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2024年9月18日

【藤井聡】石破茂氏は完璧な「緊縮脳」.公約で「デフレ完全脱却」を掲げるも「口だけ」に終わるのは確実である.

石破氏は今回の総裁選の立候補にあたり,『地方創生を「日本経済の起爆剤」と位置づけて大規模な対策を講じるとともに、災害への備えを強化するため「防災省」を創設する』と宣言している.

そして,『「経済あっての財政」という考え方に立ち、デフレからの脱却を最優先に経済・財政運営を行い、成長分野に官民挙げての思い切った投資を行い安定成長を実現しつつ財政状況の改善を図る』とも述べている.

これらの主張は当方が長年主張してきた政策論とも同じ方向にあり,一定評価することができるものだ.

しかし,選挙公約は,その主張内容の「正当性」だけではなく,その内容をホントに実施するのか否かという「信頼性」について慎重に吟味することが必要だ.

この点で考えた時,誠に遺憾ながら石破氏についてはその「信頼性」は乏しいと言わざるを得ない,というのが,現時点における筆者の判断だ.

なぜなら石破氏は,例えば高市氏や青山氏とことなり,「これまでの発言」と「総裁選公約」との間に乖離があるからだ.つまり,石破氏はこれまで「緊縮財政」を是とする発言を繰り返してきたのである.

例えば,石破氏が出馬を表明した後の9月9日時点で野村総合研究所が出した総裁選についてのレポートには,次のように明記されている.

『石破氏は、アベノミックスの功罪を議論し、積極的な金融緩和と財政拡張の弊害を指摘する。財政健全化を進める観点からも、財政経済諮問会議の発展的な見直しを主張する。』
https://www.nri.com/jp/knowledge/blog/lst/2024/fis/kiuchi/0909

つまり石破氏は積極的な財政拡張に反対し,財政健全化をする典型的な緊縮派であると言明されているわけだ.

実際,昨年の10月,岸田政権で減税論が取り沙汰されたとき,石破氏はその方針に強く反対していた.その石破氏の言動が,次のように報道されている.

『「安易に減税に走ると将来の財政的自由度が失われ、目の前の人気取り政策と言われても仕方ない」…石破氏は、財政規律派であり、2018年の自民党総裁選で、経済成長を重視する安倍晋三首相(当時)の「アベノミクス」を修正する政策を打ち出している。』
https://www.zakzak.co.jp/article/20231010-ISYIDHKUO5OX7P4DRRI6OY6CE4/

これはつまり,「減税して税収が減れば,財政を削らないといけなる」と石破氏は主張しているわけだが,それはつまり「国債」の発行額を増やしてはいけないという前提を石破氏が頑なに信じていることを意味している.だからこの記事の記者も「石破氏は,財政規律派」と明言しているわけだが,こうした石破氏の言動は今回の総裁選公約に明らかに矛盾している.

ただし,その「矛盾」そのもの,つまり,石破氏の財政規律派・緊縮財政派としての言動そのものがこれまで驚く程に「一貫」しているのが事実なのだ.

例えば昨年1月「国債の60年償還ルールの廃止・延期論」が自民党内で盛んに論じられた時にも,石破氏は緊縮財政派の面目躍如と言わんばかりの主張を展開した.

「国債の60年償還ルール」というのは,どのような国債も,それがどれだけ長期であっても,60年で完全に償還(返す)しなければならない,というルールだ.通常の国には,こういうルールはなく,国債発行を忌み嫌う財務省が日本政府に「だけ」無理矢理ねじ込んだ,異様かつ異形の特別ルールなのだ.

というのも,普通の国は政府が借りたお金を返すにあたっては,「借り換え」を返すということが許容されている.「借金の満期」が来てもその時点でまた,お金を借りて返済する,ということが,当然のこととして許容されているのだ.

ところが日本においてはこれができるのが,最長で60年までとなっている.

そしてこのルールがあるせいで,日本政府は,国債を発行すれば,その「60分の一」の金額を,政府内で「積み立てておく」という会計が毎年行われているのが実態だ.つまり,例えば60億円借りたとすれば,毎年1億円ずつ「積み立てておく」ことが半ば義務的に行われているのだ.そして,60年目がきたら丁度60億円「積み立てて」あるので,それを使って,借金を返済する,ということをするわけだ.

昨年自民党では,こういう事をやっても全く無意味であり,ただ単に政府が使えるお金を減らしているだけなのだから,(60年償還ルールを見直して)外国と同じように延々と「借り換え」ができるようにして,毎年「60分の一」を積み立て続けていくということを辞めようではないかという議論があったのだ.

こうした議論は当方にしてみれば極めて正当な議論であり,是非ともそうすべきものだと言う他ないものなのだが,驚くべき事に石破氏はこの時,次のように発言したのだ.

