政治

日本経済

2023年8月4日

【藤井聡】「地域経済活性化」のためには、全国企業でなく地元企業を徹底的に優遇すべし ~「地域の乗数効果」の基礎理論~

(※ 泉明石元市長との対談の中で、地域振興政策について話題が及んだ折に当方から解説したお話。どうすれば、より効果的に地域経済の振興がはかれるのかを、基礎理論や実証研究を踏まえて解説差し上げました)

マクロ経済的に言うと、お金のキャッシュフローが、その地域に「滞留」するパーセンテージがすごく大事なんです。例えば、京都で1万円の買い物をしたとしても、そのお店が地元の商店街のお店じゃなくて、大型スーパーだったりすると、本社が東京にあったり、商品の仕入れ元が京都市内じゃなくて、全国各地に散らばっていたりします。だから、その1万円の多くの部分が京都以外の地域に「流出」してしまって、京都市内に「滞留」する割合が減ってしまう。

そんな視点で、これまで大学の研究室で、その地域に滞留するお金、近隣地域に流れるお金、日本全国に流れるお金、そして海外に流出してしまうお金、のそれぞれが何パーセントなのか、ということを推計する研究をいくつかの地域で行ってきました。

すると、例えば地元の商店街でお金を使うとおおよそ50%程度が地域に滞留する一方で、全国チェーンの大型スーパーなどで使ってしまうと、それがもういきなり10数%に減ってしまったりするわけです。だから、地域経済の活性化を考えるなら、皆が地元資本のお店でお金を使うケースと、皆が全国規模のチェーン店でお金を使うケースとでは、地域経済の状況が全く変わってくるのです。

同じ地域でもお店の種類が違うだけで経済効果が全然違うわけですから、よその地域のお店でばっかりお買い物をするような状況では、地域経済の疲弊はより顕著になるのも当たり前です。つまり、それぞれの自治体の行政で、それぞれの自治体を活性化させたいと考えるのなら、その自治体の人々がどこでお金を使うのか、ということをしっかりと考えることが極めて重要なわけです。

ところがこの問題に配慮している自治体を、僕はほとんど見たことがないです。

これは別の言い方で言うと、政府が地域振興を考えるなら、専門用語で言うところの「乗数効果」の「乗数」というものを、地方政府においてもしっかり考えることが必要だ、という話しになっているわけです。

乗数効果っていうのは、政府が例えば1億円使った時、その経済効果が例えば3億円に拡大したら、乗数効果は「3」ということになります。逆に、8000万円程度しか経済効果がなかったら、乗数効果は「0.8」となります。

つまり、「どうせお金を使うなら、できるだけ生きたお金にしていかなきゃならない」という考えは、経済学的に言うなら「できるだけ高い乗数効果を生み出さなきゃならない」という話しになっているわけです。

で、この乗数効果というのは、実は、先程から申し上げている、「お金の滞留率」に直接依存しているわけです。滞留率が高ければ(逆に言うなら、外部への流出率が低ければ)乗数効果は自ずと高くなる。

だから、「生きたお金の使い方をしたい」、ということなら、必然的に滞留率が高いお店への出費を奨励していくことが必要になってくるわけですから、地元の商店街やタクシーで使えるようにする一方、大型スーパーやコンビニでは使えなくする、という方法は、地域振興策として極めて合理的だ、といえるわけですね。

さらに言うと、地域振興券だとまずはその出費が1回、消費者から事業者(つまりお店)にお金が流れます。例えば10億円地域振興券を用意したとするなら、これでその地域のGDPが10億円押し上げられることになります。

ちなみに、GDPが国の経済成長であるのに対して地域のGDPは一般に、「GRP」と言います。GRPを考える場合、その地域「外」にどれだけのマネーが流出したのか、というところがポイントになります。ですから、例えば地域振興券が10億円分使われたとしましょう。そうすると、その内の一部は明石外に流出します。この割合がおおよそ4割だとすると、残りの6割が明石市内に滞留します。その結果、明石市のGRPは6億円増える事になります。

ただし、こうして6億円、明石市内の皆さんの所得が増えたとして、その内の5億円が明石市内で使われたとすると、その5億円の6割の3億円が明石市内に滞留し、GRPはさらに増えます。

こうしていったん10億円のお金が明石市内に注入されると、域外に少しずつ流出しながら、明石市内でお金がぐるぐるまわり、最終的に20億円弱のGRPが増えるということになります。つまり、明石市役所は、10億円のお金を、地域振興券を通して明石市内に注入すると、その倍近くの20億円弱の地域振興効果をもたらすことになるのです。

これはもうもちろん、明石市民にしてみれば、嬉しい話です。お金が儲かる話なわけですから。

ところが、その10億円の地域振興券を大手スーパーやコンビニなどでも使える様にすると、市外に流出するお金が増えてしまい、20億円弱もの効果が得られなくなります。同様に、その10億円を明石市内にある大企業にばらまいてしまうと、大企業は明石市外との取引も大きいですからさらに効果が薄れ、明石市民の所得増加効果はもっと限定的になってしまいます。

こう考えると、地域振興を図る上では、「お金をどうすれば地域に滞留させることができるのか?」という事について様々な工夫を凝らすことが大切だということが分かるのですが、今の政治家たちはそれをやりません。

地元の商店街などに目もくれず、外資を呼び込んでニセコみたいな大規模リゾートを開発させたり、多くの自治体が手を上げているカジノ投資を外資に依頼したりすると、一見、派手派手しくはありますが、だからといって、地元の人々の所得は上がってはいかないのです。

なぜそんな愚かな事になるのか。その理由は第一に、有り体に言えば「馬鹿」だからという可能性もありますが、それとは別の第二の理由として、地元に対する「愛」がないという可能性もあります。実際には、この双方の理由があるケースが多いのだと思いのだと思いますが…
要するに簡単に言うなら、十分に賢くないからどうやったら地域振興ができるのか、いまいち分からないのみならず、地域に対する愛が不測しているが故にそもそも地域振興したいという思いそのものが薄く、どうやったら地域振興ができるかを真剣に考えてすらいない、というのが平均的な地方行政における政治家の姿であるように思います。

実際、僕はそういう風にしか見えない政治家たちを何度も観てきましたが、そういうのを見ていると、本当にイライラする他ないですよね…。

追伸:本記事は、『表現者クライテリオン編集長日記』(https://foomii.com/00178からの抜粋。本日は下記を配信しました。ご関心の方は是非、ご一読ください。
【考察 エッフェル塔記念写真炎上問題】 国民は松川るい氏の一体何にムカついたのか?
https://foomii.com/00178/20230804092744112302

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【藤井聡】「地域経済活性化」のためには、全国企業でなく地元企業を徹底的に優遇すべし ~「地域の乗数効果」の基礎理論~への1件のコメント

  1. 地域の個人商店を大切に より

    地元の個人商店で 買い物したこと

    ここ数か月
    記憶に ない 。。。

    自分は さっきも アマゾンさまで
    水鉄砲を 購入した ばか り、、

    地域の個人商店では 品揃えも イマイチ
    まず 出掛けるのが 億劫

    というわけで グローバリズムや 財務省が
    大嫌いな X君からは お叱りをうける 毎日

    ちなみに

    GRP:gross regional product ですか

    国土交通省のホームページには
    実質地域内総生産成長率を表す 数式が載ってましたけど

    加減乗除と 分数 のみ、、、
    地域の成長率って ずいぶんと 簡単に
    表現できるもの なんですね。。。

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