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2015年6月27日

【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第十四話

From 平松禎史(アニメーター/演出家)

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●●日本は「発展途上国」へと転落するのか? 豊かで安全な日本を後世に残すための条件
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

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◯オープニング
梅雨に入って東京はしょぼしょぼと雨が降っております。
細長い日本列島。所によっては大雨、雷など暴れることと思いますので、ご注意くださいね。

「イブセキ ヨルニ」の後は、お誘い頂いていた仕事に取組みつつ、個人的に考えている作品企画のために、歴史関係の本を読んでいる日々です。
政治経済、憲法問題など喧しい現代から離れて遠い古代の日本などに没頭するのは楽しく、趣味と実益を兼ねられるアニメの仕事をしてて良かったなぁ〜なんてほっこりしていると、時としてフラッシュバックのように「現在」が襲いかかって来るのです。

第十四話「誰も見たことのない三種の神器」

◯Aパート

第二次長州征伐、西南戦争、そして日清・日露戦争で世界的に名将と賞賛される乃木希典大将。

大正元年、自刃する三日前。
訪れた乃木大将の様子がいつもと違うため、裕仁親王殿下(後の昭和天皇)が「閣下はどこへ行かれるのですか」とお聞きになった逸話が残っています。
その時に、熟読されるよう手渡されたのが山鹿素行の『中朝事実』だったそうです。
これは、中国の儒教が尊ばれ、日本のものは劣ると思われていた江戸時代の風潮を批判したもので、易姓革命などで頻繁に王朝交代する国などより、日本こそが「中朝(中華)」なのだと説いたものだいわれます。

易姓革命は徳の断絶を根拠としていたそうですから、王朝の交代では前王朝に徳がなくなった、すなわち新王朝が正統、と理解されるわけですね。王朝を貶めて新王朝の徳を正当化する革命も頻繁に起こるわけです
中国の場合はそれ(徳を主体として王の正統性を規定する)自体が専制政治の根拠のようになっているので同列には出来ませんが、日本にも似たような歴史がいくつか存在します。

興味深いので歴史を遡ってみるといろいろあるのですが、南北朝時代でみられます。(詳しくは後述)
乃木大将が尊敬していたとされる楠木正成公は南朝方の武将でしたが、鎌倉幕府からは「悪党」と言われていたそうです。

さらに遡って驚いたのは武烈天皇(西暦499年〜506年)でした。
古事記と日本書紀では記述に大きな差があるのです。
(以下、歴史的な事柄について書いていきますので、敬語を省きます。)
古事記では、後嗣がなかったので応神天皇の五世の孫を淡海国(近江)から呼び寄せ、手白香皇女(たしらかのひめみこ)を皇后にむかえた、とあります。
しかし、これは次の継体天皇についてであって武烈天皇のことを書いたものではありません。
ですから、古事記での武烈天皇の記述は「後嗣(跡継ぎ)がなかった」ことのみだったことになります。

一方日本書紀では
”「頻りに諸悪を造し、一善も修めたまはず」と非常に悪劣なる天皇として描かれている。その一方で、厳格な裁判を行ったとするなど相矛盾する記事が併存する。”(Wikipedia)

異常な行動としてこのようなことが列挙してあるのだそうです。
”二年の秋九月に、孕婦の腹を割きて其の胎を観す。”(同)
…にわかには信じがたいですね。

記紀の記述の差や矛盾点、諸悪の極端さから、武烈天皇の実在を疑う説もあります。
この原因として、継体天皇が血統として弱かったため、仁賢天皇の皇女手白香皇女を皇后とし、さらに正統性を強化するために悪者として武烈天皇を設定したのではないか。との説があるわけです。
さらに
仁賢天皇までの皇統は血筋が定まっておらず、継体天皇から万世一系の皇統が始まった、という説も存在します。

あくまで説ですが。
そうだとすると、両説ともに、武烈天皇は継体天皇の正統性を強調するために「悪者」にされている。
あるいは、「悪者」として架空の天皇を設定した、ということになります。

記紀を編纂した時代は、「天皇」の称号が定められ日本が対外的に国家としての立場を確立しようとしていた時代だとされます。
しかしながら、関係の深かった隋〜唐の影響が、まだ濃厚だったのかもしれません。
日本の背骨たる皇統が、まだ堅固とは言えなかった時代ゆえ、でしょうか。

◯中CM

今年は2015年
TVシリーズの「新世紀エヴァンゲリオン」の放送が始まって20年です。
ボクは、第拾伍話から参加したので第壱話は視聴者として観ました。
最初の印象は
「マジンガーZ 対 デビルマン」ならぬ「マジンガーZ + デビルマン」か!?こりゃ凄い!でした。

