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2024年7月12日

【藤井聡】五島列島「洋上風力発電」視察記:なぜ、「洋上風力」が日本を救う救世主となり得る可能性があるのか?

先日、五島列島で五島市が運営している「浮体式・洋上風力発電所」に視察に行って参りました。

「資源がない国日本」にあって、火力発電以外の電力は、石油やガスを「輸入」しなくて済むことから、その拡大が、国家の存続と繁栄にとって絶対的に必須な課題。

そんな中で、「洋上風力」は有望な電力の一つ。

もちろん、火力の代替電力としては
「原子力発電」
が現実的に最も有望なものですが、今回の福島原発事故以降、その稼働が難しい状況に追い込まれてしまっています。それを考えると、全国の原発の再稼働を急ぐと共に、原発「以外」の「非火力発電」の拡充が、今の日本国家にとって急務となっているのです。

つまり、今日本は、当面の電力対策として、

第一に、原発の再稼働を急ぐと同時に、
第二に、急場を凌いでいる火力発電を極力減らすための、より合理的な「火力の代替電力」を探る

という戦略が求められているわけです。

では、「火力の代替電力」として、今、現実的に考えられるものとして挙げられるのが、

・水力発電
・太陽光発電
・陸上風力発電
・核融合発電
・地熱発電
・メタンハイドレート発電

等が代表的なものとして挙げられますが、それぞれにはそれぞれの問題があるのです。

まず水力発電は、主要なものはおおよそ開発してしまって、今の日本の「開発余地」は限定的。

太陽光発電や陸上風力発電は、たいして発電容量も大きくない割に、激しく「国土」すなわち、日本列島内の「自然環境」や「景観」「風土」を著しく破壊するという深刻な問題を抱えています。

核融合発電はもちろんできれば素晴らしいのですが、その技術的課題は膨大にあり、その実用化にどれくらいの時間が必要なのか、俄に分からないところがあります。

最後に、地熱発電もメタンハイドレート発電もその資源は「純国産」でありますから、極めて有望なものであり、その拡大を図ることは中長期では重要であることは間違いありませんが、持続可能なコストの範囲で、その発電容量を急速に拡大できるほどの技術が「いまのところ」開発されていないという難点があります。

そんな中で、当方が今、着目している電力は、
「洋上風力」
です。

洋上風力のメリットについては、これまで何度か発言したことがありますが…
https://foomii.com/00178/20230908154911113838
かいつまんで纏めると、次のようなものです。

第一に、日本は海洋大国であり、広大な海域を持っている。したがって、発電容量が大きく、その水準は、現在の火力発電容量を遙かに凌ぐ。

第二に、陸上風力と違い、陸上風力のデメリットである国土の環境的景観的破壊を回避できる。

第三に、陸上風力と違い、海上では陸上よりも遙かに多くの風が吹いており、エネルギー効率も良い。

第四に、既に技術は完成しており、あとは資金を用意して施工しさえすれば、今すぐにでも発電容量を上げることができる。

つまり、

・容量の拡大余地の点において水力を圧倒的に凌ぎ
・国土保全の点において、太陽光・陸上風力を凌ぎ、
・エネルギー効率の点において、太陽光を凌ぎ、
・現時点の急速容量の拡大余地(=現時点の技術水準)において核融合・地熱・メタンハイドレートを凌ぐ

という点において、最も有望な電力であると考えられるのです。

しかし、そんな有望な洋上風力にも、次のような少なくとも二つの懸念事項があります。

第一に、エネルギー効率は陸上風力や太陽光よりも高いとはいえ、洋上でも風が吹かない時もあり、おおよそ30%前後と限定的。したがって、火力や原子力の様に(四六時中発電する)「ベース電源」として活用することはできないのではないか?

第二に、風車の羽(いわゆる、ブレード)は、かつては東芝や日立が製造していたが、現時点では撤退してしまい、外国製品に頼らざるを得なくなっており、洋上風力の拡大は国益上問題はないのか?

