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2015年10月7日

【佐藤健志】第2ステージか、プランBか

From 佐藤健志

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(無料)
スパコンが軍事力を決める日がやってくる・・・?
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さる8月、安保法制反対の集会に作曲家の坂本龍一さんが参加しました。
そして、こう発言したそうです。

政治状況ががけっぷちになって、日本人に憲法精神が根付いていることを示していただいた。フランス革命に近いことが今まさに起ころうとしている。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150830-00003612-bengocom-soci

フランス革命に近いこと!!
坂本さん、むろん良い意味合いで言及しているわけですが、現実のフランス革命は、「自由・平等・友愛」のスローガンとは裏腹に、決してうるわしい代物ではありませんでした。

「恐怖政治」(テロル)と呼ばれる粛清の嵐が吹き荒れたうえ、ヨーロッパ全体を巻き込む大動乱に発展したのです。
「テロリズム」という言葉は、この「テロル」が語源になっているのですから、すさまじさは推して知るべし。

政府に抗議する集会で、この革命を引き合いに出すのは「こんな反対運動はただちにやめるべし」と言ったも同然と思うのですが・・・
坂本さんの言葉、ご本人の意図とはまったく違った形で当たっているかもしれません。

エドマンド・バークが「フランス革命の省察」で指摘していますが、革命が起きたあと、フランスでは国の歳入が激減します。
経済政策が行き当たりばったりだったせいながら、これについて、当の革命政府はどう反応したか?
失政を恥じるどころか、「われわれは民衆の税負担を軽減することに成功した」と胸を張ったのです!

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戦時中のわが国では、退却が「転進」、壊滅的打撃が「損害軽微」などと言い換えられましたが、都合の悪い現実を言葉で粉飾したくなるのは、洋の東西を問わず、人間の普遍的な心理のようですね。

しかるに。

安倍総理は先ごろ、政権の経済政策、いわゆるアベノミクスが「第2ステージ」に入ったと言明しました。
「第2ステージ」というのは、第1ステージが成功だったことを前提として、今までやってきたことをさらに発展させるときに使う言葉です。

しかし三橋貴明さんや、島倉原さんなど、本紙執筆陣がそろって指摘しているように、第1ステージが成功したかどうかはきわめて疑わしい。
最大の目標であるデフレ脱却が思うように進んでいないうえ、今後、再デフレ化に陥る恐れも強いのですから。

三橋さんのブログ「アベノミクスの終わり(前編)」(9月25日)によれば、総理自身もこの点について、明らかに矛盾した発言をしています。
いわく。

もはや「デフレではない」という状態まで来ました。デフレ脱却は、もう目の前です。

「デフレではない」と言える状態に来ているのなら、デフレ脱却は「もう目の前」ではなく、すでに達成されているはず。
逆にデフレ脱却が「もう目の前」なら、少なくとも今の段階では、まだデフレということになり、「デフレではない」とは言えません。

どちらに転んでも、総理の言葉は意味をなさない。
これが事の本質を語っている気がしますね。

とはいえ〈今までやってきた政策が成功した〉ことを前提にするのと、〈今までの政策は失敗だった〉ことを前提にするのとでは、取るべき政策が相当に変わってくるはず。
だいたい後者については、「第2ステージ」とは呼びません。
「プランB」とか、「コンティンジェンシー・プラン」(失敗対策プラン)と呼ぶのです。

アベノミクスは本当に「第2ステージ」に入ったのでしょうか?
2017年、消費税の10%引き上げが予定されているのを思えば、デフレ脱却、ないし再デフレ化の防止は、これからいっそう難しくなる可能性が高い。
デフレとは慢性的な需要不足による経済の縮小ですが、増税で国民が消費を控えれば、需要は(よほどの対策を打たないかぎり)落ち込むに決まっているのです。

むろん立場上、「プランB」が真相であろうと、「第2ステージ」と言いたくなるのは分かる。
だとしても〈本当はどちらなのか〉が曖昧だと、「うまく行かなかった政策を、意地になってひたすら続ける」ことになりかねません。

じつはこれも、フランス革命で見られたこと。
王の権威をいきなり否定してしまったせいもあり、革命当時、同国では軍隊の統制が取れなくなりかかったんですね。
この危機的事態に直面して、革命政府はどう対応したか?
おおよそ、以下の通り。

王の布告という形で通達された議会の決定を、兵士が踏みにじっていると知ったときには、議会で新たな決定を下し、布告するよう王に言い渡した。

軍人としての忠誠をめぐる宣誓が、部隊ぐるみで無視されていると知ったときには、もっと宣誓をさせればいいという結論に達した。

これを「第2ステージ」と呼ぶか、「プランB」と呼ぶか、はたまた「行き当たりばったりの思いつき」と呼ぶかは、みなさんにお任せします。
何にせよ、今の日本では本当に、フランス革命に近いことが起ころうとしているのかも知れませんよ・・・

ではでは♪

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