政治

日本経済

2021年8月20日

【藤井聡】総裁選・総選挙を通して「責任ある積極財政」を実現する内閣は誕生するのか?

From 藤井聡@京都大学大学院教授

今、菅総理に対する「嫌悪感」が国民の間に広まり、一早く退陣して欲しいという国民的な思いが急速に拡大しています。

その背景には、コロナ対策や経済対策がまったくもって出鱈目であることに加え、国民には自粛させるくせに自分がやりたい五輪だけは強行したり、天皇陛下や原爆の被害者の方々を著しく軽んじる(というか、むしろ侮辱する)様な振る舞いを繰り返し、兎に角普通の国民の神経を「逆なで」し続けているということがあります。

その結果、菅総理のままでは選挙は戦えないという空気が自民党の中で一気に支配的になってきました。恐らく、来週日曜日に投開票がおこなわれる横浜市長選挙で菅氏が推薦する小此木氏が敗れ、「横浜社会を裏切り続ける菅氏に鉄槌を下さんとする“浜のドン”こと藤木氏」が推挙する山中氏が勝利すれば、「菅おろし」の自民党内の動きは暴風雨に達する事になると期待されます(そして今、山中氏がリードする展開となっていると報道されています)。

こうした流れを受けて今、激しく動き出したのが、自民党総裁選挙です。

菅氏はこの総裁選について、二階幹事長の後ろ盾を最大限に活用して、候補者が誰も出馬しない無投票での再選を狙ってきていました。そして、それが半ば既定路線ではないかとも一部では言われてきていたのですが、現下の状況で事実上、菅氏の無投票再選の芽はほぼ無くなってきました。

そんな中で、8月20日現在、総裁選候補として昨今、新聞メディア等で取り上げられるようになっているのが、
 高市早苗元総務大臣、および元自民党政調会長
 岸田文雄元外務大臣、および元自民党政調会長
 下村博文元文部科学大臣、および自民党政調会長
の三人です。

このお三方の内、高市氏と岸田氏のご両名については、過日、当方がホストを務めております東京MXテレビの「東京ホンマもん教室」にゲストとしてご登壇いただき、今の日本で成すべき政策とは何かについてそれぞれ、2回に分けてじっくりとお話しを伺いました。

※高市氏放送分(令和3年7月10日、24日)
https://www.youtube.com/watch?v=pM8GEP7FETk&t=951s
https://www.youtube.com/watch?v=UZ3SUQhU7VE&t=1009s
※岸田氏放送分(令和3年2月7日、21日)
https://youtu.be/i0IYDCLsif8?t=1000
https://www.youtube.com/watch?v=bbhUfU8hXZU&t=1116s

今となって思えば、これらのお話しはいずれも、「総裁選候補としての政権構想」と言うべき内容となっているものと思います。

当方がお伺いした中で、今の日本において最も重要な「積極財政への転換」について、総裁候補者の中で最も前向きな方は、高市早苗氏であったと思います。何と言っても、高市氏は明確に、

「プライマリーバランスの弊害」

を認識しており、今の日本が成すべきは,プライマリーバランス黒字の達成という政策目標でなく、コロナ禍からの脱却であり、デフレ脱却であり、そして、様々な危機管理のための政府投資であると主張しておられました。

高橋氏は、こうした諸政策をアベノミクスをさらに発展させた「サナエノミクス」として強力に推進することを宣言しています。

そして、アベノミクスをさらに発展するにあたって何よりも大切なのが、第二の矢であった「財政政策」が不十分であったという事実認識であり、それを踏まえた財政政策の徹底展開であると主張しています。

そして、総裁選への出馬を表明した文春記事では、
「時限的にプライマリーバランスを凍結する」
「日本は、自国通貨建てで国債を発行できる(デフォルトの心配がない)幸せな国である」
「危機管理投資に必要な国際発行は躊躇すべきではない」
「名目金利を上回る名目成長率を達成すれば、財政は改善する」
「アベノミクス第三の矢は……「改革」が主だったが、私はここを「投資」に変える」
という、他の総裁候補から一線を画す、極めてマクロ経済政策論的に「正しい」主張をしておられます。

