アジア

2016年6月10日

【施 光恒】「外需依存という罠」

From 施 光恒(せ・てるひさ)@九州大学

———————————————

【PR】

日本が国連に2億ドル払える理由
財政赤字国のどこにそんな大金が?
TVが放送を自粛する意外な真実とは
http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php

———————————————

おっはようございまーす(^_^)/

先日、あるシンポジウムで台湾について話す機会がありました。特に、先月20日に、新しい総統に就任した蔡英文氏や、新総統に同氏を選出し、国会(立法院)では政権交代を果たした今年1月の台湾の選挙について話しました。

選挙前までは、台湾の与党は、中国寄りの国民党でした。

ご存知のとおり、前総統の馬英九氏は、中国共産党に接近し、台湾経済を、中国に隷属させてしまいかねない「サービス貿易協定」の締結をかつて狙い、学生のデモなど広範な反対運動を招きました。

また、馬英九氏は昨秋、シンガポールで初の中台首脳会談(というか国民党と中国共産党との「国共首脳会談」)を行い、中国大陸と台湾がともに「中国」に属するという「一つの中国」原則を認める「1992年合意」に基づき、関係発展を目指すという立場の確認を行いました。(「1992年合意」は、台湾ではその存在自体がしばしば疑われ、おそらくでっち上げだろうと言われています。)

台湾の大多数の人々は、国民党や馬英九の親中路線に、近い将来、台湾は、中国に飲み込まれてしまうのではないかと強い懸念を抱きました。

現在の台湾では、統計の取り方にもよりますが、少なくとも6割以上の人々が「自分は、中国人ではない。台湾人だ」という明確な意識を持っていると言われています。つまり、台湾と中国はまったく別の国であり、自分たちは台湾人だという「台湾人アイデンティティ」が確立しつつあります。

そのため、親中路線は支持されず、総統選挙でも、立法委員選挙でも、国民党は大敗しました。台湾独立志向の強い民進党が勝利し、蔡英文氏が新総統に就任し、立法院でも民進党が過半数を占めるようになったのです。

中国に警戒心を持ち、距離を取っていこうとする蔡英文氏や民進党が勝利したことは、日本にとって喜ばしいことです。台湾が中国に飲み込まれてしまえば、東アジアの地政学は一変し、日本は、中国と直接的に対峙しなければならなくなるからです。

他方、中国政府にとっては、当然ながら、今回の選挙の結果は、面白くありません。中国政府は、すでに、蔡英文政権を選んだ台湾にさまざまな圧力をかけてきています。

台湾も、日本と同様に、中国人観光客を多数受け入れ、その「爆買い」需要に頼ってきたわけですが、中国政府は、圧力の一つとして台湾への旅行客数を減らす策に出ています。

今年1月の選挙以前から、中国は、訪台する観光客数を制限し始めました。
(「台湾で中国人客が3割減 総統選挙にむけ大陸当局が制限」(『サーチナ』2015年12月19日配信))
http://news.searchina.net/id/1597581?page=1

特に、選挙期間中、中国政府は、中国人の台湾ツアーを大幅に制限しました。評論家の宮崎正弘氏が指摘しているように、「国民党敗北を早くから予想しており、一党独裁国家では認められない自由投票による政権交代の場面など自国民に見せたくないため」(『「中国大恐慌」以後の世界と日本』徳間書店、2016年)というのも理由の一つだったでしょう。

選挙後も、中国政府は、台湾への旅行客の渡航に制限をかけています。下記のロイターの記事によれば、中国の旅行業者は、当局から台湾への旅行客数を減らすように命じられているとのことです。
(「台湾への中国人観光客数が減少傾向、新総統就任控え非難の応酬」(『ロイター』2016年5月12日配信))
http://jp.reuters.com/article/taiwan-china-tourism-idJPKCN0Y30G9?pageNumber=1

中国は外交で面白くないことがあると、一党独裁の強み(?)をいかして、なんでも外交カードにし、政治的圧力をかけてきます。旅行客数の制限などお手の物です。今回の台湾に対する圧力でもそうですし、尖閣諸島問題で対立が高まったときには、日本への圧力として、訪日ツアー客を大幅に制限してきました。

