From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学
おっはようございまーす(^_^)/
少し前ですが、今月3日の憲法記念日に産経新聞(九州・山口版)の連載コラムに次のようなものを書きました。
「日本の文化・伝統を下敷きに改憲論議を」【国会を哲学する 施光恒の一筆両断】(『産経ニュース』(2018年5月3日(木・祝))
https://www.sankei.com/region/news/180503/rgn1805030044-n1.html
この中で、以下の通り記しました。
「やはり日本の憲法は、日本の文化や伝統、および日本人の道徳観を下敷きにしつつ、国民的議論を繰り返すなかで制定される必要がある。そうでなければ、日本人が真に誇りや愛着を感じ、順守しようとする憲法にはならないであろう」。
産経のコラムは毎回、ヤフー・ニュースにも転載されるのですが、そちらでの読者コメントに次のようなものが寄せられていました。
「憲法って国を縛るものなのになんで道徳がどうとか言い出すのか理解不能…」
こういうコメント、たぶん来るだろうなと思っていました。
(`・ω・´)キリッ ソウテイノハンイナイナリッ
最近、主に、リベラル派(左派)の人々が「憲法とは、国民を縛る規範ではなく、政府(為政者)を縛るものだ」ということをやけに強調するのをよく見かけるからです。
憲法記念日の朝日新聞の社説にも、次のような文言がありました。
「そもそも憲法とは、国民の側から国家権力を縛る最高法規である」。
「(社説)安倍政権と憲法 改憲を語る資格あるのか」(『朝日新聞』2018年5月3日付)
https://www.asahi.com/articles/DA3S13478086.html?ref=opinion
しかし、こういう「憲法とは政府(国家権力)を縛るもの」という見方、一面的です。
本メルマガで上島嘉郎氏も朝日社説のこの文言について、「随分、乱暴な括り方」だと指摘し、憲法とは、「国家の基本的事項を定め、他の法律や命令で変更することのできない国家最高の法規範」と認識するのが普通だろうとお書きになっていました。
【上島嘉郎】「平成最後の憲法記念日」(『新日本経世済民新聞』2018年5月4日配信)
https://38news.jp/economy/11899
私も同感です。
確かに、近代憲法では、「政府(為政者)に制約を加える」という側面もあります。この側面も大切ですが、そればかりではなく、国家の基本的な理念や制度の大枠を定め、表すという面も同時にあります。
私が産経のコラムで言いたかったのは、日本の新しい憲法は、やはり日本の文化や伝統、日本人の道徳観といったものを基盤の一つに据えるものでなくてはならないということです。
そうでなければ、「我々自身の憲法」「我々の守るべき憲法」という愛着が国民の多くに生まれず、新憲法は安定的なものになり得ないでしょう。
左派・リベラル派の人々が非常に強調するように、「政府を縛り、政府の権力行使に制約を加える」というのも憲法の役割の一つですが、その場合も、文化や伝統といったものが関わってきます。
以前、評論家の中野剛志氏が次のような趣旨のことを語っていて、なるほどそうだよなと思ったことがあります。
保守思想の観点に立てば、一国の憲法とは、その国の歴史や伝統、慣習のなかから形成されていくものでなくてはならない。憲法とは、確かに、時の政府を縛る機能も持つ。だが、憲法のそうした機能もまた、歴史や伝統、慣習を下敷きにしたものでなくてはならない。すなわち、一国の歴史や伝統、慣習のなかに育まれてきた規範が、時の政府の権力行使に一定の制約を加えるのである。
さらに言えば、民主主義国家では、政府(政治権力)とは民主主義によって選ばれますので、憲法とは、そのときどきの民主的意思決定に制約を課すものでもあります。一国の歴史や伝統、慣習が、移ろいやすい民主的意思決定に対する歯止めの役割も果たすのです。
もちろん、日本を含め、どの国の文化や歴史、伝統も、さまざまな要素を持っています。どう考えても、時代にそぐわなくなったもの、非合理に思われるものもあるでしょう。
たとえば、米国の歴史には、奴隷制や魔女狩りの伝統も含まれています。他方、米国人が誇りにしてきたような自由民主主義の伝統というものもあります。米国は、多様なアメリカの歴史のなかから、よき伝統、伸ばすべき伝統とは何かを広く国民的に議論し、それを定式化・体系化し、憲法に反映してきたのだと言えるでしょう。
多くの国々は、多かれ少なかれ、こういう作業を繰り返しつつ、「我々のもの」だと感じられる憲法を形作る努力をしてきています。
日本でも憲法改正の機運が徐々に高まってきつつあります。ですが、九条をどうするかなどの比較的細かい点に議論がどうも集中してしまう傾向があります。
