政治

2016年5月31日

【藤井聡】長期停滞下における「デフレ完全脱却」を果たすために,徹底的な財政政策を

FROM 藤井聡@京都大学大学院教授、内閣官房参与

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熊本地震では避難、復興の拠点となるべき公共施設等の被害も目立った。

民間住宅も含め、大きな被害を受けた建物の多くは、新たな耐震基準が適用された1981年以前に建てられた建物だった。これまで「危険だ」と何度も議論になってきたにもかかわらず、こうした旧耐震基準の建物の多くで、耐震化が先送りされてきた。その最大の理由は「財政問題」である。

「そもそも日本に財政問題などない」と語る三橋貴明が、日本の防災安全保障、さらには国土強靭化とは何かについて詳細に解説する。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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10%への消費税増税が「2年半」延期される見通しとなりました.
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20160530/k10010540611000.html

これはすなわち,今から3年4ヶ月後の2019年10月に消費税は10%になるという見通しということです.

ただし,この「判断」の具体的な形には,次の3つの可能性があります.

 ■パターン1:「確実にこのタイミングにする」というパターン

 ■パターン2:「このタイミングに増税する事を基本とするものの,景気が悪ければ増税しないという付帯条項が付ける」というパターン

 ■パターン3:「増税する条件を設定し,その条件をクリアさせるタイミングを,2019年10月にするように,経済財政運営を図る」というパターン

もちろん,10%増税の景気悪化の「リスク」を最小化するには,パターン3が最も望ましく次いでパターン2,となります(ただし,条件の置き方によっては,パターン2と3はほぼ同じ趣旨のものとなるケースも想定されます).

いずれにせよ,どのパターンで増税が延期されるのかは,国会での消費税増税法案の改正の議論の中で検討される見通しです.

ついては今後,財政再建とデフレ完全脱却の双方の達成を着実なものとするような適切な議論が国会で展開されますこと,心から祈念いたしたいと思います.

・・・・

ところで,安倍総理がなぜ増税延期の意志を固めたのかと言えば,それはもちろん,増税によって日本経済が停滞することが真剣に危惧されたからです.

そしてわが国がなぜ,「10%増税には耐えがたい経済状況」にあるのかといえば,
 1)そもそも未だ,「デフレ完全脱却」は果たせておらず,
 2)リーマンショック以後の世界経済が未だ低迷状況にあり,
3)かつ,8%消費増税の後遺症が未だ残存しているから,
です.

これらの中でも特に,先日の伊勢志摩サミットで議論されたのは,2)の世界経済問題でした.そして,総理は,このサミット後の記者会見でも,リーマンショック以後,様々な経済指標が厳しい状況にあることを示している事を指摘しています.
http://www.kantei.go.jp/jp/97_abe/statement/2016/0527summit.html

(ちなみに,毎日新聞は,この記者会見を報道するにあたり,安倍総理が,
 「リーマン前に似ている」
と発言したと大きく報道しました.
http://mainichi.jp/articles/20160527/k00/00m/010/137000c

この「リーマン前に似ている発言」を巡っては,様々に批判されているようですが,
http://www.huffingtonpost.jp/2016/05/26/lehman-shock_n_10156996.html
http://www.asahi.com/articles/ASJ5W75CZJ5WUTFK00Y.html
総理の記者会見を確認しても,「リーマン前に似ている」という発言は見いだせませんし,事実,総理本人も,そういう発言はしていない,と否定しておられます.
https://www.facebook.com/Prof.Satoshi.FUJII/posts/799695643464714?pnref=story

いずれにせよ,記者会見発言における各指摘は,今日の世界経済が,非常に厳しい状況にある事を示すものです.

実際,世界中の識者達が,今日の世界状況は,リーマンショックという未曾有の危機以後の「長期低迷」の中にいる事を指摘しています.

スティグリッツ教授は「大低迷(Great Malaise)」の時代と呼び,
クルーグマン教授は,「世界経済が“日本化”Japanificationした時代」にあると指摘し,
サマーズ教授は「長期停滞」the secular stagnationの時代にあると指摘しています.

