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2013年5月7日

【藤井聡】忘れられた日本人

From 藤井聡

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このGW中,久々にまとまった時間がとれましたので,
かねてから書こう書こうと思っていた教科書(大衆社会の処方箋)を,
久々にあれこれ考えつつ,あちこち回りながら,書き進めておりました.
#ホントは,今日中に書き上げる事を目標にしておりましたが,ちょっと厳しそうですね(苦笑).

....で,このテキストでは,過去の哲学者達が繰り返し繰り返し,「こりゃもう,どーしよーもねぇや...」と論じ続けてきた「大衆社会」なるものに対して,何をどうすりゃ,このどーしよーもない状況をちょっとでもマシにできるのか....の実践的な社会科学を,(非哲学系の学生さんでも理解できるレベルで)論ずる....という,企画なのですが(笑),

とにかく,そんな「大衆社会」との戦いに挑み続けてきた,ニーチェ,ハイデガー,オルテガ,キルケゴール....といった哲学者達を,「大衆社会に対する処方箋」という一つの視点でもって解説してみよう...というものでした.

....で,そんなのを書いていたら,
「そんなの日本人にやぁ,カンケ−ねーじゃん」
な突っ込みもあろうかと思いますので,そのあたりもあれこれと思いを巡らしていたところ,
ナント(!),上述の様な哲学者達が理想として論じた

超人(ニーチェ)
精神の貴族(オルテガ)

といった,ちょーややこしそうな,コムツカしそうな,また,凡人にゃぁちょっとなるのは無理じゃねーか..?なスゴーイ理想の精神性を宿した人物ってば,実は,メチャクチャ,「オーソドックスな日本人の姿」なんじゃねーか...とおぼしき記述がございましたので,ご紹介であります.

宮本常一という有名な民俗学者がおられますが,
彼が,「忘れられた日本人」という書籍の中で,
彼のおじぃちゃんの「市五郎」という人物がどんな人だったのかを述べている下りがあります.
少々長いですが,ものすごく感慨深い記述でありましたので,引用さしあげます.

「市五郎はいつも朝四時にはおきた。それから山へ行って一仕事してかえって来て朝飯をたべる。朝飯といってもお粥である。それから田畑の仕事にでかける。昼まではみっちり働いて、昼食がすむと、夏ならば三時まで昼寝をし、コビルマをたべてまた田畑に出かける。そしてくらくなるまで働く。雨の日は藁仕事をし、夜もまたしばらくは夜なべをした。仕事をおえると神様、仏様を拝んでねた。とにかくよくつづくものだと思われるほど働いたのである。しかしそういう生活に不平も持たず疑問も持たず、一日一日を無事にすごされることを感謝していた。

市五郎のたのしみは仕事をしているときに歌をうたうことであった歌はその祖父にあたる人から幼少の折おしえこまれたのがもとになっているらしい。(中略)田植時期になると太鼓一つをもって方々の田へ田植歌をうたいにいった。盆になれば踊場へ音頭をとりにいった。旅人はまた誰でもとめた。

(中略)どんなものにも魂はあるのだから大事にしなければならぬというのが市五郎の信条であった。(中略)動物にも人間とおなじような気持ちでむかいあっており、その気持ちがまたわれわれにも伝えられて来たのである。八、九歳になるまで、私はこの祖父に抱かれてねた。そして多くの昔話をきいたのである。

(中略)春から夏へかけてのころ、溝の穴からカニがよく出て来た。
ヨモギの葉をもんで、それを糸でくくって、穴の口へつりさげて動かすとカニが出て来てはさみではさむ。それをうまく吊りあげる。子供にとってはたのしいあそびの一つであった。
つることには賛成だが『カニをいじめるなよ。夜耳をはさみに来るぞ』とよくいった。そのカニのはさみをもぎとると『ハサミはカニの手じゃけえ、手がないと物がくえん、ハサミはもぐなよ』といましめたものである。
『カニとあそんだら、またもとへもどしてやれよ、あそんでくれんようになるけえのう』ともいってくれた。そうしてカニを私たちの友だちとしてあつかうようにしつけた。」

・・・ニーチェは,「ツェラトストラはかく語りき」の中で,超人であるツェラトストラの言葉として,次のような言葉をのこしています.

「超人は大地の意味である。君たちの意志は言うべきだ、超人を大地の意味たらしめよう! と。 私は君たちに懇願する、私の兄弟たちよ、あくまでも大地に忠実であれ!」

この言葉には様々な解釈は可能であろうかと思いますが,
とにかく,
「大地=大自然に忠実にいきなきゃいかん!!」
と言っている言葉と解釈できるでしょう.

