財務省の森友文書改竄問題を追及し続ける朝日新聞。その陰に隠れて目立ちませんが、長年の主張である「反原発」にも一層力を注いでいます。
「反原発」「脱原発」といった主張を展開すること、そうした願望や希望を表明するのは自由ですが、中身をみれば、政策論として提示するにはあまりに現実から乖離しています。
昨年12月、広島市の住民らが四国電力伊方原子力発電所三号機の運転差し止めを求めた仮処分の即時抗告審で、広島高裁の野々上友之裁判長は運転停止を命じる決定を下しました。
その理由として野々上裁判長は伊方原発から約130キロ離れた阿蘇山の巨大噴火の可能性を挙げ、約9万年前に起きた「破局的噴火」が発生したら「火砕流が伊方原発敷地内に到達する可能性は否定できず、原発立地には適さない」と述べました。
この決定について、朝日新聞は社説で《伊方差し止め 火山国への根源的問い》(同年12月15日付)と題し、〈原子力規制委員会や電力会社は決定を真摯に受け止めるべき〉で、〈再稼働を進める政府は教訓に立ち返り、火山国で原発が成り立つかも検討すべきだ〉と主張しました。
広島高裁の判断も、朝日の社説も、「非現実的な理想主義」を謳って国民の頭から「現実」思考を消し去るものではないかと思います。かりに阿蘇山で「破局的噴火」が起きたら九州全体が火砕流で灰燼に帰し、日本全体にも被害が及ぶでしょう。
野々上裁判長は「破局的噴火」の発生確率が「日本の火山全体で1万年に1回程度」であることを認め、そうしたリスクについても、無視し得るものとして容認するという社会通念が国内に定着している、と述べながら、運転差し止め理由に「1万年に1回程度の火山の破局的噴火」を挙げたのです。
これは冷静な法理や科学的知見に基づく判断というより、現実の世界にはあり得ない「ゼロリスク信仰」で、それへの帰依を求めたものと言わざるを得ません。それに従うのなら、九州新幹線や在来線も運行を停止し、九州自動車道も閉鎖すべきとなるでしょう。
原発の「安全性」を追求することは不可欠だとして、それでも「安心」という人間の心理を完全に満たすことはできません。「安全」は科学的な指標に基づいて評価可能ですが、「安心」は個々人によって違います。
安心が得られないものはすべて利用を止めるべきとするなら、言い古されたことですが、マッチは火事の元、刃物は殺人の道具、自動車は交通事故の元凶として人間社会から取り除くことになる。
昭和21年(1946)から平成27年(2015)までの日本全国の交通事故死者数(累計)を調べたことがあります。実に62万6000余に及びます。自動車という文明の利器によって「交通戦争」が引き起こされ、約70年の間に私たちはこれだけの人命を失ったのです。
にもかかわらず、私たちは「クルマとの共存」という道を放棄していません。様々な技術改良が施され、人間側の自動車の取り扱いルールも向上し、事故死者数はどんどん減ってきました。
プロメテウスから火をもたらされてから、人類はその炎によって繁栄し、また災禍を被ってきました。科学が発達し、人間がどれほど高度な技術を掌中にしようとも、人間は「運命」から逃れられないし、運命は人の世に完全なる「安心」を保証しない。
2015年に政府はエネルギー基本計画に基づくエネルギーミックス(電源構成)を策定し、2030年時点において原子力発電の比率を2010年時点の29%から20~22%に低減し、再生可能エネルギー(水力発電を含む)を2010年時点の10%から22~24%と原子力を上回る設定にしました。事実上原発への不安感に「配慮」したからですが、現時点では再生可能エネルギーだけで必要な電力を賄えないことは、はっきりしています。
(1)実用可能で安価な大容量蓄電池は実現していない。
(2)太陽光発電は、夜はまったく発電できない、曇りや雨の場合は発電容量が激減する。
(3)風力発電は、風が吹かなければ発電しない。風が強すぎても発電できない。台風襲来などの暴風時には羽根などが破損しかねないので発電を停止しなければならない――等々。
菅直人元首相のように「必要な電力はすべて再生可能エネルギーで賄える」とか、朝日新聞のように〈節電の定着で、原発がなくても深刻な電力不足が心配される状況にはない〉(3月16日付社説)とかいう主張にどれほどの根拠があるか。
この冬、首都圏は大停電の危険性がありました。東京電力が想定する「10年に1度の寒波」による電力需要4960万kwに対し、大雪の影響で太陽光発電が十分機能せず、5000万kwを超える日が度々あったのです。
電力需要に対し電力会社の供給力がどの程度の余力を持っているかを示すのが「供給予備率」です。安定供給を維持するには最低限3%必要とされ、これを切るといつ停電になってもおかしくない。
この冬の需要は供給力の99%と見込まれた日もあり、東京電力は火力発電所をフル稼働させ、また北海道、東北、中部、関西の各電力会社から融通を受け、大口ユーザーに節電を要請して凌ぎました。
夏場も3%近くになることが常態化していて、東京電力単体では綱渡りの供給を続けているのが実態です。