現在でも、日本では、中国人観光客の「爆買い」を歓迎しています。地域の経済をそれに依存させてしまっているところも少なくなりません。

私の暮らす福岡市は、数年前から博多湾に大型クルーズ船でやってくる中国人買い物客を嬉々として受け入れています。最近、ますます増えていますが、大丈夫なのかなと心配になります。(博多湾へのクルーズ船の寄港は、2008年は35回に過ぎなかったのですが、今年はほぼ毎日、合計361回の寄港が予定されています。その多くが、中国人買い物客が利用するクルーズ船です)。
(博多港のHP。2016年クルーズ客船入港予定)
http://port-of-hakata.city.fukuoka.lg.jp/guide/cruise/

最近、福岡市の三越には大型免税店ができ、博多大丸や大型ショッピング施設のキャナルシティにはラオックスが入り、中国人観光客目当ての街づくりが進んでいます。博多港も、近い将来、クルーズ船が二隻同時に着岸できるように大規模な再開発が行われるようです。

「爆買い」需要に依存した街づくりをしてしまって大丈夫なんですかね…。近い将来、尖閣問題や歴史認識問題が再燃することは確実にあるでしょうし。福岡市の経済を中国に依存させ、結果的に、中国共産党に有利な外交カードを作ってしまっているんじゃないでしょうかね。

さらに心配なのは、民泊解禁の流れです。政府は先月、住宅地でも民泊の営業を認める規制緩和の原案を発表しました。
(「民泊を全面解禁、住宅地で営業認める 政府原案」『日本経済新聞』電子版 2016年5月13日配信)
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFS29H3C_T10C16A5MM0000/

これ結構、まずいですよね。少し前に、フランスの旅行業関係者が来日し、パリでの民泊解禁の悪影響について語りました。
(「民泊の不都合な真実。フランス宿泊業界関係者が緊急来日で悲痛な訴え」『HARBOR BUSINESS Online』 2016年5月23日16時21分配信)
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160523-00095025-hbolz-soci

それによると、パリでは、民泊解禁以降、民泊需要を当て込んだ業者が不動産を買い進め、パリ中心部の不動産価格は高騰し、普通のフランス人は都市部に住みにくくなっているそうです。

民泊の規制緩和が進めば、東京や京都、福岡など日本の各都市でも同様の事態が生じるのではないでしょうか。

「爆買い」がさかんな福岡の場合、中国の業者も多数参入して民泊用物件を買っていくでしょう。その結果、不動産価格は上がります。そこからの収益も増大するでしょう。確かに投資家にとっては、民泊はおいしい話です。

しかし、地域社会で普通に暮らしている人々にとってはデメリットのほうが大きいでしょう。不動産価格や家賃の高騰もその一つです。

また、住宅地での営業も認めるということですので、住宅地と商業地が事実上、混在することになります。結構な混乱を招くのは間違いありません。

実際、京都では、住宅地で営業する民泊がすでにトラブルを多発させています。
(「京都の民泊、トラブル頻発 住民が反対運動も行政指導限界」『京都新聞』2016年5月29日配信)
http://www.kyoto-np.co.jp/top/article/20160529000028

住宅地と商業地とを区別せず、民泊の営業をみとめるということは、いままでの街づくりの原則との整合性がまったくないと思うのですが、どうしてこういうことが進んでしまうのでしょうかね。

ちなみに、米国の大手民泊あっせんサイトである「エアー・ビーアンドビー(Airbnb)」は、世界各地で、現地の政府や地方自治体と交渉する「公共政策担当者」を募集しています。自分たちに有利なように規制緩和を進めさせる事実上のロビイストの募集という側面があるといってもいいのではないでしょうか。
https://www.airbnb.jp/careers/departments/public-policy

政治とは、本来、各地に根差して暮らす普通の人々のためのもののはずです。外需に依存する経済を作ってしまえば、中国のような独裁国家や、貪欲なグローバルな投資家や企業ばかりを利することにつながり、普通の人々の暮らしの質はどんどん低下し、また不安定なものとなっていきます。普通の人々の意思が通りにくくなってしまい、自分たちの街づくり、国づくりができなくなってしまいます。

現在流行の外需依存の経済の進め方を見直し、もっと地に足の着いた、そこに根差して暮らす普通の人々こそ主人公となれるまっとうな経済を取り戻していくべきでしょう。

長々と失礼しますた
<(_ _)>

ーーー発行者よりーーー

【PR】

日本が国連に2億ドル払える理由
財政赤字国のどこにそんな大金が?
TVが放送を自粛する意外な真実とは
http://www.keieikagakupub.com/sp/38DEBT/index_mag2.php

関連記事

アジア

【施光恒】国民経済を重視したエコノミストの迫力

アジア

【三橋貴明】日本国民の「タネ」を守る根拠法が消える

アジア

【三橋貴明】抽象的移民受入論を打破せよ!

