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2017年6月12日

【三橋貴明】アダムの罪

From 三橋貴明

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6月9日、日本政府は「骨太の方針2017」を閣議決定しました。

本来、「骨太の方針」は、「骨太」ではなく「背骨(バックボーン)の方針」なのだと思います。「背骨の方針」では、何となく語呂が悪いので、誰か(恐らく竹中氏)が「骨太の方針」と命名したのではないかと思います。

いずれにせよ、骨太の方針は安倍政権の「あばら骨」となる諸政策の背骨になります。骨太の方針で、PB黒字化目標が決定されると、予算措置を伴うあらゆる政策が、「別の支出を削るか、増税する」ことにより、財源を求められてしまうのです。

骨太の方針2017では、財政政策について、

「改革に当たっては、「経済・財政再生計画」で掲げた「財政健全化目標」の重要性に変わりはなく、基礎的財政収支(PB)を2020 年度(平成32 年度)までに黒字化し、同時に債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す。このため、「経済再生なくして財政健全化なし」との方針の下、デフレ脱却・経済再生、歳出改革、歳入改革という「3つの改革」を確実に進めていく必要がある。 」

と決定されました。

藤井聡先生や、多くの政治家の努力により、何とか「債務残高対GDP比の安定的な引下げを目指す」を盛り込むことはできましたが、「基礎的財政収支(PB)を2020 年度(平成32 年度)までに黒字化」を削除することはできませんでした。

なぜプライマリーバランス黒字化のようなナンセンスな目標が「閣議決定」され続けているのでしょうか。結局のところ、人類の「おカネに関する誤解」の延長線上にある問題なのだと思います。

昨日も取り上げたジョン・ロックが典型ですが、偉大な思想家、学者とされている人々であっても、金属主義の呪縛から逃れることができていません。

アダム・スミスにしても、貨幣について物々交換の不便性を解消するために生まれ、『貨幣がすべての文明国で普遍的な商業用具となったのはこのようにしてであり、この用具の媒介によってあらゆる種類の品物は売買され、相互に交換されているのである。』と、おカネを「用具」呼ばわりしているのです。用具ということは、物理的な形を持つという話になります。

おカネは「交換用の商業用具である」と説明したアダム・スミスの考え方が、最終的には金本位制や金属主義に繋がっていきます。これが、いわゆる「アダムの罪」です。

現実には、おカネは物理的な形を持つ必要は必ずしもありません。何しろ、おカネとは「債務と債権の記録」に過ぎないのです。「いや、そんなことはない! おカネは形を持たなければならない!」という人に対しては、「ならば、銀行預金はおカネではないの?」の一言で論破完了となります。

もっとも、一般国民が「おカネはそれ自体が価値を持つモノ」と認識するのは、仕方がない話です。何しろ、国民は当座預金という担保なしではおカネを発行できません(小切手や約束手形)。

とはいえ、政府や中央銀行は可能なのです。

絶大な権力、すなわち通貨発行権を持つ政府、中央銀行を、一般の企業、家計と混同する。国家を運営すべき政治家や官僚までもが、ど素人の我々と同様に金属主義に支配されてしまっているという事実こそが、現在の日本の様々な問題の根幹にあるのです。

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【三橋貴明】アダムの罪への1件のコメント

  1. robin より

    materialismとmetallismは何となく似てる、物質主義唯物論と金属主義。mater-は母を表してmatterは問題や物質、matterは排泄物も意味してmoterの排泄物はヒト?でmotherはGodの排泄物、欠乏は何かで埋めないと人の精神は錯乱するのだろうか、だから空隙や正孔に神や金が収まる?matter=問題は日本語のモノと似てる、モノの意も問題や不随意、諦観か。moneyとmonsterの語源は同じ「警告」を表す言葉だとか。化け物は物の怪(気)に通じて物には霊や神が宿るのか、モノを通じて霊や神を見るのか。気枯れ(穢れ)の対義語(対で補完関係の言葉)は晴れで気が晴れて空気が澄んでいる様か、でも天晴れは哀れに通じて喜びも悲しみの区別無い根源的な心の底からの感情を表すのかな?権利と義務も別れる前は何でもなかったのか、神と悪魔も分離する前は何だったのか。生物的雄雌はあるが文化的男女はそれ程明確なものでもないのか(あった方が楽しいと思うが)。生と死も明確に分離出来ないが人の頭の中ではこれ以上ないくらい明確に分離する、人のパーツによって(これも全部繋がってるが)寿命は異なるから実際は生きながら死んでいる、という言語上の矛盾は現実に成り立つ、そこに認識上の齟齬が生じて人は脳の辻褄合わせにお化けを見るのか。おカネは金属なのだから硬貨銀行券各種預金の上に統一出来そうな名前を置けないのかな。

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