コラム

2016年1月23日

【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第廿話

From 平松禎史(アニメーター/演出家)

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「国の借金が1000兆円を超えた」「一人当たり817万円」
「次世代にツケを払わせるのか」「このままだと日本は破綻する」

国の借金問題という嘘はなぜ広まったのか・・・?

その答えはこちら
http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag1.php

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  ◯オープニング

平成二十八年、2016年の一回目です。
今年もよろしくお願い致します。

話数表示には「二十」を「廿」と書いてます。
漢語由来の漢字で、常用漢字ではありませんが現在は人名用漢字に加えられているそうです。
子供頃、家のすぐ近くにあった銭湯には扉のついた衣服棚がありました。ふるびた木製だったのでロッカーという言い方は似合いません。
その衣服棚の扉にふられた数字、「十九」の次が「廿」でした。そう書いてあったんです。
その次は「廿一」「廿二」と続きます。もっとも、本物は縦書きですけどね。
というわけで、子供の頃に馴染んだ「廿」を使ってみました。

今回は、前半で子供の頃の話を、後半は先日ブルーレイディスクで観た映画『オズ はじまりの戦い』について触れます。

 第廿話:「僕らはみんなペテン師だ」

 ◯Aパート

ツイッターやブログなどで政治経済論議を書くようになって数年たちます。
今では、当メルマガを主催している三橋貴明さんや、寄稿されている青木泰樹教授、藤井聡教授、佐藤健志さん、三橋さんのつながりでスーパーコンピューターの齊藤元章さんや中野剛志さんなど、稀代かつ優れた学者・作家・言論人・実務家から直接お話を伺うことが出来るようになっています。
様々な人との出会いもあり、そのおかげで裾野も広がっていると実感できます。ありがたいことです。
「顔のない独裁者」の原作者さかき漣先生もその大切なお一人ですが、お会いしたばかりの頃、うろ覚えですがこんなご指摘を受けました。

「平松さんはアニメーターで文系の人なのに政治経済で分析的な考え方をしているのが不思議だ。」

さかき先生は政治経済よりも伝統文化に重きをおく小説家ですから不思議に思われたのでしょう。
確かに、三橋さんが常に提唱されている「言葉の定義を正確に」ということもスッと理解できましたし、構造的なことに興味がいくのはちょっと変わっているのかも。
というか、そういう興味が政治経済や歴史方面に向かっているのはアニメ業界では少数派かもしれませんね。
ちゃんとできている自信はありませんが、できるだけ根拠や一次資料をあたろうとする考え方は仕事でも役に立っています。

その理由を考えてみると、子供時代にさかのぼります。
トラウマが・・・てなことではありませんが、少しはそれっぽいかな。
つまり「カギっ子」だったんですね。
両親とも働いていて、小学生までは祖母がいましたが、遊び相手になるでもなく、友達と外で遊ばない時は家の中にあるおもちゃで遊び、それも飽きると本を読んでいました。
父は山本周五郎や大佛次郎の小説が好きで、本棚にたくさん並んでいましたが、小学生には難しくてさっぱりで、小説より百科事典を主に読んでいました。小学館の「万有百科大事典」です。
最初は図解を「眺めていた」だけでしたけどね。
特に「科学技術」「地理」「人体」が好きでした。図解がたくさんあったからです。
あいうえお順に載っている様々な事柄をひとつひとつ眺めるうち、だんだん解説を読むようになっていきました。
機械の原理や構造、地質構造や火山のメカニズムなんかが子供の頃にはおもしろかった。「人体」はご多分に漏れず、まっ先にちょっとエッチな項目を見たりとか・・・。

調べごとの習慣がある程度できたので、大人になってもモノゴトの原因や構造を調べるのは苦痛でなく、むしろ楽しんでしまうのでしょうね。

アニメーターになって、動きを作る時に実際の人物の動きが重力や慣性に影響を受けていること、性格の違いでしぐさも変わってくること、実在の機械や自然物などの動きから構造を考え、架空のメカニックや巨大生物など想像力を膨らませて描いていくことなどなど、観察から発想していくスタイルも同じようなところから来てるのでしょう。映像の文法を確立したヒッチコック監督や特技監督円谷英二さんの影響もあるでしょうね。

