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2013年11月5日

【藤井聡】雇用に関する興味深い記事

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授

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国会では今,様々な論点が議論されています.

そんな中で,今国会で注目されているのが,「特区」の構想です.

この特区構想はアベノミクス第三の矢の一つの具体的な取り組みとして構想されているものです.

アベノミクスの目的はもちろん,デフレ脱却.

今回の議論は,そのデフレ脱却を図るにあたっては内需の拡大が必要で有り,
そのためには,様々な「投資」が誘発されることが必要で有り,
そして,そんな「投資」を呼び込むための起爆剤として,
この特区が構想されている訳です.

言うまでもありませんが,国会という場所は,様々な意見がぶつかり合い,様々に議論していく場所です.

したがって,この特区構想についても,賛否両論含めた,様々な議論がなされています.

そんな中,この議論について,次の様な大変興味深い記事がありました.
http://business.nikkeibp.co.jp/article/manage/20131020/254790/?P=1

この記事では,アメリカのSASという統計ソフトの会社が紹介されています.
#ちなみに,このソフトウェア,筆者は若い頃,使い倒したソフトです.今はSPSSに寝返ってしまいましたが(笑).

SASは,あの自由の国,アメリカ,今回の特区構想においても大いに(少なくとも間接的には)参照されたであろう,あのアメリカの企業です.

が!

このSASという企業,何と「終身雇用」に近い雇用システムを掲げているようです.

で,「それによって」過酷な自由市場でのマーケット競争に打ち克つ競争力を獲得している,とのこと.

こういうことは,「企業の活力が奪われているのは,終身雇用的な日本型経営が,なぁなぁの怠惰な雰囲気を会社にもたらされてしまうからだ.雇用を流動化させることこそが,企業活力を増進し,市場を活性化するために必要なのだ!」的な意見を,反証する事例となっています.

が!

実を言いますと,このSASの事例の様な事が起こるのは,実証的にも,理論的にも当然のこととして,過去の研究の中で明らかにされている事なのです.

もう絶版になってしまいましたが,例えば下記書籍などに,そのあたりのことは詳しく書かれています.

http://amzn.to/171P7Es

ちなみに,この書籍の著者とは,当時よく一緒に議論したり共同研究したりしており,例えば,次の様な研究をやっていたりしました.

Forced commitment promotes attitudinal commitment and trust in an organization
http://www.union-services.com/shes/jhes-3.htm をご参照下さい)

この研究では,このタイトルの通り,

1)組織を重視して,少々強制的に組織運営をする組織(Forced Commitment)ほど,

2)メンバーはその組織に対する愛着(attitudinal commitment)を深めると共に,

3)そのリーダーは高い信頼(Trust)を得る事ができる,

ということをパネルデータで明らかにした研究です.

こういった研究は,一般に「組織心理学」と言われますが,何にしても,組織のパフォーマンスというのはそのメンバーの様々な愛着やコミットメントに大きく依存するものであって,そういった心的要因は,様々な要因に大きな影響を受けるものである....ということです.

ですから,SASを論じた上記記事での,筆者の主張というのは,至極真っ当な者である可能性が十分考えられる...と言う次第です.

で,こういった研究の全てが含意(imply)しているのは,

「企業組織は生き物であって,
そのパフォーマンス(あるいは,『競争力』)は,
その組織の『活力』に依存している」

ということです.

ここに,その(集団的なレベルで想定される)組織的活力というものは,心理学的な個人レベルで想定される「愛着」「リーダーへの信頼」等と関連するもので,組織というものを一個の有機体と見なした際に感得されるものです

もちろん,こういう心理学的,あるいは,社会学的な議論は,マクロ経済の視点に立てば,極めてミクロなもので,全体の無数にある企業の一部が活性化したところで,また,労働者の一部のやりがいなどが活性化しあっところで,マクロ経済全体に及ぼす影響は小さい,ということは避けられません.

しかし!

「雇用政策」というマクロな視点での政府の取り組みは,日本国内の全ての企業のあり方に,抜本的な影響を,長期にわたって及ぼすものです.

で,そういう「企業のあり方」は,それぞれの企業の「活力」に極めて大きな影響を与えることになるのです.

したがって,今回,国会で検討されている「雇用政策」,すなわち,「流動性を高める」,さらに言うなら,「Forced Commitmentを低下させる自由化の方針」が,組織愛着や組織への信頼,さらにはそれらを構成要素とする「組織の活力」にどの様な影響を与えているか,ということを考えることは,重要な論点の一つではないかと...思います.

是非とも,こうした指摘が存在することも含めた多様な論点を踏まえつつ,適正なご議論を国会の先生方にして頂くことを,心から祈念申し上げたいと思います.

