From 小浜逸郎@評論家/国士舘大学客員教授
高校の日本史、世界史で学ぶ用語を現在の
半分弱の1600語程度に減らすべきだとする提言案を
高大連携歴史教育研究会(高大研)がまとめました。
人物では坂本龍馬、上杉謙信、武田信玄、ドストエフスキー、
ガリレオ・ガリレイ、ロベスピエール、マリー・アントワネット、
事項ではアンシャンレジーム、バロック式、
竪穴住居、旅順占領などが削減対象とされています。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23658500Y7A111C1CC1000/
高大研の言い分によると、
「用語が多すぎて、授業でとても教えきれない。
暗記を嫌う生徒にも歴史科目が敬遠される」
そうです。
一方、歴史の流れの理解に必要として
「共同体」「官僚制」など社会制度上の概念を示す用語や、
「気候変動」「グローバル化」など現代社会の課題に
つながる用語(概念語)を追加するとか。
これには、文科省の息もかかっています。
中教審が2016年12月の答申で、歴史や生物の教科書について
「重要用語を中心に整理し、考察・構想させる教材にすべきだ」
と指摘したのです。
同省は今回の用語削減案を
「思考力や表現力を重視する国の方向性と同じ」と評価しています。
さてみなさんはこれについてどう思いますか。
まず「高大研」という組織がどれほど影響力を持つのか、
また政治的性格を持つのか今のところ詳らかにしません。
しかしサイトを調べてみると、会のテーマや報告課題の中に、
「21世紀アジアとの共生」とか、
「ジェンダー視点のある歴史教育とは何か」
などのタイトルが並んでいますから、この組織が
サヨク性を持つのはほぼ間違いないだろうと思います。
http://www.kodairen.u-ryukyu.ac.jp/
そして目下、今回の提言案に関して広くアンケートを実行し、
歴史教育での用語減らしに大きなエネルギーを注いでいるというわけです。
この種の組織が活動を続けるのは自由ですが、二つ問題点があります。
一つは、この組織が文科省と浅からぬつながりを持っていて、
同省の方針と合致している点です。
この組織が力を持てば持つほど、高校の歴史教育に
影響力を及ぼすことになり、現実に教科書の用語が削減され、
入試問題作成や授業は制約を受け、結局、
これまで共有されてきた歴史の常識の空洞化につながります。
さらに言えば、こんな提言が実際に通用すると、
ただでさえ歴史戦で中韓に負けている日本はますます劣勢になります。
つまりは、意識的と無意識的とにかかわらず、この
「愚民化路線」はやはり反日勢力を喜ばせることになるのです。
第二に、そもそも用語減らしという方針が
「思考力や表現力の重視」につながるとする考え方そのものが、
高大研のみならず、文科省も含めて、根本的に倒錯しています。
豊富な語彙を身につけてこそ、思考力や表現力は始動するのです。
教える語彙を減らしてどうやって思考したり表現したりできるのか。
暗記を減らしてその隙間に思考力や表現力を注入するつもりらしいですが、
それはたとえて言えば、不足した食材で美味しいレシピを考えろというのと同じです。
引き算だけやって空いた部分にどんな足し算をするのか、そのアイデアが何もないのです。
また「概念語」は抽象度がそれだけ高いのですが、
その抽象性に生き生きとした具体的なイメージを与えるのは、
個々の語彙とその連関、つまりは一定のまとまりを持った文脈です。
豊富な語彙がなければ、
概念語の正確な理解が進むはずがないのです。
高大研の言う「歴史の流れの理解」のためには、まず、
いつどこで、誰々が、何々をしたという具体的な
事件、事象、物語が必要です。そのための「用語」なのです。
たとえば、高大研は、新たに付加する「概念語」の例として、
「共同体」を挙げていますが、
「アンシャンレジーム」や「ロベスピエール」を外してしまうと、
ヨーロッパ前近代において、古き「共同体」的な秩序の
最後の砦であった絶対王政がどのように崩壊していったのかを、
現実に即してうまく説明できなくなります。
具体的な用語の出てこない「概念語」だけの歴史など、
面白くもなんともないはずです。
