コラム

2016年6月1日

【佐藤健志】学者の嘘と宇宙戦艦ヤマト

From 佐藤健志

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熊本地震では避難、復興の拠点となるべき公共施設等の被害も目立った。

民間住宅も含め、大きな被害を受けた建物の多くは、新たな耐震基準が適用された1981年以前に建てられた建物だった。これまで「危険だ」と何度も議論になってきたにもかかわらず、こうした旧耐震基準の建物の多くで、耐震化が先送りされてきた。その最大の理由は「財政問題」である。

「そもそも日本に財政問題などない」と語る三橋貴明が、日本の防災安全保障、さらには国土強靭化とは何かについて詳細に解説する。
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_mag.php

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先週、先々週と、青木泰樹先生の著書『経済学者はなぜ嘘をつくのか』を踏まえて、「学者の嘘」について論じてきました。

あらためて要約するなら、学者の嘘は「約束事をそうと自覚できなくなる」ことから始まります。
物事を体系的に説明できるような理論を構築するのは、あらゆる学問の目標。
しかしそのためには、たいがい何らかの前提条件、つまり約束事を導入する必要が生じます。

これ自体は、べつに否定されるべきことではありません。
よしんば当の約束事が現実離れしていようと、「そのような前提を導入すれば、理論が成立する」ということが、現実を理解するうえで役に立つ可能性は十分に考えられるのです。

のみならず、導入された前提が、どのくらい現実からかけ離れているかを把握できていれば、〈理論と現実は、どこがどう異なるか〉という点も整理できるはず。
ならば理論によって導き出された結果に、約束事の非現実性をめぐる補正を施すことで、現実を正しく見据えられるではありませんか。

名目GDPに「GDPデフレーター」をかけることで、実質GDPを算出するようなものですね。
その意味で「約束事の非現実性をめぐる補正」を、〈約束事デフレーター〉と呼ぶこともできるでしょう。

しかるに約束事について、それが約束事なのだという点が自覚できなくなると、理論と現実が異なっていることが分からなくなる。
「現実_約束事=理論」ですから、本当は「理論_約束事デフレーター=現実」であるにもかかわらず、「理論=現実」だと短絡して考えるようになるのです。

こうして理論と現実のギャップを強引に無視し、現実離れしているものについて、そうでないと言い張るところから、学者は嘘をつくようになってしまうわけですが・・・

文化においても、よく似たメカニズムが見られます。
というのもフィクション、つまり物語の多くは、何らかの約束事を踏まえて成立しているのです。
当該の約束事は「前提条件」ではなく「基本設定」と呼ばれるのが普通ですが、それは脇に置きましょう。

こちらの約束事にも、相当に現実離れしたものがあります。
けれども、約束事が約束事として整合性を持ち、首尾一貫していれば、物語には〈体系的なもっともらしさ〉、つまりリアリティが宿る。

ここでも重要なのは、物語を支える約束事について、どのくらい現実からかけ離れているかを、作り手が把握していること。
さもないと、物語の世界と現実世界のギャップを強引に無視し、現実離れしているものについて、そうでないと言い張るハメに陥る。
結果的に、自作の嘘をみずから目立たせる形となり、物語がリアリティを失ってしまうのです。

分かりやすい例として、有名なアニメ『宇宙戦艦ヤマト』(テレビ版1974年〜1975年、映画版1977年)を挙げましょう。
今やアニメは、日本の現代文化を代表するジャンルとしての地位を確立していますが、そのきっかけとなった記念碑的作品です。

『宇宙戦艦ヤマト』の基本設定、ないし約束事の核心は、〈20世紀前半に日本海軍が造った戦艦大和が、22世紀末、宇宙船に改造されて、滅亡寸前の地球を救うべく宇宙人と戦う〉というもの。
冷静に考えてみれば、SFとしても相当に荒唐無稽な発想です。

地球を救う無敵の宇宙船が必要なのはいいとして、なぜそれが「戦艦大和」でなければいけないのか。
「船」とは言っても、海上で活躍すべく設計されたものと、宇宙空間で活躍すべく設計されたものは、まったく別物ではないのか。
二世紀以上前に破壊された軍艦をわざわざ改造するくらいなら、一から新しく建造し、それに「ヤマト」という名前をつけたほうが、よほど手っ取り早いのではないか。

これらの疑問を封じ込めないかぎり、作品は〈体系的なもっともらしさ〉、つまりリアリティを獲得できません。
ならば『宇宙戦艦ヤマト』は、どうやって疑問を封じ込めたか?
カギとなるのは、敵側をめぐる設定です。

ご存じのとおり、この作品で地球を攻撃するのは、「ガミラス」と呼ばれる惑星の宇宙人。
しかしですな。
ガミラス星人は、肌の色が青いだけで、まるっきり人間そのものなのです!