九条改正をめぐる議論も、北朝鮮の脅威をはじめとする現在の不安定な国際情勢の下では大いに重要です。喫緊の課題です。
しかし同時に、日本の豊かで多種多様な側面を持つ文化や歴史、伝統、慣習のなかから特に大切にすべき規範は何か、どの部分を特に伸ばし、次世代へと継承していくべきなのか、といった議論も常日頃から絶えず行っていく必要があります。
そういう作業を常に繰り返していかなければ、改憲の機運が高まり、実現したとしても、「我々のもの」と感じられ、愛着を抱けるような安定的な憲法は作れないでしょう。
産経の拙コラムでは、例えば、日本の歴史のなかに平和愛好の伝統を見出すことも大いに可能だという話に触れました。
具体的な改憲論議と並行して、我らが日本の多様で豊かな歴史や伝統、慣習のなかのどの部分を特に伸ばし、次世代へと継承していくべきなのか、そういう議論をもっと活発に行う必要があるはずです。そちらの議論も盛り上げていきたいものです。
長々と失礼しますた<(_ _)>
●施 光恒からのお知らせ
産経のコラムのなかでも触れていますが、昨日、新刊『本当に日本人は流されやすいのか』(角川新書)が発売となりました。
https://www.amazon.co.jp/dp/4040820290/
https://store.kadokawa.co.jp/shop/g/g301502001304/
日本人自身が自分たちの文化や道徳観をよりよく知り、穏やかな自信を回復することを一つの目的とする本です。ぜひ手に取っていただけましたら幸いです。
<(_ _)>
【施光恒】憲法論議と文化や伝統に対する自信への7件のコメント
2018年5月11日 12:17 PM
日本の伝統 文化 徳目
それらを表象するのが
三種の神器
八尺瓊勾玉は祭祀 信仰
草薙剣は 軍事
八咫鏡は 経済
三種の神器の精神を体現したのが明治憲法かと、、、
現行憲法を破棄して明治憲法に戻し そこから憲法論議を始めるのが筋
筋を通さぬ議論など屁みたいなものでございませう。。。
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2018年5月11日 12:23 PM
施先生のすごく腑に落ちる憲法議論のビジョンありがとうございます。
役割というならば、時間軸における安定装置、ということですよね。革新思想家、改革愛好者には理解しがたいかもしれませんですが。
継いで伸ばすべきよき特質を記す、そう自分も思います、そしてそれは、普段は意外と見えづらく、非日常のとき、たとえば大震災のときでも店舗に列を作って待つような、そんな国民性をありありと表すような、そんな内容の憲法であってほしいと自分は思います。
日本人はとてもステキ、半分ダメなところも、いとおしい。
日本をヘイトするような、またその一派には、憲法に触れてほしくない、なんでも他国を肯定して自国を批判すればカッコいいつもりの人たちには。
そう思います。
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2018年5月12日 10:37 AM
日本で初めて律令制度を具体化したのは十七条憲法だと思いますがあの精神は正に日本の慣習や伝統だと思います
西洋近代的な近代憲法の精神より、十七条憲法の方が日本の慣習に合ってるような気がします。その後の色々な日本で作られたそういうものも加味してやった方がいいですよね。今のグローバルな時代だからこういう文入れろとか今のグローバルな時代だからこういう考えがグローバリズムな時代に適した物じゃなくて
やっぱ日本の伝統や慣習に加味した物にしてもらいたいです。
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2018年5月12日 2:25 PM
四年前のコメントを再現します
伊藤貫さんは『 「 国際法違反である日本国憲法は無効である 」 と宣言して、日本はイギリスのように成文憲法を持たない国になれば良い」 』と主張していますが、私も伊藤さんの主張に賛成です。
ノーベル賞については、世界的数学者・志村五郎さんが、次のように述べています。『 私よりはだいぶ若い世代の人が苦情を私に言う事がある。「 自分より劣る人が学会の講演者に択ばれて、自分は択ばれなかった 」 とか、「 あの連中は党派を作って自分のようにその外にいる人の論文の発表をじゃまする 」 とかである。そんな事はどこにもある。 ” ノーベル賞を含むあらゆる賞は当代下劣の人達がよしと思って択んでいる ” と言ってもそれ程間違いではなかろう。 だからその種の不公平を気にするのは無駄である。 』ノーベル賞はねぇ・・・ あまり興味がありません。
今回ノーベル賞は関係ありませんが、全文を掲載しました