もしも高市政権が誕生することがあるなら、総務大臣と自民党政調会長を歴任された経験を踏まえ、コロナ禍脱却、デフレ脱却が実現する「まで」、絶対にブレず、「責任ある積極財政」を展開されんことを一国民として大いに期待したいと思います。

一方で、岸田氏もまた、少なくとも「危機」的な状況下では、国債発行を過剰に忌避する事無く、徹底的な財政拡大をおこなうべきであるという旨を発言しておられました。

この危機状態で緊縮のままでは、その危機が克服されず、社会と経済が破壊され、挙げ句に財政基盤までもが破壊されるという構造が存在するからです。

ただし、ここで重要なのは、「一体何が危機なのか?」という認識です。

岸田氏は、少なくとも現下のコロナ禍は危機状態であると認識しておられるご様子でした。そして、自然災害もまた危機状態だと明確に認識しておられました。

しかし、「デフレ不況」あるいは「失われた20年」というものが、危機状態であるという認識は希薄であるような印象を受けました。さらには、そうした経済的危機を呼び込んだのが、消費増税であるという認識もまた、希薄、あるいは、不在であるように感じ取れました。

もし岸田氏が総理総裁となる日が来るとすれば、一体何が危機なのかについて改めて、しっかりとした現状認識を持たれんことを、一国民として強く祈念致したいと思います。

なお、岸田氏は、現在の日本の資本主義は「株主」を過剰に重視する一方、労働者や投資を軽視する傾向があることを認識し、「公益」を重視する資本主義のあり方を模索すべきであるという「公益資本主義」の理念を強調しておられ、この点は総裁選の結果如何にかかわらず、自民党、国会内でこうした議論が拡大することを大いに期待したいと思います。

・・・

以上は、あくまでも自民党という一政党内部の話でありますが、「消費税の減税・凍結」について、少なくとも現時点において積極的に言及している総裁候補はおられません。

この点について積極的な姿勢を示しているのは、やはり「野党」です。

山本太郎氏率いるれいわ新選組は消費税の廃止を主張していると同時に、玉木氏率いる国民民主党もまた消費税減税を明確に打ち出しています。

また、枝野代表の立憲民主党もまた、紆余曲折があったものの5%への消費税減税を党として明確に主張するに至っています。

もちろん菅内閣がここまで支持を失っている状況下においても未だに、総選挙においては与党が優勢であるとは見られています。しかし、国民が消費税の問題をより強く認識する様になれば、野党が消費税についてしっかりとした反対を唱えている限りにおいて、選挙においてその勢力をさらに拡大することとなるでしょう。そしてそうなれば、政権交代が実現すれば言う迄もなく、仮にそうでなくても与党・野党にも消費減税・凍結の圧力がかかることとなります。

ついては、やはり、与党のみならず野党の動向にもまた、大いに注目していくことが極めて大切なのです。

・・・

いずれにせよ、小選挙区の総選挙では、解散のタイミングを任意に決めることができる与党が圧倒的に有利ではありますが、次回の総選挙だけは任期満了でおこなわざるを得ず、その点についての与党の相対的優位性が大きく減ぜられる状況になっています。

これは野党にとって千載一遇のチャンスとも言えるでしょう。

また、自民党の総裁候補にしてもこれだけ内閣支持率が低迷した現状は、同じく千載一遇のチャンスです。

かくして今、ようやく日本にそこはかとなく「政治の季節」が巡ってきたように思われます。

国民世論が質的に荒廃し、政治家と官僚達の腐敗が激しく進行した必然的帰結として経済の低迷と国力の凋落に苛まれ続ける我が国日本には、ほぼほぼ絶望しか有りませんが……何とかこの「政治の季節」が日本再生に繋がる光明をもたらさんことを、心から祈念したいと思います。

