From 藤井聡@京都大学大学院教授
(1)世界から取り残される日本経済
IMFが、2017年の世界の成長率は3.5%だと予想しています。この水準は、過去五年間(2012~2016年)の成長率の実績の平均(3.4%)とほぼ同じ。
http://jp.reuters.com/article/imf-g20-outlook-idJPKBN17K29B
一方で、同じくIMFは、日本のそれは1.2%と予想しています。この水準もまた、過去五年間の実績値(1.2%)と同水準です。
つまり、ここ最近、日本は1.2%ずつの成長しかしていない一方、世界は3.4%ずつという、日本の約3倍(2.8倍)のスピードで成長しているのです!
これをカーレースに例えるなら、「日本」というレーシングカーはいま、順位としてはアメリカ、中国に次ぐ第三位をキープしていますが、「デフレ」というマシン不調によって大幅にスピードダウンしており、他のクルマの「三分の一の」スピードしか出ていない状況にあります。これでは、中国に抜かれて第三位にランクダウンしたように、これから第四位、第五位と順位を落とし、日本経済の地位は中進国化、後進国化していくこと必定です。
http://www.mag2.com/p/money/25292/2#prettyPhoto/0/
(2)「希望」が見えてきた、日本経済
――ただし、希望がない、という訳ではありません。
まずは、現状を確認しましょう。これは、世界と日本の成長率の「格差」、つまり、「日本の成長遅れ」をグラフ化したものです。
こんなグラフをつくってみました。世界の成長率と日本の成長率、のグラフ。これを見ると、97年の増税以後、日本は世界の成長から完全に取り残されていることが分かります(バブルが崩壊しても、増税までは世界についていっていたのに、です)。…
藤井 聡さんの投稿 2017年5月14日
このグラフ中の「成長遅れ」というのは要するに、日本の成長スピードが世界のそれに比べてどれくらい遅いのかを意味するもの。
この「日本の成長遅れ」は、ご覧のように「97年の消費増税」の「前」の時点では(バブル崩壊以後にも関わらず)、ほとんどありませんでした。しかし、97年の増税によって、日本の成長遅れは拡大。それ以後、日本はまったく鳴かず飛ばずの状況になってしまいます。
ただし、2013年からはじまったアベノミクスの効果もあり、「日本の成長遅れ」は縮小していくのです。その後、2014年の消費増税によって「遅れ」は拡大してしまうのですが、アベノミクスの継続もあり、何とかその被害も最小限に食い止められています。結果、これからどうなるか予断を許さない微妙な状況ですが、少なくともここ最近の「遅れ」は、過去20年間の遅れよりも随分と小さい水準に収まっています。
しかも、今、安倍内閣は「2020年ごろの600兆円経済の実現」を目指し、これから名目3%、実質2%の成長を目標とすることが、政府の『骨太の方針』でも繰り返し閣議決定されています。
こうした「経済的」、そして「政治的」環境は、いま、私たちが判断を誤らなければ、日本経済が諸外国並みに成長し、その結果、「救われる」可能性があることを示唆しています。
(3)政府支出の「3%成長(拡大)」は、政府の最低限の責務
では、実際に「600兆円経済」という政府目標を達成するためには、政府は何をすべきなのでしょうか?