具体的に言うなら,例えばスティグリッツ教授は,「アメリカはリーマンショック以後,一旦持ち直しているが,精彩を欠いている.つまり,景気が比較的良いと言われるアメリカですら「長期停滞」状況にある.ただしアメリカよりも,長期停滞がより顕著なのが欧州である.そして何より,中国経済は酷い状況にある」という事をデータを用いながら指摘しています.
http://www.kantei.go.jp/jp/singi/kokusaikinyu/dai1/siryou2.pdf

クルーグマンやサマーズも同様の見解を表明していますし,サミット後の記者会見もこれらの指摘と同様のものとなっています.

これらの指摘はいずれも,我々がリーマンショックという波乱に富んだ危機前の平和な国際経済の中にいるのではなく,リーマンショック後の「長期停滞」時代(あるいは,大低迷の時代,世界の“日本化”時代)に生きていることを示しているわけです.

この様な「長期低迷の時代」では,記者会見発言でも指摘されている通り,長期的に成長出来ず,低迷し続けるという

「リスク」

を正しく認識しその対応を図ることが必要不可欠となります.

そもそもわが国は,リーマンショック後の世界経済の「長期低迷」を過小評価してしまったが故に,消費税の8%増税を図ったのだと解釈することもできるでしょう.その結果,未だに増税ショックが完全払拭できていない状況に苛まれています.

こうした事を総合的に考えれば,「増税延期」は最低限,必要であった事は間違いありません.

ただし――この長期低迷時代の中,未だ継続する8%増税ショックを払拭し,デフレ完全脱却を果たすためには,今回の「増税延期」の判断は最低限果たさねばならない「必要」条件の一つにしか過ぎません.それは決して「十分」条件ではないのです.

すなわちわが国は,増税延期を皮切りとして,今後,徹底的な景気対策を打ち出していかなければなりません.それがなければ,デフレ完全脱却が果たせず,600兆円経済を実現することも,そして財政再建を果たすことも不可能となるでしょう.

その中で今わが国に求められているのは,現在10〜20兆円規模で存在している事が危惧されるデフレギャップを埋めるための,補正予算を出動する「財政政策」です.

これを初年度行えば,次年度においてはデフレギャップは幾分縮小することとなるでしょう.しかしそれでももちろん完全解消されることはないでしょう.したがって,次年度もまた,それを埋めるための財政政策が求められることになります.

そしてそうした合理的,かつ,徹底的な財政政策を2〜3年程度繰り返せば,その内デフレギャップは完全に解消されることになります.

その時はじめて,わが国は「デフレ完全脱却」を果たしたと宣言できる事が可能となるのです.

つまり,増税延期を決断したわが国は,ようやく,デフレギャップ解消という,20年来のわが国の「悲願」を達成するためのプロジェクトへと駒を進める事が可能となった訳です!

その「悲願」達成の先に,ようやく,600兆円経済=80万円の国民所得増と,財政健全化が見えてくることになります.

デフレギャップを完璧に解消し,デフレ完全脱却を果たすための大国家プロジェクトが成功することを,そして,その成功に向けて一人でも多くの国民の皆様方の協力が得られますことを,心から祈念申し上げたいと思います.

PS デフレ完全脱却,そして,持続的な経済成長を考える上で,絶対に忘れてはならないのは,国家的なインフラ形成プロジェクト.是非,下記ご一読ください.
http://www.amazon.co.jp/dp/4166610775

ーーー発行者よりーーー

熊本地震では避難、復興の拠点となるべき公共施設等の被害も目立った。

民間住宅も含め、大きな被害を受けた建物の多くは、新たな耐震基準が適用された1981年以前に建てられた建物だった。これまで「危険だ」と何度も議論になってきたにもかかわらず、こうした旧耐震基準の建物の多くで、耐震化が先送りされてきた。その最大の理由は「財政問題」である。

