From 藤井聡@京都大学大学院教授
京都大学大学院、表現者クライテリオン編集長の藤井です。
本日は、大阪市廃止の住民投票が「否決」という結果となったことについて、これが一体何を意味するのかについて世論分析の視点から解釈したいと思います。
(1)二回連続での否決は、「真の民意が否決だ」という事を強烈に示している
まず第一に申し上げるべきことは、5年前の前回に引き続いて「2回連続」で、大阪市廃止が否決されたということは、実に大きな意味を持つ、という点です。
例えば、PCR検査では、「偽陰性」なる問題があって、一回の検査で「陰性」となったからといって陰性を確定することは避けるべきだと言われています。しかし、二回連続で「陰性」となった場合「偽陰性」である可能性は、確率論から言ってほとんどゼロとなります。
言い換えるなら、「一回だけのネガティブ」はしばしば間違ったネガティブであることはあり得るのですが、「二回連続のネガティブ」は、ほぼ確実に「ネガティブだ」と判断するわけです。
それと同じで、二回連続「否決=ネガティブ」となった今回の住民投票を通して、大阪市民の「真の民意」が「否決=ネガティブ」だということ、つまり「大阪市存続こそが真の民意である」ということを「確定診断」してよい状況になったと言うこともできるのです。
しかも、結果は前回に引き続いて僅差となったとは言え、前回よりも賛否差が拡大する結果となったという点も、この「診断」の信憑性を高める補足的事実と言うこともできるでしょう。
(2)「公明党が反対から賛成に回った」にも関わらず得られた否決の意味は大きい
しかも今回は、
「公明党が全面賛成に回り、公明票が実に多く、反対から賛成に回った。」
という、賛成派にとって途轍もなく有利な条件があったのです。それにもかかわらず、反対多数となったことはとりわけ重大な意味があります。
もともと2015年当時、公明支持者は、その3割弱しか賛成していませんでした。しかし今回は、約半数が賛成に回っています。
今回の投票者の内、6%強が公明票だということがNHKの出口調査から示されていますから、それに基づいて計算しますと、2万弱の公明票が、賛成から反対に回ったことになります(総投票数約140万票×公明支持層割合6%強×公明支持層の反対から賛成への変化割合2割強=2万弱)。
「賛成か反対か」の住民投票では、一人の有権者が反対から賛成に回るだけで、反対票が1票減り賛成票が1票増えることで「2票」も縮まります。
ということは、今回、公明党が党として反対から賛成にまわったことで、反対よりも賛成の方が相対的に4万程度の票を伸ばすことになったわけです。
もともと1万票しか反対派はリードしていなかった中、賛成派は差し引き4万票もの票を「ゲット」したわけで、それはもうそれだけで賛成多数になっても不思議ではない条件下にあったわけです。
今回の否決は、それを押しのけ、前回よりもさらに票差を拡大する形で否決されたわけですから、「真の民意」が大阪市廃止に対してネガティブ、つまり「大阪市存続を望む」というものである確度はより一層高いと言えるわけです。
(3)「吉村人気」があるにも関わらず得られた否決の意味は大きい
しかも、維新の象徴が「橋下氏」から「吉村氏」に変わった事も、賛成派にとってむしろ有利な条件となり得るものでした。
橋下氏にはカリスマ的人気は確かにありましたが、その強烈な個性故に大阪市民の間に強烈な反発があったことも事実です。
事実、橋下氏は、2015年の住民投票の敗因について
「僕が嫌われていたから」
https://dot.asahi.com/wa/2019013000031.html
と言及されていますが、その側面は確かに否定しがたいものです。
ところが、吉村氏は橋下氏ほどの強烈なカリスマ性や個性はありませんが、その代わりに幅広く市民から高い好感度を持って支持される方でもありました。
したがって、「反対派」からしてみれば、吉村人気は大変な脅威だったわけです。
「イソジン会見」によって、吉村人気に陰りが見られたとは言え、全国区に通用する吉村人気は、大阪市内では未だに絶大なものであったことに代わりがありません。
それにも関わらず「反対多数」となった背景には、
「吉村さんの維新は支持するけど、大阪市廃止には反対」
という有権者が多かったことが重大な理由となっています。
維新の政策を評価する人の実に三分の一もが、都構想に「反対」を表明したのです。
https://twitter.com/tkn0407inym/status/1322929048373194753/photo/1