この点を考える上で、まず私たちが理解しなければならないのは、日本経済の四分の一が政府で、四分の三が民間だ、という現実です。
この現実を踏まえるなら、日本経済そのものが名目3%ずつ拡大していくことを目指すなら、民間も政府も、3%ずつ「成長」していくことが必要だ、ということになります。
ただし、いまの「民間」は、消費も投資も大きく冷え込んでおり、すぐに民間の支出が大きく拡大し、名目で年率3%ずつ成長していくのを今すぐ期待するのは絶望的な状況にあります。その点を踏まえるなら、本来なら「政府」が3%よりもさらに高い水準で支出を拡大していく必要があります。
だから、「3%名目成長」を主張している政府にとっては、自分自身の政府支出を少なくとも3%増やすことは「義務」「責務」だと言うことができるでしょう。
これこそ、いま、日本の政府が目指すべき一つの「財政規律」の基準となるべきものです。つまり、日本の当初予選は、前年比で年率3%ずつ拡充していくことが政府責任として必要不可欠だ、という考え方です。
(4)これまでの政府の「歳出改革」と「未来投資」の議論を踏まえて
ただし、ただ闇雲に3%(つまり、政府支出73.1兆円の3%にあたる約2.2兆円)ずつ政府支出を拡大すればよい、というのは得策ではありません。より効果的に政府支出の拡大を果たすのなら、成長に寄与するものへ充当していくことが必要です。
一方で、政府・財務省は現在、「毎年の社会保障費の伸びを年間5000億円以内、歳出総額の伸びを5300億円以内とすることを目安にする」という方針を、「財政制度等審議会」で決定しています。
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/161118/mca1611180500002-n1.htm
また、政府予算の基本方針である「骨太の方針」を議論する場である内閣府の「経済財政諮問会議」でも(「予算総額」の議論とは全く別の論点として)、「歳出改革」は不可欠であるという方針が、毎年閣議決定されてきています。
http://www5.cao.go.jp/keizai-shimon/kaigi/cabinet/2016/2016_basicpolicies_ja.pdf
こうしたこれまでの財務省や内閣府の議論の流れを全てを踏まえた上で、600兆円経済実現のために「年間3%(2.2兆円)ずつ、当初予算を拡充する」という考え方を導入していく方法としては、例えば以下のようなものが考えられます。
「これまでの予算査定のプロセスと同様の方法で、『社会保障費の伸びを年間5000億円以内、歳出総額の伸びを5300億円以内とする』という制約の下で、一旦予算を策定する。その上で、より成長に資する予算支出項目を抽出してそれらに、約1.7兆円(=2.2兆円-0.53兆円)を充当する」
ただし、「一旦予算を策定」してから、改めて、「1.7兆円分の予算を決定する」という手続き二度行うことは、行政手続きがいたずらに煩雑化しますから、実務的には例えば以下のようにして、これまでと同様のプロセスの「一部」を修正することで、上記考え方を実現するという方法が考えられます。すなわち、
1)各省が政府に対する要求額を1割削減したうえで、残りの9割のうち3割分を上限とした『特別枠』を要求する。
2)一方で政府はこの各省からの要求を受けて、「政府の成長戦略に沿うかどうか」という基準で充当する予算項目を選定していく。
という予算策定プロセスを採用する一方、この『特別枠』の内容を、昨年水準より「1.7兆円拡張」するというものです。
なお、昨年はこの『特別枠』は「4兆円」でしたから(※)、例えば今年もそれと同程度と考えるなら今年の『特別枠』を「5.7兆円」にするという事になります。
(※ http://mainichi.jp/articles/20160803/k00/00m/020/129000c)
いずれにせよ、こうしたプロセスを採用すれば、これまでの「歳出改革」の議論のみならず、昨年度来、政府で集中的に議論している「未来投資」の検討結果を活用して、「メリハリ」の効いた予算が策定できることが可能となります。
(5)「プライマリー・バランス制約」見直しを見据えて
なお、以上に提案には、もう少し補足が必要です。
まず、政府の3%の当初予算拡充は、あくまでも「最低現の水準」であり、民間の成長率がさらに低い事を踏まえるなら、「補正予算」を拡充することが、デフレ完全脱却がかなうまでの間の少なくとも本年度、来年度程度には必要となるでしょう。
そして何よりも重要なのは次の一点です。
それはつまり、以上の予算プロセスを行うためには、少なくとも「プライマリーバランス対GDPを1%以内」という2018年の財政計画上のメルクマール(目安)は、制約ではなくあくまでも一つの目安に過ぎない、と認識する態度が必要だ、という点です。
もちろん、その認識の先には、「債務対GDP比が引き下がりつつある」という現状を踏まえながら、「2020年のPB黒字化目標という財政目標をどのように扱うのか」という議論を、その「撤廃」も含めて見据える必要があるでしょう。
いずれにせよ、600兆円経済を目指している「2020頃」まで、あと僅かとなってきました。本格的な成長対策はもう少し後で――とは到底言えない状況に至っているのです。
ついては本稿の提案が、600兆円経済の着実なる実現に結びつく事を、心から祈念しています。
追伸1:この原稿は、「プライマリー・バランス亡国論」による具体的提案です。詳細は是非、この書籍をご一読ください。
https://www.amazon.co.jp/dp/4594077323
追伸2: PS2 「プライマリーバランス問題」について、三橋さんとたっぷりと対談いたしました。ご関心の方は是非、下記ページをご参照ください。
http://www.38news.jp/sp/amazoncp_fujii/index.php
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