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2012年12月14日

【施 光恒】日本印度化計画

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

おはようございます(^_^)/

前回の私の記事(「日本のフィリピン化」(11月30日)に引き続き、今回も、英語教育の問題を。

ちょうど、橋下徹氏が、ネタを提供してくれました。

●もっと英語教育を。アメリカ人は幼稚園児でも英語をしゃべる。
https://jp.twitter.com/t_ishin/status/276839897669722113

●公共工事はもう古い。英語教育の充実など国際競争力強化の方向に投資を向けるべき
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20121209/k10014068171000.html

●橋下氏「国民全員英語ペラペラに」
http://hochi.yomiuri.co.jp/topics/news/20121209-OHT1T00204.htm

橋下氏は、小学校一年生から英語教育をどんどんやって、「国民全員が英語ペラペラ」になるような政策を推進し、「日本の国際競争力」を高めるぞ!と述べています。

一種の英語公用語化論ですね。

英語公用語化路線は、日本の国力(国際競争力)を増すんでしょうか。増さないでしょうね。逆に、衰退させそうです。

この件については、すでに140年ほど前、1870年代はじめの英語公用語化の論争で決着がついているように思います。

1870年代の英語公用語化論争は、日本の近代化を日本語で行うか、それとも英語で行うかを議論したものでした。

のちに初代文部大臣に就任する薩摩出身の政治家・森有礼(もり・ありのり)は、日本の近代化は、日本語ではなく、英語で行うべきだと主張しました。近代化を目指す日本の学校教育や、政治制度・社会制度の運用は、英語ですべきだと論じたわけです。

これ、最近の英語公用語化論よりも、はるかによく理解できます。当時の日本語は、近代的な国作りのための語彙が決定的に欠けていたわけですから。たとえば、「社会」や「近代化」などの語彙は日本語にはなく、それ以降、欧米諸語からの翻訳によって作られました。

森有礼の英語公用語化論に対して、説得力ある反論をしたのが、土佐出身の思想家・馬場辰猪(ばば・たつい)でした。(彼自身は、英国で長く学び、英語の達人でした)。

馬場辰猪の反論は以下のようなものです。

(1)日本人にとって言語体系が全く違う英語の学習は、骨が折れる。若者は、英語学習に多くの時間や労力を割かねばならず、他の勉強や仕事がおろそかになる。

(2)英語学習には、時間や労力、お金がかかるため、富裕層に有利である。生活に追われる一般庶民が英語を身に付けるのは大変難しい。結果的に、格差社会化が進む。一般庶民の政治参加や社会参加は難しくなり、一部の恵まれた層しか、国や社会の重要問題に関われなくなる。

(3)使う言語によって、国民の間に意識の分断が生じてしまう。国民の一体感が育まれなくなる。

馬場辰猪は、反面教師として、当時のインドをあげています。インドは、英国の植民地だったことから、インドの言葉ではなく、英語での近代化を強いられました。

その結果、インドでは、格差社会化が進み、庶民は政治や社会の問題に関心を持たなくなり、国民の一体感も育まれなかったのです。

馬場辰猪は、140年前にすでに、以上のような議論を展開して、日本の国力を増すためにこそ、英語公用語化なんてしてはいけないと主張していました。
日本語による近代化こそが、つまり翻訳によって日本語の語彙を増やし、一般庶民でも参加しやすい社会を作ることこそが、結局は、日本の国力の充実につながり、欧米に伍していけるようになるんだと論じました。

幸い、明治の人は賢かったので、結果的に、馬場辰猪の路線をとり、日本語で近代化するという選択をしました。
ヨカッタヽ(^ω^)ノ

インドついでに、英語公用語化論のまずい点をもう一つ。

創造性が失われてしまうのではないかという点です。

アジア政治が専門の中島岳志氏(北大准教授)によると、インドでは、日本とはまったく逆に、近年、大学教育を英語ではなく、インドの言葉でするべきだという議論が高まっているそうです(「『クーリエ・ジャポン』2011年9月号)。

インドの大学教育は、大部分英語です。それが、若者の創造力を奪ってしまっているんではないかという危惧があるとのことです。

中島氏が紹介しているのですが、インドの言葉で大学教育を行おうと主張しているインドのある識者は、次のように発言しています。

長年にわたってインドの諸言語が現代の科学技術的議論から切り離されてきたために、これらの言語は非科学的な考えを表すのにしか向いていないとされてきた。その結果、土着の科学の言葉や伝統は、崩れかかった図書館の虫に食われた分厚い本の中で忘れ去られている」。

「このままではインド版アントニ・ガウディは永遠に生まれない。専門教育が英語でしか提供されない環境では、他人のコピーしか作り出せない」。

やはり、創造性の発揮に母語って、大切ですよね。

新しく何か(理論でも、製品でも、セールスのやり方でも)を作り出すときって、必ず、新しい「ひらめき」や「カン」「違和感」のような漠然とした感覚を、試行錯誤しながら徐々に言語化していくプロセスが必要です。

ここを外国語でやるのは、すごく難しいというか、ほぼ不可能だと思います。「ひらめき」や「カン」といったものを言葉に落としていく作業は、赤ん坊の時から生活のなかで身に付けてきた母語の感覚を総動員しなければ、なかなかできないでしょう。

ですので、思考するときに、母語ではなく、外国語を使わなくてはならなくなってしまうと、創造性は大幅に損なわれてしまいます。

まとめですが、結局、英語公用語化路線を進めると、

(1)若者の時間の浪費につながる、(2)格差社会化し、庶民の政治参加や社会参加はむずかしくなる、(3)国民の一体感が損なわれてしまう。これに加えて、(4)創造性も発揮しにくくなってしまう。

で、結局、日本は、「インド化」(または「フィリピン化」)してしまいます。
( 」゚Д゚)」オーイ!