原発停止の代替である火力発電の焚き増しによる化石燃料の負担も増加し、東日本大震災が発生した2011年度からの3年間だけでも計9兆円超。これはざっと消費税3%分が燃料費のため海外に流出した計算になります。
「電気は足りている」というのは種々の負担増の上に成り立っているわけで、それは現在も続き、電力各社の経営を圧迫し、国民も電気料金の値上げ(ほかに再生可能エネルギーの固定価格買取制度による賦課金)という形で負っています。
すべての発電用原子炉の廃止を政府目標とする「原発ゼロ基本法案」を推し進めようとする立憲民主党と、それに賛同する朝日新聞などのマスメディアは、電力事業がいかに精緻に組み立てられ、その維持にどれほどの努力がなされているかを熟考したようには見えません。「非現実的な理想主義」がどれほどの混乱をもたらすか。
福島第一原発事故によって、原子力技術の利用に伴う危険性は国民の間に強烈に印象づけられましたが、それはどれほど正確な科学的知見に基づくものだったか。民主党政権下の政治的混乱とメディアの恣意によっていたずらに増幅された恐怖だったのではないか。
さらには、日本の反原発運動及びそれを主張するメディアが欺瞞的なのは、他国の原発には何も言わないことです。中国や韓国の原発に危険性はなく、日本の原発にだけ危険性があるのか。「反日運動の正体見たり」という気がします。
確かに原子力発電はバラ色ではない。廃炉や廃棄物処理など克服すべき課題も多い。将来の方向性を議論することは不可欠です。その場合、原子力を利用することに伴う危険性と、利用しないことで生じる危険性とを比較衡量することが大切で、そこに科学的知見や合理性を超えて、ある種の政治的偏向や過剰な情緒を持ち込んではならない。朝日新聞にも、立憲民主党の「原発ゼロ法案」にも、それが著しく欠けています。
どんなに想定し、どんなに準備をしようとも、人間は「運命」からは逃れられない。できることは運命や絶望について学び、「ゼロリスク」などという現世にけっしてない言葉と決別することではないでしょうか。人間としての成熟を促さない「議論もどき」がメディアと永田町で喧しいのは、なんとも悲しいことです。
〈上島嘉郎からのお知らせ〉
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●日本文化チャンネル桜【Front Japan 桜】に出演しました。
(3月30日〈河添恵子の国連スピーチ報告/朝日よ、自らの綱領に恥じることはないか/習近平と金正恩~史上最悪の関係から脱したかった諸々の理由〉)
https://www.youtube.com/watch?v=A9RCYHFn5FA
(4月2日〈新聞社と放送法4条撤廃/現実乖離の再生可能エネルギー派/天皇皇后両陛下与那国島行幸啓/映画『きみへの距離、1万キロ』〉)
https://www.youtube.com/watch?v=_Mjph45AzPg
【上島嘉郎】「非現実的な理想主義」がもたらす混乱への3件のコメント
2018年4月6日 3:15 PM
日本 死ね。。
彼等の胸中にあるものは
一言で申せば こういうことかと、、、
核武装には欠かせない原発
だれが手放すものですか
Live and Let Die
死ぬのは奴らだ。。。
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2018年4月6日 9:40 PM
かつて左翼の美濃部がファノン「橋の論理」の真意である後段を省略し都合よく用いて批判されましたけど、上島さんも美濃部と同じ手法で論じてはおられませんか。
13年9月、安倍首相のブエノスアイレス発言に触れないのはなぜですか。例の、お案じの向きにはわたくしから保証する、フクシマは完全に「アンダーコントロール」されている旨の、極めて不用意で不正確な発言のことです。
これ、消極的でも原発を依然必要と考える私どもに対する嫌がらせにしか聞こえなかっただけでなく、案の定小泉氏が安倍さんを公然と非難し、運動を完全に勢いづかせてしまった。
理想主義に駆り立てている責任は、安倍さんと周辺のお囃子連中にも負うべき点が少なくない。それに築地が理想主義なら安倍に反対するのは皆左翼とでも言いそうないまの大手町もじゅうぶん理想主義だと思います。
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2018年4月7日 7:18 PM
最重要な電力供給について、このように解かりやすく書かれた記事も無視、理解できない多数の国民。A.M.T. K.N新聞+N放送の7年余続く執拗な脱原発報道で洗脳されてしまった不幸な国民。同レベルの 国、地方政治屋議員、首長に展望なし。次世代のため、この国を救うため 上島さまの正論、啓発記事の継続を期待します。
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