こういった自分のクセ、習性のようなものは、思春期から大人になる過程で自問自答するまでは明確に意識されないで、一種の思い込みのような状態で現れます。
人によるのでしょうが、明確に自覚できることはほんとうに少なくて、ボクなどはもう壮年になった今、ようやく「あ〜、そういうことか…」とわかることのほうが多い。
自分がどんな「思い込み」を持っているのか、なかなか自覚することができないのだと思います。

「思い込み」には良し悪しがあるものですね。
ボクは幸い、仕事では…良いことのほうに活用できていると思います。

 ◯中CM

後半は「思い込み」を引き継いで、サム・ライミ監督の2013年の映画『オズ はじまりの戦い』に触れます。
この物語は1900年に発表された児童文学「オズの魔法使い」の前日譚で、あらすじはこうです。
小さなサーカス団で働くペテン魔術師のオスカーが、騒動の末に気球で逃げ出した途中、竜巻に巻き込まれ「オズ」の国に飛ばされる。
オズの国では悪い魔女が暴れて、村人は救世主…「魔法使い」を待望していた。そこに現れたのがペテン師オスカーで、西の魔女セオドラに「待ち望んでいた魔法使いだ」と言われ、街へ案内される。

オスカーは、彼を「偉大な魔法使い」だと思い込んでいる魔女や村人たちの期待に困惑しながら、莫大な金銀財宝に目がくらんで魔法使いの王になることを承諾します。純真な彼女らを騙すことは容易いと。
しかし、翼の生えた猿や陶器の少女が示す友情や、南の魔女グリンダの誠実さに触れて、しだいに「善きペテン師」として目覚めていく・・・。

やや新しい映画なので実際の描写はあまり具体的に書かないで、感じたことを書いていきます。

 ◯Bパート

最初は、『死霊のはらわた』や『ダークマン』などホラー映画で見慣れたサム・ライミ監督作品と、この「善意」を根底としたファンタジー世界のギャップに困惑しながら観ていたんですが、これもライミ監督が以前から描いてきた世界観と同一線上にあることがだんだんわかってきました。

『スパイダーマン』三部作の頃のライミ監督は、『ギフト』や『スペル』のようなホラー映画でも内容面の厚みが増していて、『オズ はじまりの戦い』のような純然たるファンタジー映画にも、一種の毒…苦味を含んでいます。
子供も楽しめるファンタジーなので薄められてはいますけどね。

オスカーを利用しようとする魔女たちと、純粋に信じる魔女や仲間や村人たちの双方に、偉大な魔法使いがいるはずだという「思い込み」が表裏一体に存在しています。

両者の間に位置し揺れ動くのがペテン師オスカーで、彼のペテン師の才能を、私利私欲でなく、多くの人たち(公=おおやけ)のために使うことができるのかが物語のカギとなります。
元々持っていた「善意」を見つけていく物語ですが、その過程では、自分がペテン師であると自覚することが重要な意味を持っています。
本物の魔法使いに変身するのではなく、ペテン魔術師として出来ることをやる。
この転換はお見事でした。

『スパイダーマン』三部作の大きな物語は、スーパーパワーを手に入れたピーター・パーカーが「大いなる力」を自覚し、使い方を選択していくものでした。
実はキャラクターデザインで参加した『寄生獣』も似ていて、人間の傲慢さを自覚し、少しでも善き「選択」を重ねていくことが大きなテーマだったと考えています。

オズの魔法使いになるオスカーも、ペテン師としての才能の使い方を自ら選んだ。
魔法使いになろうとするのではなく、ペテン師として、です。
その背景には、「思い込み」に左右されやすい善悪魔女たちや村人の存在があります。完全な人は誰もおらず、みな欠点を持っているのです。みんなが自分を守ってくれる魔法を期待して、自らを騙している。
『顔のない独裁者』のように、思考停止し思い込みで自分だけは正しいと自らを縛る民衆が最悪の状況を作り出していくダークな描き方とは逆ですが、現実の苦さを含んだ物語だといえましょう。

当メルマガ第二話でご紹介したジュゼッペ・トルナトーレ監督の『明日を夢見て』とも通じます。これも共同幻想による共犯関係という側面で、映画のペテンを悲劇的に描いた物語でした。

