政治
日本経済
2023年4月17日
【藤井聡】『テロ多発社会』 ~岸田襲撃事件、安倍暗殺事件、宮台教授襲撃事件が示唆する政府の信頼性「溶解」が導いた「私的暴力の蔓延」という〝悪夢〟
こんにちは。表現者クライテリオン、編集長の藤井聡です。
和歌山に選挙応援のために訪れていた岸田文雄首相をターゲットに爆発物を投げ込むテロ事件が起こりました。岸田首相に投げつけられた「鉄パイプ爆弾」と見られるものは爆発したものの、それは投げつけてから約50秒後の事であったということから、岸田氏は無事避難できました。
まだ、犯人の「木村隆二容疑者(24)」の動機については明らかにされていませんが、この事件で、誰もが昨年7月の奈良での安倍暗殺事件を思い起こしたものと思います。安倍暗殺事件の時は誠に不幸にも犯人の意図は完遂される結果となりましたが、今回は未遂に終わり、岸田文雄氏という一人間の命が失われなかったという災い中の幸いに、ほっと胸をなで下ろした方は多かったものと思います。
松野官房長官からは「選挙の中で今回のような暴力行為は断じて許されない」との声明が出されておりますが、政府としても、そして我々一般社会としても、政治家を狙ったこうしたテロ行為に対して毅然とした厳しい態度をとり続けることが必要であることは論を待ちません。
しかし、昨年11月には、当方の言論仲間でもある宮台真司氏がナイフで切りつけられるというテロ事件も起こっていることも踏まえれば、昨年7月の安倍暗殺事件、昨年11月の宮台襲撃事件、そしてこの4月の岸田襲撃事件と、今やもう、数ヶ月おきに政治家や著名人を狙ったテロ事件が連発していることになります。
戦後日本においては少なくとも昭和後期から平成期の日本においてはこうしたテロが多発、連鎖することはなかった事を思い起こせば、隔世の感を禁じ得ません。
令和日本がこんなにテロが多発する「テロ多発社会」となったのは一体なぜなのでしょうか…?
この問題について、当方のメルマガ『表現者クライテリオン日記』(https://foomii.com/00178)にて、詳しく論じましたので、今日はその内容をご紹介したいと思います。
まず、この問題については、表現者クライテリオンにて年末年始特集の『「反転」の年 2022-2023:戦争、テロ、恐慌の時代の始まり』にて、まさにそのサブタイトルで「テロ」の時代の始まりと示唆している通りです。
https://the-criterion.jp/backnumber/106_202301/
すなわちもう今の日本は、昨年7月の安倍暗殺事件を象徴とする「テロ」が頻発する時代になっているのであって、(いわゆるネオリベ的=新自由主義的な軽薄な政治を政府が続けている限り)その時代の流れは避けることができない状況にあるのだ、という事を、論じていたのです。
なぜそういえるのかと言えば、ネオリベ的政治というものは要するに、弱者切り捨ての政治だからです。そうなると切り捨てられた弱者達(今やそれは急速に増加しつつあります)は政府に対する信頼を失い、それによってこれまで政府が独占してきた「権威・権力・暴力装置」の有効性が失われ、自身の身を守ったり正義や公正を回復するために各人が個別的な暴力を遂行し始める―――という最悪の状態(いわゆる『万人の万人に対する闘争』状態)へと至ってしまう、という政治社会学的なメカニズムが発動してしまうからです。
この点について、例えば、令和のテロ連鎖の被害者のお一人でもあった宮台先生が、当方との対話(https://youtu.be/eI3lAnHBK7Q?t=669)の中で、次のように直接語っておられます。
『宮台 単純無差別事件は、日本では、これから確実に増えるんです…(著者挿入:なぜなら)…〝ネオリベ〟化した統治権力もCallしてもResponseしない。そうすると、残りの選択肢って結局は自力救済になるんですね…簡単に言うと、統治権力が信頼される装置でない時には、(著者挿入:政府ができあがる前の状態であった)自力救済に戻るのが合理的だ、っていうことになってるわけです。
藤井 ゲーム理論的にそうなってるんですね。
宮台 そうです。
藤井 で、そのゲームの構造が変わった、っていうことですね。
宮台 そうです。で、そういうことが世界的に起こっているっていうことなんですね。』
