日本経済

2018年11月10日

【竹村公太郎】地球温暖化の足音

From 竹村公太郎@元国土交通省/日本水フォーラム事務局長

氷河の融解
地球温暖化の議論は難しい。温暖化の虚実、特に温暖化の原因につては難しい。しかし、原因はどうであれ地球規模の温暖化は進んでいる。
10数年前、私が温暖化に関して初めて衝撃を受けた写真がある。あるシンポジウムで登山家であり医学ドクターの今井道子のプレゼンテーションでの写真だった。今井さんが若いころヨーロッパ・アルプスへ行った時の氷河の(写真-1)と再訪問した時に撮った(写真-2)であった。女性の今井さんに「若い頃って何歳ですか?」と年齢は聞けなかったので、推測では40年前ぐらいでだろう。

半世紀たつか経たないうちに、(写真―1)の氷河が消えてしまっている。(写真―2)の〇の中に見え点が人間である。約400mもの厚さがあった氷河がなくなっている。何万年、何千年の間に徐々に滑り落ち、固い岩に氷河が付けた削り跡も見える。
この氷河の融解は螺旋を描いて進行していく。今まで氷河の白が太陽光をはね返していた。ところが、少しでも氷河が融け、その下の黒色の岩が出てくれば、岩は太陽の熱を吸収していく。温度を持った岩盤が、今度は下から氷河を温めてしまう。
ひとたび氷河が融けだすと、氷河は螺旋を描いて融けていってしまう。氷河の融解はもう止まらない。

永久凍土の融解
シベリアやアラスカの凍土も溶けだしている。年平均気温が0℃以下になれば、地中の水が凍って凍土になり、年平均気温が-5度になると永久凍土となる。永久凍土は北半球の大陸の20%を覆っている。
近年、このシベリアとアラスカの凍土に融解が頻繁に報告されている。この凍土の中にはメタンや二酸化炭素が含まれているため、融解に伴い大気に放出され温室ガスの増加に寄与してしまう。その大気温の上昇によってさらに凍土の融解が促進されてしまう、という説が有力である。
ナショナルジオグラフィックの2007年12月号では、アラスカの岩石氷河が融解して、岩石交じりの氷が森林をなぎ倒していく写真が公表された。その流れ出す氷は年間2mという速度で、森林を潰していっているという。その迫力には鳥肌が立ってしまった。
この凍土の融解も螺旋を描くように進展していく。凍土が融ければその周辺は太陽に直接さらされ、地中の温度は上昇していき、凍土の融解は促進していく。

日本の温暖化
地球規模の気候変動の影響だけではない。日本列島でもその影響は数多くみられようになっている。特に日本列島は南北に3500㎞と長い。この日本列島での現象を丁寧に見つることで温暖化の進展が見えてくる。特に、南の九州から北海道への生態系の遷移が、温暖化を実証していくこととなる。
小学生の頃、ミカンの産地は熊本、愛媛そして静岡と習った。しかし、21世紀の今、新潟の佐渡でも出荷している。
日本に稲作が伝わってきたのは南のアジアからであり、日本の稲作は温暖な西日本を中心にして発達した。東日本や東北は冷害に苦しめながら品種改良を繰り返しどうにか生産を確保してきた。
しかし、寒冷帯に近い北海道はそうはいかなかった。20世紀中末まで、北海道の米は収穫されても美味しくなく、政府買い上げのコメの中で、厄介道米(やっかいどうまい)と嘲笑されていた。しかし、21世紀になると様相が変わってきた。北海道のコメが関東や東北のコメ価格を上回ってしまったのだ。
北海道のコメの冷害は格段に減少した一方、本土のほとんどの府県で高温障害が拡大しているという。
昆虫の生息域の遷移も著しい。国土交通省の河川管理者が実施している「河川水辺の国勢調査」でも、昆虫の生息域の北へ遷移が報告されている。(図―1)は、ナガサキキアゲハの生息の北限を示している。この10年間で近畿地方から中部地方にまで移動している。

このようなデータを見ると、温暖化が足音を立てて近づいてきていることが分かる。

不思議な海水温の上昇
本年、ナショナルジオグラフィックのニュースでは、衝撃的な海の異変が報じられた。2018年1月、オーストラリアのグレートバリアリーフでの異変である。生物学専門誌「Current Biology」に発表された調査研究の結果、海水の上昇によってアオウミガメが99%メス化していた。
アオウミガメの性は卵にいるときの温度できまる。海水温が上昇しているのである程度予測をしていた研究者たちも、その深刻な結果に驚愕している。
しかし、この海水温の上昇はあまりにも激しい。大気温ならともかく、海水温がそのように急激に上昇するものだろうか?