「ルールを見直しても、新たな財源がでてくるわけではない。国民の負担が魔法のように消えるわけではない。」
https://www.sankei.com/article/20230119-3UZGWW3V4JMTHFCIIEA5DHKTDI/

要するに石破氏は,この60年償還ルールが一体どういうもので,それが如何にナンセンスなものなのかを全く理解していなかったのである.というよりも,石破氏は「借金を借り換えし続けて,ずっと返さないなんておかしい!」という財務省の間違った(諸外国では一切通用しない!)見解を頭から信用してしまっているのである.

ただし,石破氏のこうした「根本的に間違った」経済思想については,その間違いを糺すべく,様々なエコノミストや経済学者達が説明・解説を加えてきているようである.例えば,著名エコノミストのお一人である田村秀夫氏が懇切丁寧に,緊縮財政の間違い,積極財政の必要性を解説されたそうである.ところが,その時の石破氏の反応は大変に「残念な」ものだったようである.

『「最優先すべきは、脱デフレに向けた政策ですよ」と説いたのだが、石破さんは「有権者は物価が下がるデフレを歓迎している。物価を上げると言えば反発される」と受け付けない。「物価の下落以上の幅で賃金が下がるのが日本のデフレで、財政、金融両面で需要を喚起すべき」と申し上げても、石破さんは最後まで首をタテに振らなかった。』
https://www.zakzak.co.jp/article/20231229-6VA5G7WREZINBLFX374NJCDKZ4/

これはかつての石破氏の発言とのことだが,この記事自体は昨年末に公表されたものである.つまり田村氏は,石破氏の経済思想は今日に至るまで全く改定されたとは見なされていないと認識しているわけだ.

あるいは,経済学者の高橋洋一教授や田中秀臣教授は石破氏について次のように発言している.

『石破さんはコテコテの財政再建、緊縮論者なんだな。この点を改めないで総理になったりすると、日本経済を壊しかねないリスクがある。』(高橋洋一氏)
https://x.com/YoichiTakahashi/status/836256089142239232

『石破氏は、デフレを軽視する論者がしばしば採用する財政・金融政策は「カンフル剤」であり、根本的な問題を解決するものではないといっている。』(田中秀臣氏)
https://news-vision.jp/article/188778/?page=4#google_vignette

あるいは,経済学者の飯田泰之氏とエコノミストの片岡剛士氏が,石破氏の発言が何から何まで間違っているという問題について,『これほどまでに間違っている「石破発言」 専門家が解説』という対談(昨年末)の中で激しく非難している.
https://news.1242.com/article/486570

このように,今回の総裁選の公約については,一見正しい政策論を主張しているようには見えるものの,基本的に「国債を発行してはならない」「発行した国債は60年以内にしっかり返さなければならない」という信念を強固に形成している以上,石破氏が公約の中で言及した「財政再建のための財政拡大」や「政府投資」を,彼自身の手によって「日本経済が成長するに足る十分な規模」で断行するという未来を予想することは(誠に遺憾ながら)極めて困難なのである.

選挙において各候補者の公約が如何なるものであるのかは重要な判断材料だ.例えば,「増税」や「売国」を意味する公約を堂々と宣言している小泉進次郎氏の様な候補者については,その公約の不条理性をしっかりと認識することが必要だ.

しかし,それと同時に,あるいはそれ以上に重要なのが,その公約(そして畢竟,その候補者)の「信頼性」なのだ.

是非とも有権者,そして国民の皆様には,公約内容に加えてその「信頼性」についてもしっかりごご吟味いただきたいと思う.

政治家の甘い言葉に欺されてはいけないのである.

 

追伸1:この記事内容について,室伏さんと徹底対談しました.あわせて是非,ご視聴下さい.
https://www.youtube.com/watch?v=yKOTqxp_Cuc

追伸2:小泉氏のヤバさについては,語っても語っても語り尽くせません…是非,下記も併せてご覧下さい.

一気に「メッキ」が剥げた小泉進次郎.もはや彼は決して「選挙の顔」にはなり得ないが…一体公示後の五日間で,何が起こったのか?
https://foomii.com/00178/20240918023428129280

小泉進次郎氏が農業部会長として従事した「農業改革」が,日本の農の衰退,食糧自給率の低迷,地方疲弊,そして東京一極集中問題をもたらした.自民党は今こそ,反省すべきである.
https://foomii.com/00178/20240916143951129224

進次郎氏が推進する「ライドシェア」が如何に「下劣」な思想に基づいているのかを思想的に論じてみました.この機に是非「進次郎達の下劣さ」をしっかりご認識下さい.
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小泉進次郎氏が主張する「選択的夫婦別姓」論.しかし社会は「シンプルな進次郎氏の頭の中」よりも複雑にできている.ロクに考えもせず改革すれば,結局困るのは国民である.
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  1. じみんは・・・、か より

