アメリカ

2016年11月23日

【佐藤健志】反グローバリズムはキレイゴトにあらず

From 佐藤健志

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ドナルド・トランプの大統領選勝利については
「イギリスのEU離脱、
いわゆるブレクジットにつづく
反グローバリズムの民意の高まりを示す出来事」
と解釈する傾向が見られます。

大枠において、これは妥当な解釈でしょう。
ただしトランプ当選とブレクジットの間には
無視しがたい相違も存在する。

島倉原さんも本紙11月17日付けの記事で
ブレクジットとトランプ当選では
各国の市場の反応がかなり違うことを指摘しておられましたが、
ここでは別の角度から考えてみましょう。

つまり「トランプ支持=反グローバリズム」と前提したとき、
アメリカの民意が本当に反グローバリズムと言えるかどうか。

ブレクジットの場合、
離脱賛成が17,410,742票
残留賛成が16,141,242票と
離脱派の票が残留派を上回りました。
https://www.bloomberg.com/graphics/2016-brexit-referendum/

EU離脱は反グローバリズム的な行動ですから、
イギリスの民意は反グローバリズムということで良いでしょう。

しかるにお立ち会い。
2016年アメリカ大統領選における
トランプ、クリントン両候補の得票数は
11月18日現在(まだ集計が完全に終わったわけではないのです!)で
以下の通りとなっています。

ドナルド・トランプ  61,610,484票
ヒラリー・クリントン 63,049,607票
http://heavy.com/news/2016/11/popular-vote-clinton-trump-2016-lead-update-2012-vs-electoral-college-definition-meaning-2008-hillary-california-election-results/

!!!!\(◎o◎)/クリントンのほうが多い\(◎o◎)/!!!!

クリントンの得票数は、歴代大統領候補の中でも3位です。
トランプは今のところ5位。
ただし4位のジョージ・ブッシュ・ジュニア(2004年大統領選)との差は
40万票ちょっとですので
最終的には彼を抜いて、4位となるかも知れません。

歴代1位と2位は、ともにバラク・オバマ
(2008年大統領選、および2012年大統領選)のため、
その場合、トランプは
「史上最も多くの票を得た共和党大統領候補」
ということに。

だとしても、140万票あまりの差がついている
クリントンを抜くことは無理でしょう。
アメリカの民意は本当に反グローバリズムなのか、
疑わしくなってくるではありませんか。

ちなみにトランプが
得票数において及んでいないにもかかわらず
「プレジデント・エレクト」(大統領当選者)となったのは
ご存じの通り、
270を超える大統領選挙人を獲得したからです。

アメリカ大統領選においては
一般有権者と候補者の間に大統領選挙人が入る仕組みになっているので
「一般有権者の票では勝利した候補が、
獲得した選挙人の数では負けて落選する」
というねじれ現象がときどき起こる。

1876年大統領選挙のサミュエル・ティルデン、
1888年大統領選挙のグローバー・クリーブランド、
そして2000年大統領選挙のアル・ゴアも
「一般有権者の票では勝ったが、選挙には負けた」組でした。

とはいえ、どうしてそんな制度が存在するのか?

各州の大統領選挙人の数は
合衆国憲法第2条1節2項の規定により、
「その州の上院議員と下院議員の数を合計したもの」と決まっています。
これで535人。
さらにワシントンDCが3人の割り当てを持っているので、しめて538人。
だから過半数の270人を取れば勝利なのです。

しかしですな。
下院議員の数はそれぞれの州の人口比に応じて決められますが、
上院議員の数は人口によらず各州2人。

すなわち
「ある州の大統領選挙人数=その州の上院議員数+下院議員数」
であるかぎり
人口の多い州と少ない州の間には
いわゆる「一票の格差」がかなり生じます。
2012年の時点で、最大3.71倍とのこと。
http://blogos.com/article/49721/?p=1

かりにこの点を
「人口の少ない州の発言権を守るための必要悪」
と見なすとしても
「各州で最も得票の多かった候補が、その州の選挙人をすべて獲得する」
という、
勝者総取り方式を採用している州がほとんどですから
死票が相当に出ます。

「大統領は民意に基づいて選ばれるべきだ」
と前提するかぎり、
大統領選挙人制度が望ましいかどうかは、例によって疑わしいのです。

では、なぜそんな制度が存在するのか?