追伸:上記記事はまさに、理想からはかけ離れた「現実の政治家達」が動かす政治・政策を改善する事を企図した内容ですが、この問題をさらに突き詰めたのが、下記のメルマガ記事。
『昨今ネット等でしばしば見られる「コロナについての藤井批判」が正当なのかどうかを改めて考えてみました。』
これは、「理論的に正しくとも状況を悪化させる言論」と、「理論的に正しくなくとも状況を改善する言論」があった場合いかにすべきかという問題に直結しているのだと思います。是非、ご一読下さい。
https://foomii.com/00178/2021081510000083648

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【藤井聡】総裁選・総選挙を通して「責任ある積極財政」を実現する内閣は誕生するのか?への9件のコメント

  1. ラナボウ より

    藤井先生、れいわ新選組は消費税の凍結ではなく「廃止」を訴えてますよ。
    凍結ではいずれ解除されてしまいます。
    プライマリーバランス黒字化目標も凍結ではなく、破棄を目指すべきです。

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  2. 藤井聡 より

    確かにおっしゃる通りですね!修正させていただきます。ご指摘ありがとうございました。

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  3. dispatchin より

    相変わらずセンセは自民党がお好きやなあ。誰が機長さんにならはっても自民党機、もうあかんのと違いますか。

    ハクブン=出発前に整備不良が多数みつかる。

    フミオ=離陸後推力が得られず不時着水。

    サナエ=飛行中に第2エンジンが逆噴射。

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  4. この世は既にあの世 より

    確かなことは、選挙で自民党が勝つ度に自主独立は遠退き、日本社会は個人主義化や格差社会、貧困層の増加が進むということです。

    そうなると益々殺伐とした社会になります。

    自民党は先ず下野して議員を無職にすること。菅で国民の審判を受けさせるべきかなあと。

    20年30年人材育成を放置し、設備投資もせず日本の技術力は蒸発してます。

    なので、投資?はて?終わった半導体業界へですか?外国へですか?ただ飯食いの寄せ集めのJDIへですか?

    政治ごっこはたくさんだし、年寄り連中の居座りやスローガンもたくさん。

    高市の理念ですが、

    ①「大切なもの」って何ですか?どうせ自分でしょう。

    ②「責任を果たす」って何の責任ですか?借金を残さないことと言い出すんでは?

    ③「強靭な経済」って何ですか?中抜き経済では強靭もヘチマもありませんよ。「給付より仕事を」「皆んなやっている、皆んな我慢している甘えている国民に鞭を打ちます」でしょう。

    ④「機会平等」とは「子供も老人も働け」のアヘの一億総活躍の焼き直しでしょうし、「男女平等」即ち「女性の活用」「国籍やオカマに拘らず働いてもらいましょう」でしょう。

    ⑤「自立」って、国民にばかり自立を求めるのはおかしくないですか?

    ⑥「教育」ってグローバル教育ですか?

    以上、綺麗事を並べただけで怪しい臭いがプンプンしますね。いやーな感じが凄くします。

    目的、国家観の「自主独立」が入ってませんね。どういう事ですか?国が独立する気が無いのに、国民が自立しなきゃならない理由は無いですよね。

    軍関係は米国から買うだけでしょうし、思いやり予算を増やすだけでは?

