日本経済

2016年12月15日

【島倉原】原発問題と緊縮財政

From 島倉原(しまくら はじめ)@評論家(クレディセゾン主任研究員)

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先週、福島第一原発の廃炉や賠償などの費用総額が21.5兆円に達するとの見積もりが、
経済産業省によって発表されました。
3年前の見積もり額の約2倍にあたる金額で、その分は電気料金に上乗せされる見込みです。

http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS09H58_Z01C16A2EA2000/

日本経済新聞の上記記事にもあるように、国が一時的に立て替えた賠償費用も含め、
ほとんどの支払責任は電力会社が負っています。
電力会社の経営を維持するにはその分収入も増やす必要があり、送電線利用料という形の
間接的な転嫁も含め、電力の最終利用者である家庭や企業の負担に反映される構図です。
消費者の立場を代弁する有識者会議の委員からは、当然ながら批判の声が上がっています。

この部分だけ取り上げれば、家計・電力会社・それ以外の企業といった、
単に民間経済主体の間でコストをどう分担するかの問題に見えるかもしれません。
しかしながら、前回取り上げた年金問題と全く同様に、
ここにも政府の緊縮財政方針が、影を落としていると考えられるのです。

もともと原発が日本に導入されたのは、民間企業による営利企業の論理ではなく、
安全保障という国家的見地によるものです。
しかしながら、「原子力損害の賠償に関する法律」によれば、
原発事故で損害が生じた場合、
損害賠償については原子力事業者、すなわち原発を運営する電力会社が、
原則として無限責任を負うこととされています。
いわゆる「国策民営」体制と呼ばれるものです。

実際は、東日本大震災で生じた福島第一原発の事故による損害を、
事業者である東京電力の資金力だけでは到底まかなうことができないため、
これまた上記の法律に基づき、政府支援の下で弁済を続けています。
しかしながら、最終的な資金負担者は政府ではなく、あくまでも民間の電力会社。
その経営を維持するには、電力料金の値上げでその分の帳尻を合わせる必要がある。

こうした現行制度の枠組みが、冒頭で述べた記事の内容につながっていくわけですが、
原発導入のそもそもの目的が安全保障という公益的な目的であり、
しかも実際に事故が起こってみれば、民間事業者である電力会社には、
到底自力では賠償責任を負いきれない程の損害が発生する。
だとすれば、通貨発行権を持ち、財政赤字が拡大しても破たんすることはない
日本政府が一義的には賠償責任を負うこととし、
その前提に見合った役割分担や経済条件の下で、平時の原発も運営するのが妥当でしょう。

にもかかわらず、財政赤字の拡大を嫌い、緊縮財政のスタンスを維持する日本政府は、
賠償責任を電力会社に負わせ、経済的な負担は一般国民に転嫁する制度を維持している。
まさしく、年金保険料を引き上げつつ給付水準を引き下げようという意図の下で進行中の、
年金制度改革と全く同じ構図が存在するのです。

さらに言えば、上記「原子力損害の賠償に関する法律」の賠償責任に関する定め自体、
均衡財政主義の発想に基づいて55年前に制定されたものなのです。
このあたりの事情も含めた「国策民営」体制の成り立ちにご興味がある方には、
例えばこちらの書籍などが参考になると思います。
http://amzn.to/2guPkWB

そして、こうした緊縮財政が引き起こした日本経済の長期停滞が、
民間事業者である電力会社の設備投資意欲を長期的に低下させ、
結果として電力インフラの安全性が低下し、原発事故の遠因ともなった。
これが、拙著『積極財政宣言:なぜ、アベノミクスでは豊かになれないのか』
でも指摘したメカニズムです。
(二番目のURLはあらすじをまとめたブログ記事です)
http://amzn.to/1HF6UyO
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-94.html

電力・電灯料金が家計や企業に与える影響は、年金保険料の半分以下に過ぎませんが、
それでも年間15兆円を超える、巨大な金額です。
しかも、上述した緊縮財政の負のスパイラルは現在も続いており、
電力インフラの安全性や供給能力、ひいてはエネルギー安全保障を確実にむしばんでいる。
そう考えれば、決して単なる民間同士のコスト分担の問題ではなく、
政府が果たすべき役割も含め、より公益的な見地から議論されるべきではないでしょうか。

〈島倉原からのお知らせ〉
前回、株式市場の動向について、需給環境から考察した記事をご紹介しました。
同じテーマを、より長期的なデータに基づいて考察してみました。
↓「続・株式市場の需給環境」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-213.html

ECB(欧州中央銀行)が量的金融緩和の縮小、いわゆるテーパリングを決定しました。
そのことが金融市場全体に及ぼす影響について考察しています。
↓「ECB量的緩和縮小の影響をどう見るか」
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/blog-entry-214.html

