コラム

2021年10月23日

【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」第八十話:『世論は「消費減税」「積極財政」を歓迎していない。』

総選挙スタートに合わせて朝日新聞が世論調査をおこないました。
 
内閣支持率や投票先などが調査の中心ですが、今回は与野党の政策で違いが明確な「消費減税」に注目してみます。
 
朝日新聞世論調査―質問と回答〈10月19、20日実施〉:朝日新聞デジタル
https://www.asahi.com/articles/ASPBN7HHWPBLUZPS001.html

調査結果は以下の通り。
 
《◆あなたは、消費税をどのようにするのがよいと思いますか。10%のまま維持するほうがよいと思いますか。それとも、一時的にでも引き下げるほうがよいと思いますか。
 
 10%のまま維持するほうがよい 57
 一時的にでも引き下げるほうがよい 35
 その他・答えない 8》
 
減税側の質問に「一時的にでも」と条件が付けられてるのが恣意的ですが、どうであれ維持されたくない人は「維持」と答えないはずなので、過半数が10%維持で良いと考えている結果は揺るがない。
 
それから、以前は、世論調査は固定電話にかけているから高齢者と高齢女性の回答率が高くなる、という批判がありました。朝日新聞の場合、固定・携帯(スマホ)の双方におこなっており、この調査では携帯電話の回答数のほうが多い。

また、携帯・スマホの普及率は高齢者にも進んでおり、70歳以上2人以上世帯で70%超。スマホ利用率は同じく80%超です。

所得の多い層ほどスマホ利用率が高いので、若干のバイアスはあるでしょうが、調査方式で年齢層が著しく偏る状況ではなくなっています。
携帯電話の普及率の現状を詳しくさぐる(2021年公開版)
https://news.yahoo.co.jp/byline/fuwaraizo/20210524-00237108

 
さて
2019年7月23日のブログ記事『「改善などという見たこともないものを できると思うヤツはおかしい」という社会心理』で書きましたが、実感のない話は信用しない心理が支配的ですね。

実感のない話を信用しないこと自体は悪いことじゃありません。むしろ良い意識でさえあります。
しかし、20数年前から現在までの経済がどんな状況にあるのかを確認した上で、「実感できなくなったこと」を問題にするべきだろうと思います。それは全体的な国民生活が貧困化していることです。

景気が悪化していく状況を放置してはいけない、という実感が持たれていないのではないか。
それが、これから書くことの背景にあると思う。
 
+ + +
 
消費税に対する意識はどうなっているんでしょう。
2014年4月後半に行った調査で振り返ってみます。
 
この調査はwebアンケート方式ですが、年齢別・性別の偏りを抑えています。
消費税増税に関するリサーチ結果 | バルクのマーケティングリサーチ・市場調査
https://www.vlcank.com/mr/report/084/
 
「設問5」の、増税で増えた税収を何に使ってほしいかの問では、政府が説明した社会保障への期待が最も高いのはある意味当然として、その中に「借金返済」が23.5%含まれています。
この割合は、「少子化対策」「食品・生活の安全対策」とほぼ同じ、「復興・被災地への支援」「危機管理(地震などの対応)」より多い。
 
税の使い道を質問してますから、「借金返済」は個人のことではなく、国の借金を返すべきということ。つまり経済用語で言う財政規律やプライマリーバランス黒字化は、被災地復興や国土強靭化より重視されていた。東日本大震災から3年後の2014年調査でこれですから、現在はもっと「借金返済」を求める人が増えているかもしれない。
 
消費増税以降の節約傾向は、全体で60%を超えており、男女差はほとんどなく40~50代で最も多い。
 
消費税引き上げが必要な理由は、年齢が上がるほど「知っている」が高くなる。
 
2014年4月時点では、10%増税への賛否は、反対が70%を超えていた。
しかし、14年の時も19年の時も、増税の期日が近くなるほど、賛成が増えてきたのを確認しています。
 
注目すべきは、設問10、11。
増税への賛成、反対の理由です。
読んでもらえばわかりますが、賛成も反対も本質的に理由が同じなのです。
 
つまり、賛成派は将来への財源のために消費増税に賛成と言い、反対派は将来の財源のために政治家や公務員などの給与削減、無駄な支出の削減を優先的に求めている。
マクロ的に見れば、どちらも政府支出削減ですから、同じことです。
 
ここのところを経済評論家は理解していて、国民が経済理論や貨幣について理解しなければならないと説きます。その通りと思います。
 
しかし、理解されてきただろうか。政治家の意識はコロナ禍にあって(一時的に)変化が見られるのは確かでしょう。
国民の方は大して変わっていないと思います。
 
消費増税に対して、順応しようしとしている。
こちらの調査を見てみましょう。
 
「生活意識に関するアンケート調査」(第80回<2019年12月調査>)の結果 日本銀行
https://www.boj.or.jp/research/o_survey/data/ishiki2001.pdf
 
