アーカイブス

2015年8月12日

【佐藤健志】反省と謝罪の分離

From 佐藤健志

——————————————————-

●●自虐史観はなぜ作られたのか、、、
月刊三橋の今月号のテーマは、「大東亜戦争の研究〜教科書が教えないリアルな歴史」です。
http://youtu.be/cx6gcrylFvc

——————————————————-

8月14日に発表されると言われる、戦後70周年の総理談話について、各方面で論議が高まっています。
本紙でも上島嘉郎さんが、「安倍談話に望むこと」という記事をシリーズで書き続けているのは、みなさんご存じのとおり。

実際の内容は、むろん発表されなければ分かりませんが、先の戦争について〈反省〉は盛り込む一方、〈謝罪〉、ないし〈お詫び〉は盛り込まない線でまとまりそうな模様です。

(※)その後、談話には〈お詫び〉も盛り込まれるという趣旨の報道がなされました。ただし〈反省〉のみにしようとする動きが強かったのも事実ですから、ひとまず脇に置きます。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150810/k10010184361000.html
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150811-00000006-asahi-pol

つまりは「反省と謝罪の分離」ということですが・・・
ある事柄について、反省するが謝罪はしないとは、具体的に何を意味するのでしょうか?
両者の境界線はどこにあるのでしょう?

辞書を引いてみると、答えはわりと簡単に出てきます。
広辞苑における「反省」の定義をどうぞ。

はんせい【反省】
自分の行いを顧みること。自分の過去の行為について考察し、一定の評価を加えること。
(表記を一部変更、以下同じ)

続いて「自己の精神生活に、統覚または注意の作用を向けること」という小難しい定義も出てきますが、これは哲学用語、ないし心理学用語として使われる場合の意味なので、ここでは取り上げません。

してみると反省とは、自己完結的というか、基本的に自分の内面においてするもの、となります。
ついでに「一定の評価」を加えるのですから、過去の行為を必ずしも全否定しなければならないわけではありません。

「良かれと思ってやったものの、みごとに裏目に出てしまった」とか、「全体的には大失敗だったが、評価すべき点も多少はある」というのも、反省のうちなのです。

逆にこちらは「謝罪」の定義。

しゃざい【謝罪】
罪や過ちを詫びること。

そして「詫びる」の定義のうち、7番目はこうなっています。

(困惑のさまを示して)過失の許しを求める。謝る。謝罪する。

つまり他者の存在が前提というか、相手との関係においてすることなんですね。
ついでに許しを求める以上、基本的には過去の行為の全否定が条件となるでしょう。

ならば昭和の戦争について「反省するが謝罪はしない」とは、

あの戦争に関して、事実を知ろうとする努力や、真剣に考察する努力はこれからも惜しまない。ただし、頭ごなしに全否定すべきものとして、いつまでも許しを求めつづけることはしない。

ということになります。

事実、政府主催の政策会議「21世紀構想懇談会」の座長代理である北岡伸一さんは、本年6月7日、読売新聞で次のように述べました。
いわく。

大事なのは反省のほうである。私はあまりに謝罪を強調することには反対である。日本はもう何度も謝罪をし、関係国はそれを受け入れると表明している。(中略)
では、謝罪ならぬ反省では、何が必要だろうか。まず、若い人のみならず、日本人の多くは、近現代史の知識にはなはだ乏しい。これは是正する必要がある。

北岡さんの提唱する「謝罪ならぬ反省」の概念が、今まで展開してきた議論と一致するのは明らかでしょう。

このような〈反省〉と〈謝罪〉の分離を、私は妥当なものと考えます。
ところが。
上記のニュアンスを保ったまま、〈反省〉を英語に訳すのはけっこう難しい。

たとえば総理が4月にアメリカ議会で行った演説では、〈反省〉にあたる表現は「(deep) repentance」「(deep) remorse」となっていました。
http://www.mofa.go.jp/na/na1/us/page4e_000241.html

辞書を引けば分かりますが、どちらの言葉も、たんなる「反省」より踏み込んだ意味合いを持っています。
〈罪悪感や後ろめたさを抱え、悔い改めねばと思っている〉という感じになってしまうのですよ!
これでは謝罪して当然ではありませんか。

ちなみに中国語の辞書を引いてみても、〈反省〉(fanxing)の語義は「(内面的に)自己批判する」「謹慎する」となっています。
文字こそ同じですが、日本語の「反省」より、やはり踏み込んだニュアンスがうかがわれる。
「停職反省」(=停職謹慎処分)なんてフレーズまであるそうです。

今回の談話に〈お詫び〉が結局盛り込まれるとすれば、それは〈反省〉のニュアンスを十分正確に発信できなかったせいで、〈謝罪〉と切り離せるまでにいたらなかったということではないでしょうか?

