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2013年7月22日

【三橋貴明】バカげた「信仰」

FROM 三橋貴明

【今週のNewsピックアップ】

●需給ギャップとデフレ(前編)
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11573899021.html

●需給ギャップとデフレ(後編)
http://ameblo.jp/takaakimitsuhashi/entry-11574737997.html

青木先生も書かれていますが、新古典派経済学とケインズ経済学の決定的な違いは、「非自発的」失業を認めるか否かです。新古典派は「非自発的失業」を決して認めようとせず、いかなる失業率であっても「自然失業率」であるとみなします。現在のスペインやギリシャのように、失業率が25%を上回っていても、新古典派にとっては、やはり「非自発的失業」は存在せず、失業率27%であっても自然失業率という話なのです。

「そんなわけないだろがっ!」

と、世界中の人々が突っ込むでしょうから、新古典派の経済学者たちは、

「非自発的失業は存在しない。現在、失業率が高いのは、職種のミスマッチがあるためだ。成長産業において、企業側に労働者を雇用する需要があるにも関わらず、失業者が能力不足であるため、就職できないのだ。というわけで、失業者を成長産業向けにトレーニング、再教育することが解決策になる」

と屁理屈を述べます。とはいえ、本当に「職種のミスマッチ」があるならば、労働者を雇用したい産業(成長産業)の人件費の水準が上がっていくはずです。それこそ、市場原理が働き、失業者の方が「高い賃金の成長産業」に就職するため、自らに再教育を施すでしょう。本当に「成長産業」とやらが存在するならば。

現実には、スペインやギリシャに「労働者を雇用したがっている」成長産業などありません。職種のミスマッチもありません。

そもそも、「職種のミスマッチがあるから、失業者を再教育」とか言っている人たちは、失業者に「どの分野」のトレーニングを実施するというのでしょうか。その分野が「成長産業」であると、なぜ分かるのでしょうか。と言いますか、どの分野のトレーニングを実施するか、誰が決めるのでしょうか。官僚ですか? 政治家ですか? 経済学者ですか? 誰が決めたところで、間違えます。事前に「この分野が成長産業」などということは、誰にも分かりません。

結局、「職種のミスマッチ論」とは、少なくともバブル崩壊後の国においては、机上の空論に過ぎないのです。職種のミスマッチがあるから雇用環境が悪化しているのではなく、単に「仕事がない」ために失業率が高いのです。

などと突っ込まれると、新古典派の学者は、

確かに一時的に自然失業率を上回るほどに失業率が高まっているが、長期的には自然失業率を回復する」

と、言ってのけます。そりゃまあ、百年くらい経てば自然失業率とやらを回復するかも知れませんが、

「長期的などと言っていたら、我々はみんな死んでしまう(ジョン・メイナード・ケインズ)」

という話でございます。現在の「失業」を巡る新古典派との議論は、戦前にケインズが「古典派経済学者」たちと繰り広げていたものと「全く同じ」なのです。

結局のところ、ポイントは、

「バブル崩壊後には、セイの法則が成立しない」

を認めるか否かになります。古典派も新古典派も、バブルが崩壊し、国民が貯蓄(預金、借金返済)を増やし、消費や投資を減らし、誰かの所得が縮小している事態に至っても、

「いや、それでも需要を決めるのは供給だ。供給能力を引き上げれば、必ずモノやサービスは買われる」

と信じているわけです。まさに「信仰」という感じですが、こんなバカげた経済学に世界中が振り回されているのが現実で、しかも、この状況は「人類史上二回目(一回目はケインズの時代)」なのでございます。何というか、人類というのはつくづく進歩しない生き物だと、嘆息してしまうわけでございます。

PS
なぜ、日本企業は中国に見切りをつけはじめたのか?
http://www.keieikagakupub.com/sp/38NEWS_SAMPLE/index_china_mag.php

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【三橋貴明】バカげた「信仰」への3件のコメント

  1. arakawa より

    >人間という生き物は、何らかの信仰に帰依しない限り生きてはいけないのでしょうこれは違うと思います。人間は思想があり、観念があるということです。それが全くないという人はいません。おのおの異なる部分があるということに過ぎません。、無神論、無宗教、唯物論、科学信仰などもあることをお忘れなく。

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  2. 山本太郎 より

    信仰というよりある特定の人の利益の為に必死に言い訳してるように感じます。

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  3. 航海長 より

     人間という生き物は、何らかの信仰に帰依しない限り生きてはいけないのでしょう。神道、キリスト教、キリステ教(笑)、新自由主義教、共産主義教、拝金教・・・・。 その宗教を信じている人は、その教義に反することを信じはしません。それこそ、新古典派の方々の「セイの法則」妄信に繋がるのです。ケインズが既に否定したのに。 なので、そのような宗教(リカード以来、200年の伝統)に感染している方々は放っておいて、まともな考えをもった人々にまともな理論を教えていく必要があるのです。 今こそ、ケインズの復活を!

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