『オズ…』はファンタジー映画であるにもかかわらず、問題の解決方法はかなり現実的に…といっても映画的なウソはありますが…考えられています。

 _ _ _

普通の人間が魔法の力を手に入れたり、完全な正義が世界を救っていくという物語は、今やファンタジーでも説得力がない、ウソっぱちだと見破られてしまいます。
現実の世の中には「ペテン師」が跋扈し「ペテン」が渦巻いている。
ゲームやSFに親しんでいる若者層だと思いますが、さらに一歩進んで(?)現実の「ペテン的」できごとに直面した時、一部にはこんな会話を楽しんでる人たちもいるようです。

「”キムタクはSMAP解散阻止のため何度もタイムリープしている説”が浮上」
http://nlab.itmedia.co.jp/nl/articles/1601/19/news082.html

芸能界のことはよくわからないけど、ショービジネスの世界には見たくない現実がつきものだということくらいは、アニメ業界からも伺えます。
「ペテン的」できごとかをかわすため、自ら別な「ペテン」を作り出すこともあるのですね。
ちょうど、オズの国の人々が「世界を救ってくれる魔法使い」を信じていて、オスカーがそうに違いないと思い込む構図に似ています。キムタクは才能に恵まれたスターなのは確かですが、彼も普通の人間なはず。でも「タイムリープしてSMAP解散を阻止しようとしている!」という魔法の呪文を作り出せば芸能界の汚い部分を笑いに変え、傷つかずにすむわけですね…。

政治の世界でも「戦後レジームからの脱却」という「ペテン的」魔法の呪文がはやりました。いまだにこの呪文で身を守っている「保守系」の人がいるようです。
数々の経済失政や、年末の慰安婦日韓合でも、彼らは「首相はシタタカ」「合意は『肉を切らせて骨を断つ』戦略なんだ」「安倍の代わりはいないじゃないか」などと、新たな「ペテン」を作り出し、より重大な「ペテン」に気が付かないように自らを騙し、守っているようです。
あるいは政権批判のためなら政治と無関係な話題や根拠不明な陰謀論を持ち出すことも、似たようなものです。

僕らはみんなペテン師になり得る存在なのです。

 _ _ _

では、善きペテンはあり得るか?
なにが人々を活かすのか。悪しきペテンと善きペテンは見分けられるのか?
また、悪しきペテンを善き方向へと導くことは可能なのか?
導くのは誰なのか?

『オズ はじまりの戦い』は、「人々を騙すペテン」の意味、こころざしによって良き方向へ転換できる可能性を示し、使い方を選択するためには自らを見直し、ペテンをペテンだと自覚することが必要だ、という苦い現実を映す魔法の鏡だと感じました。

これは「歴史」とはどういうものなのか、「国家」とは何か、を考える意味でも、とても重要なテーマです。
「歴史」とは、民族・国民・国家をまとめるための、ペテンを含む魔法の呪文のようなものだからです。
できれば、「オズ」の物語のようにポジティブに捉えていきたいものですね。

  ◯エンディング

ディスクのボーナストラック、主演のジェームス・フランコがスタッフ・キャストにインタビューしたドキュメントがおもしろかった。
サム・ライミ監督は、脚本や物語のテーマ、登場人物の描写、俳優への演技指導など、監督としての仕事を様々に語っているのですが、リポーター役のフランコはこんな質問をします。

「こじつけるつもりはないが、本作のオズとサムは似てる。サムも昔はマジシャンだったんだろ?」

サム・ライミ監督がかつて奇術のショー企画などをしていた経験を指して言っているようです。
ライミ監督はこんな風に答えるのです。

「僕がオズに引かれるのは自分もペテン師だからだ。人を操るのは監督も同じ。だから欠点も含めて共感できる。」

監督や俳優は演出で観客(人)の気持を操る。フィクションでは観客を上手に操る…「騙す」…テクニックが重要ですから、とても共感できます。
そして最後にこう言います。

「ここだけの話にしてほしいんだが、僕は実は監督じゃなくて、そのフリをしているんだ。ただ、監督らしい雰囲気を出しているだけ。監督を気取っているが、君と同じく役者なんだよ。」

観客を騙す前にスタッフやキャストを騙すのが監督の仕事。ゆえに責任は重い。
そして、善きペテン師は人々に幸福な「結果」をもたらすのです。

ーー 平松禎史(アニメーター/演出家)

↓↓発行者より↓↓

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