アジア

【三橋貴明】忌まわしき税金

アジア

【佐藤健志】反グローバリズムはキレイゴトにあらず

【施 光恒】「外需依存という罠」への3件のコメント

  1. 日本晴れ より

    施先生の指摘に全く同感です。何でもかんでも外需依存するのはどうかと思います観光業は外需産業の一つですが非常に不安定で波が激しいしそんな物に依存する頼るのは本当にどうかと思います。ましてや民泊なんてもってのほかだと思います。はっきりいえばアメリカの真似ですし何でもかんでも社会をアメリカ化したがるのか不思議でしょうがないです。保守でも左派でもノンポリでもアメリカの真似ばかりしたがる人が多いのは本当にどうかと思います。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  2. robin より

    入国規制緩和+観光立国+民泊でテロの可能性が高まりそうだが。ヨーロッパで失敗してるのに後追いで失敗を目指してるように見えるのはあらゆる規制緩和、なんでも平等化がトレンドだと信じてるから?グローバル化により格差拡大、貧困や主権奪還のために第三次世界大戦の引き金になりそうだが。一方で第四次産業革命に向けてAGIの開発が進む。戦争が技術発展を大いに促すなら戦争に乗り遅れるとAGIの開発競争に負ける状況になった時日本は戦争に参加するのだろうか。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

  3. Non-chan より

    数ヶ月前ですが、福岡市営地下鉄の中で隣に座った外国人が東京都に借りている部屋をネットで旅行者に貸しており、収支はよいと友人らしい日本人女性に話しているのを聞きました。こんな事をする人が、日本にきていると実感させられました。

    返信

    コメントに返信する

    メールアドレスが公開されることはありません。
    * が付いている欄は必須項目です

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。
* が付いている欄は必須項目です

名前

メールアドレス

ウェブサイト

コメント

メルマガ会員登録はこちら

週間ランキング

  1. 1

    1

    【藤井聡】吉川洋東京大学名誉教授が『詭弁』を弄して、『防災を...

  2. 2

    2

    【藤井聡】防災に「国債」を発行しない政治家は、馬鹿の誹りを免...

  3. 3

    3

    【三橋貴明】マッチポンプ

  4. 4

    4

    【三橋貴明】日本の治水事業等関係費の真実

  5. 5

    5

    【竹村公太郎】見えないインフラ

  6. 6

    6

    【三橋貴明】技能継承

  7. 7

    7

    【三橋貴明】安藤提言

  8. 8

    8

    【三橋貴明】平成30年7月豪雨〜不作為の殺人者たち〜

  9. 9

    9

    【三橋貴明】トランプ大統領の「豊かになる」認識

  10. 10

    10

    【小浜逸郎】角栄の政治家魂を復権させよう

MORE

月間ランキング

  1. 1

    1

    【藤井聡】吉川洋東京大学名誉教授が『詭弁』を弄して、『防災を...

  2. 2

    2

    【施光恒】園芸からみえる日本

  3. 3

    3

    【藤井聡】大阪北部地震が導く「巨大地震」 〜速やかな対策に向...

  4. 4

    4

    【小浜逸郎】安倍政権20の愚策(その1)

  5. 5

    5

    【三橋貴明】安藤提言

MORE

最新記事

  1. 日本経済

    【三橋貴明】現代の奴隷国家

  2. アメリカ

    【三橋貴明】トランプ大統領の「豊かになる」認識

  3. 日本経済

    【藤井聡】防災に「国債」を発行しない政治家は、馬鹿の誹...

  4. 政治

    【三橋貴明】日本の治水事業等関係費の真実

  5. 日本経済

    【三橋貴明】マッチポンプ

  6. 日本経済

    【三橋貴明】技能継承

  7. コラム

    【竹村公太郎】見えないインフラ

  8. 政治

    【三橋貴明】平成30年7月豪雨〜不作為の殺人者たち〜

  9. 政治

    【小浜逸郎】角栄の政治家魂を復権させよう

  10. 日本経済

    【藤井聡】吉川洋東京大学名誉教授が『詭弁』を弄して、『...

MORE

タグクラウド