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日本経済

2019年3月23日

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第五十五話

From 平松禎史@アニメーター/演出家

 

◯アバンタイトル

R.D.レイン「自己と他者」(原著1961)の冒頭にこんな一節があります。
《精神分析的命題は、次のように述べることができる。つまり、無意識的空想に埋没している人間に対して、無意識的空想の存在を証明することは可能でない。無意識的空想は、当人がそこから脱却してはじめてそれが空想であると気づきうる、と。》(みすず書房 p12)

論文口調で言われると衝撃的ですが、そういうものですよね。
空想と現実が区別できない限り、自分が信じたものが空想だったと気づくことはない。

第五十五話:「現実と空想と」

レインは同じく冒頭で、スーザン・アイザックスの論文から引用し、「無意識的空想」の定義を紹介しています。最後の2つをご紹介。
《(j)現実への適応や現実思考は、同時に存在する無意識的空想の援助を必要とする。外界についての知識が発達する仕方の観察から、子供の空想が学習にいかに貢献しているかがわかる。
(k)無意識的空想は、正常者においても神経症者においても、生涯を通じて持続的に影響を及ぼすものであり、その差異は、優勢な空想の特殊な性格や、その空想に随伴する欲望や不安、空想同志の、そして空想と外的現実との相互作用にある》〈1952「空想の本性と機能」 p111-112〉(p14-15)

空想を巡らすこと自体は悪いことじゃなく、むしろ発達段階に不可欠なもの。
しかし、空想が持つ性格や当人の欲望や不安、空想同志や現実との相互作用によって、現実と乖離した空想に埋没する「神経症者」状態に陥る可能性がある。
つまり
自分の「こうなれば良い」「こうであるはずだ」という(意識的な)空想が現実とかけ離れていた場合、自分の欲望や不安解消を優先させるために、現実より空想を真実だと(無意識的に)信じて疑わなくなるのでしょう。
無意識的空想に埋没する危険性がわかるでしょうか。

自分が何らかの目的や理由によって作り出した空想は、その本人にとって現実なのだ。
どれだけ客観的な証拠で「あなたの言っていることは真実ではなく、あなたの空想に過ぎない」と証明してみせても、無意識的空想に埋没する状態に至った相手は、非現実と受け取るか嘘をついて騙そうとしているのだと取り合わない。

レインが対象にしているのは精神疾患を患った人なのですが、正常であっても、現実と空想の区別や優先順位がわからなくなってしまう人は、一般社会にそこそこ観察できるのです。
ノルウェーやニュージランド、そしてオランダで起きた無差別殺人も、彼らの空想的正義が肥大したものであり、幼い子供を虐待して殺してしまう親は「しつけ」だと本気で思っていたのかもしれない。学校のいじめは「あそんでただけ」だと…。
大間違いな空想です。

犯罪行為までエスカレートしないまでも、以前は新興宗教やネット上の一部にすぎなかったこのような状況が、社会に広く蔓延してきてるのではないか。
さらには、政治家や官僚、財界やマスメディアにまで蔓延しているのではないかと、思わずにいられない。
空想に埋没してしまった人は、それが正しいと思っているのだから厄介です。

自分もそんな状況に陥る可能性は十分にあるのです。
しかも、みづから発見するのは大変難しい。特に集団に属してしまうと「グループシンク」 の罠にハマってしまい戻ってこれなくなってしまう。恐ろしい状況だ。

経済においては(適正な)統計データから、社会的な問題においては歴史と常識から学んでいく…つまり客観的で多角的な視点を意識して現実と直面することでしか、空想に埋没する病を防ぐすべはありそうにない。

+ + +

さて
レインの研究との関連を考えるわかりやすいサンプルは
「財政破綻論」
「経済学の誤謬」
「ナショナリズム」
「憲法九条」
「沖縄米軍基地問題」
「原発問題」
などなど、明確な答えがあるものから、答えを1つに絞れないものまで数多くあります。

「財政破綻論」と「憲法九条」および「沖縄米軍基地問題」には深い関連があります。
佐藤健志さんの『平和主義は貧困への道 または 対米従属の爽快な末路』にくわしい。

拙ブログでも繰り返し書いていますが
自国通貨を持つ日本が財政破綻する可能性はゼロです。これは事実であり明確な答えです。
また、グローバル化によって国内経済が脆弱化すること、金融経済への依存が異常な膨張と壊滅的崩壊リスクを高めることも、歴史が証明しています。
ならば
衰退する地方、低賃金問題、医療介護問題、東京一極集中問題など経済に関連する諸問題は、グローバル化を抑制し、政府が財政拡大を行って国民に投資をすることで改善できる。
国債発行でも良いし、減税でも良い。

