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2015年4月8日

【佐藤健志】<繁栄の絶対法則>経済に撤退は許されない

From 佐藤健志

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https://www.youtube.com/watch?v=tdZJGFU19ac

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三橋貴明さんの著書『繁栄の絶対法則』が、3月にPHP研究所から刊行されました。
サブタイトルは「『安全保障』を強化してこそ日本経済は大成長する」。
私も拝読しました。

「安全保障」というと、ふつう国防が連想されますが、ここではもっと広い意味で用いられます。
つまり人々にたいして
「自分の仕事に精を出し、一生懸命に頑張っていれば、物事は必ずうまく行く」
という安心感を保証すること。

この安心感がなければ、人々が仕事に邁進するとは考えにくい。
よって生産性も向上しません。
ゆえに所得も増大せず、社会全体として「繁栄への道」が遠のく結果になります。

けれども世の中には、どれだけ一生懸命に頑張っていようと、個人の力ではどうにもならない危機的事態というものがあります。
戦争もそうですが、日本の場合、地震などの自然災害も決して無視できません。

裏を返せば安全保障とは、
1)個人の力では対応できない危機的事態について、
2)発生した際の被害が最小限となるよう、日頃から十分な予防策を練り、
3)危機的事態が起きた後も、できるだけ早く立ち直れるようなシステムを築いておくこと
となります。

このようなシステムの構築には、むろんお金がかかる。
つまりは投資が必要。
「いつ起きるかハッキリしないうえ、結局は起きないかも知れない危機にたいし、そんなにお金をかけるのはムダ」と感じる人もいるでしょう。

しかし安全保障のための投資は、それ自体としての効用も持っています。
自然災害対策には、道路や交通機関などのインフラを整備しておくことが含まれますが、このインフラは平時でも活用可能。
比喩ではなく、文字通りの意味で「繁栄への道」が拓かれるわけです。

また国際情勢が不安定化し、地球環境の悪化も懸念される現在、国防はもとより、食料やエネルギーをめぐる危機が生じるリスクも、かつてなく高まっています。
「結局は起きないかも知れない」などと構えている場合ではありません。

しかも現在の日本は、デフレ脱却が依然として確立されないなど、経済が活力を取り戻していない。
政府が安全保障の投資を率先して行うことは、需要の創出にもつながるため、この点でも有益なのです。
おまけにカネ余り状態なので、短期の財政均衡にさえとらわれなければ、財源の捻出も容易。

で、なぜやらないのか?
・・・詳細な議論については、『繁栄の絶対法則』をご覧いただくとして、印象深かったのは、三橋さんが「経済」という言葉と、「ビジネス」という言葉を意識的に使い分けていること。
177ページから引用しましょう。

経済とは、「ビジネス」以上に幅広い概念なのである。何しろ、経済とは「経世済民」の略なのだ。
経世済民とは「世を経(おさ)め、民を済(すく)う」という意味の四字熟語である。わかりやすく書くと、
「国民が豊かに暮らしていける政治をする」
ことこそが「経世済民」であり、政府の存在目的なのだ。
(漢字表記を一部変更)

私なりに整理すると、こうなります。

経済(活動)とは、「ある特定の共同体(国家、社会、地域など)に帰属する人々が、豊かで安心して暮らせることをめざす活動」の総称である。
ゆえに経済活動が、つねに効率よく利益をもたらすとは限らない。また根本の目標は「特定の共同体に帰属する人々の幸福」なので、当該の共同体とは密接不可分の関係がある。

ビジネスとは、「経済活動の中で、もっぱら効率よく利益をあげることを目標とするタイプのもの」を指す言葉である。特定の共同体の幸福が、この目標よりも優先されることはなく、ゆえに共同体と密接不可分の関係を形成する必要もない。

ここから浮かび上がってくるのは、共同体に危機が生じた場合の対応に関して、経済とビジネスは大きく異なるという点です。
ビジネスであれば、事と次第によっては撤退してもいいんですね。
特定の共同体と密接不可分というわけではないし、共同体の幸福を目標に掲げてもいないんですから。

他方、経済はそうは行かない。
危機に陥った共同体が立ち直り、人々がふたたび豊かで安心して暮らせるようになるまで踏ん張らなければ、「経世済民」とは呼べません。
言いかえれば、撤退は許されないのです。

