先月1月のメルマガで「2万年前の大氷河期をアジア民族は、日本列島の南に広がる海底地形によって支えられた」ことを述べた。何人かの知人や読者から意見をいただき、仮説を提示する意義を実感した。
2023年の冬、大雪で日本は悩まされている。実は、日本人は大雪を運んでくるユーラシア大陸の地形によって生かされている。
季節風
日本列島には一年中、海から雨が運ばれてくる。
春から初夏にかけては、南西から北東に伸びる梅雨前線に沿って雨が降る。この梅雨の雨は、日本列島各地の田植えの恵みの雨となる。
夏から秋にかけては、西から東へ流れる季節風に乗って大小の低気圧が訪れ、太平洋からは豪雨を伴う台風も襲ってくる。
台風は日本列島にとって災害をもたらす厄介者と思われている。しかし、台風はある大切な役目を負っている。それは湖沼や湾の閉鎖性水域の攪乱である。常時には、閉鎖性水域に周辺から様々な物質が流入する。物質は閉鎖性水域の底に沈殿し、貧酸素状態になり腐敗していく。台風の風と荒波は、それら閉鎖性水域の底泥を攪乱し、酸素を供給し、浄化していく。
冬には、北西のシベリアから冷たく乾いた風が吹きつけてくる。その冷たい乾いたシベリアの季節風は、日本海を通過する。その時、日本海の水蒸気を一杯吸い込んで、湿った空気となり、日本列島の山脈に衝突して水蒸気は雪となって、山々に積もっていく。
山々に積もった雪は、水の貯蔵庫となる。生命が眠っている時には山で積もっているが、生命が芽吹く頃になると融けだし、日本海側だけでなく太平洋側の大地を潤してくれる。雪は時間差をつけて日本人に水を供給してくれるダムなのである。
日本列島の全ての生命は、季節風によって運ばれる雨と雪によって生かされている。時期によって向きが変わる季節風は日本列島の命の源である。
日本列島の命の源の季節風は、実は、ヒマラヤ山脈のおかげなのだ。
ネパールのヒマラヤ山脈
2015年の4月25日にネパールで大地震が発生した。首都カトマンズ北西77㎞、深さ15kmを震源とするマグニチュード8級の大地震であった。建物の倒壊、ヒマラヤ一帯での雪崩、土砂崩壊などにより多くの人命が失われた。
ヒマラヤ山脈は、約7,000万年前からインドプレートとユーラシアプレートの衝突で造られた世界でも最も高く、最も若い山脈である。現在もプレートの衝突は継続していて、ヒマラヤ山脈は盛り上がるように動き続けている。
ヒマラヤ山脈は熱帯のインド洋と極寒のユーラシア大陸のシベリアを遮る壁となっている。世界には8000メートルを超える山が14か所もあるが、そのうちの10か所がヒマラヤ山脈に、残りの4か所がカラコルム山脈に集中している。 このヒマラヤ山脈が日本列島に多様性に富んだ季節風を運んでくれる。もし、ヒマラヤ山脈がなければ、日本列島に今のような季節は存在しない。
(写真―1)はヒマラヤのエベレストで、(図―1)はヒマラヤとカラコルムの位置を示している。
ヒマラヤ山脈を迂回する季節風
地球の地軸の傾きが、地球各地の太陽との距離を変化させ、多様な季節を与えてくれる。太陽が大地に近づけば暑くなり、大地から遠ざかれば寒くなる。
アジアの夏は太陽が近くなり、ユーラシア大陸は一気に温められる。大陸が温められると空気は上昇し、気圧が低くなる。温まりが遅いインド洋は相対的に空気が重くなり高気圧になる。インド洋の高気圧は、ユーラシア大陸の低気圧に向かって流れ込もうとする。
ところが、ヒマラヤ山脈という壁にブロックされる。インド洋の高気圧の風は、ヒマラヤ山脈を東に迂回して吹いていく。その迂回ルート上に、日本列島が横たわっている。
もし、ヒマラヤ山脈がなければ、夏の風はインド洋からシベリア大陸へ、直接南北に吹く。そうなれば、夏の季節風は日本列島をパスしてしまう。日本列島は夏の季節風から仲間外れになってしまう。
冬はその反対で、ユーラシア大陸は一気に冷え、空気は重くなり高気圧となる。赤道直下の南のインド洋は暖かく低気圧となっている。シベリア高気圧は、低気圧のインド洋に向って流れ込もうとする。しかし、壁のヒマラヤ山脈にブロックされてインド洋に行くことができない。やむをえず、シベリア高気圧は、気圧の低い太平洋に流れていく。そのルート上に日本列島がある。