つまり今回、吉村さんや維新の好き嫌いとは「別」に、大阪市を廃止することの是非を考えた有権者が実意に多かった事を意味しています。
この事実も又、「大阪市民の真の民意」が、「大阪市存続」であることの強烈な証左の一つと言うことができるでしょう。
(4)「当初、14%も賛成派が多かった」にも関わらず得られた否決の意味は大きい
最後に、本年6月時点では、賛成派の方が反対派よりも圧倒的に多かった、という事実を挙げることができます。
たとえばこちらの世論調査では、令和2年6月時点、住民投票の四ヶ月前の時点で賛成49%に対して反対はわずか35%しかなかった事が示されています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO60945630Z20C20A6AC8000/
こうした世論調査が世間的にも共有されていましたし、上述の「吉村人気」があったことも手伝って、当方いろいろなところで、
「藤井さん、今度の都構想はもう可決されるのはしょうがないですね」
という声を何度も耳にしました。所謂「反対派」と言われる方々の方々からも、
「藤井さん、今度の住民投票は、かなり絶望的な状況ですが…」
という声も何度も耳にしました。
当方は、そういう声をする度に、
「いやいや、まぁ、そうかもしれませんが、まだ大阪市民の方にしっかり、大阪市廃止の内容についての客観情報が伝わってないから、そんな雰囲気になってるだけだと思いますよ。まぁ、厳しい状況ですが、住民投票が近づいて、有権者の皆さんがより真剣に客観的情報に触れようとしだせば、ひょっとすると状況が変わるかもしれませんよ」
という風にお答えしていました。
とはいえ、この「ひょっとすると」という言葉からも明らかな通り、当方も、今回ばかりは可決する可能性の方が圧倒的に高いだろう…と6月頃の時点で認識していたのは事実です。
そんな中、当方が上記のように漠然と予期していたように、住民投票が近づくにつれて、徐々に都構想の「真実」が有権者一人一人に浸透していき、メディア各社の世論調査における反対率が少しずつ増えていったのです。
それは当方にしてみれば、さながら奇跡を見ているような心持ちでした。
そして、投票の一週間前になると、いくつかの世論調査で「反対多数」となる程に「賛否拮抗」する状況になったのです。
繰り返しますが、公明党の賛成派への転身や吉村人気、さらには、6月時点での圧倒的な賛成派有利状況からのスタートであったことを踏まえれば、「賛否拮抗」という状況は、奇跡的な状況となったと言うことができるわけです。
つまり、わずか数ヶ月前の時点で賛成派が14%も反対派を引き離していた状況があったにも関わらず、投票日が近づき、事実が有権者に知れ渡るにしたがって、反対派が多くなり、最後、反対多数となったという事実は、大阪市民の「真の民意」はやはり、「大阪市存続」であったという事を示す強烈な証左の一つと言うことができるでしょう。
そもそも、事実を知らず、イメージだけで作られた世論を「ふわっとした民意」と呼ぶとするなら、しっかりと情報を集め、しっかりと考えた場合の民意をこそ、「真の民意」と呼ぶべきものだからです。
・・・
いずれにしても、この度、戦後日本人がほとんど経験したことのない、壮大な政治的議論を「二度」も経て最終的に決断を下された大阪市民の皆様に、心からの敬意を表したいと思います。
あわせて、同じく松井市長が
「結果が出ましたんで、この結果をうけまして、新たにここから」
https://www.iza.ne.jp/kiji/politics/news/201101/plt20110123360027-n1.html
とおっしゃったように、これからは分断、対立することなく大阪市民一体となって(同じく松井市長がおっしゃった)「大阪を愛」する気持ちを共有しながら、大阪市、そして大阪府、さらには日本全体の発展への貢献に向けた様々な取り組みをなされていくという大阪市民の決断に、心からの祝福と敬意を改めて申し上げたいと思います。
(追申:今回の住民投票の結果について、結果が出ました深夜に、当方から、大阪市民、ならびにこの住民投票の議論に様々にご関心を持たれた皆様方に下記メッセージを配信させていただきました。よろしければ是非、ご覧下さい。
https://the-criterion.jp/mail-magazine/tokosohiketsu/)
【藤井聡】公明賛成にも関わらず「二回連続・否決」された事の重大な意味~大阪市民の民意は確かに「市の存続」である~への8件のコメント