『繁栄の絶対法則』で紹介されている濱口梧陵(はまぐち・ごりょう)のエピソードは、まさにこれを地で行くもの。
江戸末期、紀伊国広村(現・和歌山県有田郡広川町)にいた実業家ですが、1854年、安政南海地震と呼ばれる大震災が起きた際には、夜になって襲来した津波から村人を救うべく、自分の田にあった稲わらに火をつけて誘導しました。
さらに被災地となった村が衰退しないよう、復興事業と防災対策を兼ね、当時としては最大級の堤防をつくったのです。
それも私財をなげうって。

濱口家は広村を郷里とするものの、銚子で醤油醸造業を営み、繁盛していました(現在のヤマサ醤油です)。
梧陵自身、12歳から30歳までは銚子や江戸にいたとのこと。
ビジネスだけを考えれば、安政南海地震をきっかけに村を捨てても良かったでしょう。

けれども、そうしなかった。
広村という共同体の幸福を優先したのです。
これぞ経世済民。

「地方自治というのは取りこぼしが許されない」とは、達増拓也・岩手県知事の名言ですが、経世済民を目的とするかぎり、経済にも取りこぼしは許されません。
しかるに気になるのは、いわゆるグローバリズムが、本質的にいかなる共同体とも密接不可分の関係を持たないこと。

ならばグローバリズムは、あくまでビジネスの方法論にすぎず、経世済民の手段とはなりえないのではないでしょうか?
日本の将来を考えるうえで、これは大きなポイントになると思います。
ではでは♪

PS
「日本のデフレギャップは、政府が財政出動で埋めようとしない限り、埋まらない!」
にご賛同下さる方は、↓このリンクをクリックを!
http://www.keieikagakupub.com/sp/CPK_38NEWS_C_D_1980/index_sv2.php

<佐藤健志からのお知らせ>
1)安全保障についても、日本のパラドックスは根深い。
三橋貴明さんも「読んで『これだ!』と思った」と絶賛!
「毒をもって毒を制する、愛国者のためのワクチン」という趣旨のコメントもいただいています。

「愛国のパラドックス 『右か左か』の時代は終わった」(アスペクト)
http://amzn.to/1A9Ezve(紙版)
http://amzn.to/1CbFYXj(電子版)

2)KADOKAWAのメルマガ「踊る天下国家」が更新されました。
「経済と皮下脂肪のつながり〜やせすぎも太りすぎも『デフレ』だった!」。

現在の日本は、若い女性を中心としたやせすぎと、働き盛りの男性を中心とした太りすぎが同時に社会問題化するという、世界的にも類例のない国。
ところが「デフレ」(需要不足)の概念を導入すると、専門家も首をかしげるこの状態に、きれいに説明がつく!
経済と皮下脂肪の関連とは何か?
一見、関係なさそうなもののつながりを探ると、物事の真相が見えてくる!

4/8(水)の8:00配信開始。
1時間に及ぶ音声ファイルつきです。
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar765958

バックナンバーもどうぞ。
どれも音声ファイルがついています。
「さらば、愛の行為よ〜日本で男女関係は成り立つか」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar736635
「石原慎太郎から安倍晋三まで〜2015年はどんな年になるか」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar706735
「アベノミクスの成否はゴジラに聞け!」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar691866
「日本再生のめまい」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar682207
「女性閣僚と風俗嬢の間」
http://ch.nicovideo.jp/k-chokuron/blomaga/ar654550

3)戦後の「経世済民」がはらむ問題点については、この本もどうぞ。
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4)4/11(土)の20:00〜23:00、日本文化チャンネル桜の「闘論! 倒論! 討論!」に出演します。
http://www.ch-sakura.jp

5)「地元に愛着を抱くことは、国全体を愛することと矛盾しない。いや、まずは地元を愛してこそ、国という大規模で高次元なものにたいし、個人的な事柄のごとく愛着が持てる」(230ページ)
225年前の英知は、現在も生き続けています。
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6)そして、ブログとツイッターはこちらです。
ブログ http://kenjisato1966.com
ツイッター http://twitter.com/kenjisato1966

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