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2019年1月12日

【竹村公太郎】海面上昇は本当か?

From 竹村公太郎@元国土交通省/日本水フォーラム事務局長

海面上昇の疑問

前回のメルマガでは「原因はどうであれ、
温暖化は確実に進んでいる」ことを記した。

「原因はどうであれ」と述べたのは、
温暖化にはわからないことばかりなのだ。
特に、その疑問は海面上昇にある。
海面上昇も「原因はどうであれ、確実に進んでいる」

IPPCの第4次評価報告書では明快に
「衛星高度計によって、1003年~2003年での海面上昇3.1㎝となっている。

この海面上昇の原因の寄与は、
熱膨張の寄与が最も大きく1.6㎝。氷河の融解は0.77㎝。
グリーンランド氷上融解は0.21㎝。南極氷上の融解は0.21㎝」とされている。

注目すべきは、海面上昇の要因である。
海面上昇における海水の熱膨張の寄与率は、
圧倒的な52%となっている。

IPPCの第5次評価報告書においても、
過去100年間の気温上昇と海面上昇の実績グラフが提出されている。

図1

IPCC第5次評価報告書 より気象庁まとめ

(図―1)では、過去100年間で大気温が約1℃上昇し、
海面上昇が約15㎝上昇したとなっている。
ここでも大気温度の上昇と海面上昇がリンクされて示されている。
海面上昇は、何かがおかしい。

早すぎる海面上昇の疑問

海面上昇は起きている。これに私は疑問は持っていない。
IPCCの報告書を待つまでもなく、
海に囲まれた我々日本はとっくにそれを身をもって体感している。


(毛利元就が1555年に大改修)

(図2)

(図―2)は、広島県厳島神社の回廊が
海面に浸かった過去100年間のトレンドである。
20世紀まで穏やかだった海面が、
21世紀に入ると急激に上昇している。

このデータは国土交通省中国整備局が、
厳島神社の神官の許可を得て、
神官か記録した数百年間の日誌の貴重なデータである。

私の海面上昇への疑問は、海面上昇の異常な速さにある。

海面上昇の主な要因の最大なおは、海水の熱膨張である。
この点に関してはIPPCを始め専門家間で意見が一致している。
これがどうしても納得できない。

海水に比べたら圧倒的に熱容量の小さな大気が1℃上昇して、
膨大な海水に熱が伝導され、水温度が上昇し、
海水が熱膨張をして、海面上昇が発生しているという。

これがいかに不自然か。地球物理学に疎い私は、
その不自然さをバカバカしい例えで説明するしかない。

何かを見落としている

日本海事広報協会が、地球上の海洋をプールにして分かりやすくしている。

それによると、容積1350×106km3の海洋は、
縦2000㎞、横2000km、高さ337㎞の巨大なプールに例えられる。
このプールの上空に大気があり、
その大気の中の水蒸気容積は13,000㎞3となっている。

なお、空気の熱容量は圧倒的に小さいので
ここでは水蒸気の水容量を大気容量とする。
厳密な計算ではなく見当をつける目的なので勘弁してもらう。

この大気は4,000,000㎞2の面積の海洋プールの上にあるので、
その厚さは0.003㎞、つまり3mとなる。
この3mの厚さの大気の水容量が気温上昇を起こし、100年前から1℃高くなった。

その大気の1℃の上昇が、巨大プールの水に伝わり、
プールの水が熱膨張を起こし、
容積1350×106km₃のプールの水面が高くなったという。

これはどこかがおかしい。
大気温の上昇が、膨大な海水に及んだとは、私の直観が許さない。
海面は確実に上昇している。

それなのに、専門の科学者たちは、
何かを見落としている。その見落としているのは何か?

