政治

2020年6月25日

【藤井聡】「無責任」なのは減税論者じゃ無く緊縮論者である~増税論者の“しがない”社会心理メカニズム~

From 藤井聡@京都大学大学院教授

 

6月23日、自民党役員連絡会で、新型コロナウイルスの景気対策として消費税減税の是非が議論になりました。

出席者によると、西田・参院国対委員長代行が税率を実質8%に引き下げるよう主張したところ、稲田・幹事長代行が「無責任だ。将来に付けを回すべきでない」と反論されたそうです。

当日は議論が平行線となったため、岸田・政調会長が「年末に向け引き続き議論したい」と引き取ったと報道されています。

ここで稲田氏が減税論者に対して差し向けた「無責任だ」と言う発言は、何も稲田氏オリジナルの言説ではありません。これは、増税派が皆、使う「レトリック」です。

この発言の背後にあるのは、次のような思想です。

(1)財政破綻すると将来、大変なことになる。
(2)消費税率が低ければ、将来財政破綻してしまう。

この二つが正しいと「断定」できる場合においてのみ、減税論者を「無責任だ」ということが正当化されます。

しかし、そんな断定は万に一つもできません。

そもそも、財政破綻したからといってどれくらい大変なことになるのか・・・という点についてもいろいろと議論があるのですが、その点を議論するのは避けて、(2)の「消費税率が低ければ、将来財政破綻してしまう」についてだけ考えてみても、そんな断定は絶対できないのはおわかりになりますよね。

そもそも、消費税が低くても成長すれば税収が増えますから「財政破綻」なんてするはずがありません。

むしろ、減税をしなければ不況が続きますから、かえって税収が減って、「財政破綻」なるものが生ずるリスクが高まるでしょう。

というか、そもそも自国通貨建ての国債で、日本が破綻しないのは、財務省が公式文書で断定している「事実」ですらあります(MMTを持ち出すなら、それをさらに論理的に証明することすら可能です)。

これらの事を考えれば、「消費税率が低ければ、将来財政破綻してしまう。」なんてことは万に一つも断定できないわけで、したがって、減税論者を「無責任だ」なんて、絶対に言えないのは明白なんですね。

・・・ですが、これだけ説明しても、きっと稲田氏も納得しないでしょうし、消費税減税なんて絶対やらないと断定している税調会長の甘利氏も、自民党の重鎮のお一人として消費減税に反対し続けている石原伸晃氏も絶対に納得しないでしょう。

彼等はもはや、(少なくとも財政破綻、消費税問題については)「人の話を聞いて、自分の頭で考える」という取り組みを放棄しているのです。

・・・こうなれば、理屈で言ってもどうしようもありません。

だとしたら、レトリックに対しては、レトリックで対抗するしかありません

つまり、「理性」や「知性」に働きかけるのではなく「感情」「情動」に働きかけるしかありません。

・・・ではどうすればよいのかというと・・・

まず、多くの(特に自民党の)政治家の皆さんが、減税論者に対して「無責任だ」と発言するのは、それが正しいからなのではなく、「そういった方が、自分が責任ある政治家であるということをアピールできるから」という理由以外に何の理由もありません(ホントバカですね 苦笑)。

そうすると、彼等の身の回りの人々も、特に日本経済とか財政の事についてマトモに考えた事がある人なんてほとんど居ないから、

「そうだそうだ、さすが、この人は責任感ある発言をなさる、立派な方だ!」

と賛同することになります(まぁ、そういう人の多くは財界などにたむろしている老害満載の年寄り達です)。

そうすると、くだんの政治家さん達は褒められるので、うれしくなって「無責任だ!」と何度も繰り返してしまうことになるわけです。

しかも、日本の官僚の中でもとりわけ優秀、かつ大きな(他省庁の官僚よりも圧倒的に強い)権限を持っている財務官僚達が皆、

「先生、さすが立派な責任感をお持ちですね、素晴らしい!」

と褒めそやしてくれるものですから、ますます気持ちよくなってしまうわけです。

しかも、年次が上の議員になってくると、若手議員に「マウント」を取って「エラソー」にする必要がでてきますから、この「無責任だ!」という批難言葉は、非常に使い勝手が良いわけです。

そこで、若手議員があぁだこうだと言い返して来ても「減税なんてもってのほか。無責任だ!ここまで上げるのに私達がどれだけ苦労したと思ってるんだ!」なんて声高に叫べば、もう若手は逆らえません。

こうして悔しい思いを何度も繰り返していく内に、若手議員達もその内本当の事を言うのがメンドクサクなってきて、「そうっすよね、○○先生!減税なんて無責任っすよねぇ!」なんて口走る立派なジミントウギインができあがってしまうという次第です。