(写真―2)はシベリアから吹き込む冬の季節風である。
日本海を渡るシベリア寒気団は日本海の暖かい黒潮の水蒸気を抱えて日本列島に向かう。一杯の水蒸気を含んだシベリア高気圧は、日本列島の脊梁山脈にぶつかり雪を置いていく。
(写真―3)は飛騨高山の雪景色である。
日本人はこの積雪の雪解け水を上手に利用した。春の雪解けの水で、冬に固くなった田の土を柔らかくした。「代掻き」を考えた。代掻きのあとの「田植え」という効率的な稲作手法を確立した。世界に例のない高度の稲作技術を構築した。
(図―2)は夏・冬の季節風とヒマラヤ山脈の関係を示した。
ヒマラヤ山脈がなくて、寒気団が直接インド洋に吹いたら、日本に高度な稲作文明は誕生しなかった。
地球規模の地形で生きる
日本人は日本列島で世界の例のない高度な稲作技術を創造した。日本人のアイデンティティーは稲作にある。日本の稲作を支えている気象と自然は、日本人に与えられたものである。
太平洋、インド洋、シベリア大陸、そしてヒマラヤ山脈が、日本列島に多様な季節と自然を与えてくれている。日本が独自の力で獲得したものではない。過去2000年間を超える日本文明を形成した気象と自然は、現在の国境を越えた地球規模の地形によって与えられた。
21世紀の今、グローバリズムの荒波の中で、各国はアイデンティーを再認識し、再創生しようともがいている。特に、エネルギー、食糧自給が圧倒的に低い日本の苦しみは深い。
日本のエネルギー自給は10%と極端に低い。エネルギー自給率10%の文明は絶対に存続できない。それは人類の歴史が証明している。
日本が存続する方向性はどこか。
改めて、地球規模の地形に目を向ければよい。日本は世界の他に例がない独特な地形である。特異な地形の日本が稀に見る多様で豊かな気象と自然を与えてくれている。
この多様で豊かな気象と自然が、未来の日本にエネルギーと食糧を与えてくれる。日本人は長い歴史の経験と知恵を保有している。この歴史の経験と知恵を持って、改めて日本の気象と自然に向かって行くことが未来の方向性となる。
【竹村公太郎】 日本列島:恵みの地球規模の地形への2件のコメント
2023年2月9日 1:15 PM
>アジアの夏は太陽が近くなり
お言葉ですが、、
アジアの夏は 太陽から最も遠い位置に
地球は存在します
7月の地球は1月より500万キロメートルも
太陽から遠くなります
地軸の傾きにより北半球の日照時間は増えて
太陽から受ける熱量が増加
そのため暑くなるだけかと。。
ちなみに
地球が寒冷化に向かえば
食糧事情は 増々逼迫します
といわけで 地球温暖化は とてもとても
歓迎すべき現象と 自分は 理解しております
なんたって寒い夏には 飢饉がおこり
大勢の餓死者が でますから。。。
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2023年2月9日 8:01 PM
国立研究開発法人 防災科学技術研究所
自然災害情報室 防災基礎講座
災害はどのように起きているか
22. ユーラシア大陸東岸の島国日本は冷夏による災害を地球上で最もうけやすい -1993年平成大凶作,1980年冷害,1783~88年天明大飢饉など
より 引用
偏西風が大きく波動して極気団が南へ張り出し,ブロッキングされた状態となって持続すると,低温が継続します.停滞した気団の境界は前線帯となり雨天と日照不足が続きます.日本は島国であり,気流はすべて海を渡ってくるので下層に多量の水分を含みます.これが霧をつくり,また雨を多くして,日射を妨げ低温をもたらします.活発な光合成活動を行って多量の生産物を貯蔵する穀物にとって,日照不足は大きな障害です.
中略
明治以降での著しい冷夏年には1869年(M8),1905年(M38),1934年(S9),1954年(S29)があります.第二次大戦前では冷夏は多くの人が飢え苦しむ飢饉を引き起こしました.収穫不足が飢饉にまで至り死者が生ずるか否かは,社会の安定度や経済水準などに依存します.今後,食料輸入が困難になれば,飢饉が発生する恐れがないとは言えません.
引用終わり
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