この懸念事項はそのまま、洋上風力の相対的な「デメリット」となり得るものですが、もしも、このデメリットを上回るメリットが洋上風力にあるのなら、そして、そのメリットが水力や太陽光を上回っているのなら、国家としては強力に推進すべきだという事になりますし、その逆ならば、そうした推進は回避すべきだという事になります。

いずれにしても電力は日本国家の命運を考える上で何よりも大切な問題ですから、以上の考察を経て当方は、洋上風力のメリットとデメリットを正確に見極めることは、国家にとっての一大事なのだと深く認識するに至りました。

ついては、関係者に依頼し、この度、国内で唯一、「浮体式」の洋上風力が運用されている五島列島に視察に行くことにしたのでした。
https://www.city.goto.nagasaki.jp/energy/li/020/index.html

結論から申し上げて、上記の様な課題はあるものの、それを踏まえてもなお、洋上風力にはやはり、それを強力に国家的に推進していくことが必要な程の十分なメリットがあると確信するに至りました。

ついては、なぜ、当方がそのように感じたのか…それを解説する前にまず、その発電所の概要を解説いたしたいと思います。

■五島列島・洋上風力発電所の概要■
まず、この洋上風力発電所は、海岸からおおよそ5キロ離れた洋上に設置されているのですが、その最大の特徴は、風力発電機が海底に固定される「着床式」ではなく、釣りの「ウキ」、あるいは、盾に細長い「船」の様に浮かぶ「浮体式」であるという点にあります。

「着床式」の場合は、設置できるのは陸のごく近くの「浅い海」だけとなりますが、「浮体式」の場合は、洋上ならどこでも設置できるため、設置可能数(つまりは、発電総量)、圧倒的にこの「浮体式」の方が「着床式」よりも多いのです。

ただし、今の所日本でこの「浮体式」の風力発電機は、ここ五島にしかありません。五島以外の全ての洋上風力は今の所全て「着床式」なのです。

ですから、ここ五島での「浮体式」の風力発電機が成功すれば、日本は莫大な電力を、広大な洋上を活用して開発できる一方、「着床式」だけでは、それが全くもって不可能となってしまうわけで、ここ五島での「浮体式」の風力発電が成功しているか否かは、今後の日本のエネルギー戦略を占う上で極めて重要な意味を持つものなのです。

さて、その運用は、複数の資源・エネルギー会社(関西電力、中部電力、大阪ガス、ENEOS等)、ならびに建設会社(戸田建設)が出資する形で設置された民間組織が担います。

その供用開始は、今から10年以上前の2013年。

当時は政府・環境省の「実証実験」として設置されたのですが、実証期間が終わり、その時点で発電所を廃棄するのではなく、そのまま、五島市も協力する形で、上記の複数の企業が協力するかたちで設置した民間企業が、現在では運営するようになったとのことです。

ブレードの長さは20メーター(つまり、ちょっけう40メーター)、構造物の全体の高さは大阪の通天閣程度の100メーター、そして発電容量は、おおよそ2000キロワット。

大型の火力発電所や一般的な原子力発電所では、数十万キロワットはありますから、大型の火力や原発と同じだけの発電をしようとすれば、100~数百基程度の同規模の風力発電所が必要となります。

■「ベースロード電源」としての活用には工夫が必要■
さて、当方の第一の懸案事項だった、エネルギー効率の低さですが、やはりベースロード電源を洋上風力に任せるのは(少なくとも単体や小数では)難しいという点は残念ながら認めざるを得ない、ということを改めて認識しました。

というのも、エネルギー効率が3割前後と伺っていましたが、その実態がよく分かったからです。視察中にも風が吹けば風車は動き、風が止まれば風車も止まっていました。陸上よりは風は強いとは言え、洋上で「常」に発電に適した風が吹いているというわけではないのです。

とはいえ、仮にベースロード電源として活用できなかったとしても、風力発電量が拡大すれば、火力発電の石油や天然ガスの使用量を縮小させる効果があると考えることは可能です。

しかも、ここよりも風況の良い場所は有るでしょうし、揚水式ダム等の「大規模な電池機能」と電気系統で接続すれば、ベースロード電源として活用することも可能となりますから、ベースロード電源としての活用が絶対不可能という訳ではありません。ただし、そのためには相当な工夫が必要であることが改めて確認できた次第です。

■風力発電建設による国富の海外流出は限定的■
次に発電事業の外国企業依存度ですが、確かにブレード部分は外国企業ですが、その基礎部分は、コンクリート構造物になっています。風力発電構造物のおおよそ三分の二が国産であり、外国依存部は三分の一程度、となっています。

しかも、こうした全体の三分の一の輸入部分というのは、「初期投資」のものですが、メンテナンスとオペレーションを国内企業が行う限り(実際、五島の風力発電は国内企業が担当しています)、国富の海外流出は限定的であるという点がよく分かりました。

…以上の二点は、本視察において最も当方が着目していた点でしたが、それに加えて、本視察を通して、以下の様な様々な点も理解できました。

■耐久性に極端な難があるわけではない■
ところで、洋上風力において懸案の一つとしばしば言われる、海風に晒され続けることによる「耐久性」の問題ですが、今回の風力発電は、2013年から運用されており、しっかりとしたメンテナンスを行っている限り、少なくとも10年以上、大きな問題は生じていないという点が確認できました。