しかし、政府支出拡大を阻む法律があります。

財政法第四条
《「国の歳出は、公債又は借入金以外の歳入を以て、その財源としなければならない」》

つまり税収の範囲内で運営しなければならず、足らなければ 増税で、となる。
もっとも取りやすい税は、消費税。
政府は1997年以来二度、そして今年10月に三度めの消費増税しようとしています。
消費増税で景気が悪化した事実はもう繰り返す必要ないでしょう。

財政法第四条の解説は以下の通り。

《 この規定は、戦前、天皇制政府がおこなった無謀な侵略戦争が、膨大な戦時国債の発行があってはじめて可能であったという反省にもとづいて、財政法制定にさいして設けられたもので、憲法の前文および第9条の平和主義に照応するものです。
この点について、現行財政法の制定時の直接の起案者である平井平治氏(当時、大蔵省主計局法規課長)は、当時の解説書(「財政法逐条解説」1947年)で、次のようにのべています。
「戦争危険の防止については、戦争と公債がいかに密接不離の関係にあるかは、各国の歴史をひもとくまでもなく、わが国の歴史をみても公債なくして戦争の計画遂行の不可能であったことを考察すれば明らかである、……公債のないところに戦争はないと断言しうるのである、従って、本条(財政法第4条)はまた憲法の戦争放棄の規定を裏書き保証せんとするものであるともいいうる」》

ん? どこから引用したの?と思ったでしょう。
そうです
共産党の機関紙、しんぶん赤旗です。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik07/2008-04-24/ftp20080424faq12_01_0.html

間違った解説ではありません。ことの経緯は実に正確です。
では
共産党は消費増税についてどう言ってるか。
「10月 消費税10%ストップ!」だ。
https://www.jcp.or.jp/akahata/aik18/2018-12-25/2018122502_01_1.html

はい。実に正しい。

だがちょっと待ってほしい。
財政法第四条によって、景気対策の財源を税収の範囲に限定されているからこそ、消費増税になるんですよ?
共産党は、財政法第四条を「戦争をする国にしない」ために《戦後の原点としてあらためてふまえなければなりません。》と強調し、《赤字国債をふやすことが将来世代にツケをまわし大変な危機をまねく》と財政破綻論を前提に政府支出拡大を厳に慎むべしと訴える。

その結果、歴代政府がとってきた財源確保策が消費税であり消費増税なのですよ!

共産党こそ、消費増税(実質)推進派じゃないか。

なぜこんな矛盾が生じるんでしょう? 答えは簡単です。

財政拡大は軍国主義への道
財政拡大は戦争への道

という空想が、彼らの現実だからです。

戦時に各国が国債発行で軍備増強したのは確かです。そうしなければ国民の命が奪われ国民主権が失われるからです。
しかし、国債発行の目的は軍備増強だけではありません。
日本の場合、はるかに現実的な脅威である自然災害に対処するためインフラを常に増強しなければいけません。建設国債は(アメリカに)許可されていますが、これも国会の議決を要しますので共産党(など野党やマスメディア)は反対するでしょう。
災害対策には反対しないんでしょうが、「それを口実に軍備増強するのは許せない」とか言うのが目に見えます。
これまでも政治家など公務員の給与を削れと主張してきた。政府と同じ緊縮財政だ。
戦争には相手がありますしそれなりの理由が存在しますので防ぐ手立てはある。
しかし、自然災害は相手も構わず理由もなく襲ってくる防ぎようのない現実です。
さらに
建設国債によるインフラ投資は経済対策にもなる。
東京一極集中のまま関東に巨大地震が来ればイッカンノオワリ。
地方への分散化を進めるためにも景気回復は不可欠です。
経済対策に特化した国債発行や投資を促進する減税措置など、政府が財政拡大する目的は(特に日本の場合)戦争以外の方がはるかに多いのが現実なのです。
地震の多い国、日本」(国土技術研究センター)
http://www.jice.or.jp/knowledge/japan/commentary12
しかし
敗戦から二年後、主権を奪われた占領下で《公債のないところに戦争はないと断言しうる》と述べたのをとらまえて、独立を回復して67年、世界情勢が全く異なる現在において原理主義的に主張するのは、有り体に言って空想に生きていると言わざるを得まい。

