From 佐藤健志
先日、TAAF(東京アニメアワードフェスティバル)2017のアニメ・オブ・ザ・イヤー部門において
『ユーリ!!! on ICE』で作品賞グランプリ(テレビ部門)とアニメファン賞に輝き、
さらに個人賞アニメーター賞まで獲得した平松禎史さんが、こんなツイートをしてくれました。
サスペンス映画の巨匠アルフレッド・ヒッチコック監督が、自作に登場する悪役を、
「悪事を働くような状況にさえ置かれなければ、本来きわめてまっとうなうえ、
しばしば善玉よりも深い人間味を持つ人物」
として描いたことについて。
いわく。
「敵」だから劣ってる・間違っているに違いない・
どんな攻撃をしても許される・・「敵」が褒めるものは間違っている・・・
つまるところ「敵」に頼り自分で考えない空気に対する警鐘ですね。
https://twitter.com/Hiramatz/status/833508181410131968
まったくの正論です。
何らかの「悪」を否定することをもって、みずからの正しさの証拠としたがる者は
自分でも気づかないうちに、当の「悪」にたいして心理的に依存するようになる。
つまりは主体性を喪失するわけです。
敵が劣っていたり、間違っていたりすることは
自分が優れていたり、正しかったりすることを証明するものではありません。
「敵もダメだが、自分もダメ」という可能性だってあるじゃないですか。
ところが、そこのところが見えなくなってしまう。
ついでに、そこまで劣っていて、かつ間違っているはずの敵が
なぜ「どんな攻撃をしても許される」(=どれだけ攻撃しても滅びない)ほど強靱なのか? という点は
説明できませんので、頬被りするしかない。
早い話が思考停止に陥るのですよ。
その意味で気になるのが、安倍総理を弁護したがる人々、ひいては総理本人にまで、
都合の悪いツッコミにたいして
σ(`´メ∂!!民主党政権時代はもっと悪かった!!(`ヘ´)
と反論したがる傾向が見られること。
なるほど、民主党政権はしょうもなかったと思いますよ。
しかしですな。
そこまでしょうもなかった政権と比較しないかぎり、自分たちの正当性を主張できない政権は、はたして立派でしょうか?
だいたい三橋貴明さんが指摘しているとおり、デフレによって国民を貧困化させている点では
安倍政権は民主党政権以下かも知れないのです。
よって、
「民主党政権時代はもっと悪かった!」
と主張したがる方には
「〈劣っている敵〉を自己正当化の道具に用いずにいられないのは、自分で物を考えていない証拠!」という
〈敵への心理的依存と思考停止に関する平松テーゼ〉を謹んで献上したいのですが、
どうも最近は、いっそうトンデモな現政権弁護論が出回っている様子。
すなわち、
「現政権には問題があるが、民主党政権も同じだったのだから、悪いのはお互い様だ。
したがって、問題はない!」
という主張です。
いや、本当になされているんですよ。
こちらの記事をどうぞ。
「南スーダン日報問題でも懲りない民進党のブーメラン芸」
南スーダンPKOの日報をめぐる、稲田防相のWW(ワンダーウーマン/訳分からない)答弁問題についての記事なのですが
記者の小野晋史さん、
「確かに、当初は『不存在』とされた日報が再調査で見つかった経緯自体は(お)粗末だった」(カッコは引用者、以下同様)
と認めつつ、こう述べました。
いわく。
民進党は、日報に記載された「戦闘」という文言を問題視している。
PKO参加の前提となる紛争当事者間の停戦合意は崩れているという主張だ。
だが、ここで民進党が触れない事実がある。
旧民主党の野田佳彦内閣時代の平成24年春、隣国のスーダン軍が国境を越えて南スーダンを空爆し、
他国のPKO部隊に被害が出るなどした。
そして当時の報告にも「戦闘」と記されていた。
それでも野田内閣は自衛隊の派遣を継続した。(中略)
いつものブーメラン芸だが、本当に懲りないとしかいいようがない。
民進党が稲田氏を追及している最中の(2月)12日には、北朝鮮が新型の弾道ミサイルを発射した。
それでも2日後の国会では防衛相を相手に日報の話ばかり。
国民の生命財産に関わる重大事を脇に置く民進党に、政権を担う資格があるとはとても思えない。
http://www.sankei.com/politics/news/170219/plt1702190016-n1.html
言っては何ですが、この人は自分が何を書いているか分かっているんですかね?!
WW答弁問題の本質は、スーダンにいる自衛隊が危険にさらされる恐れが強いときに
政府がそれを直視しようとせず、いい加減な対応でごまかしていることにあるのですぞ。
にもかかわらず小野記者は、
「かつての民主党政権だって、いい加減な対応でごまかそうとしたんだから、防相に文句をつけるのはおかしい」
という趣旨の主張を展開したのです。
現政権のあり方を弁護する口実さえ見つけられれば、スーダンの自衛隊部隊がどうなろうと知ったことではない!
そう思っていると判断されてもやむをえないところでしょう。
立派です。
じつにご立派。
この見識、ないしその欠如には敬服のほかありません。
そして「劣っている敵」(=民主党政権/民進党のしょうもなさ)に頼り、自分で物を考えなくなった者のつねとして
小野記者もみごとに墓穴を掘る。
最後の箇所にご注目。
「国民の生命財産に関わる重大事を脇に置く民進党に、政権を担う資格があるとはとても思えない」
おやおや、まるで民進党が与党であるかのような書き方ですな。
しかし小野さん、心配ご無用。
目下、政権を担っているのは自民党です。
けれども「民進党に、政権を担う資格があるとはとても思えない」とすると、ちょっとばかり困ったことになってしまう。
なにせ小野さんは、民主党政権がスーダンPKOについて、いい加減な対応を取ったことを根拠に
現政権のいい加減な対応を正当化しようとしたのです。
民主党もダメだったんだから、自民党が同じようにダメで何が悪いという次第。
で、小野さんの主張するとおり、
「民進党に、政権を担う資格があるとはとても思えない」とすると
それは現政権について、いったい何を意味するでしょう?
W(^_^)\(^O^)/これぞ強弁と自滅のサンバ\(^O^)/(^_^)W
ブーメランをあげつらおうとすることが、そのままブーメランになるという、お粗末な一席でありました。
え? 何?
民主党政権と現在の民進党は違うから、その論理は成立しない?
だったらPKOにたいする民主党政権の対応を根拠として、現国会での民進党の追及を批判すること自体が
ナンセンスになってしまうではありませんか。
だ・か・ら
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3)「敵が劣っていたり、間違っていたりすることは、自分が優れていたり、正しかったりすることを証明するものではない」
戦前に問題があったことは、戦後が正しいことの証明にはなりません。同様、戦後に問題があることも、戦前が正しかったことの証明にはならないのです。
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4)「(都合の悪いツッコミを受けると)革命派は、従来のフランス王政の問題点を声高にあげつらうことでやり返す」(154ページ)
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5)「敵の失策を目の当たりにして、自分たちにも反省すべき点があることに気づかされ、ハッとさせられるのは珍しくない」(201〜202ページ)
トマス・ペインもアルフレッド・ヒッチコックと同じく、イギリスからアメリカに渡った人物でした。
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