↓ツイッター/フェイスブックページ/ブログでも情報発信しています。
こちらも是非ご活用ください。
https://twitter.com/sima9ra
https://www.facebook.com/shimakurahajime
http://keiseisaimin4096.blog.fc2.com/

—発行者より—

【オススメ】

★★★★★:市川道教のレビュー

今年3月、日銀がマイナス金利など、素人には意味が
全くわからないので少し勉強してみようかなと、
軽い気持ちで、月刊三橋に入会しました。

それまで、政治や経済はあまり自分とは関係ない、
というか、考えても、実質的に自分の力が
及ぶことはないので、真剣に考えてなかった。

しかし、実体経済の原理から、GDP、所得などを
コンテンツで勉強したおかげで、英、独、米での
大きな動きがあった、2016を冷静な目で見ていられた。

大袈裟かも知れませんが、人生で一番、
勉強した1年だったように思います。

また、財政破綻の嘘の話を、友人たちに話すと、
その反応がいろいろで面白かった。

でも、まあ、友人たちの半分は、それでも、
財政が〜〜、と言い続けてます。

さて、今月というか、今年のまとめは、
CSIS元研究員の某議員のような、あるいは、
パソナ役員の某氏のような、日本の貧困を利用して、
人気取りや利益を得ようとする輩との闘いが
マジで始まったと覚悟することですね。

来年も期待しています、よろしくお願いします。

月刊三橋最新号
「徹底検証!日本経済2016 日本再生のために忘れてはいけないこと」
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【島倉原】原発問題と緊縮財政への3件のコメント

  1. 赤城 より

    原発についてはとんでもなくアホな感情論とデマで煽られてどの点からも論理的に説明理解省察がほとんどの国民に出来ない状態です。そして最も強力にルサンチマンの矢面に意図的にさらされているのが電力会社でしょう。サヨクと頭の悪い国民に突き上げられて一方的に攻め立てられて政府はずっと責任転嫁している。それと均衡財政主義、永遠の緊縮財政を進める財務省日本政府の意図が重なって見えにくい所で政府の責任拠出分であるはずのコストがデフレ下の国民負担に回されてしまう。これも狡猾な増税の一種ですね。お金を発行して行き渡らせるという最も重要な政府の経済政策がデフレ下で逆行しむしろ縮小される異常状況はデフレ停滞を恒久化させる意図があってこそ維持されていると感じています。

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  2. 學天則 より

    1兆だろうと、10兆だろうと、20兆だろうと天文学的な数字だ。その100分の1でもあれば、大富豪だ。しかるにその数字の算出に根拠がないとかいう指摘は納税者の感覚なら、本当であれば気が狂っているとしか思えないし、余りにも緊張感がなさすぎる。国民がその気になり100万の民が蜂起すれば政府なんてあっという間に潰れる。その後は英米に国家運営の支援を求めればいい、特に米国は革命で出来た国だ。日本政府は全員解雇でお払い箱だ。なんだかこう、カジノや年金を見ても権力層が国民を舐め腐っている嫌な感じがする。たしかに多数の国民は今やデフレを長期放置し生産性を伸ばす事の重要性すら理解できず幼稚で馬鹿だが、それが返って恐ろしいのだろう。上からの統治で管理を徹底したあげく無能無気力な大衆のフラストレーションが爆発するのが全体主義だろう。それは大阪だけでなく、東京でも小池現象で起きつつある。都制度の様な行政のお節介は民を駄目にし全体主義を更に助長するだけだ。本来は国民が幼児並の知能でダメでもそれを何とかして延命するのが仕事だろうに・・・。行政や政治家が健全な統治の為、何をすべきかが全く解ってないのは大阪市だけではないのだろう。己の保身がため本来、知性を駆使してやるべきMUSTな事を出来ない理由をつけて、誰も出来ない事にして葬り去る。その保身のシンボルがデフレなのだろう。いつまで持つのやら。

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  3. 神奈川県skatou より

    うーむ。。現在の原発問題もろもろの根底、国策民営の実態というのが、自分にもすこし分かったかもしれないです。ありがとうございます。にしても、国策として参加を要求しつつ、青天井な責任を負わせるのはモラル的に残念であります。こんにちの政治家の矮小化でしょうか。金銭的損得で動くようでは頼りない、ということが言えそうで、過去の政治家?と見劣りするかと思います。ロシアについても島だとか現金な話ばかりで、あの破廉恥行為の謝罪がまず和平の前提という観点も全くないようで、現政権も随分とお安いものだと思われます。

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