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【竹村公太郎】地球温暖化の足音への6件のコメント

  1. 山崎史人 より

    竹村先生のコラムでは、地形から読み解くという異なる視点からのアプローチにより、正に目からウロコと、いつも感じ入っております。

    さりながら、今回のコラムには、ちょっと腑に落ちない点があり疑問点だけではありますが、ここに提示させて頂きます。
    ①先ず最初の写真ですが、合成写真ではないかとちょっと疑ってしまいました。と言うのは、上部1/3程度の情景が殆ど変化していないためです。温暖化=大気の温暖化でしょうから、高低差による温度分布はあるにせよ全体的に温暖化分に比例して気温上昇しているはずなのに、なぜ下2/3だけが変化し、上1/3は全く変化しないのでしょうか?
    ②ツマグロヒョウモンの分布変化がなぜ温暖化と関係しているのでしょうか?
    ツマグロヒョウモンは寒冷地では越冬できないので、北陸地方など雪深い地方で見られるのは単に多化生(年4~5回発生)のためではないのでしょうか?いわゆるう死滅回遊魚のチョウチョ版的な状況なのではないでしょうか?
    ③海水温上昇によるアオウミガメのオスメス比変化と温暖化の関係。空気と水の熱容量は水が3000倍大きいし、海水量と大気量では海水の方が約300倍(重量比)存在。つまり海水温を上昇させるには大気温を上昇させる900,000倍のエネルギーが必要なはずです。仮に平均気温が1℃上昇したとしても同じ熱量で海水温は1/900,000℃しか上昇しないことになりますが、果たしてオスメスの比率が変化させるだけの水温上昇が大気を通して行われたのでしょうか?仮に行われたとして、その時、陸地は何℃になっているのでしょうか?

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      1. F-NAK より

        ①画像をソフトウェア比較すると、上部1/3に関しても別画像であることが分かります。
        また、古い写真の方が雪が積もっている箇所もありますね。
        まぁ、そこまで凝って合成した可能性もゼロではありませんが「パッと見、合成に見える」は無理があるでしょう。

        ②多化生のせいであれば、25年に渡る調査で、徐々に調査結果が北上することはないでしょう。

        ③高緯度地域では海水温より地表の温度の方が低いこともあります。地表の方が放射冷却が働きやすく、水は逆に冷めにくいので。

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  2. 浅田 知己 より

    お話は注目させていただいているのですが「地球温暖化」という「日本語直訳」に、日本人がこの気温上昇のもっている恐怖を理解できない、そもそも根源的な認識の誤りがあると指摘せざるを得ません。
     たしかに物理学的には1度2度3度という温度上昇ですが、日本の夏の気温が3度上昇したらエアコンなしには過ごせません。
    人間でも温度上昇は大変な身体的影響となります。
     ましてや魚類・鳥類はじめあらゆる動植物にとって、気温上昇とそれに伴う自然の荒廃は、類が死滅しかねない危機的な災害現象です。
     生物にとっては「地球温暖化」ではなくて「地球灼熱化」ではないでしょうか。
     危機をあおるだけでは認識に混乱をもたらすだけでしょうが、物理学的な「温暖化」は生物学的には「灼熱化」なのだ、温暖化という直訳に惑わされてはならないということを、強く主張すべきと考えます。

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  3. たかゆき より

    地球温暖化防止 反原発

    二酸化炭素が温暖化の要因と言うなら
    化石燃料は使用するなょ という
    ツッコミは さておき

    両方に 小生の大好きな
    臭い、、

    ビジネスチャンスは 己で作る
    カネの成る木は   己で植える

    素敵じゃあ ないですか

    人間には 二種類しか いない

    騙すヤツと 騙されるヤツ

    所詮は騙されるヤツが 
    アホって ことで ございます ♪

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  4. つぼた より

    私の身の回りでもツマグロヒョウモンやモンシロチョウをよく見かけるようになりました。
    今年の夏にひまわりの写真を撮ったら、偶然ツマグロヒョウモンが写り込んでいました。
    さなぎの青虫が季節に関係なく、あちこちをモソモソと這っていたりします。
    夏も暑かったですし、気温が上昇しているのは感じます。

    海水温が上昇している原因として、海底火山の噴火は考えられないのでしょうか。
    世界各地で地震が頻発しており、日本の南海トラフで地震が起こる確率も高まっているそうです。
    マントルの活動が活発になり、海底火山の噴火なども起こっているのではないでしょうか。

    それにより海水温が上昇し、水蒸気が多量に空中に蒸発して、巨大な台風が日本を襲った一因になっているのではないでしょうか。
    詳しい知識はありませんが、何やら環境が変化しているのを感じます。

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