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2018年5月12日 4:42 PM
施さん、上島さんのおっしゃる通りです。
ところが、岩盤規制の突破だの、小学校から英語だの、都構想だの、種子法廃止だの、人づくり革命だの、不実を基に法案審議がなされるだの、改憲を目指す肝心の政権や保守勢力に、口を開けば出て来る歴史や文化、伝統、道徳を守る気がさらさらない。例えるなら、出発準備はかなり整ってきているのに、離陸前から旅客機の前輪が擱座してしまっている。
確かに朝日の物言いは「一面的」だが、憲法の大切な役割には違いない。いわば主脚であって、これを朝日の言うことだから朝日ごと打ち砕いて構わぬという改憲論者が仮にいるのであれば、9条護憲で恒久平和を説く左と同じで、前輪なし主脚なしの胴体のみでとにかく離陸=改憲を試みよと騒ぐようなもの。
GHQの名が出てきましたが、GHQは課せられたおぞましい任務を果たしたに過ぎない。いま改憲を掲げる政権は有権者に騙っているぶん、おぞましいGHQよりもタチが悪い。
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2018年5月16日 9:34 PM
「本当に日本人は流されやすいのか」読ませていただきました。
リゲインのCMの変遷が語られていた部分では思わず吹き出してしまいました。
<日経新聞電子版2017/5/26 熱意ある社員 日本6%のみ>
リゲインのCMの変遷
90年代初頭モーレツ社員時代のCM「24時間戦えますか」
1992年「全力で行く。リゲインで行く」
1994年「くやしいけれど、仕事が好き」
ここら辺まではモチベーションは保てていたらしい、ところが90年代後半になると
1996年「その疲れに、リゲインを」
1999年「たまった疲れに」
2004年「疲れに効く理由がある」
2014年「24時間戦うのはしんどい」
CMというのは、実に世相を良く表しているのだなあと、プロの仕事の凄さをあらためて感じました。
その他、欧米型の自立性の確立と日本型の自立性の確立、ヨーロッパの怪談と日本の怪談の違い、妖怪と幽霊の違い等々、様々なネタが仕込まれていたせいか読書が苦手な私でも最後までスルッと読めました。
著者の施光恒さんによると、この本は色々な人達とのやり取りの中で生まれたものだとの事。
欧米では歌(創造性)は個人が生み出すものだが、日本の詩歌(和歌や俳句=日本の創造性)は歌会や句会といった社交の場で人と人とが関係を持つ事で作られるもの。
この本は、まさに日本の創造性をもって作られたものだと言えるのではないでしょうか。
著者の施光恒さんのみならず、この本の誕生に寄与した多くの方に感謝いたします。
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2018年5月16日 9:48 PM
本の内容についてですが、
>>グローバル・スタンダードの影響は雇用改革だけに留まらず、商法、金融制度(日本版金融ビックバン)にも及んだ。
それまでの日本型(=株主のみならず従業員や消費者、取引先、地域社会との関係をバランスよく重視するもの)から株主利益を第一とするアングロ釈尊型になった。
今では日本企業の外国人株主は東証の上場企業の3割以上にのぼり、売買高だけなら6割~7割が外国法人の手によるものになった。
こういったグローバルスタンダードが取り入れられた結果、現在では外国人株主に気に入られるようにと
・企業統治の仕組みや会計基準を変え、配当が何より優先されるようにする
・人件費をやすくしたり、解雇しやすくするため雇用改革や規制緩和を行う
・各種の福祉や公共サービスを削減し、企業の社会保障負担を減らす
・法人税を引き下げる
・各種関税を撤廃する
・国民が絶対に使わざるを得ない電気ガス水道や医療・教育・農業といった分野を民営化し、外国人投資家がそういった分野から安定して利益を吸い上げる事ができるようにする
といった事が行われている。
本来、改革とは自分達の生活をよくするために少々の我慢をする、そういった物のはず。
ところが、現在行われている改革は「グローバル化のため=グローバル企業・投資家のため」なのである。>>
特に最後の部分、電気ガス水道、医療・教育・農業をグローバル投資家に捧げようとしているという行は、三橋貴明さんの「日本を破壊する種子法廃止とグローバリズム」を読んだ後だったので、本当にゲッソリきました。
昨今の農協改革もグローバル投資家様に日本の農業市場を献上して差し上げるために行われているものですよね。
やはり、日本が世界のリーダーシップをとるというのであれば、各国と協力して「資本の国際移動に一定の制約をかける」必要はありそうです。
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