    財務省批判はその通りだと思います。
    しかし、
    自民党とは何なのかという根本を糺さないと、
    放置されたウンコの山は悪くなくて
    ウンコに卵を産みつけてゆく蝿がみな悪い
    という話になりませんか。

    まず山盛りウンコを片づけるのが先なのに、
    蝿ばかり追うひとたちは、ほんとうは
    ウンコが好きなのではありませんか。
    あるいは、蝿を追う姿を見せることで
    公衆衛生を望む清潔意識の高い人々の
    カンシンを集めたいか。
    もしくは蝿を追うのはガス抜きの見せかけで
    彼らは汚穢屋だったり。

    一連の総裁選の馬鹿騒ぎを見ていて
    つくづくそう思うようになりました。

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      1. 利根川 より

        「国民のための政治」

        よく政治家が使う言葉ですが、この40年、国民のための政治とやらを実現した国会議員は一人もいません。だから、失われた30年になったのではないのでしょうか。どうしたら政治家に「国民のための政治」をやらせることができるのか。
         三橋さんや藤井教授らは、現在、最大の勢力を誇る自民党に真面目になってもらうのが一番手っ取り早い(まともな経済政策を与党にやってもらうのがはやい)ということで、政治家にレクチャーを繰り返し行い、現在では与党内にも積極財政をめざす、あるいは積極財政派のふりをする政治家が増えてきました。残念ながら、裏金・統一などリークされると困る情報をしこたま財務省に握られているらしく、具体的な成果には結びついていませんが…
         また、令和新選組の山本太郎議員のように、積極財政をうったえた方が支持が伸びるということを他の野党に示すことで野党を積極財政の方に引っ張って与党に圧力をかけようという試みもあります。これについては、以前は緊縮派だった立憲民主の吉田代表候補が消費税の減税を口にするようになったあたり一定の成果があったとみてもいいのではないでしょうか。まあ、これについては、山本太郎議員だけの成果ではなく、色々な方の協力があったればこそだと思いますが。
         さらに、政治マトリックスの右下の受け皿がないということで安藤裕前衆議院議員は国政復帰を目指しています。「積極財政を推進する地方議員連盟」や泉房穂市長のように地方から中央を変えようという試みもありますね。
         いずれにせよ、

        ”日本は民主制国家なので、積極財政派が多数派をとらないと永久に日本は長期経済停滞を続ける”

        ということになります。
         どうやって「多数派」をとるか、その方法がそれぞれで違いはありますが、経済面に関しては目指しているところは同じなのではないでしょうか。
         ちなみに、私は森永卓郎さんや森永康平さんのように、政治家よりも一般人の教育により力を入れる方針の方が時間はかかるけれど効果的なのではないかと思っています。国民の大多数が「ザイム真理教」で、積極財政っぽい話をしただけで落選するということでは永久に経済停滞ですから。
         

        ~~~~~~~~~~~~~~
        財務省批判はその通りだと思います。
        しかし、
        自民党とは何なのかという根本を糺さないと、
        放置されたウンコの山は悪くなくて
        ウンコに卵を産みつけてゆく蝿がみな悪い
        という話になりませんか。
        ~~~~~~~~~~~~~~~~

         自民党に対する並々ならぬ恨みを感じずにはいられませんが、自民党がなくなったとして、、、それで?
         わたしも自民党が経世済民などやるつもりはないとは思っていますが、じゃあ、自民党の議員が全員落選してめでたく自民党解散となったとして、それで日本は良い方向に向かうのでしょうか。また別の緊縮派ができて自民党と全く同じ緊縮・増税を繰り返すだけな気がします。
         前から言っていますが、最低限、緊縮・増税はやめさせないと”何もできない”のですよ。

        高市早苗議員「経済、経済。経済!」

        そのセリフ、岸田総理も言っていましたが、どうして岸田総理は増税眼鏡になってしまったのか。

        岸田総理「令和の所得倍増計画だぜよ」

        財務官僚「で、どこ削るの?」

        岸田総理「もう大幅に削れるところない」

        財務官僚「じゃあ、増税だ」

        おそらく、税が財源だと思っている高市議員が総裁になったところで岸田総理と同じ道をたどることになるでしょう。もっと言えば、税が財源で財政健全化をしなければならないと思っている人間であれば、誰が総理になっても増税眼鏡です。
         この状況を改善するには積極財政派が多数派になるしかないわけで、皆さんそのための方法を独自に行っているわけです。
         あなたはどうすれば経世済民が日本で実現すると思いますか?先ほど言ったように糞政党が消えてなくなったところで、別の誰かが同じことをするだけですよ?上で積極財政派を多数派にする取り組みを紹介しましたが、あなたはどのやり方を支持していますか?それとも、上で挙げたものとはまったく別の取り組みを行っているのでしょうか。
         あなたはあなたが思う政治を実現するために何処で何をしていますか?方法は多い方がいいのです、上で挙げた方法以外にいい方法があるのであればぜひ教えていただきたい。

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