私は出版ですでに公表したことがあるが、
IPPCの検討は、海水温上昇に関して
海水を直接温めている巨大な近代文明装置を見落としている。
その近代文明の装置とは、電気である。
電気を起こしている火力発電所、原子力発電所そしてバイオ発電所である。
(「地形で見る日本文明」PHP文庫)

これらの発電所は膨大な冷却水を必要としている。
冷却水は約7℃温度を上昇して、365日24時間、海や河川に放流されている。
世界の発電所の発電量を基に試算したことがあるが、
あまりにも途方もない数字になってしまった。

大気温の上昇どころではない。その計算結果に憂鬱になり、
それ以上考えるのを止めてしまった。

私は近代文明を謳歌している。
私は近代文明の落とし子でもある。
電気はパソコンを動かし私の脳細胞となっている。
インターネットは、入手困難な情報をいともたやすく運んできてくれる。

電気は夜の暗闇をなくし、限られた人生の活動時間を拡大してくれている。
電気の乗り物は、重力から私を自由にして空間移動をさせてくれる。
テレビは、笑いと涙の楽しみを与えてくれる。
私は電気に育てられ、守られて人生を終えていく。

かけがえのないほど大切なその電気。
本当にその電気が、文明崩壊への海面上昇を引き起こしているのだろうか?

(参考)日本国内の火力発電の試算
(試算条件)
① 原子力発電が止まっているので、火力発電とバイオマス発電を対象とする
② 年間発生電力量は経産省公表の2017年実績値
火力発電777×109kwh、 バイオ発電13×109kwh
③ 火力発電10万kw当たりの冷却水は毎秒4m₃を使用(電気事業連合会資料)
④ 火力、バイオ発電共、冷却水は7℃上昇して海に放流する(同上資料)

(試算結果)
① 冷却水の使用量は年間約100億m₃となる。利根川(栗橋)年間流出量と同程度
② 年間100億m₃の水を7℃上昇させるには、年間800万m₃の石油を燃やす必要。
甲子園球場(60万m₃)を満杯にして、年間13個分の石油を海の底で燃やし海水を温めていることとなる

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【竹村公太郎】海面上昇は本当か?への5件のコメント

  1. 竹村先生、ご無沙汰しております。

    今回の記事、たいへん興味深く拝読いたしました。

    世界の発電による冷却水の放流で、海水温が上昇し、その熱膨張で海面上昇が起きているのではないか、という仮説、ありうる話と思います。一定の説得力を感じます。

    これについて、素人ながらに考えたことが二つあります。

    ①この仮説を有力視すると、CO2排出による温暖化というこれまでの説はひっくり返りますね。私もあれは胡散臭いと思っていましたが、先生の解説の中の、空気の熱容量は小さくて問題にならず、水蒸気で試算しても海水温の上昇にはほとんど影響を与えないという説明に接し、心強いものを感じました。国際的に政治問題化してしまった温暖化防止対策は、一から考え直さなくてはならなくなります。これは個人的な感情からすると、けっこう痛快な出来事です。
    ただ、竹村仮説が成り立つとしても、海水温上昇が人間の文明によって引き起こされているという前提は覆らないので、角度を変えた検討が必要になるということでしょう。

    ②海水温の上昇の原因として、人為を超えた自然の変化によるものを想定する必要はないでしょうか。日頃、広大な自然の動きに対して人間がなしうることなどたかが知れていると思っていますので。
    もっとも、先生が、桓武天皇の平安遷都の理由を周囲の森林の伐採に求めていらしたように、農業(これはある意味では巨大な自然破壊ですね)その他による森林の伐採などが、当該地域に与えてきた影響は重視しなくてはなりませんね。
    ところで、これは素人のまったくの当て推量ですが、海水温の上昇の原因として、地球内部の地質学的な変化を想定する必要はないでしょうか。地球自体が熱くなったり冷たくなったりを繰り返している――これは、数万年規模の問題で、人類史をできる限りさかのぼってもなかなか実証できないレベルのスケールを持っています。
    また、さらに壮大な空想を言えば、この地球そのものの変化は、太陽系の一員としての地球が、太陽による宇宙物理学的な影響を被っているためと考えることも可能です(黒点の変化など)。
    今のところこれは「トンデモ」の域を出ませんが、そういう説もあるということをどこかで読んだ記憶があります。

    こんなことを申し上げたのは、最近、地震の原因として、現在通説となっているプレートテクトニクス理論(60年代に定着)以前に、日本にマグマ貫入理論というのがあったことを知り、かなり説得力があると感じたせいでもあります。