2020年11月4日 12:26 PM
結局、維新の連中の掲げる都構想とは何だったんだ?維新は我々住民を騙そうとしてたのか?…なんて空気が盛り上がれば尚よろしいんですがね。いずれにせよホントに奇跡を見た思いです。藤井先生、ありがとうございました。
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2020年11月4日 6:23 PM
藤井先生、本当にお疲れさまでした。
正直勝てるとは思っていませんでした。
しかし2度あることは3度ある、まして相手は維新の会です。
2025年あたりに性懲りもなく住民投票を決行、なんて考えていても全くおかしくありません。
僅差での勝利でしたので、3回目をやられたらどうなるかわかりません。
藤井先生の「大大阪構想」を今のうちから積極的にアピールして、大阪市分割・廃止など本気でアホらしいと周知していく必要があるかと思います。
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2020年11月4日 7:33 PM
わたくしの見方になりますが、今回の藤井先生の功績は先生の教え子も含めた将来世代に松明を灯されたことと受け止めております。それもやはり公選法の第184条に明記されていることが藤井先生もご納得できなかった要因かと感ずるところです。それから維新の広報部隊は自分たちの状況が悪くなれば必ず話や問題を逸らしたり変えたりするから常識ある方々は信用にも足らないのですよね室伏先生。更には毎日新聞と大阪市財政局長は公選法の範囲内で公表したものを、負け犬弁護士とか内閣官房参与とか菅政権のブレーンで国際政治学者などは、それに同調して誤報だとかクーデターとか捏造呼ばわりまでして仕舞いには謝罪会見までやらせたわけですよね。ならばこれらと同調した公職の方々は各々できちんとケジメをつけろよな!!
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2020年11月4日 11:03 PM
この度の闘い本当にお疲れさまでした。私もよそ者ですが藤井先生が必死になって闘っていらっしゃるし、日本の問題とも思い、微力ながらツイッターで吠えていましたw
しかし藤井先生も否決を望む人たちもそこまで弱気だったとは(笑)。でも2度目で以前も僅差だったらしいですもんね。
でも、藤井先生が諦めずに、真実をわかりやすく、時には何人もの有識者の先生方と、複数回に渡って都構想の実態を解き続けたから今があると思います。最後まで諦めちゃだめですよね!
大阪市の選管も頑張ったと思います。今回、一番胃が痛かったのは大阪市職員ですよねきっと(笑)。なのに「大阪市廃止って投票用紙に明記しろ」とか、出来る闘いをしていたと思います。
真実を希求する小さな闘いが積み重なって正しい答えを得ることができたと思います^^
公明党の組織票が当てに出来ないと知った今、維新ももう勝算が無いでしょう、三度目はさすがにないと思っています。何度もやると、大阪での支持も失いかねません(笑)。
まあ、『三度目の正直』とばかり維新がまた往生際悪く都構想を持ちかけてきたら『二度あることは三度ある』で今度は大差で否決して大恥かかせてやりましょうね(笑)。
特別区のデメリットは今回のことで広く市民国民に知れ渡ったと思います。個人的にはこれが脱東京23区に繋がればいいのになと思います。小池百合子の焦る顔が見たい(笑)。
藤井先生が諦めなければ神様はいるし正義は勝ちます。この勝利を日本の未来に繋げなければなりませんね。
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2020年11月5日 7:33 PM
よかった。よかった。
一回目、二回目と、藤井氏(表現者の皆様)が居なければ大阪市は解体されていた事でしょう。また、今回は三橋氏、室伏氏も全面的に都構想の嘘を理性的に解説され発信された事も大きな力になったと思います。そして水島氏も何かの呪縛?から解放されたかどうかは定かではありませんが大きな声で反対されていましたし。感謝!
太郎ちゃん(麻生では無い!)も大きな力になった。(安全保障を明確に議論出来る政党作りを期待)
感謝です!
それに引き換え! 推進派の幼稚さに呆れ返るしだい!
人間をなめとる! 陰謀論出すって…お前ら恥ずかしいやろwww
ルサンチと陰謀で作り上げたとして、その未来が正常か?