と、なると。
「反省と謝罪の分離」を達成するには、歴史認識について云々する以前の問題として、まず「反省」という言葉自体を的確に翻訳することが求められます。

英語の場合、私のお勧めはこれ。
「(serious) reflection」。
直訳すれば「(真剣に)考察する」です。

エドマンド・バークの名著「フランス革命の省察」も、原題は「REFLECTIONS ON THE REVOLUTION IN FRANCE」でした。
バークはイギリス人ですから、他国の革命について〈反省〉する義理はない。
ゆえに〈省察〉と訳されるのですが、この本がフランス革命にたいする鋭い考察を通じて、痛切な反省を迫るものであることは、お読みになった方ならご存じでしょう。

まだ読まれていない方はこちらを。
「〈新訳〉フランス革命の省察 『保守主義の父』かく語りき」(PHP研究所)
http://amzn.to/1jLBOcj (紙版)
http://amzn.to/19bYio8 (電子版)

「謝罪ならぬ反省」を主張するのであれば、〈反省〉は「リペンタンス」や「リモース」ではなく「リフレクション」と訳すべし!
8月15日を前に、こう申し上げておきましょう。
ではでは♪

**** メルマガ発行者よりおすすめ ****

●自虐史観の始まりはGHQの・・・?
●大東亜戦争という名称が消えた理由とは・・・?

答えはこちら
http://youtu.be/cx6gcrylFvc

*****************************

<佐藤健志からのお知らせ>
1)8月17日(月)発売の「表現者」62号(MXエンターテインメント)に、評論「天使の狂気か、人間の正気か」が掲載されます。

2)この本の第一章のタイトルは、ずばり「〈終戦〉を疑え」。
〈戦後〉を問い直すのであれば、まずはそこから始めねば!

「僕たちは戦後史を知らない 日本の『敗戦』は4回繰り返された」(祥伝社)
http://amzn.to/1lXtYQM

3)〈戦後〉を問い直すうえで、あわせて重要なのが、いわゆる〈保守〉の抱え込んだパラドックスを直視すること。
でないと、堂々めぐりが待っていますよ・・・

「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

4)そしてもちろん、アメリカという国を深く知ることが重要です。
同国がいかなる意識で独立を勝ち取ったか、マニフェストとも呼ぶべき本をどうぞ。

「コモン・センス完全版 アメリカを生んだ『過激な聖書』」(PHP研究所)
http://amzn.to/1lXtL07(紙版)
http://amzn.to/1AF8Bxz(電子版)

5)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

関連記事

アーカイブス

【柴山桂太】無駄なハコモノ?

アーカイブス

【竹村公太郎】沖積平野の文明の物語(その3) ―6,000年の人類の戦いー 

アーカイブス

【藤井聡】小池劇場、その「炎上」のメカニズム

アーカイブス

【三橋貴明】日本の治水事業等関係費の真実

アーカイブス

【佐藤健志】平松テーゼとジャン=リュック・ゴダール

メルマガ会員登録はこちら

最新記事

  1. 日本経済

    【三橋貴明】パズルを解く選挙

  2. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】立民・維新の「食料品だけの消費減税」は,まっ...

  3. 日本経済

    【三橋貴明】日本人はどこから来たのか?

  4. 日本経済

    【三橋貴明】「低所得者 対 高所得者」のルサンチマン・...

  5. 日本経済

    【三橋貴明】付加価値税という世界的詐欺

  6. 日本経済

    【三橋貴明】鳥は三匹しかいないわけではない

  7. 日本経済

    【三橋貴明】混迷の政局

  8. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】小泉八雲『日本の面影』の読書ゼミを本日開催....

  9. 日本経済

    【三橋貴明】石破を引きずりおろす手法がない

  10. アメリカ

    政治

    日本経済

    【藤井聡】なぜ,『石破茂という恥辱』という特集号を編纂...

MORE

タグクラウド