事実、劇中では「ガミラス星人」という呼称自体が使われず、「ガミラス人」「ガミラスの人々」といった表現になっていました。
「星人」と呼んでしまうと、「人間とは異なる生命体」という含みが生じてしまうからでしょう。

しかもガミラス星では「帝国」などという、じつに地球的な統治システムが成立している。
帝国を支配する独裁者の名前は、ヒトラーならぬ「デスラー」。
ご丁寧なことに、肩書も「総統」です。

また帝国随一の将軍の名は、ロンメルならぬ「ドメル」。
ロンメルが「砂漠の狐」と呼ばれたのにちなんでか、ドメルは「(大)宇宙の狼」と呼ばれました。

もはやお分かりですね。
ガミラス帝国は、ドイツ第三帝国、いわゆるナチス・ドイツとそっくりなのです!

裏を返せば『宇宙戦艦ヤマト』には、以下の約束事も盛り込まれている。
〈この作品における敵側「ガミラス」は、表向き宇宙人の軍勢ということになっているが、要はSF的にパロディ化されたナチスである〉

だとすると、地球とガミラスの戦争も、表向き宇宙戦争ということになっていますが、要はSF的にパロディ化された第二次大戦となるでしょう。

これが「戦艦大和が宇宙船に改造される」という発想を、もっともらしく見せたのです。
なにせ戦艦大和も、第二次大戦当時の軍艦。
いかに宇宙戦争であれ、「SF的にパロディ化された第二次大戦」なら、出てきてもおかしくありません。

ただし作品が大ヒットし、シリーズ化されると、この約束事をめぐる自覚が失われてしまいました。
まあ、そうそう何度も「SF的にパロディ化された第二次大戦」を繰り返すわけにはゆかなかったのでしょうが、ここから逸脱すればするほど、「戦艦大和が宇宙を飛び回る」ことの嘘が目立つようになる。
映画版第三作『ヤマトよ永遠に』(1980年)あたりから、内容がどんどん形骸化していったのも、必然の帰結と言わねばなりません。

そして最も派手にハズしてしまったのが、2010年に公開された実写リメイク版の映画『SPACE BATTLESHIP ヤマト』。
妙に英語化された題名からして、いささか不吉だったものの、ここではガミラス星人をめぐる設定まで、いわゆるエイリアン、つまり人間とは異なる生命体に変更されていたのです。

いや、SFとしてはその方が適切ですよ。
けれども、そういうことじゃないんですね。
敵側が「SF的にパロディ化されたナチス」である点こそ、ヤマトの存在に説得力を与えるカギだったんですから。

『SPACE BATTLESHIP ヤマト』は、映像表現の点ではそれなりに頑張っていたにもかかわらず、みごとにリアリティのない仕上がりになってしまいました。
約束事を約束事として、しっかり自覚するのは、学問以外の分野でも重要なのであります。

なお来週(6/8)は、都合によりお休みします。
6/15にまたお会いしましょう。
ではでは♪

<佐藤健志からのお知らせ>
1)6月11日(土)の20:00〜23:00、日本文化チャンネル桜の「西部邁特別番組 世界の現在」(仮題)に出演します。
http://www.ch-sakura.jp/

2)『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』(徳間書店)について、電子版が発売されました! 未読の方はぜひどうぞ。
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紙版をご希望の方はこちらを。
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3)果たして保守派は、みずからの約束事を把握できているか? 詳細はこちらを。

『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
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4)戦後という時代が、リアリティを失って形骸化してゆく過程を描き出した本です。

『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
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5)さまざまなポップカルチャー作品の約束事と、それが持つ意味について詳細に論じました。

『夢見られた近代』(NTT出版)
http://amzn.to/1JPMLrY(電子版)

6)フランス革命の基盤となった理念、ないし約束事が、いかに現実離れしていたかという点をめぐる、徹底的な批判の書です。

『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
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7)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
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