「1-2-3. 消費税率引上げの影響等」で、増税前後の意識が見えてきます。
 
駆け込み消費に関する調査だと、14年時よりも19年の10%増税時の方が弱くなっている。
10%増税前に前倒しして購入したものは生活用品がほとんどで、自動車や住宅など高額なものは減っています。
2度の消費増税のあいだに、国民はより貧乏になっていて、節約志向が高まっている。
 
増税後に支出の仕方を変えてない人が10%時のほうが圧倒的に多い。
軽減税率やポイント還元など、増税のインパクトを弱める政策が成功し、節約志向がさらに定着し、消費増税に慣れてしまった様相が見えてきます。
 
なにしろ、賛成派も反対派も、政府支出削減を求めている。
賛否の理由が同じなのですからどうにもなりません。
 
 
消費税賛成派・反対派の両方が強く持っている観念を崩すのは、並大抵のことでは不可能でしょう。
経済的な理論や、データなど「事実」を持ってしても変えられない。
これは、日本人の特質に関係するもの、文化に近いものではなかろうか。
 
 
日本人は政府への信頼度が低いというニュースがありました。
記事は、コロナ禍に着目して政府の信頼が諸外国より低いと指摘してますが、コロナ禍に限ったことではないのです。
疑念、不信…揺らぐ真実 コロナ対策の説明不十分 | 河北新報
https://kahoku.news/articles/20211021khn000007.html

 
一方、海外の調査でも同じような結果が出ており、コロナ前からずっとそうなのがわかります。
各国政府への国民の信頼度、OECDが発表 日本は昨年36%
https://forbesjapan.com/articles/detail/16971
 
安倍政権は一貫して40%以上の高い支持率を維持してきました。Forbesが調査した時期は、50%近い内閣支持率だった時ですが、それでも「政府への」信頼度は36%でした。
記事で取り上げた15カ国の平均41・8%を下回る。
 
歴史の話をしだすと長くなるので省きますが、国家建設と国民が一体的な諸外国と違って、日本国民…というか日本の庶民は、「国家」をあまり意識しません。

したがって国家を統治する政府も意識から遠い。天皇はもっと遠いけど、伝統的に尊い存在または触れるべきでない存在になっていますので、その間に位置して権力を振るう政府には対立意識があります。

庶民の側は「個人」…これも西洋概念なので注意が必要ですが、「ひとりとみんな」の塊が、政府のような権力と対立します。
町の知り合いからつながる地域共同体と、よくわからない権力者の政府が対立するわけです。

政府に対する意識は右翼左翼のような西洋概念でもなく、日本の古層からある意識ではないかと思う。
対立と言ってもいつも喧嘩してるわけではありませんが、埋められない距離がある。

したがって、政府への信頼度より、自治体への信頼度のほうが高くなります。自治体の首長のほうが地域住民を考えて大切にしようとするからで、住民もそれを実感しますからね。
 
日本人は、実感できないことはわかりません。
 
政府は当てにせず、庶民の努力でなんとかしようとする。それが良い結果にならなかった場合は努力が足らなかったと考える。消費税は庶民の社会貢献と考えられるし、権力者や高所得者は所得を我らに分け与えよと訴える。それが庶民感覚の努力なわけです。
日本の庶民感覚は、新自由主義にとって大変好都合なのでが、それを説明しても実感がありません。
 
日本の選挙では、顔がよく知られた候補が有利です。これも、実感の持てそうな人を信頼しようとする意識の表れでしょう。知っているか知らないかだけでも、実感として大きいわけです。
 
これは頭が悪いとか意識が低いのではなく、土地と気候風土に生かされてきた民の特質だろうと思う。COVID-19に対して政府に命じられる前から「自粛力」を発揮したのと同じです。
 
そう言えば、顔見知りの力はCOVID-19の楽観論でも表れましたよね。顔見知りで協力しあっているコミュニティごとに櫛でといたように揃っていました。その中で異論を言う人は少なかったし、言えば叩かれました。「コロナ脳」と言ってね。

閑話休題
物事を切断し区別するよりも包み込んで丸めようとする日本人の意識は、議論下手に表れます。「まーまー、そう言わんと」の力が強い。民主主義という西洋概念がうまく機能しない。
しかし、西洋近代の法や政治制度を輸入してボクらの生活は成り立っています。
 
日本人に不慣れな、選挙というものをやらねばなりません。
 
政府という遠い存在を、どれだけ近づけられるか。顔見知りとその人の政策を区別して判断できるか。…経験を積むしかないでしょうね。
良い経験を積んでないからうまくいかないんでしょうけど・・・。
 
 
日テレ・読売共同世論調査、10月緊急[2]が出ていました。
世論調査
https://www.ntv.co.jp/yoron/
 
ダメ押しのような調査結果ですね。
岸田内閣支持率が下がり、自民党の政党支持率が下がった。公約の「新しい資本主義」は過半数が期待していない。おそらく、「新自由主義からの転換」や「新しい資本主義」は実感が持てず、当てにならないと思われているのでしょう。
危惧した通り、代わりに維新の会の支持率が少し上がっている。
 
