけど税金をいい加減に使って、困ったからって国民にツケを回すやり方はどうかと思います。三橋さんにはSPを付けてあげてください。何かを守ろうとすれば命がけです。みんな同じです。
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2014年6月25日 5:42 AM
外国人労働規制緩和派は安い労働力を使いとの思いがファーストプライオリティーと思います。それを国の為とは・・・大ウソつきです。
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2014年6月27日 3:48 AM
日本は、昨日今日、デフレになった国ではなく、十数年の筋金入りデフレ国や。その間、円高、不況、低賃金で利益を上げて来た企業「デフレ企業」が、沢山出来、一つのデフレ社会が存在しとる。つまり、この十数年の間で、デフレに耐えて来た企業とデフレで儲けた企業、二つの社会が存在してるわけや。本気で、デフレ脱却するのであれば、デフレ企業は淘汰され、倒産、失業数は増えるやろ。即ち、雇用不足は解消される。また、今のように両方、生き残らす考えであれば、人手不足、低賃金は解消されへんやろ。そこで出て来たんが、法人税減税、移民政策、扶養控除廃止、こんなもん、ワシから言わせたら、優柔不断の決断力の無い八方美人の政策や。この筋金入りデフレ国、日本を本気で変えるには、そう簡単なことでは無いやろ。この先、もし第2の矢が本格的に実行され、民間の企業の倒産が増えたとしても、「民業圧迫だw」は無視し、事業内容、業種、倒産に至っての理由、一つ一つ重視して見て行く必要があるんとちゃうかな。
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2014年6月28日 4:10 AM
まったくもってご趣旨のとおりです。人間性の問題、品格の問題です。しかし人間性ということばもあやしいもんで、人間にもいろんなレベルや種類があるわけで、・・・・日本人の気質もいろいろだということです。思うに、本来のお釈迦さんの教えに沿った世俗の在り方こそ本質のはずです。日本らしさって中世の頃に浸透したであろう禅宗の影響が強いのであって、神道は儀礼的なもんだと思います。
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2014年6月29日 2:39 PM
ああ、成程本音の所は、自分の尻も拭けない情けないボクチンを助けて、ってのが移民推進論者の本音ですか。人間として欠陥品というか……第一、外国人は道具でないんですから、年老いて弱った個人はそれこそいいカモにされるのがオチでせう金でやとわれた人間は金で裏切るというのが君主論にありますが、そんな程度の古典も知らないで政策を決めてほしくないですね、うん外人を雇おうと媚を売るぐらいなら、身近なはらからに頭を下げて助けて貰えばいいものを、結局、自国民に対して同じ国民であるという意識がゼロなのでしょうねこれでは外国に食い物にされない訳がないでせう。しかも、一国の長がそれを望んでいるのだから、この国は救いようがない
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