そもそも、この浮体式の洋上風力発電機は、法的には「船」として登録されているわけですが、船というものは海風に四六時中晒されているにも関わらず、一定の年月使用され続けているわけですから、洋上風力の耐久性に極端な難があるとも考え難いと言うことができるでしょう。

■台風・高波対策は、少なくとも浮体式である限りにおいて、深刻ではない■
洋上風力発電においてしばしば指摘される「台風」や「高潮」による被害の問題ですが、「浮体式」の場合は、「着床式」と違って風や高波に逆らわずに、風に「おされる」恰好で発電機そのものが傾くことから、強風に対して一定の強靱性があるものと考えられます。実際、この10年以上、何度も台風や高潮に襲われてきた筈ですが、特に大きな事故も無く運用されているというのは、重要な知見となっているものと思います。

この「浮体式」の風力発電は、(ヘラブナ釣り等の時に使う細長いタイプの)「ウキ」と同じ構造になっているのですが、このウキというものは、どれだけ強い風が吹こうが強い波に晒されようが、深刻な被害を受けることはありません。したがって、ブレード(羽)の角度を風の抵抗を受けない方向に変えることができる限りにおいて、浮体式風力発電機に深刻な被害を受けるとは考え難いわけです。

■漁業に貢献する側面もある■
洋上風力プロジェクトにおいて大きな課題となるのは、地元の漁師達の「漁業権」の関係です。漁師にしてみれば、洋上風力は漁の邪魔になるというわけです。

この点は、漁師達としっかりと話し合い、合意を形成していく姿勢が必要ですが、少なくとも洋上風力発電機の水中部分が、所謂「魚礁」(魚が生息する海中の構造物)としても機能していることが、過去の10年以上の経験で明らかにされているようです。すなわち、発電機水中部分に多くの魚が居着き、水産資源を増やす効果を発揮しているようなのです。

■風力発電が地元に雇用と人口増をもたらしている■
どんな地域でも、地元産業の創出は重大な課題であり、必ずしも容易ではありませんが、風力発電は、そこに海がある限りにおいて設置可能であり、有望な地方活性化産業となり得ることが今回の視察で確認できました。

現在は、さらなる浮体式風力発電機の整備(2026年に向けて8機が予定されています)で、おの関係者達が五島に居住していますが、それ以外にも、風力発電機のメンテナンスの関係者が五島に常駐することになります。

このメンテナンス関係者は建設が終わった後も定住し続けることから、雇用と人口の純増をもたらす事になります。

現在、風力発電のメンテナンス企業が五島市にて起業しており、そこで20名以上の雇用が生みだされているようでした。

…ということで、10年以上の浮体式洋上風力発電機の運用を通して、ベースロード電源としてそのまま活用することは困難であるものの、深刻なデメリットは今の所見つかってはいない一方で、火力に頼らない電力の国産化効果はもちろんのこと、雇用創出や魚礁効果等のメリットも生ずることが確認できたようです。

だとすれば、洋上風力をさらに大型化し、その基数を拡大していくことは、日本の国益に資する事になる筈なのですが…それが今の所、遅々として進んでいません。

それが一体なぜなのか、そしてそのために今、政府は何をすべきなのかについては…随分と本メルマガも長文に成って参りましたので,ご関心の方は下記記事,ご参照下さい.

『五島列島「洋上風力発電」視察記(その3):風力発電は、今の日本の仕組みでは抜本的に拡大していかない。それはなぜなのか?』
https://foomii.com/00178/20240531092153124770

追伸1:7月20日開催の一般の方向け学習会にて講話致します.主催は表現者クライテリオン表現者塾の埼玉支部.題して「埼玉で考える―危機と対峙する保守思想:「現代の日本社会で如何にすれば無気力や無関心に陥らずに活き活きと人生を生きていけるか」
是非下記より参加申込下さい!
https://the-criterion.jp/symposium/7-20saitama/

追伸2:今年の第16回土木と学校教育フォーラムのテーマは
『ダイバーシティ&インクルージョンのための「まちづくり・地域づくり」教育』
 8月4日(日)9:00-16:30@土木学会(東京四谷)
現地でもリモートでも参加可.ご参加/周りの小中高校の先生方へのご転送等,是非お願いします!
詳細はコチラ⇒https://committees.jsce.or.jp/education04/node/49

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