レインに言わせれば、これを彼らに「空想だ」と自覚させることは不可能なのです。

共産党の基本主張に従えば、政府は予定通り消費増税するしかありません。
緊縮財政で防災減災のできない災害弱国になっていくのです。

沖縄米軍基地問題にしても同様です。

憲法前分と第九条二項は日米安保条約とセットになっています。
地位協定により、日本政府はアメリカ軍がどこに基地を置くか口出しできません。
主権がないのです。
沖縄に限らず、日本全土の米軍基地に出ていってもらうには、憲法九条二項を削除し日米安保条約を改定しなければならない。国民主権国家を望むなら、どちらか一方はあり得ないのです。

共産党および護憲派の主張に従えば、米軍基地は沖縄に居続けることになる。

これも、「日本が軍隊を持てば戦争する国になる」という空想に基づいている。
極めて不遜なのは、戦争したくない国民を全く信用していないことだ。

彼らの言う財政問題にしろ、国防意識にしろ、彼らがこれまで生きてきた「現実」なのです。
それを間違いだったと認めることは、完全な自己否定に陥ってしまうのですから不可能です。
共産党はブレがない半面、間違いを修正できない致命的な弱点があるのだ。

他の野党も大して違わないでしょう。立憲民主党の枝野代表はそこまで原理主義的ではないにしろ、「対安倍政権・対自民党」で多くが重なってしまう。

では政府や自民党はどうかといえば、これまた空想に生きているのです。
財政破綻論、緊縮財政、グローバル化、日米同盟強化…という空想に。

日米同盟強化は共産党の裏返しなだけで実質同じ。
政府与野党に大した違いはないのです。

空想に埋没しきった政治を相手にしていても何もはじまりません。
破滅に向かっていくだけです。

国民一人ひとりが、「誰が」でなく「中身で」考えられるようになること。

空想と現実を区別し、現実を生かすための政治勢力が必要です。

◯コマーシャル

『ICE ADOLESCENCE ユーリ!!! on ICE劇場版』
https://youtu.be/-wjrCriMOO8

放送から20年、「彼氏彼女の事情」Blu-rayBOX 3月27日発売。
BOXイラストを描き下ろしました。
http://king-cr.jp/special/karekano_bdbox/

『平松禎史 アニメーション画集』発売中。
『エヴァンゲリオン』シリーズや『彼氏彼女の事情』などカラーイラストを多数収載。
http://amzn.asia/hetpEPD

画集第二弾『平松禎史 Sketch Book』発売中。
キャラクターデザインのラフや楽描き、国民の祝日の絵「ハタビちゃん」シリーズなど収載。
http://amzn.asia/hUQoCkv

ボクのブログです。
http://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

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【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」:第五十五話への2件のコメント

  1. たかゆき より

    現実

    それは 個々人が
    現実で あれかし と
    想って 創り上げた世界

    かと、、

    すなわち 空想

    どなたに とっても 『現実』が現実でせう
    が、、、

    バイアスをかけずに 事実を認識できる者

    それを 賢者と いうの 鴨

    景気が悪いのは シナや気候のタメ
    なんて 言わずに 

    己の失政と 認識 できた 騾馬 ♪

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  2. 汎損・フォード より

    >国債をふやすことが将来世代にツケをまわす

     志井・小池(奇謀の小池もW含有率200%)党幹部の消費増税反対も結局は筋の通ってない言うだけ番長のパソナークロー前原等と何ら変わらないことに気づいてないパフォーマンスでしかないことに気づいてくれないんでしょうね。
    鹿鹿鹿鹿、自民党の小泉Jr.だって以前からこのフレーズをキャッチフレーズとしていたわけです。しかもそのことの間違いを発言したなんて聞いたこともないし、沖縄にも好景気の波は来ます!だのなんら野党幹部と変わらない思考の持ち主たるアイドリング議員な野田!
    鹿鹿鹿鹿、首相にしても答弁で「私はPB信者ではありません。云々かんぬん」とか抜かしながらも教育無償化の財源は消費増税だとハッキリ言いましたからね。シン・デフレーションを理解されているのか甚だ200%疑問です。単なるパソナークロー竹中信者じゃないの?。
    膿を出し切る修羅場は200%創生出来ているのかもしれませんけど、説明仕切れる場はまったく見えやしません。
    支離滅裂200%の話しか書けない馬鹿でノロまな私でした。失礼しました(こんなわけのわからない文をツケ回しても社会にはなんの意味もありませんからそっとしておいてくれませんか?と言う注釈は私が狂って狂産頭化している顕れなのか?)。

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