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2015年5月22日

【上島嘉郎】安倍談話に望むこと(その六)

From 上島嘉郎@ジャーナリスト(『正論』元編集長)

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●●三橋貴明が実践する経済ニュースを読む技術とは?
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

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米国の日本研究者や歴史学者ら187人が、戦後70年間の日本と近隣諸国の平和を称賛し、第2次世界大戦以前の「過ち」について「全体的で偏見のない清算」を呼びかける声明を発表しました。
(朝日新聞デジタル 2015年5月8日)

「日本の歴史家を支持する声明」に署名したのは、ハーバード大のエズラ・ボーゲル名誉教授やマサチューセッツ工科大のジョン・ダワー名誉教授、ニューヨーク州立大学ビンガムトン校のハーバート・ビックス名誉教授ら、米英豪日などで日本やアジア関連の研究者、歴史家と認識されている人々です。

朝日新聞は、参加者は「研究が世界的に評価され、影響力が大き」く、「慰安婦問題などの解決で、安倍晋三首相の『大胆な行動』に期待を表明」、「日本の研究者への応援という体裁だが、日本政府や国民へのメッセージにもなっている」と伝えています(同記事)。

声明発表の経緯は、
「米シカゴで3月に開かれたアジア研究協会定期年次大会で、数人の研究者が声明について提案。4月下旬からの安倍首相の訪米前に公表すべきだとの意見もあったが、
「必要以上の政治性をもたせたくない」(コネティカット大のアレクシス・ダデン教授)との理由で見送られ、訪米後に首相官邸に送り公表したものだという(同記事)。

この声明はこんな文言から始まっています。
「下記に署名した日本研究者は、日本の多くの勇気ある歴史家が、アジアでの第2次世界大戦に対する正確で公正な歴史を求めていることに対し、心からの賛意を表明するものであります」

全文と署名者は以下のサイトで読むことが出来るので、本稿ではポイントだけに触れます。
http://www.asahi.com/articles/ASH575KGGH57UHBI01Y.html

まず、「日本の多くの勇気ある歴史家」とは一体誰のことでしょう。
端的にいえば、この声明を発した人々と同じ歴史観を持つ歴史家のことですね。歴史家とは言えませんが、元朝日新聞記者の植村隆氏も、彼らの認識の中では「勇気ある」発信者とみなされているのは間違いないでしょう。

声明の具体的内容が「慰安婦」問題に割かれていることからも、この声明の本音がどこにあるかがわかります。

声明は、「この問題は、日本だけでなく、韓国と中国の民族主義的な暴言によっても、あまりにゆがめられてきました」と、日中韓それぞれに冷静さを求める中立的な態度を装いながら、つまるところは、いわゆる広義の強制性を日本に科した上で、

「『慰安婦』制度はその規模の大きさと、軍隊による組織的な管理が行われたという点において、そして日本の植民地と占領地から、貧しく弱い立場にいた若い女性を搾取したという点において、特筆すべきもの」
と糾弾するものです。

「私たちも過去のすべての痕跡を慎重に天秤に掛けて、歴史的文脈の中でそれに評価を下すことのみが、公正な歴史を生むと信じています。この種の作業は、民族やジェンダーによる偏見に染められてはならず、政府による操作や検閲、そして個人的脅迫からも自由でなければなりません。私たちは歴史研究の自由を守ります」

声明の発信者はこう述べるのですが、たとえば東京裁判に疑義を呈する研究に対しても彼らがそれを適用したことがあるのか、そうした研究や情報発信の自由を守ってきたことがあるのか、と問わざるを得ません。

彼らは、それを「歴史修正主義」と非難してきたのではなかったか。本当に、「過去のすべての痕跡を慎重に天秤に掛けて、歴史的文脈の中でそれに評価を下す」仕事を彼らがしてきたと言えるのか。

東京裁判を「興行的誇示と、連合国内むけの安価な復讐感覚に訴えるために仕組まれた」と喝破したのは東條英機の主任弁護を引き受けた清瀬一郎でした。

この裁判で、被告にはすべて無罪の判決を言い渡すのが当然であるとの意見を提出したのがインド代表のパール判事でした。

東京裁判が「裁判」の名に値しないのは以下の一事でもわかります。
裁判所設置の憲章規定からすれば、まず法廷でパール判決書は朗読されねばならなかった。弁護側も法廷で朗読すべしとの動議を出しました。

ところが裁判長は、これを朗読するに数日を要するからとの口実で、朗読を禁じた。それならこちらで印刷頒布すると言うと、今度は進駐軍司令部の命令で印刷を禁じた。
昭和27年4月28日、独立回復までは、パール判決の判決正文は一般の手には入らなかったのです。

この無罪判決後、まだパール判事が日本に滞在中、東京弁護士会で同判事を招聘し、東京裁判について講演を求めたことがあります。その時、主催者が紹介の挨拶中、日本人被告に同情ある意見を出され感謝にたえないといったようなことを述べたところ、パール判事は甚だ不機嫌だったという。

「私は日本に同情するがため、かの意見を呈したのではない。私の職務は真実の発見である。真実を探求した結果、かような結論になった。それ以上のものでも、それ以下のものでもない。同情に感謝するというのはまったくの見当違いである」