    ブルーカラーが居ないからって外国人労働者はダメですから、土建仕事や交通は国民の共通目的にはなり得ません。

    金を使うべき方向は小野会長のベーシックインカムに決まってるでしょう。消費税増税分は社会保障に使うと言ったんだから、社会保障に使うべきです。「強靭な何とか」とかどうせ腰砕けになるんだから要りませんので。

    属国、言いなりで、横流し、自己保身で全く自民党自身が成長せんくせに「成長」とか口先だけ言うなって。分配しない方便だろうに。

    アベノミクスそのものが前から騙しと思ってます。目的が最初から違うでしょうと。奴等だって騙すのに知恵を使うわけです。

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  5. 大和魂 より

    その自民党総裁選挙については、様々でいろんな見方で見極める事が、これからの社会を考える上で非常に重大で重要な意味を持つ案件ですし、三橋先生が強調される国家観で観察すれば海外勢力の色々な思惑が透けて観えますね。

    例えば簡単なところでは、世襲でバカ丸出しの小泉進次郎が菅首相の支持をいち早く表明しましたし、岸田文雄の背後から老害の古賀誠が岸田に向けて愚劣な牽制を送りましたよね、だから小泉進次郎と古賀誠の背後に存在している永田町界隈の勢力は同じことになりますよね!コレですよこの人達のスポンサーは国際社会で暗躍している資本家たちで、いろんな形や姿を利用してますからね!!

    それに便乗すれば東京五輪についての、猪瀬直樹と舛添要一と小池百合子の国家観についても簡単に見極めると、舛添要一の国家観はダントツで皆無でしたから、彼は自らバツが悪くなったと悟りメディア関係者と結託してメディア関連から一気に消滅しましたね!

    次に小池百合子の国家観であり、三人の中で随一の国家観を持っていたのが、勿体ないやり方で辞職をした猪瀬直樹で、舛添要一と小池百合子の背後に存在している勢力は先述の小泉進次郎と古賀誠の背後にいる勢力と、ほぼ同じだと断言できますね!!

    それで菅首相の国家観の結論になりますが、東京五輪関連がなければもっとよかったのですが、国際社会が不透明で不確実性な滅茶苦茶で複雑な環境の中では彼は、ある意味国民の為に国家観のある仕事をしましたよね!

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  6. 女ナチ (高橋)サナエミクス より

    ナチ野郎と懇意の日本会議統一教会で稲田と張り合ってるアホ安倍直伝嘘つき女を又pushですか?
    鹿児島で大雨で人死んでますよ、9月の来るべき台風ではもっと国民死にますよ。
    科学者の本文取り戻して下さい
    棄民党から脅迫されてるんでしょう、赤旗に告発して下さい。

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  7. お言葉ですが・・ より

    積極財政を踏み絵にすべきという考え方も当然かと思いますが、まずは竹中を踏み絵にすべきではないかと思います。竹中を断ち切れるのか否か。それが構造改革政党自民党にとって最も過酷で厳しい選択になります。竹中路線の否定は畢竟大阪維新の会を否定することに繋がります。

    積極財政主義者を推したところでまたぞろ竹中の系統やその傍流亜流が絶望的に頭のよくない連中に「必要悪」と容認されて国富の横流しを続けられてはたまったもんじゃないです。

    竹中らにとっては積極だろうと緊縮だろうといまの小さな政府による外注経済の循環を止めなければいいだけの話でしょうから。事実竹中は積極財政を口にしている。竹中は今後もぶら下がる気マンマンです。

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  8. 下世話な人 より

    まあ菅自民にノーはいいんだけど
    山中さんってものすごいパワハラ体質の人なんだって。
    なんか鍋から逃げだしたらフライパンに飛び込んじまったみたいな感じ。
    普通はいったいどこにあるんだろう

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  9. 早苗で瑞穂の田が涸れる より

    高市が安倍に総裁選出馬を要請したという話が事実なら、高市の政治センスを根底から疑わなければならない。安倍だって来る人来る人に財政拡大に対する深い理解を匂わせながら新自由主義に邁進して国家を民心を売り続けた。

    自分も辞めるのであなたもいますぐ国会議員を辞めるべきだと安倍に引導を渡したというのであれば日本人として浮かぶ瀬もあったと思う。しかしこれで高市を推すことが菅を安倍を竹中平蔵を維新を推すのと同義であるとはっきりして、ある意味わかりやすくなった。

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