...とすると,ニーチェが言った超人,ってのは,実は何も難しいはなしじゃぁなくて,
昔ならそこら中にこの日本列島に生息していた市五郎さんの様な存在だったんじゃぁ,ないかと...思った次第であります.

....ってゆーとまだピントこられないかもしれませんが,
かの,ちょーー日本人の赤塚不二夫が,
ちょーーーーー典型的な日本人として記述した,あの「バカボンのパパ」の口癖が,

「これで,いいのだ」

でしたから,これほど,ものすごーーーい肯定的な(ニーチェの超人的な)人っていないなぁ...とも言えそうですね.

....ということで,ここ数日頭の中をぐるぐる巡ってたお話の一端を(少々ややこしくて済みません!),ご紹介差し上げました.

では,また来週!

PS
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【藤井聡】忘れられた日本人への5件のコメント

  1. mxpbh より

    「これで,いいのだ」 > 日本人らしい奥深い言葉ですね。さすが、バカボンのパパ。

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  2. 中年ライダー より

    浄土真宗の篤信な人を「妙好人」というのですが、同じような話を妙好人伝から聞いたことがありますね。

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  3. nanashi より

    >つることには賛成だが『カニをいじめるなよ。夜耳をはさみに来るぞ』とよくいった。宮沢賢治みたいですね。もっとも賢治はカニをつることにも躊躇したでしょうが。「忘れられた日本人」はざっと目を通しましたが、土佐源氏とかいうのは誇張歪曲があるような気がしました。宮本にではなくそれを話した元博労の話に。宮本常一から網野善彦、宮崎駿という線もあるようですが、それはちょっとどうかなと思います。宮崎は黒澤明と同じで伝統日本(あるいは古代日本)の衣をかぶった西欧近代主義者です。欧米人にうける所以です。ニーチェにはショーペンハウエルを通じて仏教思想が入ってるようだからバカボンのパパの「これで、いいのだ」(如、そのまま)に通じるでしょうね。ニーチェのユダヤ・キリスト教(つまり西欧)脱構築は、一つには彼のうちのこの仏教的なもののなせるわざではないでしょうか。

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  4. 海外助教 より

    今回のお話を読み、思い出したのが「鼓腹撃壌」の話です。他にも老荘とか宮沢賢治とか、この種の理想郷にはパターンがありますね。単純な「疲れた現代人が憧れる牧歌的風景」という話ではなく、理想郷を成り立たせるものは、より根源的な「人とは何か、社会とは何か」、もっと平たく言えば「(彼と我との)分を弁える」ことでははないかと考えています。震災後、私の大学のエレベーターの前には「秩序!日本人を見よ」という言葉とともに、コンビニの前に列を作る被災者の写真が貼られていました。地域の日常により積み上げられた「常識」により「地域住民」としてのアイデンティティがあったために、お互いに「何をなすべきか」を理解して、つまらないデマや衝動に惑わされず、秩序を自発的に作り上げたわけです。私の専門は「分子自己組織化」ですが、感慨深いものがありました。上記の理想的状況とは逆に、私は昔読んだ「マクスウェルの悪魔」(ブルーバックス)の最後が、ずっと心に残っています。エントロピー(情報量)は増大していく、人間はそれに耐え切れずに滅ぶだろう、という話です。現在、ネット社会は個人個人の知識を増やしました。それは素晴らしいことなのでしょうが、素人が「分かった気」になって専門家を軽視する平坦化と、肥大化した自意識がネットを通じて「大衆」となる様は怖いと感じています。「大衆社会の処方箋」はどこかで出版されるのでしょうか?問題となる「大衆」と、震災の際の集団行動をなしえた「住民」は、共有した知識に基づいて行動する点では似ているものの、有益な秩序を形成しうるという点で本質的な違いがあるものだと考えられます。哲学には疎いのですが、ぜひ学ばせていただきたいと思います。

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  5. Yuriya Kaito より

    藤井先生すごいですね。今後、私たちが外国の哲学書を読むときには、「かの国は何を考えているのか?」「我が国がかの国と伍して行くために何か参考になることはないか?」という気持ちを持って読むことが増々必要となって来る、と感じます。『ツァラトゥストラ』の冒頭に、「偉大なる天体よ!」と太陽に語りかける場面は、アニミズム、八百万の神、に通ずるところがありますよね。

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