英語公用語化路線は、国力の強化にはつながらないようです。
あくまでも母語である日本語が主、外国語は従でしょう。

日本人にとっては、やはり、知的な思考や行為は、最高のレベルまで母語である日本語でやっていけるようにすることが大切なようです。

外国の人に伝える必要があるときは、日本語でぎりぎりまで高めたものを、最後の最後で翻訳していくほうがいいんじゃないでしょうか。そのほうが、はるかに良いモノ、創造的なモノを提供できるでしょう。

言語の面でも経済の面でもそうですが、どうも最近の「グローバル化」路線って、すごく単純に「外に打って出る!」ことばかり意識して、結局、日本の強みを生み出している土台をぶっこわしていくものばかりなんじゃないかと思います。
(__`;)トホホ

PS
このメルマガでもお馴染みの東田氏とは無関係ですが、
中野剛氏と一緒に、こんな本を書いています。
http://amzn.to/Ud4Pl5

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【施 光恒】日本印度化計画への6件のコメント

  1. とも より

    インド化に問題があるような意見がありますが、逆にインドは英語なしでは現在の発展はあり得ませんでした。英語話者が多いからこそ、海外の技術導入が進みました。一方、勿論ローカルの言葉もきちんと生きています。橋本さんのポイントは、現在の日本の英語教育の問題です。なぜ高校卒業するまでに6年間も英語を学んだ人が、会話も出来ない、新聞も読めない、英文サイトもサーフィンできない、映画も字幕なしで観れないのでしょうか。学校の英語教諭ですら、それらが出来ない人がいます。原因は、習うより慣れよ、と言う言語に対する基本的な概念が欠如しているからです。同じ時間を使って教育するのなら、より効率的に”慣れる”為の教育をすべきだという事です。橋本さんも言ってましたが、自治体の長(橋本市長自身)が国際会議に通訳を連れて行くなんて興醒め極まりないないです。勿論、日本語ほど繊細な言語は他にない事も事実だと思います。橋本さんの気持ちは、日本語を大事にした上で英語もできる若者が多く現れて欲しい、という事です。英語はできないよりできる方が国際社会に出るチャンスが多いですから。その為には時間を増やす事なく、慣れる教育にしたらいいだけの話です。正に、インドやフィリピンの英語カリキュラムを参考にすればいいと思いますが。若者の時間の浪費、格差社会、国民の一体感や創造性ががなくなる、等と大袈裟な事を九大の方は言ってますが、全て英語ができない言い訳を並べてるだけですよね。確かに典型的日本人は、英語を大きな壁だと捉えていますが、それは正に現在の英語教育の残した汚点ですね。纏めると、英語ができれば日本人はもっと世界市場で活躍できます。それは正に日本の成長に繋がります。

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  2. ヘイポ より

    英語教育を幼少から始めるのも良いんじゃないでしょうか?公用語化しても良いでしょう。全て、機会提供としてはですが。橋下さんの発言は、ちょっと強制度が高いニュアンスですが、そもそも勉強なんて任意のはずなので。手を抜くも抜かないも、勉強する本人次第です。国語の苦手な日本人で、ちゃんと生活できる自分もいますし。難しい議論は様々ありますが、教育の効果を最も上げるためには、教わる側のやる気が重要でしょう。私は物理や化学が得意でしたが、当時も今も生活にはほとんど役にたちませんでした。でも、好きだったから、勉強頑張りましたよ。で、行きたい学部がありましたから、その他の科目も頑張りました。社会人になって、今は別の勉強をしています。私の学生時代の勉強科目に、物理と化学があったことに感謝です。過去や途上国の評価をもって日本に当てはめても、同じように考えることができるか疑問です。当時必要であった他国にいる様な専門家を自国で作り出す作業を、これから先の日本で行っても無駄じゃないでしょうか?沢山学べる機会が若い時からあって、少しでも勉強が楽しくなる瞬間が増えれば、それはそれで良いでしょう。深く勉強するのは、勉強が面白くなってからでいいのですから。E = mc2なんて公式、覚えても生活の役にたちゃしない。科目が増えたからって、人間である学生のキャパシティは有限です。適当に手を抜きますよ。

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  3. 米谷隆 より

    タイトルの元ネタは、筋肉少女帯ですよね?英語教育を推進するなら、日本語ロックは真っ先に禁止でしょうね(笑)