「そもそも日本に財政問題などない」と語る三橋貴明が、日本の防災安全保障、さらには国土強靭化とは何かについて詳細に解説する。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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【藤井聡】長期停滞下における「デフレ完全脱却」を果たすために,徹底的な財政政策をへの7件のコメント

  1. メイ より

     恥ずかしいのですが・・総理が、なぜ財政出動を外国の首脳に呼び掛ける必要があるのか、判らないのです。 外国の方にとってみれば「なぜ20年もデフレ不況を脱する事のできない日本などに、そんな事を言われなくてはいけないのか・・」という感じにならないでしょうか? あるいは、財政出動を行なうのは「日本にとって」必要な事、とするのは、アベノミクスの失敗を認める事になるので、「世界が不況なんだから、皆でやる必要があるよね。私もしてなかったけど、皆もしてなかったよね」みたいに、問題をスライドさせたくて、その「アリバイ作り」みたいなやり方に付き合わされるのが、嫌だ、とサミット参加国は思われたのでしょうか。 世界経済が、危険な状態であるのはその通りでしょうけれども、安倍さんの財政出動が「国内経済を立て直すため」では無く、「世界の為」というなら、らしい気も致します。 その割には、「消費税は延期するのだから、社会保障の充実は見込めない」というような発言もされたようで、「日本の為」に財政出動、して下さる気がおありなのか、疑問を感じます。世界の為に投資?なのでしょうか。 なるほど、こういう方ならば、タックスヘイブンで、日本に税金を払わない企業があっても、「世界の為になるから」という感じですか・・。 国民からは、マイナンバーなどで、少しの取りこぼしも無いように税金を搾り取って、大企業の税金は下げたり、税逃れをしても「違法ではないから調査もしない」となれば、不公平感を持たない方がいるでしょうか? もちろん、安倍さん的な、弱肉強食の競争社会の中では、企業が生き残りに必死になる事は当たり前で、理解できることですから、まず政府が、過剰な「自己責任社会、競争原理」への偏りを改めて頂きたいです。 少し違う話しですが・・・憲法草案で「個人」の「個」を取って「人として」と変更されていた事を、「個人主義の蔓延に繋がっている」といったような説明をされた大臣がおられるようですが、「自己責任」「勝ち負け」的な風潮を蔓延させているのに?と、疑問を持っています。   大企業の方には、日本で利益を得たら、日本に税金を納めて頂きたい、と思います。 このような状況で、「財源が無いから社会保障にお金は出せない」とか、「消費税増税が必要だ」と仰られても、誰だって、白けるばかりでしょう。国民が怒ったって、恐くもなんともないのでしょうね。 それにしても、「法人税が高いと、企業が外国へ逃げてしまうから法人税を下げなければいけないのだ」と仰る方もおられますが、こんな形で外国で税逃れをされるなら、意味が無いように感じるのですが・・。それを取り締まるつもりもないというのは、罪人一蓮托生、ということでしょうか?   

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  2. 稲美弥彦 より

    リスクを上手く理解する事はどれだけ大事かと感じていた。そして小林よしのりや安倍晋三に蔓延する緊縮財政は危険である事が発覚しました。小林よしのりは反米保守と思われがちだが、この人は消費増税容認派であり安倍と並ぶ売国奴です。三橋貴明さんや藤井聡さん、中野剛志さんあたりが本当の意味での真性保守だと感じています。小林よしのりは更に言えばバカンスでハワイに行った売国奴でもあります。アメリカが嫌いなら普通にクリミアに行けば問題ないと感じたところです。TPP、TTIP、Tisaは勿論、AIIBも中国主導を装ったアメリカのグローバル企業の為の装置である事が明らかです。よってAIIBもTPPと同じ様にISDが含まれているし、ロシアやブラジルはAIIBに入ったことでやたら民営化を要求されている状況になっているようです。TPPの危険性はAIIBに入ったロシアやブラジルを見れば一目瞭然だと思います。