高大研とやらは、歴史の専門家を集めているはずなのに、
こんな基本的なことがわかっていないのです。
暗記がたいへん、などというのは理由になりません。
なぜなら、四割が大学進学する現在、
一流大学を目指す進学校と三流大学に入れればよしとする「凡庸校」では、
通ってくる生徒の暗記力に雲泥の差があり、
大学側もそういう事実を承知の上で
それぞれのレベルに合った入試問題しか作らないからです。
暗記事項のスタンダードなど作っても意味がありません。
優秀な生徒はもともと大量の暗記に堪える学力を持っていますし、
そうでない生徒はスタンダードのあるなしにかかわらず、
初めから暗記の意欲に欠けているからです。
また、優秀な生徒は、暗記力旺盛なこの時期に、
たくさんの用語の連関によって一定の文脈を頭に入れることによって、
個々の歴史事象の流れをつかみ、やがて歴史を学ぶことの
本当の意義を体得するでしょう。
思考力が未熟な生徒や、やる気のない生徒は、
具体的な語彙を減らした上に概念語を増やしたりすれば、
ますます歴史への関心を失い、成績も伸びないでしょう。
教育現場では、生徒のレベルと授業時間の限界に合わせて、
先生方が取捨選択すればよいのです。
大事なポイントは、用語の多寡ではなく、
歴史がもともと持っている「物語性」を、
いかに巧みに生徒に印象づけるかという、教育法にこそあります。
以前、このメルマガでも取り上げましたが、
こうした用語削減の試みは、文科省が以前からやってきました。
https://38news.jp/column/10274
「聖徳太子」「士農工商」「鎖国」「元寇」などを
歴史用語から抹殺しようとしてきたのです。
ちなみに「士農工商」はすでに
高校までの歴史教育では抹殺されています。
「聖徳太子」「鎖国」「元寇」抹殺案は、幸いにして、
アンケートで猛反対に会い、とりあえず引っ込めたようです。
しかしまたぞろ高大研のような勢力が、
「用語が多すぎる」といった屁理屈をつけて、
愚民化に拍車をかけようとしています。
危険と言わなくてはなりません。
文科省はゆとり教育の失敗にまだ懲りないようです。
愚かなインテリどもはロクなことをしません。
【小浜逸郎からのお知らせ】
●『表現者』連載「誤解された思想家たち第28回──吉田松陰」
(10月16日発売)
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●ブログ「小浜逸郎・ことばの闘い」
http://blog.goo.ne.jp/kohamaitsuo
●来年は明治150年です。これを期して、いま、
『福沢諭吉と明治維新』(仮)という本を書いています。
もう少し時間がかかりそうですが、なるべく早く書き上げます。
どうぞご期待ください。
【小浜逸郎】歴史用語削減に断固反対するへの8件のコメント
2017年12月7日 8:30 AM
ロベスピエールを教えなければフランス革命の末路までの過程がわからないのでは・・・。
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2017年12月7日 9:22 AM
緋縅ならで紅の 血汐たばしる籠手の上
心残りは有らずやと 兄の言葉に弟は
これ皆かねての覚悟なり 何か嘆かん今更に
さは云へ口惜し願はくは 七たびこの世に生まれ来て
憎き敵をば亡ぼさん 左なり左なりとうなづきて
水泡と消えし兄弟の 清き心は湊川
「青葉繁れる」を知らなくても、正成を載せないなんて、いったいなに考えているんですかね。
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2017年12月7日 11:37 AM
>優秀な生徒はもともと大量の暗記に堪える学力を持っていますし、
>そうでない生徒はスタンダードのあるなしにかかわらず、
>初めから暗記の意欲に欠けているからです。
ズバリ!
(柔軟な教育はどこに?)
>思考力が未熟な生徒や、やる気のない生徒は、
>具体的な語彙を減らした上に概念語を増やしたりすれば、
>ますます歴史への関心を失い、成績も伸びないでしょう。
ガツンと!
(生徒のやる気育成はどこに?)
