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2024年7月31日

【藤井聡】五島列島「洋上風力発電」視察記(その4):風力発電を抜本的に増やしていくには,送電会社の容量拡大コストや揚水式ダム整備に公的資金を注入すればよい

先日、本メルマガにて五島列島の浮体式の洋上風力の現場への視察記を三回にわたって掲載いたしました.

五島列島「洋上風力発電」視察記(その1):なぜ、「洋上風力」が日本を救う救世主となり得る可能性があるのか?
https://foomii.com/00178/20240528140331124648

五島列島「洋上風力発電」視察記(その2):洋上風力は、「ベースロード電源」への活用は容易ではないが、耐久性・強靱性・国富流出リスク・漁業阻害リスクについての深刻な問題は見られない。
https://foomii.com/00178/20240529192943124705

五島列島「洋上風力発電」視察記(その3):風力発電は、今の日本の仕組みでは抜本的に拡大していかない。それはなぜなのか?
https://foomii.com/00178/20240531092153124770

この3本の記事でお話ししたのは,

これまでお話ししたのは第一に、発電において今何よりも重要難は原発再稼働ですが、それと平行して可能な限り火力を減らすことが電力自給率を上げる上でも重要であり、その中で、現時点の状況を踏まえると「浮体式・洋上風力」は極めて有用であると言う点(その1、の話)、
https://foomii.com/00178/20240528140331124648

第二に、10年以上の経験を通して、そうした主張は単なる机上の空論ではなく、確かなモノであるということが明らかになっていると言う点(その2、の話)、
https://foomii.com/00178/20240529192943124705

そして第三にそれにも関わらず、「送配電」の都合により、洋上風力の容量が抜本的に拡大していかないという問題があるのだ、というもの。
https://foomii.com/00178/20240531092153124770

ついては本日は、洋上風力の抜本拡大を図るために、電力の「送配電の都合」をどうやって乗り越えるべきなのか、についてお話しをいたしたいと思います。

この「送配電の都合」というのは,要するに,電力事業というのは,

・電気をつくる人(発電事業者)
・電気を流す人(一般送配電事業者)

の両者で成立しています(実際にはこの二つに加えて,「電気を売る人=小売り電気事業者」というのがいますが,今回はこの方は脇においておきましょう).

昔の制度では,東京電力や関西電力,中部電力といった電力会社がこれらを全て一体的に行っていたのですが,電力自由化の流れの中で,発電と送電が「分離」されてしまったわけです.

これらの内,「自由化」されているのは,「発電事業」だけで,「送電事業」は,昔の東京電力や関西電力等がそのまま担う恰好となっています.

なぜそうなっているのかというと,「送電事業」というのは「需要と供給」をバランスし続け無ければならない,という大変に高度な仕事をしているからで,どこかの組織が「独占」的に「中央制御」的に事業し続けなければならない,というものなのです.それはちょうど人間の頭脳やパソコンのCPUは一つでなければ混乱する,というのと似たような話です.

しかも,「需要と供給をバランス」するためには,送電事業と発電事業とが一体的に制御されていなければなりません.なぜなら需要が減れば発電量を減らさないといけない(あるいは逆に,前者が増えれば後者を増やさないといけない)からです.

じゃあ,需要が減ったとき,発電量を減らす事業者は誰なのかと言えば…それは「基本的」には,送電会社と同じグループの発電会社.ということになります.つまり,東京地区なら東京電力,関西地区なら関西電力となります.

そうだとすると,五島地域で風力が動いている時に,その分の発電量を減らさないといけないのは「九州電力」であり,風力が停まったときに,その分の発電量を増やさないといけないのは「九州電力」なのです.したがって,洋上風力発電所がもしも九州電力とは「無関係」の会社であったとすれば,九州電力は大変な損失が生ずることとなります.

そうした構図がある以上,九州電力としては必然的に,できるだけ風力発電なんてない方が良い,と考えることになります(それは何も法律違反的な考えではありません.民間ビジネスである以上,そう考え,そう実行する権利は九州電力にはあるのです).

これが(以前「その3」で論じた),風力発電の「送電容量」が増えていかない基本的な構図であるわけです(そして,その送電容量が増えていかないので,洋上風力をたくさん作ることが今,できなくなっているわけです).

では,こうした構図がある中で,どうやれば「送電会社」が風力発電の「送電容量」を増やすことができるのでしょうか?(つまり,もっともっとたくさんの洋上風力を作っていくことができるのでしょうか?)

それは,送電会社側が,通常の火力発電でなく,洋上風力発電の電力を流せば流すほどに儲かる仕組みをつくる,というのが一つの解です.

今の所FIT制度(再生可能エネルギーのための料金を,広く薄く,電力料金で徴収するという仕組み)で余分に消費者が支払ったおカネ(付加金)は,基本的に全て「発電事業者」に支払われることになり,「送電会社」には支払われないのです.つまり,風力発電というものは「発電会社」にとってはオイシイものですが,「送電会社」にとっては何らオイシイものではないのです.ここに,送電容量が増えない根本的原因があります.

したがって,風力(あるいは,再生可能エネルギー)を送電するために必要となるコストが,FIT制度で「増えた」電力料金から支払われる仕組みを作ればよいのです.そのために,FITで増えた電力料金の「一定割合」が必ず送電会社に支払われる仕組みにするという方法もありますし,「再生可能エネルギーを送電するためにかかる追加コスト」に見合った「割合」が送電会社に支払われる仕組みにする,という方法もあるでしょう.