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  3. 通りすがり より

    よく分かりませんが、100年くらい、10%にするのは延期してくださいませんか。

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  4. 學天測 より

    謹んで、要望追加させていただきます。総理がポツダム宣言受諾と言うなら財政政策はもちろんですが加えて財務省の分割解体ですね。ここまでやって責任とらないじゃ済まされません。国民舐めてもらっては困ります。再発防止策は根源から徹底して頂きたいです。あと、できれば西田議員を国土交通大臣で入閣。将来の総理候補の一人へと言う事です。

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  5. 拓三 より

    熊本地震から早1ヶ月半経とうとしております。謹んで被害者の方々に対しご冥福をお祈りさせて頂きます。今回の震災で年頃の娘さんが家屋の倒壊でお亡くなりになりました。一回目の揺れの後、母と共車中で寝泊まりしていたそうですが、これ以上の揺れは来ないだろうと娘さんだけ家に戻られ、その夜、二回目の本震で家屋の倒壊によりお亡くなりになられたそうです。母は自衛隊により救出された娘の亡骸の横で自己の感情を出す事無く自衛隊員にお礼の言葉を捧げ、その後娘の亡骸に対し、*1『私のせいです。私が引き止めていればこんな事にならなかった』と泣き崩れていました。これに対し、私達、社会は何と声をかけるでしょう。*2『あなたの所為では無い。地震の所為です。誰も二回目の本震を予測できなかった。自然には逆らえません。それに家に戻られる判断をしたのは娘さんです。だから自分を責めずに顔を上げてください』と言うでしょう。*1は紛れもなく真実の言葉です。では*2は真実かそれとも偽りの言葉か。私は偽りだと思っています。なぜ偽りか、言葉は本心でも行動は真逆をするからです。「地震予知を高めよう、家屋の耐震を考えよう、救出にあたるに対しインフラはどうか、ならばその為の経済は、」などなど色々な考えを持つからです。これが進化なのですが何故こう考えるのか、*1が真実だからです。真実だからこそ2度とこんな悲しい事が起きない為に準備(進化)をするのです。*2を真実と思えば新自由主義が成立します。(米国、親米保守など)つまり後付けの論理になります。「地震は仕方がない、だから考えない、地震の無い所に住めばいい、地震のある所に住むのは自己責任、保険に入っていればいい」などなど。進化はありません。*1が真実で*2は受け手の言葉にも拘らず*1を忘れ*2を真実にしている新自由主義者ども! ええ加減目覚せ!

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  6. 學天測 より

    竹中平蔵大先生を初め8%増税に賛成した連中を政権から全て追い出さないと信用できません。ようは増税を先送りしても安倍総理とその政権運営をしている連中が責任を追及され変わらなければ何も変わらないのは目に見えている。増税先送りしても、それに代わるだけの構造改革とかいって不況政策をやるだけでは?もう何を言ってもまともな人からすればオオカミ少年の安部晋三には先生もそろそろ見切りをつけられた方がいいと思う。飼い殺しにされているだけですよ。下手したらスケープゴート要員にされかねない。政治はあくまで現実に対応する知恵を絞る物で人を騙しても、現実は騙せない。信を最も重視せず信の無い政治はもはや根底、根源からお終いだ。現実が騙せない以上、人を騙した嘘はいずればれる。アメリカのトランプ現象が就任時に大口叩いたオバマへの失望であるとすれば日本にもそういう人物が出てきかねない。先生はそこの照準を合わせられたほうがいいと思う。

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  7. 吹田のおやじ より

    このコメント欄しつこく消費税を5%に戻せといってる親父です。藤井先生の様な方が安倍総理の近くにあと4.5人いればマシな経済政策が出来るのになぁ、自民党の財務脳の先生方は洗脳がきつくて10%にして財政出動をバンバンやれば良いと高村副総裁は安倍総理に言ったようですが、多分いざ国債はっこうの段になれば予想外に下回る額になることでしょう。こういう時シナ人の大風呂敷が出来る政治家が居ないのが残念でなりません。

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