「侵略戦争を準備し、またはこれを遂行するということは、大東亜戦争当時、犯罪であったのか」
「犯罪であったとして、その当時の指導者個人を処罰し得たのであったか」
この二点が中心的大問題であった、とパール判事は述べています。そしてその考究の結果が「被告全員無罪」でした。

米国でも、最高裁判所のウィリアム・O・ダグラス判事は、東京裁判の被告が行った再審請求に対し、1949年6月、意見書を発表しています。その中でダグラス判事はパール判決を支持し、
「国際軍事裁判所は政治的権力の道具以外の何物でもなかった」と。

さらに、当時国際法学の権威とされたイギリスのロード(卿)・ハンキーも、『戦争裁判の錯誤』(邦訳1952年、時事通信社)の中で、
「裁判官パール氏の主張が、絶対に正しいことを、私は全然疑わない」と述べています。

ハンキーの東京裁判批判については、改めて書きますが、慰安婦問題も、「日本は野蛮な侵略国家だった」という東京裁判史観を前提に、日本糾弾の“材料”の一つとして、当時の法理や経緯を無視され、事実を非常に歪められた上で政治問題化されたものです。

「日本の歴史家を支持する声明」の発信者はこう言います。

「多くの国にとって、過去の不正義を認めるのは、いまだに難しいことです。第2次世界大戦中に抑留されたアメリカの日系人に対して、アメリカ合衆国政府が賠償を実行するまでに40年以上がかかりました。(略)
人種差別の問題は今もアメリカ社会に深く巣くっています。米国、ヨーロッパ諸国、日本を含めた、19・20世紀の帝国列強の中で、帝国にまつわる人種差別、植民地主義と戦争、そしてそれらが世界中の無数の市民に与えた苦しみに対して、十分に取り組んだといえる国は、まだどこにもありません」

ならば米英豪の歴史家諸氏よ、戦勝国の立場からの歴史解釈を全き是とすることが真に学究的態度と言えるのか、日本に高説を垂れる前に、まずはそれを疑ってみたことがあるか。それとも、戦勝国の罪を問うことは「戦勝」によって阻却され、敗戦国の罪は「敗戦」によって永久に問われ続けるとでも言うのか。

パール判決は、
「時が、熱狂と偏見をやわらげた暁には、また理性が、虚偽から、その仮面をはぎとった暁には、そのときこそ、正義の女神はその秤(はかり)を平衡に保ちながら、過去の賞罰の多くに、その所を変えることを要求するであろう」との一句をもって結ばれています。

しかし70年近くを経た現実の国際社会は、歴史解釈における戦勝国の既得権益が温存されたまま「過去の賞罰の多くに、その所を変えることを要求する」正義の女神の出現を拒んでいます。

PS
月刊三橋最新号のテーマは、「日本経済の大問題」。

日銀は何を間違えたのか?
マスコミが報じないTPP交渉の真の問題点、
「国の借金問題」のウソ、大阪都構想、リニア新幹線、原発再稼働ほか、
2015年上期の経済ニュースを徹底解説

http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv.php

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【上島嘉郎】安倍談話に望むこと(その六)への3件のコメント

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  2. 上田悦子 より

    アメリカが中国共産党のプロパガンダを真に受けて、あるいは共謀して作り上げた「日本=極悪非道の権化史観」は今アメリカも含めて、世界を危険にさらしています。日本の名誉の回復などは、それに比べれば瑣末な問題です。中国共産党はその歴史観のおかげで、被害者面して、彼らこそが極悪非道の権化であるという歴史的事実から世界の目をそらすことができたのです。アメリカの歴史学者はその点を反省すべきです。なにせ、あの「日本=極悪非道の権化」プロパガンダを書いたのはアメリカ歴史協会(AHA)なのですから。自分の名誉の回復のためになどと、自分を被害者に仕立てあげて物を言うことは、謙遜を美徳とする日本人の感覚にはなじまないかもしれませんが、それが世界平和を脅かしているとなれば、もっと積極的にこの問題に取り組むべきだと思う人も多いかもしれません。ちなみに、What shall be done about Japan after victory? がAHAの書いたプロパガンダですが、「日本=極悪非道の権化」歴史観の原本ともいえるもののように思われます。たぶん、同様の内容の日本語文書は、日本のすべてのメディアに配布されたのではないかと思われるような、非常に聞きなれた内容の代物です。読めば読むほど腹が立ってきますが、英語を読める方は一度読んでごらんになると参考になると思います。ご希望の方にはpdf版のコピーもあります。

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  3. ofu_1 より

     浅草寺(sensouji temple in asakusa japan)の航空写真(動画)をドローンから撮影し、youtube(広告付)で世界に発信してビジネスをしていた15歳の若者が逮捕?されました。 これって営業妨害? 大きな事故現場や有名人に蠅のように集るヘリコプターやカメラマンのほうがよっぽど危険のように映ります。  活字や映像情報の真偽が歴史を遡って調査され、製作(会社)者の真意と真偽がネット上で10万人単位にあっと言う間に広まるようになりました。 つまり、一国政府の都合だけで作り上げた情報は、すぐにメッキがはげ落ち、国民の支持が低下する政府が続出するものと思われます。

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