マジンガーZもデビルマンもやや似た構造を持ちます。(原作者が同じですしね。)
「マジンガーZ」では
主人公、兜 甲児の祖父が作ったロボット、マジンガーZを操って敵の機械獣(古代ミケーネ文明から作った兵器)と戦うわけですが、「じいちゃんの作ったマジンガー!」と自分が持った力を祖父から受け継いだものと強く意識しています
「デビルマン」は
悪魔と合体した不動 明(デビルマン)が、神と悪魔、人間の間に立って戦う。天上界と地上の人間界の戦い。

両作品ともに縦(上下)の関係が濃厚です。
そして、「エヴァンゲリオン」は、主人公碇シンジと父ゲンドウとの対決という縦の構図が背景にある点で共通しています。

縦の関係を肯定的(積極的)に扱った20世紀後半の両作品からインスパイアされた「新世紀エヴァンゲリオン」は、世紀末の時代、縦の関係の否定というか、解体(溶解?)を表現した点で、画期を示す作品だと思います。

◯Bパート

「(封建の)門閥制度は親の敵で御座る」
とは、福沢諭吉が晩年に口語体で記した自伝「福翁自伝」に記された有名な言葉です。
大戦後も民主主義の対立概念として、封建制はとにかく「悪者」で、「復古的」「古い考え」など、古いものを否定する時「封建制」が使われます。

古代から中世、近世へ至る歴史をみていくと、封建制の時代に内乱、内戦が次々出てきます。
それに比べれば260年も大きな内乱が起きなかった江戸時代は太平と言って良い時代だと思うのですが。
明治維新後、最後の内戦になった西南戦争後の日本は、封建的だった江戸時代とは違うのだ、という気持ちが濃厚にあったことが想像できます。

そもそも封建制とは何でしょう。
最近読んだ今谷明著『封建制の文明史観』から引用しつつ、日本にとっての封建制とは何だったのか考えてみます。

(1)主君と忠誠によって結ばれた職業戦士層の分化に基く軍事的機能
(2)権力の分散に基く政治的機能
(3)領主・農民関係に基く社会・経済的機能
オットー・ヒンツェ(1929)(p165-166)
封建制度は、この三つが単独でなく相互に制約しあいながら機能しあうことが該当条件とのこと。

ヒンツェは日本の封建制発生の環境を、こう指摘をしています。
”全く独自な存在でありながら(中略)西欧と驚くべき類似性を示すのが日本の封建制である。(部族国家から封建制への転回が、異質で高度な文化との接触により、)征服的膨張によって起こったわけではなく、むしろ全面的な文化受容を通してのそれへの反動の中で引き起こされた…”(p167)
中間の()部分は要約したものです。

文化受容を通して、というところは理解しやすいですね。

日本と西欧の封建制を論じた、ウィットフォーゲルと梅棹忠夫の章は非常に興味深いです。
社会学、民俗学と分野の違う二人が、『東洋的専制主義』『文明の生態史観』をそれぞれほぼ同時期に著し、封建制について同じような見解を示しているそうです。

梅棹の『文明の生態史観』では、ユーラシア大陸の両端を第一地域、その間の砂漠を囲む地域を第二地域と設定し、第一地域は自発的に変わっていった地域であり、第二地域は外敵からの影響で変わっていった地域だと説明しています。砂漠周辺ですから水が重要な意味を持ちます。
そして、日本と西欧は似通った歴史の並行現象があることを指摘しているのです。

第一地域に共通するのは、封建制を経験して産業資本主義へと発展を遂げたこと。
第二地域は、封建制を経ずに専制へと向かい、現代でも停滞・発展途上にあること。

もちろん、ここまでざっくりした分け方では説明しきれません。
しかし、(差別的な意味でなく)両地域の違いはハッキリ認められると思います。

_ _ _

『封建制の文明史観』は、第一章で、元寇で勝てたのは台風のおかげだった、という通説の反証から始まっています。
二度の元寇に際して、鎌倉幕府と朝廷は協力し、当初は不満を持った地方の富豪も最終的には一致協力したと伝えられます。
博多湾岸や平戸の防塁建造が縦横の協力体制を象徴している。

同じ頃、元の攻撃を受けていた南宋(中国の王朝)では、襄陽を守備していた呂文煥は朝廷から援助を受けられず、宰相の賈似道は戦況を隠していたという。
結局、呂文煥は降伏後に元に寝返り、賈似道は無様な最期を遂げ、降伏した将軍たちは賈似道の悪口を言い立ててクビライ・カーンから南宋朝廷への不忠を諌められたといいます。