(以上は、宮台先生の発言のごく一部です。その全文は下記メルマガにてご紹介差し上げいますのでご関心の方は是非ご一読くださいhttps://foomii.com/00178/20230416104509107983)
要するに、
1)昔は政府も警察もなく、悪いことした奴は、自分で懲らしめないといけなかった、
2)だけど、それでは強い奴の好き放題になってしまうので、あるときから皆で政府や警察を作って、悪い奴がいたら、自分で懲らしめることをやめて、その政府や警察に依頼して、
その悪い奴を自分の代わりに懲らしめてもらうようになった(これが近代政府というもの)
3)ところが、その近代政府が機能不全になって、悪いことした奴を放置するようになれば、人々は再び、自分自身で悪い奴だと思う人間を懲らしめないといけなくなってしまう。
という話をされているわけです。で、宮台先生は今日本は、上記3)の時代に入ったのだとおっしゃっておられるわけです。
で、そんな時代を呼び込んだのは、ネオリベ化した政府、つまり、小泉・竹中時代から突入した新自由主義化した自民党政府なのだとも(暗示的な形ではありますが)指摘しておられるわけです(詳細は、メルマガ記事をご参照くださいhttps://foomii.com/00178/20230416104509107983)。
まさにおっしゃるとおり、としか言いようがありません。
例えば、統一教会の被害者達は、誰に言っても救済してくれない、という状況に追い込まれており、したがって、ホッブズの予言通り、政府に委ねていた暴力を私的領域に呼び戻してしまったわけです。
今回の犯人も、宮台先生を襲った犯人が何を考えているのかわかりませんが、彼らの振るまいがこの構図の中に収まっていることは間違いないでしょう。
にもかかわらず、メディア上では、こういう構図にあることをすべて無視し、「テロ対策を強化すべきですね!」というような事ばかりを口にしているわけです。
もちろんそれはそれで必要ですが、もっと抜本的に求められているのは、困っている国民を「無責任」にも放置し続けている政府の振る舞いこそがテロ多発社会の根本的原因なのだ、という認識を持つことなのです。
こうした議論は、テロのターゲットにされ、場合によっては命を落としていたかもしれなかった宮台先生の口から直接語られたものであるという点で、「無責任な評論家達の軽薄な評論」とは一線を画す、迫真的説得力が十分に備わったものであると言うことができるのではないでしょうか。
ちなみに、先日ご一緒した日本政界の重鎮中の重鎮、元警察官僚の亀井静香氏も、宮台先生や我々クライテリオン編集部と全く同じ事をおっしゃっています。
昨日発売になったクライテリオン最新号の特集『「岸田文雄」はニッポンジンの象徴である~依存症のなれの果て~』におきます座談会での亀井氏の以下のご発言です。
https://www.amazon.co.jp/dp/B0BYYQZMNK
以下の亀井発言は、岸田氏がサミットでバイデンらを広島のみならず長崎まで連れて行って、追悼させるという話がでていますねという事を申し上げた当方の言葉へのご返答です。
『亀井 あの原爆は人体実験だよ。広島と長崎では種類が違うんだから。そうした所に、バイデンが謝罪の気持ちもなく足を踏み入れるようなことを岸田はさせたらいかんよ。そんなことやったら普通の国ならテロが起きるよ。
これからは、下手をしたらテロの時代に入るよ。議会とか労働組合とかの集団が世の中を正す力を持たなくなってきたからね。今の連合なんて、労働者の利益を代表して経営者と交渉していますか。ストもしていないでしょう…。
藤井 そうですね。パブリックな暴力装置を使えないなら、プライベートな暴力装置を各人が使わざるを得なくなるということですね。
亀井 社会集団が集団の力でもって世の中を正すことができないと思うようになったらそうなるね。選挙で投票に行ったって、政党が議会で正してくれるか?野党なんて今や存在しないも同然じゃないか。国会で政府に対して国民の利益を代表してやり合う政党があれば、国民は託すんだよ。だけど、そうでなくなったらテロが出てくる。予言するよ。
藤井 本当にそうですね。現在国民の中に、岸田文雄を熱狂的に支持はしないけれど是認する態度が一方にはありますが、その一方で、岸田文雄に対する憤りや苛立ちも拡大しているのではないかと思います。
亀井 テロは40%の支持も要らないんだよ。一人いればいいわけだから。
