From 佐藤健志
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2016年2月4日、日本はTPPに署名した。
まだ国会での批准手続きが残ってはいるものの、これによって日本はグローバル投資家の狩場となることがほぼ決定してしまった。「月刊三橋」では、以前からTPPに潜む数多くの問題点を指摘してきたが、いまだにTPPの恐ろしさを理解していない(できない/しようとしない)人たちも多い。
伊藤元重氏をはじめ、多くの人はTPPの内容を知らずに議論している。自動車の関税が撤廃されて、日本の自動車メーカーの輸出が増えるだろうと期待する声もあったが、蓋を開けてみれば、アメリカはSUV車の関税を29年間維持するなど、日本が期待する経済効果はほとんど見込めない内容になっている。
TPPはアメリカの巨大グローバル企業に日本という市場を差し出すための条約だったことが明らかになったのだが、そのことには目を瞑り、「これでアメリカとの安全保障が強化された」などと意味不明な理解でTPP賛成を叫ぶ寝ぼけた人たちに、三橋貴明が目覚めの鉄槌を振り下ろす。
『月刊三橋』最新号
「TPP大検証〜日本を貧困化させる新たなる不平等条約なのか?」
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※このテーマを聞くには3/10までにお申込みください
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三橋貴明さんの新刊『日本「新」社会主義宣言』が、徳間書店より発売されました。
お気づきの方も多いと思いますが、私の新刊『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』の版元も徳間書店。
しかもこの二冊、同じ日(2月27日)に発売されています。
新聞広告でも一緒に取り上げられ、嬉しいものがありました。
二冊一緒にご購入されている方も少なからずいらっしゃる様子。
あわせて読むと、いっそう広い世界が見えてくるかも知れません。
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および
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をどうぞ。
さて。
今回注目したいのは、「新」社会主義という概念。
三橋さん、2月29日付のブログでこのように説明しています。
「新」社会主義宣言とは、(中略)「日本国が超人手不足を生産性向上によって埋めることで、再び高度成長を遂げる日を迎えること」という定義になります。
なるほど、なるほど。
「再び高度成長を遂げる日を迎える」の箇所は、
〈繁栄の基盤を少しずつ崩してきた過去20年あまりの傾向を逆転させ、充実したインフラのもと、国民が全体的に豊かさを享受できる状態をあらためて作り出す〉
と言い直すこともできるでしょう。
そのような日が来るのは、むろん大歓迎ですが、なぜそれが「新」社会主義なのか?
社会主義と言えば、〈一党独裁による政治的抑圧と、悪平等による社会的活力の衰退(=経済的低迷)〉のイメージがつきまとう。
実際、いわゆる「社会主義(国)陣営」は、20世紀半ばに一大勢力として勃興したにもかかわらず、政治的抑圧と経済的低迷を克服できないまま、1980年代末に崩壊するハメとなりました。
まして保守派(の一部)では、「社会主義志向=左翼=反日」の図式すら見られる。
「社会主義で何が高度成長だ!」と反発する人もいるのではないでしょうか。
三橋さん自身、それを見越して、ブログでこう述べています。
例により「三橋は社会主義者だった!」といったレッテル貼りが横行すると思うので、本を読むこともできず、言葉で反射的に思考する頭が弱い方(の)発見器として役に立つと思います。
(カッコは引用者。取り消し線の付された語句を二文字削除)
ユーモアまじりに挑発していますが、主張の内容はもっとも。
今でこそ、保守(主義)には「社会主義を否定し、自由主義を支持する」イメージがありますが、歴史を振り返ってみれば、保守は社会主義寄りだった時期のほうが長いのです。
私と中野剛志さんの対談本『国家のツジツマ』から、ちょっと関連箇所を紹介しましょう。
十九世紀のいわゆる保守主義という人たちの主張は、ほとんど社会主義者と一緒でした。(中略)じつは社会主義的な政策を最初にやったのは、イギリスの保守党政権なんですね。(91ページ)
保守主義の歴史を見ると、自由貿易や規制緩和や小さな政府といった新自由主義と結託した時期は、サッチャー、レーガン以降のわずか三十年くらいの時期だけなんです。(94ページ)
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要するに保守主義は、「伝統的には社会主義寄りだったが、ここ30年あまり自由主義寄りになった」理念なのですよ。
保守(派)を自任する人々が、「社会主義者」を悪い意味でばかり用いるのは、自分が信奉している(はずの)理念の歴史を無視している点で、はなはだ反保守的なことと言わねばなりません。
だとしても、「社会主義寄りから自由主義寄りへ」という転換はなぜ生じたのか?