PS
こんな議論を含めて,グローバル資本主義,について徹底討論いたします!
http://trans.kuciv.kyoto-u.ac.jp/tba/bgc/

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【藤井聡】雇用に関する興味深い記事への8件のコメント

  1. 港のごろつき より

    新自由主義払拭の戦士として、歩んで行きたいと、常々想いを馳せております。 (^_^)v

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  4. 日本財布論、改め、日本連帯保証人論 より

    >したがって,今回,国会で検討されている「雇用政策」,すなわち,「流動性>を高める」,さらに言うなら,「Forced Commitmentを低下させる自由化の>方針」が,組織愛着や組織への信頼,さらにはそれらを構成要素とする「組織」>の活力」にどの様な影響を与えているか,ということを考えることは,重要>な論点の一つではないかと...思います. 「凝集力の高い組織は経済的パフォーマンスが高い」ということが真だと仮にする。 仮にそうだとして、それが、「凝集力の高い組織」の創出・保持を政治の責務にすべきだとする理由になるのか、という反論があり得る。 本当に「凝集力の高い組織は経済的パフォーマンスが高い」のならば、「経済的パフォーマンスを求めて組織の凝集力を高める」のは、むしろ、経営者の選択と裁量に帰して差し支えないのではなかろうか、と。

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  5. ろんどなー より

    >デフレ脱却を図るにあたっては内需の拡大が必要で有り,そのためには,様々な「投資」が誘発されることが必要で有り,そして,そんな「投資」を呼び込むための起爆剤として,この特区が構想されている訳です.竹中氏などが主張するこの論拠を聞くたびに、いつもいつも不思議に思うことがあります。それは、1)日本には企業と個人の貯蓄など既に十分な自己資金があるにもかかわらず、それを海外の投資に向かわせ、国内経済の活性化には外資の資金と投資を当てにする。2)財務省は小さな政府を目指して「増税」、「国土強靭化」を妨げるような緊縮予算編成を「財政健全化」を掲げて進める一方で、「必要のない外為資金」「政府の特殊法人資産」など隠し持っている膨大な国家資金・資産などについては議論のテーブルにすら乗せずに温存する。それでも、特区制度の「明らかな成功例」があれば問題はないのですが、「成功」とはあくまで、「短期的な経済成長」のことではなく、社会・経済両面での「長期に渡る好影響」とすると、こういう先例が無い。にもかかわらず、かなり「実験的」な特区を急いで導入するとなると、国内での影響以上に「今後10年以内に世界で何が起きるのか」の予想に基づいて考えるべきではないのか。このところ目立つのは、あと数年で中・韓が経済破綻するという数々の予想です。中国からは既に外資が逃げ出し、政府幹部の家族とその膨大な資金も海外に逃げていることを考慮すると、この予想は現実化すると思ってほぼ間違いない。そうなった時、隣国である日本に海外から人と資金が自由に入れる「特区」があればどうなるのか。本当に熟慮・警戒すべきは、こちらの問題ではないか、と思うのですが。今の日本には内外から「複合的な脅威が同時に迫っている」気がします。「国土強靭化」と共に「国民強靭化」も同時に進めなければ。

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  6. karion より

    「雇用の流動化」と聞くと「人様をなんだとおもっているんだあ〜!!!」と怒ってしまいましたが、やはり利益追求型であるとおもっていた米国人さんたちも少々収入が減ろうとも、やりがいとか、人と人とのつながりとか、尊厳とか重要視する人もたくさんいらっしゃるんだなあと。。言われてみれば何人であろうが人は人ですもんね。人間にとって(もしかしたら生物全てかもしれませんが)「安定」「安心」「平穏」が最重要視されるもの。それは金だけでは買えず、それだけの金を得る為には争いがあり競争があり。。。運よく手に入れても奪われる可能性多々。あ〜やだやだ新自由主義なんて。

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  7. 戸澤孝幸 より

    私、30代の頃に南米に駐在しておりました(15年前。)経済危機の業績不振で帰任したのですが、直前に上司(拠点長)が交代し、その時の最後の仕事が”解雇”でした。候補者リストを作れといわれたものの結局は上から指示された人員を解雇することになりました。創業当時の苦楽を共にした仲間や父親ほどの年配者を、ペーペーの私が面接し解雇しました。その時、「経営は人と繋がる事!」「人をリスペクトする事!」を強く学びました。帰国して驚いたのは、リストラを臆面なく実行できる経営者が賞賛され、そこを歯を食いしばって耐えている経営者を蔑視する日本の雰囲気です。今もその雰囲気にあふれています。終身雇用だとか能力評価とか、なにかと制度的な話ばかりで(特区にしても・・・)本質的な事(私は”人の繋がり方”と思っています。)が余り語られていないように思っています。皆さんのようなオーソリティーの方々には、これからも”当たり前の事”を大きな声で発信していただきたいと思います。

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  8. Tansar より

    雇用の流動化は下駄屋之平蔵(gETAya NO HEIZOU)クン(竹中)が執拗に主張し続けていることです。彼が会長を務める口入れ屋のパソナの利益の為に動いているなどと考える人々もいるが、それだけではなくて、個人と家業と切り離すことです。これは維新会が政策に挙げた遺産全額徴収ともからんでいる。要するに平蔵クンの所行は全てをリセットした上での部落解放です。彼が企んでいることが人間の実状に合わないのではなくて、壊すことが最初からの目的だからそれでもいいんです。彼は机上の議論を重ねる学者ではなくして被差別階級出身な革命家です。そして産業競争力会議に集う馬鹿な鼠たちが一緒になって騒いでいるという構図です。平蔵クンも勿論、人間の中の鼠です。

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