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2013年4月26日

【柴山桂太】農業の構造改革

FROM 柴山桂太@滋賀大学准教授

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「農業を輸出産業に」と盛んに言われています。日本の農産物は安全でおいしいから、TPPを好機として輸出の拡大をはかるべきだ、という訳です。しかし、そう簡単に話が進むでしょうか。
例によって、鼻息が荒いのが産業競争力会議です。今年二月に提出された資料を見ると、次のようなことが書いてあります。(http://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/skkkaigi/dai2/siryou5-3.pdf

・10年後に農業生産額世界第三位、輸出額第三位を目指す
・10年後にフルーツ輸出額世界一位を目指す

一位とか三位とか、農業ってオリンピックの競技か何かでしたっけ? 農業輸出でランキングを競って何の意味があるのでしょう。国の大方針を決める(はずの)会議に、そういう幼稚な発想を持ち込むのはやめてもらいたいものです。

またこの報告書には「オランダをベンチマークとし、政策を実施していく」という文言もあります。確かにオランダは工業だけでなく、農業でも輸出が盛んな国です。しかし少し考えてみればわかるように、オランダと日本では経済的な条件がまったく違います。
オランダの場合、農産物の輸出先はほとんどEU圏内で、最大の市場はドイツです。酪農や園芸に特化することで輸出を増やす代わりに、穀物は輸入に頼っています。いわば食料自給率を犠牲にして、農業を輸出産業にしているわけです。日本がそのマネをして、本当にいいのでしょうか?
加えてオランダはユーロ加盟国です。つまりどんなに貿易黒字が膨らんでも、通貨高にならない。だから工業でも農業でも輸出を拡大できるわけです。普通はそうはいきません。通貨ですぐに調整されてしまうでしょう。日本のような工業輸出国が、農業まで輸出国になることなどできないのです。
また農作物の一部に国際競争力があるとして、TPPに入れば輸出が拡大できるのでしょうか。オランダの場合、お隣にドイツの巨大市場があります。だから明確にターゲットを絞って商品開発をしているわけです。日本はどうでしょう。TPP参加国で巨大市場をもつのはアメリカですが、アメリカのフルーツ市場向けに農業体制を一新するとでも言うのでしょうか? 私は無理筋の議論だと思いますし、逆にアメリカのフルーツ農家が(カリフォルニアのいちごなどのように)日本の巨大市場めがけて攻勢をかけてくる可能性の方が高いと思います。

TPP参加国は、アメリカ、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドなど、日本の何十倍もの農地を持つ農業輸出国がずらっと並んでいます。最近、TPPで沖縄諸島の砂糖農家が壊滅するという話が出ていますが、北海道の酪農なども同じ運命を辿ることになるでしょう。TPPでは、漁業についても厳しい交渉が待っているといいます。国境紛争を抱える日本の北と南の突端で農業が、また農業を基盤とした地域共同体が崩壊すれば何が起こるのか。国境地帯で人が住まなく(住めなく)なれば、喜ぶのは誰なのか。少し考えてみれば分かる話でしょう。
しかもTPPでは、日本の高い安全基準(検疫など)が「非関税障壁」として槍玉に挙げられるのは間違いありません。これほど子供のアレルギーやアトピーが問題になっている時に、まだ緩い基準の農産物受け入れを拡大するというのでしょうか。

日本の農産物が安全でおいしいのが確かですが、それと農業が輸出産業になるというのはまったく別の話です。むしろ前者は、日本の農家が一定の保護のもと、日本の厳しい消費者向けに技術を磨いてきた結果です。最初から世界市場を狙って生産性を高めてきたアメリカや、EU・ユーロという枠組みを前提としているオランダのような国とは根本発想がまったく違うのです。日本の農業に改革が必要だとしても、「フルーツで世界一」とか「オランダをベンチマーク」とかいった一時の思いつきで世論を惑わせるのは、いい加減やめにしてもらいたいものです。

PS
「産業競争力会議がおかしい」と感じた方には、
こちらが参考になるかもしれません
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PPS
ちなみに「月刊三橋」4月号のテーマはTPP徹底解説です。
「アジアの成長を取り込む」どころか、得られるものはほぼゼロ。
しかも、大きな代償を払うことになるかもしれません。

http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_1980/index.php

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【柴山桂太】農業の構造改革への3件のコメント

  1. 情報交錯教 より

     農業(既に機械的作業ではありますが)もボーダレスな工数的、数値的指向で考えることが超合理的だみたいな、柔道、剣道、〇道がスポーツと訳されるしかない世界に包囲されていくみたいな感じなのでしょうかね (農も道もスポーツもしてない輩ですけど)。数値で計られていくと言うことは最初は守れたと言えても時を経るごとに変貌させられていくのかもしれない。 労働は拷問と考えられると言う植民政策の歴史の西欧文明との融合って考えられるのか、書いててわけわからなくなってきた。やはり何か犠牲、生け贄をささげるしかないのではないでしょうか。 西欧化で日本の生活文明も発展して来たとは言えるのでしょうが、これ以上突き詰めると人自身(既にかわっているのかもしれませんが)を変えられてしまう気がしました。西欧と東欧の融合ってあり得るの。 と言うコメントが言える立場でもなく、言える程の生き方をしているとも言えない輩なのですが大変失礼してしまいました。(労働と言う拷問で忙しくなりたいとも思うものの、近代は働くことに希薄さ(数値的)も感じます。)

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  2. gcp より

    農業を専門にされている方は会議にいないようですし、すごく頭ごなしに感じられました。特に「額」の視点ばかり目立つのは危険を感じますし。実際に農家の方が、これを受け入れるのかも気になります。現在の国内需要から、高付加価値化し輸出産業への切り替え。これに失敗した場合、高付加価値化したものを国内で売ることになり。海外から安い輸入品が入っているような状態で果たして採算に似合うほど売れるでしょうか?ついで、これはもうモラルのレベルですが、高付加価値化した品種が許可も得ず海外へ流出した案件(イチゴとか)もあるようです。この程度のリスクに関して、産業競争力会議の方々はもちろん理解しているはず。それなのに触れてもいないのは鼻につきます。このような大方針転換を示しておきながら成功しなかったら自己責任ではあまりに虫がよすぎる。いままで手がつけられなかったのは、それだけ「責任が重い」から、と私は思うのです。

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  3. コンドウ ヨシヒロ より

    そ、その通り。内外価格差をすっ飛ばして、いったい何が攻めなのか、アホくさ。

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