・・・私も最近知ったのですが
なんとこれは
かつての奴隷制度の名残りなのです。

奴隷にはむろん選挙権がありません。
しかしその場合、
奴隷の数が多い州(つまり南部諸州)は
人口に比して有権者が少なくなってしまいます。

すると直接投票の場合、大統領選挙に影響力を及ぼせなくなる。
それどころか、ひとつ間違えると
下院議員の数だって少なくなりかねない。

どのみち選挙権のない奴隷まで含めた人口に応じて
選挙で選ばれる議員の数を決めるのはおかしいという議論は
当然、成立しますからね。

これでは困る!! という話になったわけです。

で、いかなる解決策が取られたか。
答えは合衆国憲法の第1条2節3項にあります。
ここでは
「各州の下院議員の数は、州の人口に応じて配分する」
ことが定められているのですが、
1788年、制定当時の規定はこうなっていました。

「各州の人口は、
自由人の総数に、
その他のすべての者の数の5分の3を
加えることにより算出する」
(高橋和之編『世界憲法集』、岩波文庫、51ページ。表記を一部変更)

要するに奴隷についても、
六掛けで人口に算入することで下院議員の数を確保、
その下院議員数と連動した大統領選挙人制度を導入することで
大統領選挙への影響力を確保したのです。

奴隷制度の廃止とともに憲法が修正され
上記の規定はなくなりましたが、
大統領選挙人制度自体はなくならず
今もって続いている次第。

すなわちドナルド・トランプの当選は
反グローバリズムの民意の高まりとしての側面を持つと同時に
かつてアメリカに奴隷制度が存在したせい、
ないしおかげで起きた現象でもあるのです。

反グローバリズム、奴隷制度の残滓に助けられて勝利す!!

正直、あまり人聞きが良い話ではありません。
けれども冷静に考えてみましょう。

反グローバリズムは
「自国の歴史、伝統、文化、風習を尊重すること」
と、しばしば主張されます。

しかし歴史にせよ、
伝統にせよ、
文化や風習にせよ、
うるわしいキレイゴトばかりであるはずがない。

えげつないホンネという
ダークサイドが存在していて当たり前ではありませんか。

ならば
「自国の歴史、伝統、文化、風習を尊重すること」
の中には
好むと好まざるとにかかわらず、
それらのダークサイドを擁護することも含まれるはず。

奴隷制度をはじめとする人種差別も
アメリカの歴史、伝統、文化、風習の一部だとすれば
反グローバリズムを説いたトランプが
奴隷制度の残滓に助けられて当選したのは
きわめてまっとうなことかも知れませんよ・・・

なお次週、11/30は都合によりお休みします。
12/7にまたお会いしましょう。
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)日本文化チャンネル桜の番組「闘論!倒論!討論!」でも、トランプ当選について論じました。

「トランプ大統領とその後の世界」
https://www.youtube.com/watch?v=zAJhHmhb0Yc

2)戦後脱却も、キレイゴトに終始しているかぎり、自滅への道となるでしょう。詳しくはこちらを。

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3)自国の歴史や伝統、あるいは文化や風習について、キレイゴトの認識しか持とうとしない保守は、いつの間にか左翼になってしまいます。この悲喜劇の詳細はこちらを。

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4)まずは過去70年あまりのわが国の歴史について、キレイゴトを排した認識を持つことから始めるべきではないでしょうか。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
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5)「これらの感情に基づいた世界観を、われわれは古くさい固定観念として捨て去るどころか、たいそう大事なものと見なす」(122ページ)
「固定観念」にあたる原語は「prejudice」ですが、この言葉には「偏見」という意味もあります。差別意識の肯定まで、あと一歩と評さねばなりません。

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6)「しかしイギリス王こそ、いかなるインディアンにもまして、野蛮きわまる存在なのだ!」(213ページ)
自由と独立を謳うトマス・ペインの言葉にも、人種偏見はしっかり入り込んでいました。

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—発行者より—

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★★★★★:山本直美さまのレビュー

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