封建制の定義(1〜3)に照らせば双方の違いが歴然とし、勝敗の要因も明確になりますね。

さらに、西洋中世史家、堀米庸三の指摘は特に重要です。
封建制度はそれに先立つ何かある国家的統一なしには国制足り得ないことを示すと共に、封建政治じたいがこの先行的統一性に寄生せざるを得ない半面のあることを明らかにするからである。
我が国の場合、実質的には無力に近い皇室が最後まで存続し得たのは、封建制度の持つこの要請によるものである。”(p247)

堀米の指摘は、もし日本に専制政治の根付く要素があったとしたら皇室は存続できなかったことを示唆します。
おそろしいですね。

「日本の封建制」を見ていくと、縦と横のつながりが重視されていることがよくわかります。
縦横の網の目が強靭な建築物のように構築されていたからこそ、モンゴル帝国襲来という緊急事態に対処できた。
これは現代においても非常に重要な意味を持ち得ると考えます。

皇室は日本の縦の構造を支える重要な位置を占めているわけですが、皇室を敬う気持ちとは、宗教的な、感情的なものでしょうか?
歴史を辿ってみると、それだけではないとハッキリ言えます。

武烈天皇の逸話は黎明期を思わせます。
しかし、南北朝時代の北朝は、皇位継続のために様々な「解釈」を行いました。
三種の神器が揃わない時の「譲国の詔」による継承。
治天(実権を持つ上皇)も神器も揃わない時は遥か昔の継体天皇の例を出し、神器の櫃(箱)だけ揃えての継承など、強引とも言える「解釈」によって皇位継承を維持しようとしました。
平将門、足利義満など皇室に挑戦したといわれる武将も簒奪の意図には反証もあり、結局皇統は守られて幕府との併存が続きます。

北朝の持明院統は断絶することになりますが、南北朝ともに三種の神器の継承を中心に具に見れば正統性に疑問のある時期が存在してしまうといいます。
そのため、以後も南北朝正閏論はたびたび議論の的になり、幕末にかけて南朝正統論が優勢となり明治維新への流れの一つとなり現在に至ります。

このような苛烈な歴史が意味することはなんでしょう。
宗教観による法理とともに、長い経験の積み重ねで日本独自の法治の形を探ってきたと理解できます。
だからこそ、同じく法治の国、欧州や欧州発祥のアメリカと(第一地域同志)連携しやすいわけです。

時の勢力の都合による「徳」で法治を歪め、易姓革命を起こすようなことは、人治主義で起こることなのです。

_ _ _

最後に、Aパートの話に戻しましょう。
易姓革命のような酷い話を読んでいると、ふと気になります。
現代にもそのような心理が沸き起こることがあったじゃないですか
数年前
政権交代・民主党政権を善きものとするために自民党を悪しきものとし…

現在
自民党・安倍政権を善きものとするために民主党政権を、中国を、韓国を悪しきものとし…
あるいは
「戦後の平和」を善きものとするために戦前を、復古的な安倍政権を、アメリカを悪しきものとし…

その過程での経済は
アメリカの要請でもって公共事業が増やされたと思えば悪者にされて緊縮財政へ傾き…
日本型経営も農協や医療も、発送電も、新自由主義的政策を善とするために次々と悪者にされていき…
国防では
政権を支持・批判するために、アメリカが悪い、いや中国が悪い、韓国が悪いと悪者づくりに躍起になり…

経済動向の見方や、集団的自衛権行使の憲法解釈など、南北両朝の皇位継承努力を彷彿とします。
安倍政権は民主党政権と比べるまでもなく、法治的で、日本的です。
ただし、安倍政権が保守するものが デフレ不況と日本国憲法と戦後体制 になりそうなのが残念です。

歴史に学べとよく言われますが、歴史をたどれば幾つもの巨大な鏡に直面します。
「己の姿を見よ」と。

特定の制度や、表面上の「善悪」に踊らされる間に、守るべき国家(=国民)は、一体どうなってしまったんでしょう?
何のための政(まつりごと)なのか。
日本を破壊したい者は国内に怪物を育てようとするでしょう。
誰に「徳」があるかと右往左往の騒乱に慣れさせて易姓革命を起こし日本の背骨を折りたいのでしょうから、悪者づくりや救世主や改革への期待が激化すれば、日本破壊を願う者の思う壺です。