藤井 そうです。ですから、他人を苛立たせるあの岸田文雄という存在は、むしろテロを誘発する契機となり得るのではないかと思います。』
誠に残念な話ですが、状況分析から導き出した当方の「予言」が、ちょうどその議論(3月16日)の一ヶ月後に、今回の「岸田襲撃事件」という形ではまさに実現してしまったわけです…。
今回はたまたま岸田さんの命は救われましたが、それはあくまでもたまたまであって、場合によっては、安倍さんの時と同様に命が失われていたことは十二分に考えられるわけですから、今回、岸田氏が無事であったことについて、心より安堵いたす次第です。
いずれにせよ繰り返しますが、近代国家というものは、「私的な暴力」を全員でいったんすべて国家に委ね、その代わりに国家が、不条理な契約違反をやった人間に対する「罰」を、その被害者の代わりにやってもらう状況にする、というものなのです。それにもかかわらず、今、その国家が新自由主義化して機能不全になり、国民が希求する「正義」や「公正」を回復することができなくなっているのです。
消費税は増税されてデフレが続くにもかかわらず、その手当を何もしない。ブラック企業がはびこるのに何もしない。少子高齢化が続くのに、人手不足は続くのに、電気代・食料品が上がり続けるのに、そのほかのあらゆるものの物価高が続くのに、賃金は上がらないのに、むしろ下がり続けるのに…
…政府は口では「やるやる」といいながら、新自由主義なる理念をいいわけに、結局は何もせず、国民が政府に希求する「正義」や「公正」の回復が一切なされない…こうした状況が20年以上も続き、いよいよ国民による政府に対する信頼が崩壊し、国民が自らの手で「正義」や「公正」を守るために、遂に法治国家として禁止されている禁断の私的暴力=テロリズムに手を染め始めたのです。
文字通り、日本は今、最低最悪の無秩序状態に突入し始めているのです。
(以下、この無秩序状態を導いたのは自民党政治であること、その象徴が岸田文雄現首相であること、従って、今回のテロ事件は極めて皮肉な顛末となっていること、そしてその最悪の悪夢からいかにすれば脱却できるのか…などについて、メルマガではさらに論じています。ご関心の方は是非、ご一読ください)
https://foomii.com/00178/20230416104509107983
追伸:テロを必然的に導く政府の溶解…において、財務省は極めて重大かつ深刻な役割を担っています。この世からテロを根絶するためにも、こういう財務省の横暴を許してはなりません。是非、ご一読ください。
齋藤元財務次官による「安倍回顧録」反論記事に、積極財政派の立場から誠実にお答えいたします。是非ご一読ください(前半)
https://foomii.com/00178/20230412213947107857
齋藤元財務次官による「安倍回顧録」反論記事に、積極財政派の立場から誠実にお答えいたします。是非ご一読ください(中編)
https://foomii.com/00178/20230413140904107886
齋藤元財務次官による「安倍回顧録」反論記事に、積極財政派の立場から誠実にお答えいたします。是非ご一読ください(後編)
https://foomii.com/00178/20230414211645107940
本メルマガの詳しい内容は、下記を是非、ご一読ください。
2023/04/17
『テロ多発社会』 ~岸田襲撃事件、安倍暗殺事件、宮台教授襲撃事件が示唆する政府の信頼性「溶解」が導いた「私的暴力の蔓延」という〝悪夢〟~(前半)
https://foomii.com/00178/20230416104509107983
『テロ多発社会』 ~岸田襲撃事件、安倍暗殺事件、宮台教授襲撃事件が示唆する政府の信頼性「溶解」が導いた「私的暴力の蔓延」という〝悪夢〟~(後半)
https://foomii.com/00178/20230417110000107995
…そして、弱者切り捨てを導く改革政党も、極めて危険な存在です…
なぜ維新は台頭するのか? 令和における「まつりごとの溶解」と「マーケティング」が導く悪夢のビジネス政治。
https://foomii.com/00178/20230411134619107795
以上是非、あわせてご一読ください。
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