もちろん,送電会社と同じグループの発電会社(五島の場合には,九州電力)自身が「洋上風力」をやれば,グループ全体として,「九州電力」は損失を出さないということにはなりますが,九州電力にしてみれば,別にわざわざ洋上風力なぞをやらなくても,その分の電力はもともと火力発電等で安定的に発電できているわけですから,風力発電をやるメリットは特にありません(FIT制度で多少利益が上がるということは言えますが,その程度の利益の増加分は,全体の事業収益からすれば,ごく一部であり,九州電力としてはさして「オイシイ」事業とはいえないのです).

ただし,洋上風力と共に「揚水式ダム」を作れば,洋上風力で得られた電力を「ベース電源」に使うことが可能となり,そうなれば,火力発電の代替発電として利用可能となります(つまり,洋上風力でできた電力を使って少しずつ水をくみ上げてダムにためる一方,ダムの水を使って安定的に一定量の発電をし続ける,という状況にすれば,洋上風力発電所を「ベース電源」に活用することが可能となるわけで,そうなれば,火力発電を減らす余地がでてくるわけです!.

したがって,揚水式ダムは,再生可能エネルギーの価値を抜本的に高めるものなのですが…残念ながら揚水式ダムの建設費用はFITから支給されないのです!

その結果,風力や太陽光等の再生可能発電ばかりが増える一方,揚水式ダムは全然増えず,再生可能エネルギーのベース電源活用が全く進まない,という自体に陥っているのです.

こうした点を踏まえれば,FITで増えた電力料金を,揚水式ダムの建設・維持費にも回す仕組みをつくれば,大手電力会社もまた,再生可能エネルギーに対して前向きになる筈です!そうなれば,同グループの送電会社もまた,洋上風力のtあめの送電容量を増やすことにも前向きになるでしょう.

ただし…大手電力会社は実はFIT制度そのものに前向きではない…とも考えられます.なぜなら,再生可能エネルギーが増えれば増えるほど,電力料金が上がってしまうからです.

…しかし,もし,FIT制度の料金上乗せ分を全て,政府が国債で肩代わりすれば,そうした「電力会社の後ろ向きさ」もなくなるはずです.

…というか,もしもそうなれば,再生可能エネルギーが増えれば増える程電力料金が高くなり,その結果,経済が低迷していく…という現状の悪い流れを,完全に変えることもできます.

つまり,政府が再生可能エネルギーを進めたいというのなら,その拡大のために必要なコスト(送電会社の容量拡大コストや揚水式ダムの整備コスト)を全て利用者に負担させるのではなく,政府が負担すればいいのです!(もしそれが全てできないというのなら,FITによる料金上乗せ分の一部だけでも政府が肩代わりすればよいのです).

…ということで,これまでの電力改革は,大手発電会社を解体する一方,政府自体は全く自己負担せず,いろいろなコストを大手電力会社に押しつけることで,小さな発電事業者達が儲かる仕組みをつくってきたわけですが,そういう仕組みを続けている限り,再生可能エネルギーが抜本的に増えていく事等絶対にないだろう…というのが,今回の五島列島の洋上風力発電所視察をおこなった上で最終的に当方が得た結論です.

ついては是非,電力についてのご専門の皆さんとも,あれこれ意見交換を重ねつつ,再生可能エネルギーも上手に活用しながら,エネルギー自給率を高め,国益をより増進していくエネルギー行政のあり方を考えて参りたいと思います.

以上,全四回にわたる洋上風力発電視察記,最後までお付き合い頂き,ありがとうございました!
(完)

追伸1:今回の「五島列島・洋上風力視察記」は,この第四回目で完結ですが,番外編を一本下記にて配信しています.今回の視察の機会に,五島列島に前乗りして「磯釣り」をして,幻とも言える「お化けイサキ」を釣り上げることに成功した!というお話しです(笑).是非ご一読下さい!
『五島列島「洋上風力発電」視察記(番外編)五島列島の地磯,夜釣りにて50センチの「お化けイサキ」に巡り会うことができました!』
https://foomii.com/00178/20240730201957127324

追伸2:風力発電についてさらに知りたい…という方は是非,今回の連載のその1~その3も併せてご一読下さい!
五島列島「洋上風力発電」視察記(その1):なぜ、「洋上風力」が日本を救う救世主となり得る可能性があるのか?
https://foomii.com/00178/20240528140331124648

五島列島「洋上風力発電」視察記(その2):洋上風力は、「ベースロード電源」への活用は容易ではないが、耐久性・強靱性・国富流出リスク・漁業阻害リスクについての深刻な問題は見られない。
https://foomii.com/00178/20240529192943124705

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【藤井聡】五島列島「洋上風力発電」視察記(その4):風力発電を抜本的に増やしていくには,送電会社の容量拡大コストや揚水式ダム整備に公的資金を注入すればよいへの1件のコメント

  1. たしかに、、 より

    そして 夜釣りは最高

    たまに 沿岸警備と思われるP3Cの照明を
    全身に 浴びることがありますけど

    その時には 思いっきり

    「帽振れ」 で ご挨拶いたします。。。

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