_ _ _

『封建制の文明史観』は、特定の歴史や国柄を直接学ぶのに向いた本ではないでしょう。
しかし、人心が乱れ世が荒れるたび、見直しや次善の策、時には強引と思える手法で乗り切って革命を避け、国の背骨たる皇室を継承してきたこと。関連する歴史を調べながら読めば国柄を保ってきた先人の努力が却って浮かび上がってくるように思います。

本物の三種の神器は、誰も見たことがないそうです。
それでも確かに「存在」し、日本の法治、道徳観を伝える根拠、宝であり続けている。
誰も確かめられないからこそ、続いているとも考えられます。
なぜでしょう。
確認できないものは悪者にできない、潰すこともできない、ならば丸く収めるしかないじゃないですか。
どう丸く収めるか腐心して漸進してくことに政治(=国民の議論)は集中すべきと思います。
そう考えると、堀米庸三が指摘する皇室の意義が理解できます。

「和をもって尊しとなす」

それが最終的に民の安寧につながるという経験則でしょう。

封建制を肯定して中世に戻せば良いなどと思いません。
社会と人の縦横構造の強靭さを考える教材の一つとして「封建制」を考え直してみる意義はあると思います。
「何のために」
という目的を誤らないために。

◯エンディング

『封建制の文明史観』で初めて知ったのですが、モンゴル軍の二度目の侵攻を防ぐために作られた博多湾沿岸の防塁には驚きました。
本では、防塁のことを知っていたシラク大統領が来日の際(おそらく96年)見学を望んだのですが、日本側が警備の問題で断ってしまったエピソードが紹介されています。恥ずかしい話ですね。

博多湾岸にはグルっと20kmにも及ぶ石組みの壁が作られた。今でも一部残っているそうです。
今度博多に行く時は是非とも元寇防塁を見たいです。
んで、730年前の攻防に思いを馳せつつ、もつ鍋や美味しい魚を食べるのです(^o^)

◯後CM1
今谷明「封建制の文明史観」
http://www.amazon.co.jp/dp/4569704700

◯後CM2
「イブセキ ヨルニ」短編アニメーション。
原作:さかき漣「顔のない独裁者」
大エイジア連邦支配で法治とその背骨たる意識が失われた日本国民
「悪魔の連邦は終わった・自由革命を!」「GKは売国奴・改革を改革せよ!」「新しい救世主を!」
…という全体主義的状況による、易姓革命無限ループに陥る様を描いております。
http://animatorexpo.com/ibusekiyoruni/

PS
「政府は亡国の財政政策をやめろ!」に、ご賛同頂ける方は、↓このリンクをクリックを!
http://keieikagakupub.com/lp/mitsuhashi/38NEWS_CN_mag_3m.php?ts=hp

PPS
「大阪都構想」騒動とは一体、何だったのか? 三橋貴明が解説中
https://www.youtube.com/watch?v=ox0dS84nBHQ

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【平松禎史】霧につつまれたハリネズミのつぶやき:第十四話への2件のコメント

  1. ソウルメイト より

    日本において、徹底した独裁というものは、存在しなかった、というのがおそらく、たいていの歴史家に共有される認識なのだろうと思います。武によって馬上天下をとったような連中、平清盛、源頼朝、足利尊氏、豊臣秀吉、徳川家康のいずれもが、絶対王権を確立したわけではありませんし、統帥権の独立を主張して国権を壟断した旧帝国陸、海軍ですら、特定の独裁者を推戴するものではありませんでした。ではなぜ、日本においては、徹底した独裁は存在しなかったか?おそらく、そのことと日本人の精神構造とか心理的特性とは無関係ではないと思います。わが国において深層心理学者のカール・グスタフ・ユングが創始した心理学の体系を習得し、紹介する草分けとなった深層心理学者・心理療法家の故河合隼雄先生のご著に「中空構造日本の深層」や「神話と日本人の心」などがあり、示唆に富む考察がなされております。河合先生は、日本人の精神的、心理的構造および特性は、西洋人のそれとは異なるのではないか、という当たり前と言えば当たり前のことを確認しつつ、議論を進めておられるわけですが、同じくユング派の深層心理学者の老松克博がお書きになられた「漂泊する自我」なども、そのような観点から優れた考察がなされていて、一読の価値があると思います。

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  2. docholiday より

    >乃木大将が尊敬していたとされる楠木正成公は南朝方の武将でしたが、鎌倉幕府からは「悪党」と言われていたそうです。今 手元に資料はないのですが(転居で本は全て家に置いています)、この時代の悪という言葉はワルイということではなく、強いという意味がありました。悪源太とか悪七兵衛などはそういう意味で使われています。

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