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  4. 伊藤義一 より

    英語:日常的な会話などのだれでも理解し話す英語、論理性がありそれを理解できないと言葉にならない英語。区別して考えるべき。わからないことは言葉にならない。前者は早くから慣れた方が効率的なはず。舌足らずですが。

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  5. 海外助教 より

    私は、海外の大学で、理系分野の講義&研究指導を英語で行っています。先日の「フィリピン化」と「印度化計画」を興味深く拝読いたしました。「英語で教育」することの是非は分野によっても異なると思いますが、私が専門とする工学系分野での、私の考えを書かせていただきます。私のいる大学でも多くの留学生が多種多様な国から来ており、共通言語として英語で講義や研究指導を”せざるを得ない”のですが、(私の英語の拙さ)_(学生の英語の拙さ)で、伝えたいことが十分に理解されないのが、私の目下の悩みの種です。特に、大学院教育のような高度に抽象的な概念を理解するのは困難です。(学生のレポートも、英語として滅茶苦茶な上、内容も支離滅裂で苦労します)日本でなら、多くの人の共通認識を通じて、より理解しやすい表現に出来るのですが。たとえば、「法隆寺のようにしなやかに衝撃を逃がす」とか「金太郎飴のように、どこを切っても同じ構造が現れる」とか「綿菓子のようにフワフワで、サッと溶ける材料」とか日本人なら常識として共有している知識をベースにできます。しかし、「法隆寺」も「金太郎飴」も「綿菓子」も知らない外国人にそれをどうやって伝えるか・・・どうしても、冗長あるいは表面的な表現になり、伝えたいところを十分に伝えられません。数式による説明は正確ですが無味乾燥であり、容易に学生の記憶から揮発します。共通認識を通じた直感的な理解が知識の定着に役立つと考えています。今日の講義で失敗した例をひとつ。「静電相互作用によって繊維の方向をコントロールする」ことを説明するのに「下敷きをこすって髪を逆立てるイタズラあるよね?あれと同じ」と説明したのですが、学生は(_゚д゚`)ポカーン(この留学生たちは暖かく湿度が高い国から来たんだ!静電気を知らない!)共通認識は大切です。科学技術が進歩すると、伝統的・日常的な言語は「遅れてる」と思われるかもしれません。それは、ある程度は事実です。新しい概念のためには新しい用語があり、国際化のためにはそれが英語であることも必要です。しかし、「科学を進歩させる」基となる抽象的な概念・創造性は、研究者の文化的背景に強く依存することも事実です。ロボットや幹細胞に対するキリスト教の倫理観が西洋人の「縛り」になっていることはよく言われます。裏を返せば、それは日本人の「強み」でもあります。「鉄腕アトムを作ろう」、「ガンダムを」、「ドラえもんを」、「攻殻機動隊を」・・・学生のモチベーションになりますし、意図が伝わります。確かに、基盤となる知識を英語によって共有することは必要です。しかし、さらにそれを競争力のある独自技術として発展させるために、日本国内では日本が得意とする文化を活用するべきだと考えています。これは「日本のエゴ」とか「閉鎖的な島国根性」ではありません。英語圏の連中は、その文化をベースにして独自の概念や学術用語を発展させています。ただ、それが世界を席巻しているために、日本人がそれを「英語圏の独自文化だ」と認識できていないだけです。英語圏の連中がやっていることを、日本人がやらないというのは、わざわざ武器を捨てることです安易な英語教育の導入は、せっかくの文化を捨てて新興国となることです。さらに成果主義を取り入れたら、記事にあるように、どこかでみたような、流行のテーマの表面的な論文を量産する結果に終わるでしょう。科学立国としては亡国の策です。インドの母国語回帰の傾向は、その点で喜ばしいですね。昔、インド人のポスドクから聞いた、学生のジョークを紹介します。(うろ覚え)「Q.全知全能のビシュヌ神に出来ないことは何か?」「A.トックリセーターを着ること」(顔が沢山あって、首が通らないから)「複数の機能をもった複合材料」は、日本人なら「千手観音のように多くの”手”を持つ」と説明できるでしょうし、インド人なら「ビシュヌ神のように多くの”顔”を持つ」と説明できるでしょう。西洋なら「ヤヌス(ギリシャ神話の2つの顔を持つ神)のような」と説明でき、実際に「ヤヌスタイプ(Janus type)」は論文でも見かける表現になっています。一日本人として、日本が独自の強い技術を開発して発展することを望み、一科学者として、多種多様な文化から新しいアイディアが生まれ、総合的に人類の発展につながることを願っています。

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  6. よしゅ より

    日本語教育が疎かになって、日本の過去の歴史を紐解けない人が増える。現状でも古文は読みにくいものの、なんとか類推できるし辞書を併用すればある程度なんとかなるが、漢字を使わなくなった韓国のようになる可能性は大いにあります。なにより、幼少の頃から教育を受けないと外国語に堪能になれないという思想は、即ち所詮日本人は多言語を扱う能力はないという諦め主義であり、日本人の可能性を狭めると思います。むしろ他言語教育と学習の方法を洗いなおして大人になってからでも可能な効率的な学習法を編み出す方が日本人の為になると思います。

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