コラッ! 数学者! カッコ悪…気持ち悪…クワバラクワバラ
ほんでや! 上山か下山か知らんけど、革命??? いやいや、財務省の手のひらで転がってるだけやんw 二重の意味でおかしいでw
それから公明! 南無妙法蓮華経…
それにしても よかった!
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2020年11月7日 7:18 PM
この度の大阪都構想否決。
“真相はこうだ!桜便り 特別版「『大阪都構想』破綻とその未来・米大統領選同時中継」”で皆さんおっしゃっていたとおり、今回の住民投票の結果は、「なんでもかんでも改革・既得権益打破は正しい、全く危機感・警戒心の無いグローバリズムの賛美」という軽佻浮薄な世の潮流に一石を投じた大きな成果でした。
もちろん大阪市民の方々の良識ある判断があってのことですが、
藤井先生のご尽力に与かるところがとても大きかったと思います。衷心より感謝申し上げます。
関西芸能界で大きな影響力を持つ論客のほんこん師匠【大阪都構想反対の急先鋒】との対談動画、いくつか拝見いたしましたが、
旧帝大の偉い学者の先生にあるまじき(?)、先生の気さくで具体的で分かりやすい解説は、普通の良識がある人が聞けば、すぐ納得できるのですね。
都市機能という側面を考えれば、大阪市民というのはいわゆる『夜間人口』を構成する人たちなのであって、『昼間人口』を構成する大阪市外からの流入者(一部大阪市職員も含む)の意思が反映されないのは、今の選挙制度の限界でもあるのかなと感じました。
基礎自治体というのは国民にとって、一番身近な行政機関です。
J.S.ミルの「地方自治は、“公共精神の学校”」という言葉のご適示、本当にそうだと思います。
メディアによって、意図的に東日本大震災で上書き消去された阪神淡路大震災の記憶ですが、
あの時、自らも罹災者でありながら、経常事務も抱えながら消火・救命活動、罹災証明の発行、融資補助手続き、罹災家屋の被害度判定、非難所の設置運営、復興都市計画等々で地元で市民に怒鳴られながら最前線で奮闘した芦屋市(当該災害での対人口比において死亡者率トップなのに何故かメディアにネグレクトされた)、神戸市、西宮市、宝塚市、北淡町等基礎自治体の職員、
防災服を着たまま地元を駆けまわり、その足でその格好のまま霞が関での陳情に奔走していた基礎自治体首長を他所目に、暇すぎてテレビに出まくっていた、兵庫県知事。
救命活動で疲労困憊の神戸市消防局長を吊し上げ、最後に、「今の神戸市の消防団の人」と言い放った、久米宏。
復興都市計画の陣頭指揮に立ち、地元と国の軋轢で、須磨の海岸で灯油を被って火をつけるという壮絶な自死を選んだ叩き上げの神戸市職員だった神戸市助役のことなんて、みんな忘れてるんだよね?
その後に、その助役職が副市長職に改組され、副市長に天下った総務官僚が今の神戸市長ってどういうこったい?
大阪都構想というのは、災害の時自ら罹災しながら尽力する基礎自治体の権限を大幅に削って、
中二階で災害の際に暇すぎて選挙対策でテレビに出まくることができる火事場泥棒の府県知事に権限を大幅に委譲するということです。
これを『狂気の沙汰』と呼ばずして、何と呼ぶのでしょう?
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2020年11月9日 2:35 AM
お疲れさまでした。
この都構想の不条理は五年前藤井教授が超人大陸と新日経新聞で指摘し、賛同教授さん達を集めなければ、日本全土、誰も知らないまま通っていたかもしれません。
今回は相当苦しかったのですね。しかも票差は開いている、組織票を考慮すれば或種相当開くのかもしれません。
と、考えると藤井教授の名は或程度はメジャー傾向には在るのではないでしょうか。そうなっていかなければネオ・リベラルを潰せない気がします。
昔、維新の正体を出されましたが、“維新の正体=菅総理=日本存亡の危機”こういう御本は無理でしょうか。
最近はメディア出演が多忙かもしれないので書いただけです。
失礼しました。
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2020年11月10日 8:32 PM
>2万弱の公明票が、賛成から反対に回ったことになります
これ、誤記じゃないですか?
~~~
うんで、公明が賛成に回ったにも関わらす、公明支持者の半数は大阪市解体に同意しなかったことも大きいですね。
思ったほど公明票が動かなかった…
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