そうやって、自民党の中で、そして、官僚や財界の人達も交えながら毎日毎日、何年も何年も「無責任だ」→「さすがご立派!(笑顔)」という小芝居を続けている内に、条件反射の様に、消費税の減税を唱える論者を目にした途端

「無責任だ!」

とパブロフの犬のように叫んでしまう人物ができあがるわけです。

この人達をどうすればいいのかと言えば・・・結局彼等は「空気」でしかモノを考えず、理屈なんてマジでどうでも良いという事になってるわけですから、結局はもう、「空気」を変える他ありません。

それを考えたとき、コロナ大不況でトンデモない経済状況になっている今こそ、消費税減税に反対する議員、政府支出をカットしようとする議員達に向かって

「こんな大不況を放置しておくつもりか!?無責任じゃないか!」

と叫べばよいのです。

これこそ、コロナ禍で国民が苦しみ抜いている今、国緊縮論者を打ち負かす「レトリック」として有効に機能し得るのではないかと思うのです。

とりわけ、4-6月期のGDPが公表されると、その凄まじい経済被害の実態が明らかになるでしょう。その時こそ、

「貧困にあえぐ国民を放置してはならない。
このまま放置すれば、次世代まで貧困が継続されるではないか。
今こそ消費税ゼロが必要だ!」

と主張し、それに反対する政治家達を、

「なんという無責任!今の国民を見捨てるのか!?子供達に不況ニッポンを負の遺産として引き継ぐのか!?」

と徹底的に批難すればよいのです。

今や、多くの国民はもはや、遠い将来の財政破綻なんかより、目の前の貧困、次世代の貧困をこそ、大いに憂慮しているのです。ですから、財務省が何十年もの間、各政党内で地道に展開してきた「増税しないとヤバイぞ空気」を打ち破れる機会が今、訪れているのです。

この最悪のコロナ状況からの逆転を考えるためにも、

「無責任なのは減税論者じゃ無く、緊縮論者なのだ!」

という転換(ピボット)が今、求められているのだと思います。

是非、いろんな局面でこのロジック(=論理)ではない「レトリック」を、ご活用下さい。

追申:以上に論じたのは「空気」の話。これをさらに突っ込んで解説しつつ、コロナ問題に展開しました。人間、そして、社会のおぞましさをクッキリとご理解頂けると思います。是非下記ご一読下さい。
『「空気を支配」した人間が「日本を支配」する。そしてコロナに関する「空気」の最大の勝者は「西浦教授」その人であった。』
https://foomii.com/00178/2020062021125367717

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【藤井聡】「無責任」なのは減税論者じゃ無く緊縮論者である~増税論者の“しがない”社会心理メカニズム~への8件のコメント

  1. 大和魂 より

    先日は沖縄の慰霊の日を迎えるものの我が国の戦後は未だに継続した中にあるのです。したがって政治と外交の欺瞞は未だに放置されたままであると同時に我が国の安全保障も重ねた状況はとても看過されるものではありません。その状態の中で沖縄の本土復帰と同じく在日沖縄米軍基地との関係には、実のところは様々に複雑で深刻な問題が存在しているのです。それなのに、我が国の愛国者気取りの連中は、それを知りつつ先送りしておりとても正当性に欠けている卑怯な振る舞いをしているのです。なぜならそこに日中国交正常化交渉から拉致問題や尖閣問題やら北海道の土地買収問題などの複雑な背景が存在しているからです。しかし与党の一部も、各々の野党もそれを背景として結局は自分たちの保身のために、卑劣にもそれを利用しているだけなのです!つまり永田町は下劣にも保身を利用した腐敗の巣窟なんですね。なぜなら財政の問題でも安全保障と同じスタンスを決め込んでいるからです。特に自民党の執行部と与党の一部と維新の会の連中なんて、それをサイコパスで利用して勢力拡大を目論んでいるから、それらの浅ましい勢力とメディアだけは断じて許しませんわ!!

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  5. TEaD より

    遅々として進まない持続化給付金について、「遅れているのではなく、むしろ電通などを介して生かす国民と野垂れ死にしてもいい国民とに選別している。「お友達」が前者で、庶民が無論後者である」とコメントしたところ、これの受けが結構よかった。
    この文章で私は、「不況を自力で乗り越えられない企業はつぶれてしまえばよい」という自己責任論が思想的な背景にあり、財政破綻論がその根底にあるとも書いた。

    やはり、「政府は自分たちのことを見てくれていない」という国民意識を突くのが重要なんだなということを思い知らされる。
    このコメントでは、さらりと「『税金の無駄遣い』という批判は先の自己責任論と同じ穴の狢である」とも書いたが、「そう思わない」が意外と少なかった。自分の持ち合わせている常識に沿うか否かは二の次ということなのかもしれない。

    リアクションの母数が少なく、統計的な裏付けがなっていないのが残念ではある。それでも、「わかっている人は分かっている」と実感を持てたのは嬉しいところ。

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