先生のお話、まったくすぎて自分の浅はかなコメントがためらわれます。
彼ら自身はグローバル化という概念にて時代の先を取っているつもりでしょうが、やってることはチープなスタンダードを上から押し付ける時代遅れの反ダイバシティ思想ということですね。
(異論を許さないサヨクと同構造)
ちなみに高大連携歴史教育研究会のHPの新着情報には
「日本学術振興会グローバル展開プログラム『国民国家型の大学歴史教育をグローバル化時代に適応させる方法に関する国際比較』第3回研究会のお知らせ」
とあったり、リンク先に
「比較ジェンダー史研究会」
とあったりするので、まぁ、そんなものなのでしょう。
国民国家という概念そのものが、彼らの敵なのでしょう。
日本国は神経の髄から腐ってしまっているようです。
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2017年12月7日 2:47 PM
愚民化教育
従来の歴史教科書を墨で塗る
GHQの工作員が いまだに 跋扈なさってるんですね。。
世が世なら
坑に生き埋めにされるべき方々でしょう
が、、、
自戒を込めて
「焚書坑儒」は 墨を塗ることなく 墨守なさるなのか しら ん。。。
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2017年12月7日 3:34 PM
もともと日本の歴史教育は歪めた反日歴史教育であり、その上とてつもなくつまらない他人事の断片的な内容のない歴史だった。
敗戦により日本はほとんど亡国となり歴史を奪われ教育を奪われてきた。
現日本国家にとって現日本史は主権喪失そのものを現していると言えるだろう。
明らかに重要な語句を教科書から減らし抹消しようという動きは
さらなる歴史教育の弱体化と白痴化、ナショナリズムへの興味を失わせる目的があるのだろう。
歴史の物語性や歴史の流れに興味を持たせるものはますます日本の教育から消えていくのかもしれない。
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2017年12月8日 12:01 PM
「アクティブラーニング」の中身が何なのか分からないが「グローバル」とか「ジェンダー」を前提に据えるなら結論はグローバル化は歴史の必然、とか経済合理性における男女平等、とかになるのでは。個々の国の歴史文化に基づくナショナリズム無しにグローバルやジェンダーとか基本的人類普遍的人権といったスローガンで秩序を維持できるものなのか、欧州で起こるテロを見る限り上記が成り立つ時代は過ぎたのだと思うが。
主体的で対話的、とは強者の論理と弱者の論理の分離になるのでは、本来は公私両方を行き来して延々揉め続けて調和を図るように思考し続けるのが民主的な在り方だろうか、その民主主義や国家を自由と利益最大化のために否定するのがグローバル化では。主体的に考えるとは自分の立場を明確にすることでは、学生の内から自分の立場を明確に主張して善いものか、私的利益に徹するのではなく半分は公的な領域に足を置かないと勝者総取りの世界になりそうだが。
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2017年12月9日 6:53 PM
小生は、これを産経新聞の記事で見ました。小浜先生が文中に挙げられている用語が削除対象となっている一方で「従軍慰安婦」「南京大虐殺」「天皇制」等はしっかり残っているのだとか。慰安婦、南京は言うに及ばずですが、天皇制って何ですか?これは共産党が「打倒天皇制」として作り出した左翼用語ですよ。そもそも天皇は「ご存在」であって「制度」では無い。こんな教育を子供の頃からやっていると、日本人の皇室観が歪められかねません。こんな言葉をしれっと教科書に載せているあたり、高大研なるものの素性が透けて見えます。
それから、この手の教育論となると、すぐに詰込教育、暗記教育がやり玉に挙げられますが、暗記ってそんなに悪いことでしょうか?数学、物理等は持って生まれたセンスが大きくモノを言いますが、暗記は誰でもできます。テレビに出て来るような暗記の達人までいくと才能でしょうが、歴史教科書に載っている用語を覚える程度であれば、努力次第で誰でも可能なはずです。確かに、暗記は地味で面白く無いかも知れません。特に歴史に興味の無い者にとっては苦痛以外の何物でも無いでしょう。しかし、それを克服することこそが教育では無いでしょうか。コツコツと努力を続け、必要な知識を身につける。この大切さ、尊さを知らないまま大人になり社会人になってしまった人間が、この国の主流になってしまったら日本はどうなるのか。将来を案じずにはいられません。
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