お分かりですね。
保守の目的は、〈特定のイデオロギーを何が何でも支持する〉ことではなく、〈国や社会のあり方を最善の状態に保つ〉ことだからです。
つまりは経世済民の達成。
ところが国や社会のあり方は、社会主義寄りになりすぎても、自由主義寄りになりすぎても最善ではなくなる。
かつての社会主義国では、一党独裁による政治的抑圧が生じましたが、自由主義が行き過ぎても、少数の富裕層が国や社会を牛耳ったあげく、大多数の人々を抑圧する事態が生じます。
同様、かつての社会主義国では、悪平等による社会的活力の衰退が見られましたが、自由競争が行き過ぎても、やはり活力は衰退してしまうのです。
言い替えれば保守の果たすべき役割は、自由主義と社会主義の間、あるいは競争と平等の間で適切なバランスを取ること。
そして産業革命後、「社会主義陣営」が誕生するまでの間(=18世紀末〜20世紀前半)、国や社会の保守にたいする主な妨げとなってきたのは、自由主義の行き過ぎでした。
当時の保守主義が社会主義寄りのスタンスを取ったのは、こう考えれば自然なことにすぎません。
しかるに20世紀後半にいたると、ソ連(現ロシア)率いる社会主義陣営が、自由主義諸国の存立を脅かすまでになる。
今度は社会主義の行き過ぎが、国や社会の保守にたいする妨げとして際立ってきたのです。
だからこそ、保守主義も自由主義寄りに転換した。
とはいえ現在の世界では、社会主義陣営が崩壊したうえ、新自由主義やグローバリズムの台頭が、格差の拡大や貧困層の増加、あるいは経済の停滞といった弊害をもたらすにいたっている。
自由主義の行き過ぎが、保守の妨げとなる時代がふたたび訪れたのです。
ならば真の保守主義者、ないし経世済民を真剣に考える者は、あらためて社会主義寄りのスタンスを取らねばならない。
三橋さんが「新」社会主義を提唱したのは、まったく当然のことではないでしょうか。
ちなみに自由主義の総本山たるアメリカさえ、独立にあたっては「コモンウェルス」(Commonwealth)を謳いました。
コモンウェルスは通常、「連邦」とか「共和国」と訳されますが、英語のつづりを見ればお分かりのように、元来は「common wealth」、すなわち「共通の豊かさ」「豊かさを分かち合う」という意味。
平等の尊重、ないし社会主義志向に通じる要素を、ここに見出すのは容易でしょう。
岩手県の達増拓也知事も、この点を踏まえて「岩手コモンウェルス構想」を提唱しています。
http://ameblo.jp/tassotakuya/entry-12101279965.html
『戦後脱却で、日本は「右傾化」して属国化する』でも論じたとおり、新自由主義やグローバリズム一辺倒の姿勢のまま戦後脱却を図ろうとすると、この国は「右傾化」(=ナショナリズムを強調する形の全体主義化)したうえで、アメリカに完全従属してしまう恐れが強い。
健全な社会的連帯感のもと、競争と平等を調和させたコモンウェルスをつくりあげることこそ、今後の保守の目標でなければならないのです。
ではでは♪
<佐藤健志からのお知らせ>
1)「もともと、保守主義は社会主義寄りだった!」。この程度のパラドックスで驚いてはいけません。詳細はこちらを。
『愛国のパラドックス 「右か左か」の時代は終わった』(アスペクト)
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2)じつは高度成長期においても、日本はさまざまなパラドックスを抱えていました。この点を知っておくのも重要です。
『僕たちは戦後史を知らない 日本の「敗戦」は4回繰り返された』(祥伝社)
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3)「保守(主義)」の意味が、とかく表面的にしか理解されない背景には、近代日本そのものの抱えるジレンマがあります。それについてはこちらを。
『夢見られた近代』(NTT出版)
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4)「『自由な政府』をつくるのはたいへんな仕事である。自由と統制という対極的な要素を、首尾一貫した形で融合させねばならない」(308ページ)
「保守主義の父」エドマンド・バークは、規制緩和や民営化を進めるだけではダメだと分かっていたのです。
『新訳 フランス革命の省察 「保守主義の父」かく語りき』(PHP研究所)
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5)「われわれ一人ひとりが、隣人にたいし、心からなる友愛の手をさしのべる時が来た」(237ページ)
アメリカはいかなるコモンウェルスであるべきか、その理想を記したマニフェストがこの本です。
『コモン・センス完全版 アメリカを生んだ「過激な聖書」』(PHP研究所)
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6)そして、ブログとツイッターはこちらをどうぞ。
ブログ http://kenjisato1966.com
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