    お忙しいところ恐縮ですが、もしこのコメントについて何かお感じになることがありましたら、お返事をいただければ幸いです。

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  2. yasu より

    非常に興味深い考察だと思いましたので、僭越ながらコメント差し上げます。(あくまで素人の私見ですが)

    今回のお話と似た理由で、以前からCO2等温室効果ガスによる温暖化はどうも釈然としないと感じておりました。というのは、近代文明以降、膨大な化石燃料が燃やされ、CO2と同時に大量の熱が発生しているからです。両者の相関は極めて強いはずです。CO2による温室効果というどこまで本当か分からない理屈よりも、CO2と同時に発生する熱で温暖化が起こっていると考えるほうが余程しっくりくるのではないでしょうか。
    (但し、その人類活動による熱量も、太陽由来の熱に比べれば誤差程度なのかもしれませんし、宇宙空間との熱交換なども考える必要があるのかもしれませんが。IPPCではこういう議論はされているのでしょうかね?)

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  3. つぼた より

    竹村先生がまた斬新な仮説を立てられたようで、そういうものかなと思います。
    事実だとしても、誰も何も言えないですね。

    何か違うことを言うとして、
    私も、マントルやマグマの活動が活発になって、海底の地温が高くなっているという説を押します。
    海水温が上がっているとしたら、それぐらいやらないと間に合わない気がします。

    同時に、太陽からの熱量が増している説も有力だと思います。
    太陽からの電磁波は、地球に8分19秒で届くそうで、太陽のフレアが強くなると、すぐに地球は暖まりそうな気がします。

    素人考えですが、失礼しました。

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  4. 天鳥船 より

    小生は、所謂地球温暖化懐疑論者とは違い、地球温暖化自体は事実として進行している、しかしその原因は二酸化炭素(温室効果ガス)ではない、というスタンスを予てよりとっておりました。
    マスコミ等でよく言われている、「温暖化によって海水温が上昇し、それによって異常気象が・・・」という話ですが、温室効果ガスによる大気温の上昇が原因で、そのような馬鹿なことが起こるはずがありません。
    いやいや、馬鹿を言ってるのはお前だろ、という方がいたら、今から試してもらいたいことがあります。まず、風呂の湯船に水を張ってください。それから風呂場にストーブを持ち込み、浴室を暖めてください。それで風呂の湯が沸けば、馬鹿は小生の方であったと認めましょう。
    水と空気では、1℃上げるのに必要なエネルギー量がまるで違うのです。従って、逆は充分にあり得ます。風呂の湯を沸かせば、自然と浴室の空気も暖まるでしょう。
    現在の地球温暖化の原因については、小生自身は天文学や宇宙物理学の専門家ではありませんので、あくまでも経験に基づく素人考えでしか言えないのですが、太陽の活動が活発化しているのではないでしょうか。我々が子供の頃と比べて、太陽光線の強さが全く違います。近年の夏場の日差しは全く暴力的で、「暑い」を通り越して、最早「痛い」感じです。
    この強力な太陽光線により、地面や海水が温められて、それにより温暖化が起こっているのではないでしょうか。
    では、何故に温室効果ガスの影響云々と馬鹿な論がまことしやかにまかり通るのか。あまり陰謀論めいたことを言うのは好きではありませんが、環境ビジネスや二酸化炭素の排出権ビジネスが絡んでいるような気がします。

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  5. 名無しの決闘者 より

    記事拝見いたしました。興味深い意見でしたので、海水が太陽から受ける熱量と人類の活動によって受け取る熱量の大雑把な大小関係について計算してみました。

    経産省によると2010年ごろの全人類のエネルギー消費量は年間14000原油換算トン、これを熱量になおすと6.3*10^14[J/yr]となり秒間にすると2.0*10^7[W]に相当します。一方で太陽から降り注ぐ熱量は地球全体で1.74*10^17[W]とされています。つまり、人類の活動による発熱は太陽から地球が受ける熱量に比べて10桁小さいという結果になりました。
    この結果を踏まえると人類の活動によって海水が加熱されるというのは少し考えにくいのかと思いますがどうでしょうか?

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