投票する場合に重視する政策は
「景気と雇用」「年金や社会保障」「コロナ対策」が上位。

経済政策については
「国の借金が増えないよう財政再建を優先すべきだ」が58%で一位です。
 
社会保障重視で国の借金を増やすな、つまり積極財政は支持されない。
財源は政治家や公務員から取るべし。

消費税は賛否両方が財源確保を重視しているので、減税は支持されず緊縮的になる。
加えて、インバウンドや規制緩和・改革を更に進めることになる。
民意に従えば、ね。
 
この傾向が危険なのは、維新の会が拡大する土壌が強化されていることです…。
 
+ + +
 
いくら、理論やデータを掲げてこれが正しいと説明を尽くしても、納得するのはごく一部です。
ネットに表れてる「理解」とは、その一部の中の一部でしょうよ。

実感されない政策は支持されません。しかし、政策は実行しなければ実感もない。これがジレンマです。
 
とは言え、あきらめるわけにはいきません。
 
正確な経済理論やデータに基づく現実の姿を周知することは重要です。
野党が消費減税と財政出動を公約にしていることには意義があります。

与党自民党は、公約では後退してしまったが、コロナ対策や経済対策にこれまで以上の財政出動をしなければならない。
与野党が、まずは積極財政の方に動き出し、国民に実感を持たせることからはじめるべきでしょう。少しづつ、実行と実感を重ねていく。
 
一気には変えられません。
東日本大震災でも変えられず、COVID-19災害でも変えられそうにない。この現実を受止めないといけない。
 
 ========
○コマーシャル

ボクのブログです
https://ameblo.jp/tadashi-hiramatz/

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【平松禎史】「霧につつまれたハリネズミのつぶやき」第八十話:『世論は「消費減税」「積極財政」を歓迎していない。』への9件のコメント

  1. 詐欺師が善意を利用する より

    「維新の会が拡大する土壌が強化されている」

    同意。自民維新の連立政権という悪夢が現実味を帯びてきている。
    野党は大阪でバカなことをした。あそこに限っては、れ新で一本化すればいいものを・・・都構想もとい大阪市廃止構想の時のような状況にするべきだった。

    「コロナ脳」
    この件はもういちいち触れない方が良い。件のウイルスが人体にどの程度脅威なのかは私には判断つかない。

    だが確信も持って言えることは、強毒性かつDNA型でないウイルスを根絶することは事実上不可能であり、PCR法を唯一の感染性診断に用いるような姿勢は不適切だという事。(※用いるなとは言っていない。使いようである。大元がおかしいから全てがおかしくなる)

    そして、人体に備わる病原体防御機能を下げないこと(食・睡眠等の生活習慣の重要性)が軽視される状況は大いに問題であるという事。

    そして、子どもの発育上マスク着用は良いわけがないという事。動物の体は、そのようにはできていない。

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  3. プレイエル より

    人流増えまくりで感染者減りまくってますけど。

    あなたは自分の間違いを謝罪しないの?

    財政破綻論者と変わらないのでは。

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      1. 平松が正しい より

        ワクチン接種率をまったく無視してのコメントはかなり卑怯で恣意的、かつ無意味。

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        1. 保守とは より

          ワクチン関係無いと思うがワクチンのお陰で減ってるなら尚更人流関係無いやん。

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  4. F-NAK より

    本当に不道徳な人間というのは、
    「徹底自粛して、財政出動を訴えればいい」
    と、人を攻撃しておいて
    「財政出動は無理です」
    と、しれっと言ってのける人間のことでしょう。

    しかも自省ではなく、自己正当化のために言うなど、もってのほか。
    緊縮主義者は、経済苦に陥った人に対して「自己責任」というが、
    コロナ脳の人は、「必要悪」もしくは「運が悪かった」と言って見捨てる。

    弱者を慮る気持ちがないという意味では、同じ穴のムジナ。

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  5. 麦粒 より

    国民に期待し過ぎてはいけない。リーダーたちが変われば、そして覚悟をもって本気で臨めば、国民はついて来る、・・・こともある(笑)。そんなもんっすよ。

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  6. 麦粒 より

    お借りします。

    18歳以下への一律給付、あれは悪しきバラマキですよね~。子育て支援は、しっかりした理念のもと、収入に応じて、継続的に、でないとね~。公平性の問題により、もらえない人の不満が出て、政府への反感になり、国への信頼感が低下する。

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      1. 麦粒 より

        クーポン、遣り様によってはいいものになるかも。地域経済振興だけでなく、親子で地元の店に行くことによる教育効果とか。例えばクラシックのコンサートとか、運動が得意な子ならスポーツとか武道とか。そういうものなら一律でも大丈夫じゃないかな。寧ろ一律のほうがいいかも。5万、10万というのは少額だけど、そういう事の第一歩になれば、大いに意味があると思う。

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